0403-2
要救助者は運転士1人、車掌1人、そして乗客3人の合計5人。それぞれが、絶妙なバランスの所にいるらしく、大きく動くと車両の重みを一身に受けている車輪が壊れてしまうというのが計算で出た。
なので、陸軍はリレー式の同時救助という作戦をすることに決まり、5人が一斉に斜め45度の橋の上に降り立ってきたわけだ。
「大丈夫ですよ。しっかり掴まっていてくださいね」
「は、はいっ」
そして、今、最後の乗客が上がっていた所だ。
『応急措置完了。引き上げれます』
『了解』
運転席のガラスで切りまくっていた運転士も、やがて上げられ、残るは車掌のみになった。
『さて、最後だな。本部、場所は?』
『変わってない。転換式クロスシートの背中に引っ掛かったままだ』
前に飛ばされた5人だが、一番後ろにいた車掌さんは、無我夢中で飛ばされる最中に掴めた物を必死につかみ、落ち着いた後、その上によじ登った。それゆえに、バランスがギリギリの所で保たれたらしい。
それは喜ぶべき事だが、救助する方からその奇跡的なバランスの車中を進んで、その車掌さんと一緒にまた戻ってこなければならないからレベルは跳ねあがる。
それじゃあ、横からやれば良いじゃん、と言われるかもしれないがーー。
『こちら一迫。重みが増してきたので発色します』
『了解。やはりここでか』
『見事な計算をしてくれた人に感謝します』
『どういたしまして』
最後に聞こえてきた声に驚いたが、しかしそれどころではないので、魔力で半永久的に煙が出る魔法発煙筒のスイッチを入れて、具合を確かめるために弱めに元々出していた魔力をあげる。……ネーミング、少しはひねってほしかった。
魔力の量を上げると、なんたら反応で魔力に色つきの煙が引っ付き、煙の帯は列車の左右の所で固まる。おおっ、と向こうの方で声があがるのが聞こえた。
『大丈夫か?』
『はい。まだタンスぐらいの軽さです』
『…了解』
灰色の煙に左右を挟まれ、カメラからは見えなくなった留萌隊長は1度深呼吸をしてから、ゆっくりと割れた窓ガラスから入る。
『乗鞍さんですね。日本陸軍の留萌という者です。助けに参りましたのでそこでじっとしていてください』
息遣いの合間に、左右のクロスシートに足をかけて登っていく音が微かに聞こえる。
『よし。……乗鞍さん、2日も待たせてしまい申し訳ございませんでした。頭を守るのと、通信用にこれをつけてもらいます』
ガサゴソ。
『乗鞍さん。こちら留萌です。聞こえますか?』
『は、はい。聞こえます。私が最後でしょうか?』
『はい。乗客の皆さんは、全員ヘリに収容されました。大きな怪我は無いですよ』
『それは良かった……』
『後は乗鞍さんだけです。動けますか?』
『はい……と言いたい所なのですが、ここに落ちてきた時に左手を捻ってしまいまして』
『まだ痛みますか?』
『触れれば痛みます』
『わかりました。なるべく右手をーー』
ぞわっ、と得体の知れない悪寒がやって来たのはその時だった。
『総員ショック防御体勢!』
グラッと、叫んだ直後に橋が揺れ始める。
本震と比べればだいぶ小さいが、冷たい空気をさらに張りつめさせるには充分だった。
『マグニチュード3・9、震度3です!』
『留萌! 大丈夫か!?』
『大丈夫です! 一迫君は!?』
『だいじょーー』
畜生、ここで来るかっ!
『もう1回、防御体勢っ!』
今度は、木々を大きくざわつかせ、どこからか鳥の集団が一斉に飛び立った。
通信車の車体が左右に動いてるのを横目に見ながら、混乱中の通信を聞きながら、
『……マグニチュード5・4、震度5強っ』
『車輪がずれていきます!』
『一迫君っ!』
応じれるわけないでしょうが!
けれどーー。
『留萌さん! 今、どっち側だ!』
『左側だ! 変わってない!』
『戻ってきても間に合わない! 窓ガラスを割る! 上! 降りれるか!』
『『降りれます!』』
『良し! 留萌さんは橋の出っ張りに!』
『わかった!』
ふんっ!!
濃い灰色に彩られた突風が、車体左側の窓ガラスを割っていく。電線が舞ったような気がしたが気のせいだろう。
『『降ります!』』
『出る!』
ぬおおおおおおおおおっ!?
『破断!』
『引けー!!』
グンッ! と、体が後ろに引かれ、腹の中の物達が出かけるがなんとか耐える。
『ぐうっ!』
乗鞍さんを抱えて、2人の隊員の手で引っかけられた紐がそのぶん更に食い込んでいる留萌さんの声が聞こえたが、それは車両が川にぶつかった轟音ですぐにかききえた。
『こちら本部! 状況は!』
『…こちら留萌! 乗鞍さんも無事です!』
『一迫君は!?』
『吐きそうな以外は大丈夫ですっ』
ワアッ! と歓声があがるのを聞きながら、私達5人はワイヤー1本で宮川上空を遊覧飛行する。
先に さんと さんが素早く降り立ち、怪我をしている乗鞍さんが降りるのを手伝う。次いで留萌さんが降り立ち、最後にカレーを吐き出さないようにしている私が地面に足をつける。
そして、それらのワイヤーを回収してから、今度はヘリ本体が降りてきて、少ししてからドアが勢いよく開かれる。
『ありがとうございます』
声に振り返ると、官鉄の制服を着ている初老の男性ーー恐らくは乗鞍さんがいた。
『いえ。当然の事をしたまでです』
『若いのにこんな老人のために命をかけてくださり……』
聞いてないな……。まあ、日本ではまだ高校生にもなってないです、はい。
乗鞍さんと話している間に、学園と日ソ両政府が今回の救助作戦を私に手伝わせた主な理由である少年が家族と宇佐美先生の所に走っていくのが見えた。
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