ルカの失態

その後、ルカとグレンは陸軍特殊救助隊に配属され厳しい訓練に耐え、鍛えていく日々が続いた。そんなある日だった。

「次は天気です。昨日からオールバニ郡北部で降り始めた雨は俄然勢力を増しながら南下している模様で、オールバニ郡北部のフィスレでは避難指示が出されています。先ほど、大統領も非常事態宣言を発令し、陸軍特殊救助隊の初めての指示が出されました。特救隊は降水量が一番多いフィスレに明日には着くと予想され、その頃には晴れていると思われますが発達した低気圧が断続的にオールバニ郡北部を襲うと思われ…」

ラジオを聞きながら特殊隊は輸送ヘリの中で寝ていた。明日朝に着くためヘリの中で仮眠をとっていた。

ルカは眠れず、目を開けていた。

「眠れないのか。」

小隊長のオーランドが話しかけてきた。

「あ…はい。」

ルカは小銃を抱き抱えながら返事した。

「寝ちまえよ。明日は早ぇぞ。」

オーランドが目を瞑り言った。

「小隊長。」

ルカが呼んだ。

「なんだ。」

オーランドは相変わらず目を瞑ったまま聞いた。

「小隊長は…タウアーの悲劇で救助活動をしたことありますか?」

そのルカの言葉に物凄い速さで目を開け、ルカを見た。

その顔は「まさか」という顔だった。

「まさか…あのお嬢ちゃんか?」

オーランドはびっくりした顔をしてルカに言った。

そう、あの時、士官小学校の学生を救助したアギン大佐の部下はオーランドだったのだ。

「そうです。」

ルカはそう返した。

「ならその怒りの目はあの空襲か?」

オーランドが聞いた。

「どうでしょう。」

そうルカが返した。

「オーランド大佐、雨が止んで視界が良くなったので少し早めにつきそうです。」

とコックピットから報告を受けた。

ラジオでは朝方にフィスレが晴れると言っていたが、1000キロ離れたこの場所で晴れるということはもうフィスレは晴れているとルカは確信した。

「やばいな…」

オーランドが呟く。

「大佐、何がやばいのでしょうか。」

ルカが聞いた。

「今ここで晴れれば低気圧が断続的に来るということだから恐らく低気圧接近でまた雨が降るだろう…」

その言葉に機内の寝ていた隊員が起きた。

「全員起きろ!」

寝ていた隊員も寝ぼけていた隊員も全員起きた。

「恐らくあと2時間で日の出だが、天候がこれから悪くなる。そうなる前に住民を安全な場所へ避難させるんだ。ただし、単独行動は避けてくれ。二次災害を引き起こしたらいけないからな。」

そうオーランドが念を押した。

「コックピット!もっと急げんのか!」

オーランドが機長を急がせた。

「これ以上は無理です!」

「何とかして日の出までに着かせろ!」

そのやり取りが機内での緊張感を高めていった。

しばらくするとヘリはまた雨の中へと入っていった。

「大佐!また雨が…」

機長がそういう頃にはフィスレ近郊に近づいていた。

「このまま降りるぞ!」

隊員達がその言葉を合図に準備し始めた。

その時、機体が大きく揺れた。

「うわっ!」

そんな声が機内で聞こえた。

機体はフィスレの入口付近にあるヘリポートへ降りた。

「サンサルド川には十分注意してくれ!」

オーランドが雨を避けるように手を顔の前にかざしながら言った。

ルカとグレンは2人、3人と救助していった。

2人はサンサルド川近くに来た時川の中で溺れかけている少女を見つけた。

「グレン!この人任せた!」

「おいっ!ルカっ!待て!」

その言葉を無視してルカは川に飛び込んだ。

ルカは少女を抱え川の中洲の岩にしがみついた。

「グレン!ここにヘリを呼んで!」

ルカが大声で言った。

「分かった!それまでしがみついてろ!」

グレンは救助した人と共にヘリポートの方へ向かった。

「た…助けてっ…」

少女はパニックになりかけていた。

「大丈夫!落ち着いて!あなたは助かるから!」

そう宥めつかせていた。

水位が上がり遂に小さく顔出していた岩はみるみるうちに濁流に消えていった。

「このままじゃ…」

ルカがそう思った時だった。

後続に来ていた輸送ヘリが川の流れる方向に機首を向けホバリングし、ルカのすぐ上まで降下した。

すると中からオーランドが降りてきた。

「ルカっ!単独行動は避けろと言ったはずだ!」

そう川に入り少女を助けるロープを固定しながら言った。

「すみません!この子を早く!」

ルカがそう言い少女をオーランドに託した。

「ルカっ!もう少し耐えてくれ、すぐに降りる!」

そうオーランドがいいヘリに収容された。

ルカもそのすぐ後に収容された。

軍により街の8割の人々が救出されたが、ルカが少女を救出した4時間後に大規模土石流により街は消えた。


2日後

ルカは軍基地の大会議室にいた。

「君の処分だが…賛否両論あって決めがたいところがあるのだよ…」

そう言うのはU型の机の一番下のトップが座るところに堂々と座っているレドルン長官だった。

「済まないが…自分の処分は自分で決めてくれたまえ。まぁ軍の規律違反に『お咎め無し』という答えは無かろうがな。」

書類を少し乱暴に机にぶつけて言った。

その時、マザ司令次長が反対した。

「長官!いくら何でもそれは…いえ、長官に楯突くつもりはありませんが、市民の命を守る判断です。これは厳重注意で済ませるべきかと…」

「司令次長、もういいです。」

その言葉にマザは乗り出した身を戻した。

「長官の仰る通り、規律違反でした。しかし、私は命を守る判断だったとして、職務停止未満、謹慎以上を求めます。」

その言葉に長官以外の会議室全員が驚いた。

「ルカ大尉、それは重すぎでは…長官殿もそこまでは考えいらっしゃらないぞ。」

ジャー人事次長が立ち上がりそう言った。

通常、軽い規律違反では厳重注意以上、謹慎未満が相応だが、ルカはそれよりも重い処分を要求した。

「そうだ、ルカ大尉。私たちは規律違反だったとしても命を守る判断であったことは承知している、そしてその判断により市民を救った。これは逆に賞賛に値するべきであるぞ。君が救った市民は全員通常規律に従えば助からなかった命だ。彼らも感謝しているし、人道的な面で君は間違ってはいないんだ。司令次長の言う通り厳重注意でも誰も文句はないんだ。」

フルメルフ地域警備次長もそうフォローした。

「君が言うなら仕方あるまい。しかしそれは逆に私が規律を破ることになる。それでもって、ここは間をとって君を別部署への異動としよう。」

そうレドルンが言った。

「長官っ!」

マザはなにか物申したそうにそう言ったが続けはしなかった。

「ジャー人事次長、そういうことでよろしいかな?」

レドルンが聞いた。

「…分かりました。」

ジャーがそう答えるとレドルンが書類をまとめ長官帽を持って退出した。

「君は噂通りの士官だ。キャリア組とは違うな。」

そうフルメルフが言い残し退出した。

「もう少し軽くなるよう協議する。君はもう少し頭を冷ました方がいい。」

そうマザがルカの肩をポンポンと叩いて外に出た。

ルカもそのまま退出した。

外にはグレンがいた。

「ルカ…」

グレンの目は人を哀れむような目だった。

「グレンはここでやるべき事があるでしょ?」

ルカはそう言い残しグレンの肩をポンた叩いて廊下を何かもの寂しそうに歩いていった。

目の前の要救助者をどんな場所であろうと突っ走ってしまうルカの性格が裏目に出てしまった。


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