第4話 そばに立つ織田 オダンド

 俺がノブナガファイトの世界に来て三日目。

 織田城は広く、まだまだ迷うし、全員女性なため気を使う。


「はあ……結局ここにいるのが一番落ち着く」


 ノブナガのいる天守閣が一番だ。ノブナガとヒデヨシしかいない。


「自分の部屋にいてもいいんだよ勇刀」


「あの部屋も広くて落ち着かないのさ。なーんか俺が出てくるところを見られている気がして、引きこもりそうだ」


「みんな君が気になっているんだよ」


「そうかねえ?」


「勇刀は、みんなの、所有物」


「違うぞー」


 ヒデヨシがごろごろしながら、なんか食っている。


「何食ってるんだ?」


「さとうきび」


「普通……いや普通か? 日本のものだし……ああくそ、さとうきびの歴史がわからんからつっこめない!」


「できる女、ヒデヨシ」


 それだけ言ってまたごろ寝しているヒデヨシ。この娘さんはわからん。


「ま、注目されているんだよ。我からも、ヒデヨシからも……そこの男からもね」


 突然ショットガンを壁に向けてぶっ放すノブナガ。音にびびるから合図くらいはくれ。


「気配は消していたはずだが。流石はノブナガだな」


「誰だ!? 敵か!?」


 ゆらりと、陽炎のように現れた男。ロングコートにマゲというアンバランスな男だ。

 背後に黒い甲冑を着た、紫の皮膚に赤い目をした男がいる。


「落ち着きたまえ勇刀。どうせ君もノブナガだろう? それとも、うしろの男がそうなのかい?」


「ほう……見えるのか……オレのオダンドが」


「おだんど?」


「そう、織田信長の血筋が現代まで繋がり、ある日特殊な力を発現させた」


 現代、つまり俺と同じ時代から来ているのだろう。

 ビシっとポーズを取る。うしろの男も同じポーズだ。


「その力は、そばに立つ織田という意味で――――オダンド!!」


 語呂悪いなー。そのポーズはなんの意味があるんだい?


「そしてオレの名は織田上 信太郎だ。みんなからはノブナガと呼ばれている」


「結局ノブナガじゃねえか」


「我がオダンドはタロットカードのノブナガの暗示」


「タロットにノブナガとかねえから!!」


「お前の命、貰い受ける」


「であるか。ならば受けて立とう」


「ノブナガファイト、レディー、ゴー」


「せえい!」


「オダア!」


 ノブナガの刀とオダンドの拳がぶつかる。

 戦うのはオダンドなのね。


「ほう、中々のパワーとスピードだ。だが、オダンドの前では無駄だ」


「どうかな? はっ!」


 突然蜃気楼のように信太郎が消えてしまう。


「人間五十年……」


「消えた?」


 声だけがする。その声もどこから聞こえているのかさっぱりだ。


「オレの相手をするにはあまりにも無力。夢幻の如く。儚く消えよ」


 消えた時のようにゆらりと、蜃気楼のようにノブナガの背後に現れるオダンド。


「ノブナガうしろだ!!」


「遅い。オダオダオダオダオダオダオダオダオダアア!!」


「うあああぁぁぁぁ!?」


 オダンドのラッシュで壁に叩きつけられたノブナガ。


「ノブナガ!」


 まずいな。単純なパワーではあいつが上らしい。


「くそっ! ヒデヨシ、どうにかならないか?」


「よし、触って、はやく」


「なんで!?」


「妙な気配、違和感がある、はやく」


 服を脱ぎ出すヒデヨシ。やはり下着は黒だ。こだわりでもあるんかい。


「戦場で女子と乳繰り合うとは恥を知れ!」


「こいつに言ってくれ!」


「我が時間を稼ごう。ヒデヨシをねっとり触るがいい。このおさわりマンめ!」


「誰がおさわりマンだこの野郎!?」


 俺に不名誉なあだ名をつけるんじゃない。

 触りたくて触っているわけじゃないんだよ。


「愚かな……オダンドはオダンドでしか倒せない。死ぬだけだ」


「であるか」


 ノブナガが決死の覚悟でオダンドをひきつけている。


「やるしか……ないのか」


 俺も覚悟を決めた。下着姿のヒデヨシに触れる。

 細いし小さいくせに、意外に柔らかい。

 ちょっと顔が赤い気がするのは見ない振りだ。


「勇刀、もっといやらしく、劣情を込めて」


「できるか!?」


「我を辱めたあの手つきを思い出すんだ勇刀!」


「お前マジでやめろ! 俺が変態みたいだろうが!!」


 いつも理性と混沌と危機感が混ざった気持ちになる。

 複雑で言葉にできんよこんなん。


「ん、まあ、そこそこ興奮した、勇刀、感想は?」


「感想?」


「女体を弄んだ感想」


「人聞き悪いわ!!」


 こいつらには羞恥心がないのか。もういやこの女体化武将。


「言わなければ、ここで負ける」


「なんで!?」


「やる気が、出ない、出にくい」


「出せや!!」


「まあなんだ……お前も女の子なんだな」


「きもい」


「うっさいわ!!」


「まあいい、やる気が出た、力も湧いた、敵は死ね」


 金色に光るクナイを無数に、しかも全方位に投げるヒデヨシ。


「ぬおおぉぉ!?」


 俺達から離れた場所に現れる信太郎。体にはクナイが刺さり出血もしている。


「命中」


「よくやったヒデヨシ。だがどうやった?」


「全体攻撃は、便利、所詮、幻」


「その通りだ。オレのオダンド能力は夢幻。蜃気楼のような幻影を作り出す」


「幻影は、攻撃も、できる、でも気配は、一つ」


「これほど早く察知し、しかもオレの本体を探し当てるとは、貴様まさか……七人目のオダンド使い!?」


「違うわ!! なんだよ七人目って! 何人いるんだよ!!」


 ピンチのくせにテンション高いなこいつ。まだなにかあるのか?


「万策尽きたとはこのことよ! ぬわーっはっはっは!」


 ああ、ヤケになってるだけだなこれ。


「信太郎は凄い。たったひとりで、ここまでやった。今度は、いい織田に、生まれ変わって」


「いい織田ってなんだよ!?」


「じゃあね」


 ヒデヨシの後ろでポーズを決める、金ぴかの変な人がいる。


「これが、ヒデヨシの、オダンド」


「お前織田じゃないだろうが!」


「勇刀のおかげ、褒めてあげる。勇刀はいい子」


「子供か」


「ヒデヨシは、おねーさん」


「そういや年上だったな」


 いまだに納得いかん。人体の神秘である。


「先手必勝! オダアア!!」


「遅いよ」


 二人のオダンドの拳がぶつかる。砕け散ったのは信太郎のオダンドであった。


「ヒデヨシのオダンドは成り上がり。相手が強ければ強いほど、成り上がるために上をいく」


「バカな……このODAがああああぁぁぁぁ!?」


「地獄に、落ちな、ベイビー」


 こうしてオダンド使いの信長キャラを倒したのであった。


「よくやったヒデヨシ。流石は我が同志よ」


「凄いぞヒデヨシ。かっこよかったぞ」


「それは、よかった」


 照れているのか、頭をかきながらはにかむヒデヨシ。

 普通にしてりゃかわいいなこいつ。


「やはり勇刀が来てからスムーズだね。これなら天下統一も夢じゃないよ」


「大げさだな。俺はなにもしていないよ」


「ナニはしている」


「してないしてない。まだギリギリセーフ」


「ならばアウトになればいい! と、いうわけで我も撫でるがいい!」


「なんでそうなる!?」


 こんなんで勝ち抜けるか不安だが、まあやれるとこまでやってみよう。

 もちろんノブナガファイトの話だぞ。

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