嘘つきの才能検定!

ちびまるフォイ

人を成長させられる嘘つきになりたい!

人を成長させられるような職につきたい。



子供のころは先生にあこがれていた俺がぼんやりと抱いた夢。

それが今日実現する。


「では、試験をはじめてください」


テスト用紙をひっくり返して、ウソ国家試験をはじめる。

今日まで詰め込んできた知識のすべてを紙へと書き込んでいく。

そして、私は合格できた。




……というのはウソで、ものの見事に轟沈した。


「嘘つきの国家資格なんてどうしてほしいもんかねぇ。詐欺師でもなりたいの?」


「ちがうよ。私は人を成長させる仕事につきたいんだよ、お姉ちゃん」


「人を成長って……それこそ嘘つきとは程遠いじゃない」


「人と関わって、人を成長させるには上手なウソが必要不可欠なの。

 だから私も嘘つきの資格を手に入れて、たくさんの人を成長させたいの」


「言ってることは立派だけど、結果がこれじゃねぇ」


姉は私の見るも無残なテスト結果をひらひらと見せた。


「だってまだ最初だもん! 次は受かってみせるから!」


「嘘つきの卵が言う言葉に、説得力なんてないっしょ」


姉のからかうような言葉をばねに私は毎日嘘の勉強をし続けた。

嘘つきの資格を手に入れた人は、のちの就職活動も大いに助けられる。


政治家や教師はもちろん、作家や芸能人にいたるまで

「嘘」を巧みに操れる人は多くの人を影響させることができる。


「私だって! ぜったい受かってみせるんだから!!」


 ・

 ・

 ・


不合格。


不合格。

不合格。

不合格。


「うう……また不合格だよぉ……」


何度受けても私が嘘つきに合格することはなかった。


「いいのよ。あなたは昔から正直者で素直な子なんだから、ウソなんていらないわ」


と、励ます母がいたが、嘘つき試験勉強をしまくっている私にはそれが嘘だとすぐわかる。


嘘つきであるということは、同時に嘘を見極める力が優れているということ。

だからこそ、嘘つきになりたいと思うし、嘘つきは重宝される。


「はっ! まさか、この結果そのものが嘘なのでは!?

 これは不合格というウソを見極めるための、第二の試験なのでは!?」


そう、試験はまだ終わっていなかった。

ペーパーテストはすべて嘘でここからが本当の試験なんだ。


私は慌てて嘘つき国家試験本部に電話して問い合わせた。


「……ということで、これはウソなんですよ!?」


『あの、なにか誤解しているようですが、あなたは本当に落ちたんですよ。

 試験はすべてペーパー試験で行われます。

 なんで、不合格を送った相手を合格にしなきゃならないんですか』


「というのが、ウソなんですよね?」


『あのね、これが真実か嘘かも判断できないから、あなたは落ちたんですよ』


電話はそれきり切れてしまった。

ツーツーと事務的な音を耳元で聴きながら、私はひとり取り残された。


「ああ……やっぱり本当に落ちたんだ……」


試験官の痛烈な言葉もあり、この先どれほど勉強しても嘘つきになれる気がしない。

それはつまり、自分の夢を諦めるということ。


「ううん! 私、ぜったいにあきらめない!

 必ず嘘つきになって、たくさんの人を成長させる仕事につく!!」


昔から私は逆境になるほど燃えるタイプ。

こんなところで自分の夢を諦めるなら最初から挑戦していない。


とはいえ、これから先必死に勉強しても、どうひっくり返っても受かる気がしない。

なにか作戦が必要になる。



「そうよ! カンニングをすればいいわ! これはウソ試験なのだから!」



嘘つきに国家資格を与える場でカンニング。

こんな大胆なことをする人は誰もいないだろう。


バレなければ嘘つき資格をもつ試験官をあざむいたということで、合格確定。

テスト終了後にカンニングをカミングアウトするだけで、

私がテストでどんな点数を取ろうがカンニング加点で合格するはず。


「ふふふ、われながら悪知恵が働きすぎて困るわ!

 やっぱり私って嘘つきの才能があるはず!!」


グッドアイデアすぎて自画自賛して試験当日を迎えた。


カンニングの方法は古典的なもので筆記用具をはじめとする

手持ちの道具にカンニングすることを書いたり隠したりする方法。


消しゴムの表と裏にびっしりと文字が書き込まれ、

仕込みシャープペンにはカンニングペーパーが仕込んでいる。


あとはこれを気付かれないように使いつつカンニングするだけ。




「では、試験をはじめるまえに、このタブレットを回してください」


「へ?」


受験会場にはテスト用紙ではなく、電子タブレットが回された。


「今回から、テストでは紙を使わずにタブレットで試験をします。

 文房具を持ってきた人は使わないのでカバンに戻してくださいね」


「ええええええ!?」


こんなところで仕込みカンニング道具を使えばすぐにばれる。使えない。

とほほ、と自分の運のなさと嘘つきとしての才能のなさに絶望した。



テストの結果はさんざんで、もう発表を見る前にあきらめがついた。


「はぁ……カンニング作戦も失敗だし、テストもぼろぼろ。

 やっぱり私が嘘つきになって人を成長させるだなんて無理だったのかな……」



ブツブツいいながら、合格者の掲示板に目を通すと、思わず目を疑った。


「なっ……受かってる!? どうして!? あんなにボロボロだったのに!?」


慌てて試験官に連絡して何かの間違いではないかと問い合わせる。



『ってまた君か。しつこいな』


「それより! 発表結果は間違いないんですか! 私が合格って!」


『ああ、本当だよ。おめでとう』


「でもどうして!? 私テスト全然ダメだったのに」


『その通り。君の点数は他の受験生の中でもぶっちぎりに低い』


「や、やっぱり……」


『でもね、君は嘘つきに必要な資質を持っているとわかったから合格にしたんだ』


「資質……それって言葉をうまく使えるとかですか?

 人間の感情や心理を読めるとか?」


『ちがう、嘘つきに本当に必要なのは忍耐力だよ。

 ウソは自分に大きなストレスを与える。それに耐えられる根性が一番大事なんだ』


「ありがとうございます! 私、きっと人を成長させる仕事につきます!」


『応援してるよ、落第生』



……という、ウソでした。


なんて、オチじゃないかとドキドキしていたけれど

私の家に嘘つき国家資格の任命証書とバッジが届くと信じざるを得ない。


「やった! これで私も嘘つきの国家資格者ね!」


嘘つきになると、すぐに就職先が見つかって私は忙しい日々になった。



でも、私はこの仕事につけて本当に良かったと思っている。

だって、私のこの仕事は誰よりも多くの人を成長させる仕事だから。






>土用の丑の日は、もともと牛の日だった


>コーラには人間の骨によくない化学物質が含まれている


>殺人系のゲームをやると脳の視床下部が影響して暴力的になる




「ふぅ、今日はこれくらいにしようかな」


私は今日もネットに嘘の情報を流して、

人々のウソを見極める目を成長させている。




※この物語はフィクションです。



これが嘘かどうか判断かどうかわかれば、あなたはきっと成長してる。

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