第6話 信長これくしょん。信これ
「やることがないねえ……ねえ勇刀。ちょっと城の女の子で好きな子ベストテンでも発表してよ」
今日も今日とてヒマな天守閣。ノブナガの無茶振りが聞こえる。
「えぇ……ノブナガとヒデヨシは確定として、あとは……」
こいつら以外に仲のいい女の子がいない。
なんかよそよそしいというか、ノブナガの家臣なので一線引かれている。
俺はどうやら偉い人らしい。義兄弟の契りとかしたし。
「…………確定なんだね」
「なに?」
「なんでもないよ」
「勇刀、あげる」
ヒデヨシが唐突になんかくれた。これは……この容器と色は。
「プリン、あげる」
「ありがたいけどなんで?」
「いいから、食べる、あげる」
よくわからんが機嫌がいいっぽい。女の子はわかんねえな。
「コンビニに売ってるやつだなこれ」
「コンビニで、買った」
「その程度じゃ驚かないぜ」
この世界に順応し始めたからな。コンビニくらいあるさ。
「このプリンの売りは、三個で、百円」
「値段かい」
プリンを食っている俺の耳に、なにやらピコンピコン音が届く。
「お館様、通信」
ヒデヨシがよくわからん装置の前でなんかやっている。
「通信装置なんかなかっただろうが」
「オーダバトラーを倒したからね。設備がちょっと近代的になった」
「ああそうですかい」
「安心したまえ。天守閣はほぼそのままだよ。風情というものがあるからね」
「通信、完了、勝負、して欲しいって」
モニターには軍服っぽいものを着た、ちょんまげのおじさんが映っている。
『おや、おやつタイムだったかね。失礼した』
「構わないよ。我はノブナガ。そちらは?」
『織田 信彦。なんの因果か提督などやっているものだ』
「提督?」
『ああ、突然世界に現れた妖怪達を倒すため、戦国武将の魂を受け継ぐ少女達を指揮して戦っていた。明智くんと似たポジションかも知れんな』
こちらの事情がばれている。
少し驚いたが、この人も信長の血筋なら、やはり優秀なんだろう。
「要件はなんだい?」
『軽い演習と、できれば同盟を組みたい』
「同盟とかありなのか」
「可能、結局、最後の織田軍で、いればいい」
『別に殺し合いで決めなくともよいのだよ』
「そいつはなんともありがたいな」
アホはギャグ補正でどうにかなるだろうけれど、真面目な戦争は人が死ぬからな。こいつらが死ぬところは見たくない。
『命までは取らない。演習でもしてくれたらいいよ。できれば金曜日に来てくれ。本場の軍隊カレーをご馳走しよう』
「カレー、好き、食べる」
「ヒデヨシは食い過ぎるからな……ちょっと多めでお願いします」
『こっちも大食らいがいるからね。了解した。しっかり作っておこう』
「であるか。ならばその挑戦、ノブナガが受けて立とう!」
こうして演習目的で信彦さんの鎮守府へとやってきた。
なんでも陸海空を移動可能だから海辺に作られたとか。
「お待ちしておりました。ノブナガ様ご一行ですね?」
紫髪の大人のお姉さんだ。こういうタイプはうちにはいないな。
突然空からやってきたことも含めて初めてのタイプだ。
「申し遅れました。鎮守府空軍部隊隊長。徳川家康です」
足によくわからない筒? みたいなものを付けている。
先端で青白いプロペラみたいなものが回っているけれど、あれで浮くのか。
「ノブナガだ。お招き感謝する」
「ヒデヨシ、よろしく」
「明智勇刀です。よろしくお願いします」
礼儀正しい人だな。なんか普通にいい人っぽいと安心する。
「では、演習会場へご案内いたします」
演習ね。俺は戦えないし。カレーだけ楽しみにしていよう。
「ようこそ、私の鎮守府へ。歓迎しよう」
迎えてくれた信彦さんは軍服だ。提督なんだから当然か。
三十手前くらいかな。俺も提督さんと呼ぼう。
「へえ、そっちが私と同じ信長。確かにオーラあるわね」
提督の横に赤い髪の女がいる。同じ信長と言ったな。
「私の名は織田信長。戦娘の最上位。織田信長の魂を受け継ぐものよ。いらっしゃい、よく来たわね。別世界のノブナガさん」
自信満々と偉そうが半々な態度の赤髪さん。
ノブナガより胸が大きいことを、なんとなく魂で確認した。
「我が名はノブナガ。本日はお招き感謝する。演習とやらが楽しみだ」
「堪能していってね。こちらもちゃーんともてなすわ。全力でね」
二人から妙なオーラが出ている。俺は非戦闘員なので見守っておこう。
「さ、カレーにする? 演習にする? それともて・い・と・く?」
「そこ自分じゃないんだ!?」
「なんだい勇刀。ああいうのが好みかい? ちょっと胸が大きいだけじゃないか」
「いやそういうわけじゃなくてだな」
「そのちょっとが戦況を分けるのよノブナガ!」
「ふん、胸の大きさなんて、一定のサイズを超えてしまえばほぼ同じ。問題はその胸をどう使うかだ!」
なんというしょうもないやり取りだ。ノブナガとしてのカリスマはどうした。
「ならばどちらが上か決めましょう」
「ああ、ノブナガファイト、開幕だ!」
そんなわけで海上での戦いが幕を開けた。
相手は信長と家康さん。他四人らしい。当然だが全員女性だ。
それが当然ってよく考えたら凄いな。
「いやあ……みんな完全に海の上に立っていますね」
「そうだね勇刀くん……でいいかな?」
「はい、俺の方が年下っぽいですし」
俺と提督は船の上から実況。だってやることないし。
「うちの戦娘は練度が高いからね。さてどうなるか」
「気になったんですけど。せんむすってなんです?」
「戦国武将の魂を受け継いだ娘さんだ」
「なるほど。まんまですね」
「呼び方はわかりやすく素早く正確に的確に。まあ軍隊だからね」
「なるほど、ありがとうございました」
というか二対六なんだけど……これ大丈夫か?
「来たか、イエヤス」
ノブナガの横にちょっと和風な魔法陣が現れた。
そして、そこからゆっくり現れる人影。
「おまたせしました。イエヤス、只今参上仕りました」
ふわっと広がるロングヘアーで、大人のお姉さんオーラ全開だ。
その灰色と水色の混ざったような髪と、冷たい中に優しさの見え隠れする赤い瞳が印象的だった。
「そういやイエヤスもいるって言ってたっけ」
「あれ? 初めて見たのかい?」
「ええ、ノブナガとヒデヨシ以外の武将って、まだ会っていないかもしれません。こっちの世界に来て日が浅いもので」
「そうか。それじゃあ後で交流を深めておくといい」
「ですね。自分の所属する軍ですし」
なんというかまともな人だな提督。変人ばっかりな俺のいる城とは大違いだ。
「いいの? こっちはまだまだ援軍を呼べるわよ?」
「問題ない。こちらも必要に応じて呼ぶからね。戦況とは揺れ動くものさ」
「私はノブナガ様の正義と大義に準ずるもの。望まれれば、どんな苦境からでも勝利を掴み取ってみせましょう」
「それじゃ、ノブナガファイト、レディー、ゴー」
ヒデヨシの言葉で全員が散開する。
特に合図もなく三方向に別れた。
普通に水上スキーみたいに走ってますが、どういう原理ですかね。
「演習通りにやればいいわ! 総員魚雷発射! てー!!」
信長軍の戦娘が、どこからともなく装備を召喚して撃ち始めた。
その動作はよどみなく、練度の高さが窺える。
「今川義元、流石に気分が高揚します」
「家康、気合! 入れて! いきます!」
「この大友宗麟にお任せください」
「はい、秀吉は大丈夫です!」
「伊達政宗! レッツ! パアアアァァリイイィィィ!!」
「あいつだけ出典違うぞ!?」
アホやりつつも誰も立ち止まらず、水上を高速で移動しながら戦っている。
近接戦なら勝てるかと思いきや、刀剣も持っているようだ。
信長の持っている名刀が乱舞している。
「魚雷とは厄介だね……イエヤス! 散らせ!」
「はい! 葵の紋よ……力を! 烈光散華!!」
イエヤスの頭上に現れた巨大な魔法陣が、葵の紋へ変わる。
そこから何色もの光の線が飛び出しては、魚雷を貫き爆発させる。
「結界が張れるとか言ってたし、陰陽術タイプだな」
「面白いね。こっちは兵器が多いから、魔法みたいな力は見ていて楽しいよ」
「あ、やっぱり興味あります? 魔法とか」
「そりゃ異世界だし」
「ふん、結構やるじゃない。そうじゃなきゃ信長の名が泣くわ!」
的確にイエヤスの攻撃を避けるあたり、強いな信長。
「信長様! 助太刀いたします!」
家康さんが腕についた連装砲をばかすか撃っている。
その一発一発が正確にノブナガを襲うが。
「甘いね。弾が大きく軌道も見える。切ってくれと言っているようなものさ!」
なんとその弾丸を刀で両断しているノブナガ。こいつら改めてレベル高いな。
「よそ見、しすぎ、お命、頂戴」
「うっ……あう……」
水上にぱたりと倒れる戦娘さん。その背後にはヒデヨシ。
「命は取るなよー」
「言葉のあや」
「義元!? そっちのヒデヨシは忍者か!」
今川義元さんは弓の名手なので、遠距離戦では先に潰す。
ていうか戦国武将ならなんでもありなんだな。
「忍者、違う、不思議少女」
「不思議であることに異論はないが、ここで言うのは違うと思うぞ」
「義元を倒すか。ならば戦い方を変えよう。装備換装!」
信長の合図で一斉に戦娘の装備が変わる。
あれは家康さんが、初対面の時に足につけていた筒だ。
「鎮守府空軍部隊、ストライク・オダッチーズ! 出撃します!」
全員が空高く飛ぶ。これはまずいな。まさか全員飛べるとは。
「しかも重火器持ってるよおい」
「いいだろう? 最新式だよ」
空を見上げれば、五人でビシっと整列している信長軍。
こういうところで乱れないのは、流石軍隊だな。
ああ、何人かスカートだ。
「お館様、勇刀が、余計なことを、考えている」
「なに? 勇刀! ちゃんと我の活躍を褒め称えるんだ! 君の一言が勝敗を分けるんだよ!」
「俺そんな重要ポジションなの!?」
よくわからん演習は続く。
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