新たなトップと去りゆく親友
ルカが別部署へ移動した。
その部署は戦線へ赴き戦う兵士を援護する狙撃兵だった。
移動してすぐのことだった。
昼食休憩の終わり間近にテレビを眺めていると突然臨時ニュースが流れた。
「臨時ニュースをお伝えします。アラン帝国皇帝、アルダ=アル=アラン3世が病死しました。これにより反バトラン派のブァファラルダ将軍が実権を独占すると見られ…」
キャスターがそう告げると食堂がざわついた。
「これで戦いが終わるんじゃないか?」
「やっと交戦終了か!」
と誰もが戦争終結を願っていたがこの数日後、その願いは儚く散ることになる。
「アラン帝国皇帝、ブァファラルダ1世は『領土拡大』と『反乱デモの武力鎮圧』をスローガンとして近隣諸国と交戦を始めています。全ての戦いはバントランド軍の介入によって成り立っていますが、依然として形勢は不利な状況が続き、一部で撤退を余儀なくされています…」
ブァファラルダ1世即位直後から始まったアラン全国境戦争と言われた戦いはアラン帝国VSバントランド連邦共和国を初めとする3カ国との戦争と呼ばれた。
まずはバントランドの隣国でもあるサルベル共和国にルカは派遣された。
戦地はアラン有利で進んで来た。
ルカは敵兵の狙撃のため壊れかけの高めなビルの屋上で待っていた。
銃声の鳴り響く音がこだまする街ではどこで撃ったのか、また誰が撃たれたのか想像もつかない。
「こちらB班、狙撃ポイントに着きました。」
「こちら本部、指示を待て、歩兵隊が進行中。」
無線機で連絡を取りながら歩兵隊をライフルのスコープで確認した。
そこにはグレンの姿もあった。
(頼む…死なないでくれよ…)
そう心の中で祈りながらまた覗き込んだ。
するとアランの戦車がバントランドの歩兵隊に砲撃を始めた。
「本部からB班へ、狙撃を許可する。Good luck」
その言葉と同時にアランの歩兵隊に向け、隣にうつ伏せの状態手間待っていたスナイパーのライフルが火を吹いた。
バタバタと倒れる両者の歩兵隊。
ルカはスコープでグレンを見ていたが砲撃の煙で見えなくなった。
するとルカのいるビルにアランの戦車の砲撃が当たり崩れた。
幸い死者はいないが、狙撃できる高さではないため歩兵隊と一緒に小銃を構え前へ進んだ。
ルカは敵兵を3人、4人と射殺し、前へ進む。
落ち着いた所に出てリロードをしていると後頭部に銃を突きつけられた。
「銃を捨てろ!」
ルカはその声の言う通りに地面に小銃を落とした。
「そのままこっち向け!」
言われるまま手を挙げたまま後ろを向いた。
アラン軍だった。
「お前バトラン兵だな、フンッ、女性兵か…いいように扱ってやるよ。」
ルカはその男が一瞬目を離したのを見て腰のホルスターに手をかけ銃を抜き構えようとすると、男は撃たれ血まみれになりながら倒れた。
ルカは息のある男にトドメの1発を放ち、ホルスターに拳銃を戻し小銃を取って
そこにはグレンがいた。
「おいおいっ!俺は味方だよ。」
そう言って手を挙げた。
「あ、ごめん、ありがとう、助かった。」
サッとお礼をいい2人で何人も射殺していった。
すると無線が入った。
「全隊員へ、戦局は悪化、アランの援軍も到着したのでこれよりバントランド軍は撤退をします。歩兵隊、狙撃部隊はデルタポイントに集合、ヘリで撤退します。戦車部隊はジュリエットポイントで輸送船〔レイドブルー〕に収容します。総員撤退せよ、繰り返す…」
それを聞いた2人は走ってデルタポイントに向かった。
2人のいる場所から約2kmの地点だったため、急ぎ気味でなおかつ見つからないように撤退した。
「そう言えばルカ、お前好きな人いるんだったよな。ぜってぇ死ぬなよ?」
走りながらグレンが言った。
「グレンこそ、奥さんと子どもいるんでしょ?死ぬなよ!」
ルカも負けじと言った。
するとルカが足と肩を撃たれた。
「ルカっ!大丈夫か!」
グレンが駆け寄り引きずって陰に隠れた。
汚れた白い布で傷を縛り応急処置を施した。
「たぶん俺ら包囲されたぞ。」
ルカとグレンは逃げ場を失った。
(どうする…デルタポイントまではあと1kmもないはずだ…)
そう考えているとグレンが
「手負いより俺の方が戦える。お前は救助を待て。」
そう言い残し飛び出そうとするのをルカがグレンの腕を掴んで止めた。
「ダメッ!私も行く!」
「お前は救助を待て!必ず生きて帰れ!」
ルカの手をグレンは振りほどき飛び出した。
「おいっ!お前らの相手はこっちだ!」
グレンはそう
すると他の歩兵部隊がルカのいる陰に入ってきた。
「ルカ大尉!大丈夫か!」
部隊の一人が気づきルカを抱えてデルタポイントまで走った。
幸い、敵兵と会わずに着いた。
そしてルカはヘリに乗せられ撤退した。
必死にルカはグレンを探した。
すると無線がきた。
「ルカ…」
苦しそうな声のグレンだった。
「グレン!今どこにいるの!?」
ルカが大声で聞いた。
「来なくていい…囲まれた…」
その苦しそうな声は被弾してる様だった。
するとヘリのパイロットがグレンを見つけた。
「ルカ大尉!あれグレン中尉じゃないですか?」
グレンは民家の裏で隠れていた。
周りは敵兵だらけだった。
「今から救助に行く!」
そう言うと乗り込む準備をルカが始めた。
「やめろルカ!お前は怪我してんだろうが!」
「あんただって怪我してるでしょ!?私は前に救助隊だったのよ?今すぐ行く!」
しかしルカを助けた歩兵隊が必死で止めた。
「ルカ大尉!だめです!危険です!」
「やめないかルカ大尉!お前まで死ぬぞ!」
2人がかりでルカを止めた。
「ルカ…これが俺の
グレンはもう長くないことを悟った。
「ルカ…娘に…入学式行けなくてすまないと伝えてくれ…」
そう寂しそうに言った。
「ダメッ!グレン!待ってるんでしょ!娘さんが!入学式行きなさいよ!」
そうルカが無線機越しにグレンに大声で言った。
「エルンがさ…言ってたんだよ…「お仕事だよね、仕方ないよね」って…仕事を全うしなきゃ…娘に怒られちゃうんだよ…」
苦しそうにグレンが言った。
「ダメ!グレン!止めなさい!これは上司の命令だ!死ぬな!」
ルカは押さえられてもそう叫んだ。
「ルカ大尉…それだけは聞けません…託した“それ”…頼みます!」
そう言うと無線のスイッチは切らずに立ち上がった。
ルカは無線越しに銃声を聞き数秒後に倒れる音がした。
「エルン…すまない…愛してる…」
そうグレンの声が聞こえた後で銃声が鳴り響いた。
グレンの声は聞こえなくなった。
「グレン!グレン!!くっ…」
ルカは悔しい涙を流しながら基地へ帰投した。
この戦いは首都が陥落した事でアラン側の勝利。
ルカは部下兼幼なじみを失ったことと戦いが敗北を期したことにまた涙した。
2日後、グレンは民家の裏で遺体で発見された。
グレンの娘、エルンは3歳にして父親を失い、妻のニアは結婚3年にして夫を失った。
「夫は…どんな最後だったのでしょうか。」
ニアはエルンと手を繋ぎ、ルカに聞いた。
「グレン中尉は…敵兵に怯えず、仕事を全うして戦い亡くなりました。」
ルカがニアに言うと空砲が撃ち鳴らされ棺が掘られた穴の中に降ろされた。
「そうですか…夫が大変お世話になりました。」
ニアがルカに頭を下げた。
「いえ!お世話になったのは私です。あなたの旦那さんに命を救ってもらいました。私がここにいるのは彼のおかげです。私こそ助けられず申し訳ありません。」
ルカはニアを止め自分が頭を下げた。
「いえ…あれがあの人の
ニアは穴に降ろされる棺に目をやり言った。
「おかあさん…おとうさんなんでしんじゃうの…?おとうさん、むてきだからしんぱいするなっていっておしごといったんだよ…?」
その言葉にその場にいる全員が堪えた。
「おとうさん、ぜったいかえるからにゅうがくしきのれんしゅうしなさいって言ってたよ…?にゅうがくしきみにいくからがんばれっていってたよね…?」
その言葉にニアは泣くしか無かった。
司令長官のフルメルフ大佐は手を強く握りしめ悔しそうに涙を流した。
「おとうさん…かえってこないの?」
オーランドの息子のリュクルゴスは涙をこらえ帽子を抱える手が震えていた。
だが、その言葉に1番悔しがったのはルカだった。
葬儀が終わり、墓石が出来た後、ルカはその前にずっと立っていた。
『グレン=ガネル 1819-1839』
そう掘られた墓石には花がたむけられていた。
そこにオーランド大佐がやって来た。
「グレン中尉…いや、2階級特進でグレン少佐か…20歳の若さでこの世を去るとは…」
オーランドが帽子を脱ぎ墓石に敬礼した。
「グレンくんのためにも早くこの戦いを終わらさなければな…」
オーランドが敬礼を
ルカは墓石をずっと見つめていた。
「雨…降ってきましたね。」
ルカが快晴の夕暮れの空を見上げて言った。
ルカの頬には一筋の雨が流れていた。
「そうだな…一生、止みそうもないな。」
オーランドがそう残してルカを残し去った。
グレンが残したのは家族が笑顔に写る写真だった。
なぜかこの写真の中だけは楽しそうな家族が見えた。
ルカはグレンの無慈悲な結末に、自分の無力さに一生晴れない雨と共に流されそうになっていた。
儚い夢 -Episode One- 來紀 @akari1225
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