第9話 織田ノブーさんのホームランダービー

 今日も今日とて天守閣。俺とノブナガとヒデヨシ。

 もうお約束だな。完全に俺の日常となった。


「勇刀、おなかすいた」


「いつもお菓子食ってるだろ」


「だめ、お菓子ばかりじゃ、栄養が、かたよる」


「気にしてたんかい」


「うん、だから、はむ、ほむ、ん、ご飯が欲しい」


 なんかカラフルなもんポリポリ食いながら話しやがって。


「食いながら喋るな。何食ってんだそれ」


「こんぺいとう、一個あげる」


「今日のおやつはこんぺいとうか。我は好きだよ。本家信長も甘いものが好きだった説とかあるんじゃないかな?」


「あってもおかしくはないかな」


 こんぺいとうは、元の世界で安く売っているやつとは違う味だ。


「素朴だけど素材の味というか、悪くないな」


「さあ、ご飯、作って」


「勇刀は料理できるのかい?」


「一応はな。やってみると面白いぜ」


「知っているよ。我もできる。料理は良妻の条件だろう」


 ノブナガの口から、良妻という単語が飛び出すのは不思議だ。

 まあ見た目は良いし、性格も悪くはない。良妻の素質はあるんだろう。


「なにか見当違いな方向へ考えているね」


「そうか?」


「そう、勇刀は、そういうところが、だめ」


 ダメ出しされました。なにがなにやらサッパリだよ。


「ダメだねえ……そんな満塁サヨナラ送りファールじゃあ、ボールも女心もキャッチできないぜ」


「お、今回の信長派生キャラ来たか」


「今度はどんな信長かな? 我はわくわくしているよ」


「オレの名は織田ノブ。人呼んで、織田ノブーさん。ノブーさんと呼んでくれ」


 金髪で大柄なメジャーリーガーみたいな人だ。

 大きな丸太を振っている。あれは野球のスイングだな。


「ノブナガとその義兄妹よ! 貴様らにホームランダービーで勝負を申し込む!」


「ほーむらんだーびーとはなんだい?」


「簡単だ。オレが五十球投げるから、四十球ホームランを出せ。そうしたらお前達の勝ちだ!」


「条件が鬼畜だ!? 俺達は初心者だぞ!」


「だから勝負を申し込む!」


「クソ野郎じゃねえか!?」


 まずいな。このままだとノブナガが一方的に不利だ。


「ふむ、ではこうしようじゃないか。オレが三十球投げる。バットは刀でも金属バットでも自由だ。半分の十五球をホームランにしな」


「必ず当たるほどでっかいバット出てきたらどうするんだよ?」


「そんなものが振り回せるのかい? これは打てばいいんじゃあない。ホームランが最低条件なんだぜ」


「であるか、ならばこの勝負、受けて立とう!」


「じゃ、ノブナガファイト、れでぃ、ごー」


 そして俺達の織田城の真横に野球のドームができていた。


「いつ作ったんだよこれ……」


「ノブナガファイトは、必要があれば対戦相手の陣地に隣接できるよ」


「理不尽な世界だなおい」


 野球のユニフォームに着替えて集合。


「よくまあユニフォームがあったなおい」


「準備しておいたのさ。こういう機会は逃さないよ」


「野球回の、あるアニメは、いいアニメ」


「いつアニメになった!!」


 まずピッチャーノブー。バッターヒデヨシ。

 金ピカバットを持っているけれど、あいつ野球とかできるのだろうか。


「サヨナラ、勝ち、満塁の場面」


「一球目だよ。やっぱルールわかってないなあいつ」


「受けてみな……オレの大草野球ボール二号!」


「なんかしょぼそうだねえ」


「炎の魔球!!」


 火達磨になったボールがかっ飛んでくる。


「それが、どうした」


 普通に撃ち返すヒデヨシ。そしてホームラン。


「ガッデム! なぜだ!」


「火がついただけ、速度も普通、バットを長く持てば、熱くもない、無駄な技」


「確かに」


 まったく意味もなく、火を付けただけのボールだなそういえば。


「盲点だったぜ。じゃあもうこのライターとガソリンはいらねえな」


「そんな手段で!?」


 ベンチに置きに行くノブー。お前実はゲスいな?


「分身魔球!!」


「おおー、やればできるんだねえ」


 ボールが五個に見える。普通に強い球もってんのかい。


「全部打てば、いいだけ」


 ヒデヨシがバットと一緒にくるくる回り、見事全弾撃ち返す。

 スタンドに吸い込まれ、看板に直撃する五個のボール。


「待てや! 実際に五個あるだろあれ!」


「ほう、見破るとはたいしたものよ」


「今ので五球投げたことにしろ。でなきゃ反則負けだ」


「チクショオオォォ!! オレのイカサマがことごとく見破られるとは……やりやがるぜ、おチビちゃん」


「もっと、褒めろ」


 凄いよ。普通に凄い身体能力だよヒデヨシ。

 ノブーは凄いバカだよ。


「次は鉄球ボールだ!」


「ただの鉄球だろうが! 打ち返せねえだろ!!」


 普通に野球ボールぐらいの鉄球持ってやがる。あいつずるいわ。


「棘付き鉄球ボールだ!」


「もうあいつつまみ出せ!」


「しょうがねえ……変化球だ! ジグザグ魔球!」


 左右に曲がる変化球だ。なぜ普通に投げられるのに鉄球を使おうとした。


「見切った、問題なし」


 ボールと一緒にヒデヨシが左右に動く。

 そして小気味いい音が響き、ホームランとなった。


「身体能力で、どうとでもなる、疲れたけど」


 なるのはお前だけだよ。あとノブナガも。


「マジの豪速球いくぜ! プレイボオオオル!!」


 速い。しかも途中から加速した。


「速いだけ、打返し……つっ」


 ボールはギリギリ柵を超えた。

 直後、ヒデヨシが腕を抑える。


「どうしたヒデヨシ!?」


「ちょっと、痺れた、だけ」


「言ったろう。豪速球だってな。小細工はやめだ。時速百九十キロの球で、真正面から腕をへし折ってやる。打者がいなくなればこっちの勝ちよ!」


 まずい。あいつ正攻法でも強いのかよ。

 イカサマでもデッドボール狙いでもない。

 単純に破壊力の高い全力のストレートだ。

 ルール違反をしていないから止めようがない。


「宣言してやるよ。次は二百キロを超えるぜ」


 仮にも織田信長派生キャラ。そのくらいできても不思議じゃない。


「ヒデヨシ! 無理するな! あとはノブナガに任せろ!」


「断る」


「やらせてあげなよ勇刀。ヒデヨシはやる気だよ」


「…………いいのか?」


「我らは戦国武将だ。戦で背を向けるなど、武士の誇りを捨てるも同じ」


 有無を言わせない眼光。いつになく真面目だ。

 ノブナガは信じているんだろう。なら俺も信じてやるさ。


「勝ってこいヒデヨシ!!」


「頑張る、勝つ」


「いくぜ……織田流豪速球! 種子島!!」


 まるで銃撃のような破裂音がして、煙を巻き上げながらボールが飛ぶ。


「お前が、パワー型で、よかった」


 ヒデヨシの背後に現れる金色の人影。

 あれは……確か前にも見たことがある。


「オダンド!」


 ヒデヨシの手に重なるように、バットを握りしめるオダンド。


「成り上がり。小細工には、対応できないけれど、パワーだけなら、上回れる」


 ヒデヨシを中心にして、突風と爆音が球場を支配した。


「ヒデヨシ!!」


 土煙を突き破り、一筋の光が天へと昇る。

 それは間違いなく、ヒデヨシの打った球。


「バカな……打たれた……だとおおぉぉぉぉ!?」


 文句なしにホームランだ。打球は青空へと吸い込まれていった。


「いよおおおおっしゃああぁぁ!! いいぞヒデヨシ!!」


「うむ、天晴である!! よくやったヒデヨシ!!」


「ヒデヨシは、やれば、できる子」


 バットを肩にかけてVサインを送ってくる。

 そんなヒデヨシが、いつもよりかっこよく見えた。


「バカな……ありえん……」


 完全に自信消失したノブーは、そこからヒデヨシに打たれ続けた。

 連続十四球ホームランだ。


「タイム」


 急にタイム宣言してこっちに帰ってきた。


「どうした? 腕を痛めたか?」


「違う、ヒデヨシは、頑張った」


「そうだな、ずっと見ていたよ。凄かったぜ」


「さすがは我が義姉妹だね」


「だから、後一球で、決めるため、撫でるべき」


 最後の一球のために、俺に撫でられると。


「いいんじゃないかな? ヒデヨシは本当に頑張っていたよ」


「それは俺だってわかっているさ。しかしなあ……」


「早く、タイムが、終わる」


「わかったよ」


 ヒデヨシの両手を優しく包み込む。

 こんな小さくてやわらかい手で、よく魔球が打ち返せていたな。


「手は痛まないか?」


「平気」


 そこから抑えていた腕を優しく撫でる。腫れてもいないし、外傷もなし。


「勇刀は、心配性」


「かもな。お前らが傷つくのは嫌なんだよ」


 最後に賞賛と感謝を込めて頭を撫でる。


「よく頑張った。最後に一発決めてこい」


「わかった、見てて」


 バッターボックスに戻ると、全身が金色のオーラで輝き出す。

 撫でた効果が出たな。頑張れヒデヨシ。


「このまま……このまま十五球ストレートでホームランなど……認められるかあああぁぁぁ!!」


 今日一番のパワーであろう、最速最大級の威力でボールが放たれる。


「負けない、お館様が、勇刀が見てる、ここが本日の一夜城」


 オーラをバットへ流し、金色のエネルギーがボールを捉えた。


「さよなら、ノブー」


 打ち返されたボールは更に速度を増し、ノブーを襲う。


「なんだとっ!? ぐはあぁ!?」


 腹に直撃し、それでもボールは止まらない。

 ノブーの体を浮かせ、上昇し続ける。


「ノブー、宇宙へ」


「こんな……はちみつキメてるオレが……認めん……こんな……うおおおおおおぉぉぉぉ!?」


 打ち上げられたノブーは星になった。

 おそらく帰ってくることは無いだろう。

 俺達の勝ちだ。


「これが、超次元野球だ」


「うむ、ボールは友達だね」


 とりあえず勝った結果、俺達の城の横にはドーム球場ができた。


「織田軍で野球チームでも作るかい?」


「俺はルールがよくわからん」


「ヒデヨシも、ざっくりしか、知らない」


「実は我もだよ」


 無用の長物が増えたのであった。

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