入隊

あれから14年。

この日、トランペットの音が甲高く青空の下で鳴り響いていた。

ルカはバントランド陸軍に入隊する、学校でいう言わば入学式という所だろう。

この年、バントランド連邦共和国は初めて女性軍人の雇用を行った。ルカはその第一号として入隊した。

「諸君!バントランド連邦共和国は数々の危険に晒されている。自然も味方とは限らない。そこで君たち陸軍は国民を守り、国のため、国民のために訓練を頑張ってくれたまえ。そして今年から陸軍には女性軍人も仲間入りするが…男諸君、甘く見るでないぞ‍?」

そう言うのは陸軍大臣、アルレア=アッギー二だった。

入隊式が終わったときアルレアがルカに近づいてきた。

「きみがルカ=トーラントかね?」

アルレアが尋ねた。

「はい。そうです。」

ルカがアルレアの方を向いて言った。

「君がタウアーの悲劇で一つ気になっていることがあると聞いてね。君の同級生と先生。残念ながら全員兵役を強制され戦争にも携わっていると聞いたが…」

アルレアがそこまで言うとルカの耳に口を近づけた。

「君の恩師、ファーティス=レイと同級生のコール=ターナーは生きている。」

そう言われたルカはびっくりした反応でアルレアから離れた。

「コール君は現在陸軍少佐だそうだ。君と同級生でも階級は二つも違うな。まぁ頑張ってくれ。」

そう言い残しアルレアは数人のSPを連れてどこかへ行ってしまった。

「ルカ、どうしたんだ。」

後ろからグレンが話しかけてきた。

「ううん、アルレア大臣から激励をもらったのよ。」

ルカはそう返事した。

「ルカ=トーラント中尉はいるか!」

そんな声が聞こえた。

グレンがその声の主を見つけ連れてきた。

「はぁ…やはり600人もいると探すのに骨が折れるなぁ…やっと見つけた…」

息切れさせながらその男が言った。

「すみません…どちら様でしょう。」

ルカはその顔に身に覚えがなかった。

「あぁ…申し遅れた。私は陸軍特殊救難隊、略してASRC(アスロック)の隊員、レイガンだ。」

ルカとグレンはポカンとしていた。

「なんだその顔…まさか疑ってんのか?」

ルカ達は疑ってるわけじゃなかった。

なぜ、特殊救難隊がルカ達に声をかけたのかが疑問だったのだ。

「いえ…特殊救難隊がなぜ私達なんかに声をかけてきたのか、さっぱり見当が付かなかったもので…」

グレンがボソッと言った。

「まぁそれは俺についてきてからにしてくれ。」

そう言って2人を連れて歩き出した。

「アギン少将直々に配属命令書がこちらに届いてな…ほれ、これだ。」

レイガンは2人に配属命令書を渡した。

「でも、なぜ私たちにではなくそちらに届いたのでしょうか?」

グレンはその部分が引っかかっていた。

「まぁ入軍してすぐだからな。宿舎にまだ入ってないし当然とは俺も思ったが…アギン少将が直々に訪れてオーランド大佐に渡したからな。」

レイガンがそう話した。

「オーランド大佐?」

ルカが不思議そうに聞いた。

「あぁ、君たちが知っているのは第3次対アラン戦争で手柄をあげたリュクルゴス=オーランド大尉の事だろう。彼の父親がうちの隊の隊長のオーランド大佐だ。」

レイガンがそう説明した。

間もなく特殊救難隊のベースにしている部屋に着いた。

「ここだ。」

そう言いレイガンがドアを開けた。

「オーランド大佐。二人を連れてきました。」

とレイガンがいい2人が入ると、そこにはオーランド父子が居た。

それを見たグレンとルカは気を付け敬礼した。

「二人ともよく来たな。まぁ恐縮しなさんな。」

そうオーランド父の方が言った。

「君たちがアギン少将殿が推薦する2人だね。噂はかねがね。」

そうリュクルゴスが言ったが2人はなんの噂なのか疑問を持った。

「オーランド大尉、私たちの噂とは…?」

ルカが聞いた。

「私に教えた方が2人の好成績ぶりを絶賛していたのを聞いてね。おっと、内緒の約束だった。」

そう2人にリュクルゴスが言うと身支度を始めた。

「では父上、私は本部で次の作戦の会議があるのでこれで…あ、そうだ。くれぐれも…」

そう言いかけるとリュクルゴスの上に被せるように

「『1日でも家に帰れ』だろ?」

と言った。

「よくお分かりで。失礼致します。」

そうリュクルゴスが言い残し部屋をあとにした。

「すまないね、呼び出しておいて家族と話してしまって。息子はお母さんっ子だからたまには帰れ帰れとうるさくてね。」

イスに座っていたオーランドが席を立ちながら言った。

「大佐職はなかなか家に帰れなくてね。今年はまだ1回しか帰れてなくてね…」

そうしみじみ言う背中はルカが思うに陸軍大佐の背中ではなく父親の背中に見えた。

「おっと、そういう話ではなかったな。」

そういうとまた座った。

「アギン少将直々にこの陸軍で唯一な上ハイレベルな特殊救難隊に入軍初日から異動させたということは、君たちに相当な思い入れのあるように感じられた。」

オーランドは先ほどとは打って変わって真面目な顔で

言った。

「私はもう年寄りだ。だが、いろんな若い奴を見てきた。アギン少将も同じだ。だから考えてる事はよく分かる。ルカ中尉、君の目は二種類の感情に染まっているね。」

その言葉に2人は聞き入るのみだった。

「オーランド大佐は私の気持ちがわかるのですか?」

ルカがそういうオーランドに聞いた。

「分かるとも。一つは正義の炎、もう一つは怒りの炎だな?」

ルカはそういうオーランドの言葉に返せなかった。

「ルカ中尉、君の過去は知っているよ。だがな、その怒りの炎は…押しとどめておいてくれ。我々は正義と平和の名の元にいるのだ。」

オーランドはルカに忠告した。

「ご忠告ありがとうございます。ですが、私は私なりの信念があります。」

そうルカが答えた。

「ならその信念とやらに振り回されぬよう訓練したまえ。」

オーランドがそう答えた。

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