滝間の気持ち
よく聞かれる事だが、俺は自然に女の子っぽくなったのではなく、なかば故意にそうなった。
戦国時代、飛騨を治めていた
その初代国代には加賀の郡司をしていた金森
幕府の判定勝ちになって突入した新時代においても、高山本線のように冷遇された。つまり美濃太田駅と越中富山駅を結ぶ重要な路線にも関わらず全通したのは戦後で、半世紀以上経った今でも開通当時の駅舎のままの駅がある。濃尾に木材を供給し、越美線でさえも改修があるのにも関わらずである。
そんな冷遇されてきた歴史を強いられた飛騨の人達は、今でも集落を大事にしている人が多く、他国に移り住んだ若者もその集落の一番大事な日や正月には必ず帰ってくる。
「いないし、やってもらうしかないやろ」
「…………そうしかないか」
こてこての飛騨弁を共通語に訳したらそういう会話があり、4歳の夏に俺の未来は決まった。つまり、早い夏の終わりを迎えた頃、次男坊の俺は村唯一の神社の神主の家に養子に出された。
そして、村の中でも広めの家に着くと、早速、神社の服に着替えさせられた。
「おおっ! 早恵っ」
涙を溢れさせる養父を見て、1ヶ月前にまだ23歳だったこの家の、滝上家の『お姉ちゃん』が亡くなったのを思い出して、そして着せられている
それから、早恵さんの弟の豪一さんが俺の姉と結ばれ、夫婦漫才をしつつも、長女の真由美を育て上げるのを、巫女をしながら見ていた。
「本当に、ありがとう!」
養父から頭を下げられたのは11歳の時で、まだ6歳だった義妹が巫女を継承して、俺はそのバックアップになる。
村の氏神様を祀る神社とあって、俺が巫女をしていても、女性服を時折着ていても、差別されたり白い目で見られる事はなく「ここでは良いんだ」と思いながら育った。
「
2つ目の『良い場所』を初めて知ったのは、日本全国に被害をもたらした台風が過ぎ去った後のボランティアとして来てくれた事からだった。
羽柴家はやはり織田宗家から敬遠されがちだった飛騨に手を差し伸べてくれ、飛騨州は学校法人『
小6の秋に当時高2の先輩と知り合い、その先輩の話にひかれ、両親と先生に相談してみた。
「良いぞ。カズには迷惑かけたしな」
「迷惑じゃないよ。おかげで色んな経験が出来たし、村の皆と知り合えたしね」
そして、元旦の集会で村の皆に発表して、2月の試験を経て、3月にその合格の発表が来ると皆喜んでくれた。
それからの2年の間にクラスメイト達は俺を受け入れてくれて、俺はライフワークになった女装を楽しめた。
「……ううっ」
春の里帰りをして、春の飛騨を巡ろうとした時に、俺は飛越大震災に遭遇し、台風から復旧したばかりの高山本線の破断に遭った。
斜めに傾いた車両の運転席のドアに叩きつけられた体は、1日経つと動けるようになってきたが、そのぶん真下を流れる宮川からの恐怖が沸き上がってきた。
陸軍の人が飲食物と一緒に説明書付きで投げ入れてくれた無線機のおかげで少しは和らいだが、だれかが少し動くだけでも怒鳴りたくなるほど神経質になったのは否めない。
『これより救出作戦を始めます』
だから、月曜日の夜から聞こえてきたその話は救いの種になり、そして火曜日に宣言通りに行われたそれは凄かった。
その中でも一番凄いと思ったのは、斜めに傾いている列車を魔法だけで支えた人で、助けられた後にその人が誰なのかを知る事が出来た。
「ありがとうね」
「……ああ」
一迫春海。
それがヒーローの名前で、そして新たなクラスメイトの名前で、恥ずかしがり屋の名前である。
日本陸軍とは別個に動いている感じの、ロシアの銀色の少女と一緒な彼についていけば、生ぬるい日本に浸っているより楽しいかもしれない。
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