第7話 ストライク・オダッチーズ

 提督率いる信長軍と演習というか模擬戦をすることになった俺達。

 水上で戦うノブナガ達は、相手の今川義元さんを倒した。

 だが、信長軍の装備が瞬く間に切り替わり、空軍部隊ストライク・オダッチーズへと変わるのであった。


「よく考えるとわけわからんな」


 人に話せば頭のおかしい人だと思われるだろう。気をつけよう。


「さあ、撃って撃って撃ちまくるのよ!」


「ふん、当たらなければ無意味なんだよ!」


 銃弾の嵐をかいくぐり、ミサイルを切り伏せ上昇するノブナガ。


「いやお前なんで飛べるんだよ!?」


「飛べるからさ!」


「その理由を聞いてんだよ!」


「飛べるから、飛べる、理由とか、じゃない」


「お前らずるいな!?」


 説明放棄しやがった。なんか知らんけど飛べるらしいですよあの人達。


「ハッハー! ゴウトゥヘエエェェル!!」」


 正宗がレーザーのような電撃を纏ったライフルをぶっ放す。

 水面に着弾したその威力は、海上に大きな波を作り出した。


「うーわ、えぐいなあれ」


「ま、充填に時間がかかるから連発すると……」


「もらったあああぁ!」


 ノブナガのショットガンがライフルに直撃し大爆発。


「煉獄魔王斬!!」


 爆発に怯んだ隙に斬りかかられ、政宗は落ちていった。

 今の刀に紫の炎が出る必殺技はなんだノブナガよ。そんなんあったんかい。


「ノオオオゥ!? テートクー!?」


 これで政宗も脱落。救護班がちゃんと回収しました。


「残るは秀吉・家康・宗麟と信長か。やるね」


「あいつら普通に強いんだな……」


「この大友宗麟。逃げも隠れもしない! いざ参る!」


 長く太い槍。槍というか外国のランスだな。

 そんなものを振り回し突撃かます宗麟。

 その腕は見事の一言だった。ノブナガが正面対決で押されている。


「どうした? 小細工ができなければこんなものかしら?」


「やるね……だが我とてノブナガ! 押し通る!!」


「クナイや手裏剣で重火器に勝てる道理なし! ヒデヨシは秀吉が討ち取ります!」


「強い、ちょっと、まずい、かも」


「まずヒデヨシちゃんから倒しましょうか」


 ヒデヨシが家康と秀吉に潰されそうだ。


「イエヤス。あなた近接タイプじゃないわね。この信長の相手が務まるかしら?」


「ノブナガ様の正義のため、誠心誠意お相手するだけです」


 イエヤスさんは札や錫杖で戦うタイプ。近接戦闘に優れた相手はきつい。


「しょうがないな……勇刀! 君の出番だよ!」


「俺!?」


 女体化武将が全員こっち見たよ。少しだけみんな足を止めてこっちを見た。


「我とヒデヨシで抑えておく。早くイエヤスの肉体をねっとりと弄ぶんだ!!」


「言い方考えろやあぁぁ!!」


「嫁入り前だというのに殿方に……これも正義を成し遂げるためなのでしょうか」


「正義というか、性技」


「ヒデヨシうっさい!」


「さあ、多少無理矢理でもいいから揉みしだくんだ!!」


 こんな状況で初対面のイエヤスさんを揉めと?

 みんなが見ているのに? 無理だろ。


「イエヤスさんの気持ちとか考えてくれよ」


「殿方に……私が……む……無理……」


 お、初めて無理という言葉を聞けた。

 そうそう、そんな反応するのが普通だよ。


「無理矢理……そんな正義に反すること……ふほぅ!? こ、興奮します……」


「こいつもだめかああぁぁ!?」


 あーあもうこいつも変態だよ。なんだよ俺の心の休まる武将はいないのか。


「君も苦労しているんだね」


「いやもう本当にしんどいです」


 提督さんに気を遣われただろうが。


「っていうかそんな時間もらえないだろ。人数不利で戦闘中だぞ」


「そこはまあ……ねえ?」


「まあ…………後学のため?」


「そうね、武将たるもの、学問にも通じていなくてはいけないわ」


 そこは止めましょうよ。頼むから止めてくれ。興味のある年頃か。


「とりあえず私達は止めないわ。提督、こっちの船に移動して。男の人がいるとやりづらいでしょ」


 信長の気遣いで俺と提督の船が別れる。

 えぇ……マジっすか。イエヤスさんこっち来ましたよ。


「では、共に性技のために参りましょう」


 本日のイエヤスさんは、軽く動けるような着物である。

 胸とか足とか出ているので、着物というか和服かな。


「すみません、失礼します」


 肩に触れるとびくっと動く。やはり緊張しているのだろうか。

 ちょっと引き寄せ頭を撫でてみる。ノブナガはこれでもいけたし。

 身長同じくらいなのに撫でるって結構難しいな。


「大丈夫ですか?」


「はい。覚悟とイメージトレーニングは毎日していたのですが」


「後半聞かなかったことにします。ゆっくりいきましょう」


「勇刀、戦闘中、急いで」


「そういやそうでしたね!?」


 大きな胸にも触れる。顔真っ赤でこっちを見ているイエヤスさんのせいで、柔らかさとか頭に入ってこない。


「あの……」


「はい、なんですか?」


「無理矢理感が薄くありませんか?」


「そこですか!? いや俺は普通にすればいいと思いますんで。こんな風でどうでしょう?」


 抱きしめるととても温かくて柔らかい。

 イエヤスさんはモデル体型でも、太っているわけでもない。

 なんというか、男が欲情することを極限まで高めた肉体である。

 ギリギリで触り続けたい欲求を克服した。


「安心します。勇刀様。これからは私も共に戦います」


「そりゃ助かる。手始めに、あいつらなんとかしてください」


「はい!」


 自信に満ち溢れたイエヤスさん。髪の色も水色に変わっている。

 目も赤く輝いているし、これはパワーアップしたのか。


「なんだ……なんだその姿は!」


「これが……賢者タイムです!!」


「他の名前でお願いします!」


「これ以外に思いつきません」


「残酷な現実だ!?」


「そうしたのは勇刀様です。それでは、行ってまいります」


 イエヤスさんはふわりと浮き上がり、消えた。


「うあぁ!?」


 誰かの叫び声と、なにかが水に落ちた音がする。


「宗麟!?」


「失礼。あまりに無防備だったもので」


 落ちたのは宗麟。遙かな上空で敵を見下ろす冷たい眼差し。

 あれが賢者タイムのイエヤスさんか……マジで他の呼び方ないんですかね。


「強い……何故ここまで強くなったの……」


「あなたにはわからないでしょう。殿方に愛され、その愛と情欲を受け入れられた、その時に得られる快か……凄いパワーは」


 快感って言いかけましたねあれ。あと愛とかありましたっけ?

 絶好調なイエヤスさんは、そのまま秀吉と家康を倒す。


「これが愛の力です!」


「確かに、まだ提督とそういう関係ではないわ。それでも、私は信長。負けるわけにはいかないのよ!」


「ならば、お見せしましょう。愛の力でできることを」


 イエヤスさんの両手に集まるピンク色の光は、やがて一振りの剣となり、神聖さ全開の光を放つ。


「これが愛と正義のツープラトン! ラブラブスラッシャー!」


「名前がださい!?」


「きゃああぁぁぁ!?」


 こうして、ピンクの斬撃により演習は終幕。俺達の勝ちとなった。


「そんなわけで、負けちゃったけどカレーパーティーよ!」


 約束通りみんなでカレーを食うことになった。

 食堂には大量の女体化戦国武将がいる。


「はー……こりゃ美味いな」


 具が大きめで、しっかり煮込まれているのか味にコクとまろやかさがある。

 俺の好きなタイプのカレーだ。


「いやあ強かったわねあんたら。出来る限り死人の出ない装備を使ったとはいえ、負けるとは思わなかったわよ」


「あれで加減していたのか?」


「兵器なら山ほどあってね。演習用の装備にしたんだけれど……単純に身体能力で上回られるとは……いやあまいったよ」


 もっと広域破壊とか、一点集中レーザーキャノンとかあるらしい。

 この鎮守府の装備やばいな。


「これも全て勇刀のおかげさ。我らの要だからね」


「おさわりは、無限の、エネルギー」


「あのセクハラにそんなパワーがねえ……いいわねえそんな男がいる織田軍は」


「別に特殊能力だけではありませんよ。ただ信頼する殿方に触れられる。というのはやる気が出るものです」


「いつ信頼されたんですかね?」


 イエヤスさんとは完全に初対面だったはず。

 いや……待てよ。なんか視線を感じることがあった。

 場内でやたら見られている俺は、なんとなく視線に気づくようになっていった。


「初めて天守閣に現れた時より、その……なんとも素敵な方だなと……私はあの殿方にどんなことをされるのだろうと……そんなことを考えながら、見つめていたら、貴方のお姿が頭から離れなくなりまして」


「もとからイエヤスのタイプだろうと思っていたんでね。どこかで会わせたら仲良くなると思っていたよ」


 そうか、たまに振り向くと場内で働いている人と目があった。

 その中に何回かいた気がする。


「そう……ですか」


「はい、末永くよろしくお願いします」


「いいわねえ、そっちは仲が良くて」


「そっちだって悪いようには見えないけれど?」


 提督を信頼しているというか、普通に仲良しっぽいが。


「ならそっちも、ご褒美に、撫でられる、制度を、作ればいいよ」


 ヒデヨシの一言で食堂のざわめきが消えた。

 俺達以外の音が消える。戦娘全員の動きが止まった。


「なんてことを……」


 提督さんが露骨に怯えている。


「ええ……っと、どうしたんですか?」


「この鎮守府はね、提督が軍隊として平和を守ることを、結構大事に考えるタイプだったのよ。だから戦いが終わるまで、誰もそういうことを言い出さないようにって、なんとなく」


「そうねえ、ずっと戦っていたし。こなさなければいけない任務もあったものねえ」


「ん? 今はないのかい?」


「そうね、提督と戦娘しかいないし。別世界だから大本営どころか、元の世界と通信も……あら?」


 更に音が消え、場の空気が凍りついていく。


「……カレーごちそうさまでした」


「待ってくれ! 頼む! 頼むから! もう少しいてくれないかな!!」


 提督さん必死の懇願である。


「まだカレーもあるし!」


「こちら、お持ち帰り用のカレーです。お鍋ごとどうぞ」


 家康さんに鍋ごと渡された。

 目に帰ってくれという強い意思を感じる。


「勇刀様、ここは皆様の気持ちを汲むべきですよ」


「我は満腹だ。そろそろおいとましようか」


「眠い、帰る」


「待ってくれ! まだなにか! なにかやり残したことがあるはずだ!」


「お、お疲れ様でしたー!」


 俺達は空気を察して全力疾走でその場から逃げた。


「ありがとうノブナガ軍のみんなー! お疲れ様でしたー!!」


 後ろから響く戦娘達の声に、提督の声がかき消されていった。

 俺もああならないように気をつけよう。そう心に誓ったのであった。

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