第8話 変身! 戦国武将!

 今日はノブナガとヒデヨシが天守閣にいる。

 俺は温かい陽気につられて、布団の上でごろごろしていた。


「天守閣に布団はやばいな。寝るわこんなん」


「我と一緒に寝るかい?」


「やめてください。普通にのんびりしたいんです」


 油断すると距離を詰めてくるので気をつけよう。


「今日は暖かくて眠くなるねえ。ちょっと鎧は暑いよ」


「そんな、ときは、これ」


 ヒデヨシの持っているのは、吸うゼリー? エネルギーチャージのやつか。


「吸うアイス、ひんやり」


 なるほど、確かに。渡されると冷たい。バニラ味だ。


「助かるよ。これ寝ながら食えるからいいな」


「布団に垂れることもないからね。良いチョイスだよヒデヨシ」


 三人でアイス食いながらまったりしている。

 もう戦いとかしなくていいんじゃないかな。


「なにか、来る」


 これは、バイクのエンジン音? 下から響く音はバイクの音だ。


「誰かが、お城の、外壁を、登っている」


「なんだ敵か?」


「とうっ!」


 突如天守閣まで飛び出したるは、どう見てもバイクだ。

 しかもデザインがかっこいい。市販のものじゃないな。


「いきなり失礼! オレは織田郷 武。タケシと呼んでくれ。悪の信長軍を倒すものだ!」


 ライダースーツに赤マフラーで、黒髪黒目のイケメンさんだ。

 二十代くらいで、なにやらでかいベルトをしているな。


「いや、別にうちは悪いこととかしていないんだけど……」


「なに? そんなはずは……明智勇刀という男が、女性武将を囲ってはセクハラ三昧だと聞かされたが」


「してないわ!!」


「君が勇刀か。悪しき気は感じないが……」


「誰から聞いたんですかそれ」


「二本角の生えた信長だ。妖怪王と名乗っていた」


「超怪しいですけど!?」


 どう考えても悪役だろそいつ。なぜ信じてしまったんだ。


「世界平和のために、自らを人外に変えてでも戦わねばならなかったと」


「怪しい……俺は別に普通の家臣ですよ」


「おさわりも我とヒデヨシとイエヤスくらいだしねえ」


「しているのか!?」


「ノブナガうっさい!」


 なぜ話をややこしくした。戦わずに終われそうだったのに。


「君もノブナガファイト参加者で武人なんだろう? なら、戦ってみればわかる。我はノブナガ。尋常に勝負!」


「本来悪以外とは戦わん主義だが、これも宿命か。よかろう!」


 手のひらサイズの印籠を、上からベルトに突き刺した。


「変身!!」


 タケシさんのベルトの中心が開いた。

 そこには印籠に書かれていた家紋と同じものが光り輝いている。


『信長变化! 悪を貫け! 尾張のうつけ!』


 なんかベルトが喋った。しかも軽快な音楽鳴ったぞ。


「新世代鎧武者、仮面ノブダー! さあ、始めようか」


 黒い甲冑に、顔を隠すフルフェイス仮面。

 ただの鎧ではない。なにかスタイリッシュだ。

 鎧武者というより特撮ヒーローだな。


「我はノブナガ。いざ参る!」


 激しくぶつかりあう二本の刀。よく折れないな。


「いい剣筋だ。実践で磨かれたものだね」


「ああ、強敵との戦いが、オレを強くしてくれた!」


「ならば、こちらも二本目を抜こう」


 ノブナガの右手に紫の炎が灯る。

 やがて現れた刀は、いつも使っているものよりも太く長い。


「これが我が秘剣さ。見事受けきってみせるがいい!」


「ぬうぅ!?」


 秘剣の名は伊達ではないようで、一撃ごとに火花が散る。

 タケシさんが押されているのは明白だった。


「くっ、力を借りるぞ、宗麟!」


『宗麟变化! 我は宗麟! 神の降臨!』


 別の印籠を取り出し差し込むタケシさん。

 白と青の鎧に変わり、武器がサーベルと盾になる。


「さあ、神に懺悔せよ!」


 ノブナガの秘剣を盾で防ぎ、サーベルで壁際へと追い詰める。

 戦闘スタイルを変えてくるのか。


「やるじゃないか。だがこのノブナガに勝つには足りない!」


 壁を蹴り上空へと逃げたノブナガ。ショットガンの連射で戦うつもりだ。

 遠距離なら自分が有利とふんだのだろう。


「ならばこれだ!」


『義元变化! 百発百中! 蹴鞠に夢中!?』


 今度は緑色のデザインだ。手に長い弓と足元に蹴鞠。

 どちらも淡く光り輝いている。


「受けてみろ! はっ!」


 直線で何本も降り注ぐ光の矢と、変幻自在の鞠に翻弄されるノブナガ。

 矢を撃ち落としても、鞠が壁を反射し、襲い来る。

 バナナシュートなんぞ撃たれると対処できない。


「ぐう……やるね……これはきついかな」


「お館様は、やらせない、分身」


 ヒデヨシが五人に分身してノブダーに肉薄する。

 小回りの効く攻撃に対処できないのか、追い詰められるノブダー。

 これはいける。ナイスだヒデヨシ。


「忍者には忍者だ!」


『半蔵变化! 鬼の半蔵……今宵参上!』


 紫色の鎧へ変わるノブダー。いくつ形態があるんだ。


「超分身!」


 十人に増えたノブダーが、ヒデヨシの分身を切り刻む。


「うあぁ!?」


「ヒデヨシ!!」


「これじゃ埒が明かない。ヒデヨシ、一気に合体攻撃だ」


「わかった、お館様に、この命、預ける」


 二人が赤と金のオーラに包まれる。


「よかろう、正面から迎え撃つ!」


「チェストオオオオオオ!!」


「………………はっ!!」


「ノブダーキイイィィック!!」


 三人の攻撃が交差する。そして、最後に立っていたのは。


「見事だ……」


「う……負けた……」


「まさか……オレが……」


 俺だけであった。結果は相打ち。三人共天守閣の畳に倒れている。


「攻撃を通じて伝わってきた。悪しき気は欠片もない。手荒な真似をしてすまなかった」


「いいさ、我も楽しかったよ」


「いい、戦い、だった」


 なんだか友情が芽生えている気がする。こんな終わり方もありかもな。


「フハハハハハ!! よくやった仮面ノブダー!!」


 天守閣に影が差す。バカでかい笑い声の主は、二本の角の、これまたバカでかい図体をした妖怪のようなやつ。


「お前は……妖怪王信長!」


「いかにも! よくやったぞ女。正義のために生きるノブダーは、破壊を好む我輩には邪魔な存在であった」


「初めからオレ達を戦わせ、消耗させるのが狙いか!」


「その通りだ! まんまと罠に嵌ってくれたな。クワーッハッハッハ!」


「許さん! 変身!!」


 再びノブダーに変身するも、その声はどこか疲労の色が滲んでいた。


「愚かな……我輩の妖気に勝てると思うてか!」


「ぐわああぁぁ!?」


 角から出る電撃によって苦しめられるノブダー。このままでは危ない。


「勇刀、悔しいが我らは動けない。どうか……我に触れてくれ」


 ノブナガの目は真剣だ。全力で戦ったノブダーを死なせたくないのだろう。


「わかった。少し我慢してくれよ」


 鎧の隙間から手を入れ、胸や尻を撫でていく。


「んっ……ちょっと慣れてきたかい? 遠慮がなくなってきたね」


「焦っているだけさ。俺も、ノブダーを死なせたくない」


「そうだね。我の力、勇刀に託すよ」


 俺の腰のあたりが輝き出す。

 光の収まる頃には、ノブダーとよく似たベルトが装着されていた。


「勇刀、がんばって」


「君ならやれる。ほら、これが我のありったけの力だ」


 織田家の家紋が入った印籠を受け取る。


「そうだな。いつもいつも、みんなに戦わせてばかりだもんな」


 傷つきながらも戦うノブダーの横に立ち、妖怪王信長を見据える。


「なら、一回くらい……俺が戦ったっていい! 俺が、俺があいつらを守る!」


 俺の心は決まっていた。決意とともに印籠を差し込んだ。


「変身!!」


『ノブナガ变化! 愛するは勇刀! 戦うぜYOUと!』


 俺の鎧はノブダーとよく似ている。

 決定的に違うのは、ノブダーとは対象的に真っ白なデザインだったこと。


「ノブナガが、俺に戦う力と勇気をくれる! だから俺はノブダー! 仮面ノブダーブレイブ!!」


「バカなっ!? 二号がいるなど聞いていないぞ!!」


 動揺する妖怪王。俺も意外さ。まさかこんなことになるなんてな。


「いくぞ、一号!」


「任せろ、ブレイブ!」


「勇刀! これを使え!!」


 ノブナガの秘剣が投げ渡された。

 なるほど、これはいい。負ける気がしないぜ。


「サンキューノブナガ。とうっ!」


「はあっ!」


 一号とともに天高くジャンプし、お互いの刀を上段に構える。


「終わりだ妖怪王! ダアアアブル!!」


「ノブダアアァァ……スラアアアアアッシュ!!」


 正義の光を宿し、悪を討つ十文字。

 俺と一号の必殺技は、見事妖怪王を斬り裂いた。


「バカな……この世界の王は……この我輩……ぐわあああぁぁぁ!?」


 断末魔の絶叫を残し、爆散した妖怪王。世界の平和と正義は守られた。


「ありがとう。一号。おかげであいつらを守れたよ」


「いや、君の助けがあったからさブレイブ」


 天守閣で固い握手を交わす俺達。そこには確かに友情が芽生えていた。


「ノブナガ達も、また会おう」


「ああ、次は仲間として会えるといいね」


「待ってる、またね」


「何かあったら言えよ? 助けに行くからな」


「ああ、こちらこそ。ではまた会おう! とうっ!」


 来た時のように、バイクで天守閣から飛んでいくタケシさん。


「なんだか凄い一日だったな」


「そうだね、でも勇刀のかっこいいところが見られて満足だよ」


「勇刀が、珍しく、男前、だった」


「そうか?」


「ああ、とてもよかったよ。勇刀を選んでよかった」


「勇刀は、凄い」


 褒められると満更でもないわけだ。

 今回は色々なものを手に入れた。

 これからも俺はこいつらと一緒に戦っていくだろう。


「とりあえず疲れたから寝るわ」


「だね、一緒に寝ようか」


「それはダメ」


「勇刀は、肝心な時に、へたれる」


「うっさい」


 きっともう、こいつらといることが、俺の日常なんだろう。

 それは……悪くない。それがなんだか嬉しかった。

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