第23話 こいつしかいない
カレルバート町付近 カレル港
色々大変だったし、デッキは結構酷い有様になったが飛空艇は無事に港へとたどり着いた。
途中から事態に気付いて、デッキへの入口辺りでおろおろしていた乗務員や、飛空艇の管理人などに事の成り行きを説明、被害への補償についての話を(スパイに気付けなかった守の
(余談だが、ちなみに、派手な爆発に巻き込まれた割に生きていたキースと、あらかじめノシといたレクトルは別経由で近郊にある
そんな色々を終えた港で、のびをする。
俺達が今いるその場所はカレルバートという町とくっつくようにして作られたらしく、港は行きの時よりは若干少ないが、それでも多くの人でごった返していた。
「はぁ、何かやけに濃い数時間だったな」
「本当だね。モカ達が物語の主人公になったみたい」
「いや、巫女になった時点でそうだろ普通は」
すっかり事後処理やらに追われて後のばしになった港に降り立ち、それらの苦労を思い起こして、うーんと伸ばした背を戻す。
運動したはずだが、精神的な意味で肩が凝りそうだった。
とりあえず気分を変えて、これからの予定を相談していたところだが、俺達三人の前に一人の女性が現れた。
「さて、お待ちかねの確認の時間だ。質問に答えてもらおうか巫女様」
「何かまた変な人が出てきたな……」
もうそういうのは間に合ってるんだ。
だれか、俺達にいい加減休息を与えてほしい。
「エアリ特士長! まさかいらしているとは……。しかしなぜ……」
ナナキが驚いた様子でその人物の名前を呼ぶ。エアリと呼ばれた人物は俺やモカには決してマネできない妖艶な笑みを浮かべて、人さじ指をナナキの前に持って行った。
「余計な事は言うなよ、お口にチャックだ。これは試験と同じだからな」
そして、エアリという女性は俺達に向き直る。
「私は
いきなり現れたかと思えば随分と無茶な事を言ってくれる。
もっと事情が聞きたかったが、エアリが有無を言わせぬ妙な迫力を全身から醸し出しているせいで、下手に反論ができなかった。
そう考えてるうちにモカがさっきの言葉に対しての自分の言葉を返した。
「ナナキで良いよ。ううん、むしろナナキが良いな、モカは」
モカが答えた事によってエアリの視線はルオンへと移動する。
……俺も言うべきだよな。
……よく考えればいい機会だし。
……アイツが俺が巫女でいいって言ってくれたんだから、こっちも言ってやらなきゃ駄目だろうし。
「俺は……、俺もそうだ。最初はぶっちゃけ、困ってたんだけどさ。でも、今はこいつしかいない、……ってそう思ってる」
俺はできるだけ、自分の心に正直になるように答えた。
偶然みたいな成り行きで、ナナキが巫女付きになってしまったが、今はそれで良かったと思ってる。
その気持ちに偽りはなかった。
「そうか」
エアリが面白そうに笑みをこぼす。その瞬間、威圧感が霧散して知らず緊張していた体の力が抜けていった。
「試すような事をして悪かった。謝ろう。これはちょっとした私からのお節介だ。最初のメンバーに推薦してねじ込んだ手前、どんな様子か確かめるのが道理だろう。芳しくない答えが返ってくるようであれば、選び直さねばならないところだったが杞憂だったようだ」
……そういう事だったのか、いきなり聞かれてびっくりしただろ。
だが、推薦したってことはこの人は元々ナナキを巫女付きにしたいって思った事だよな。
理由を聞いてみたかった。どうしてなのだろう。
「ねえ。ルオンちゃん、ナナキはルオンちゃんの事ぶっちゃったけど、それでも巫女付きが良いって思ったの?」
疑問に思ってると、モカの率直な言葉が炸裂した。
……そういうのいきなりするのやめてくれ。心臓に悪い。
「ああ、良い機会だと思ったからな。お互い成長できれば。ちょっと固苦しいとこもあるけど、そこさえ治せばこいつは有能だ。そうだっただろう?」
夜盗に襲われた時なんかも、ロボと戦った時なんかも、ナナキは凄かった。
もう、色々目を疑ったり驚きまくったし、常識を覆された。
腕に関してはほんとに文句なしだった。
「ふむ、お前達ならばきっと大丈夫だろう。むしろ問題なのは組織の方だな。スパイだの何だと、最近の輩は腑抜けている。しっかり灸を据えてやらねばなるまい」
エアリは俺達から視線を外し、一言だけナナキに言葉をかける。
「ナナキ、守れよ」
「はい。 ありがとうございました!」
そして来た時と同じように、唐突にどこかへと去っていってしまった。
まるで嵐みたいな人間だ。
「変な人だったな」
「あの人は組織の中でも相当な変わり物ですから。実力は確かなのですが」
正直な感想を言えば、ナナキもそう思っていたのか同意が返ってくる。
「でも良い人でもありますよ。こうして、気にかけてくれるように」
「ああ、そうなんだろうな」
ナナキの言葉や態度から尊敬しているような雰囲気を感じて、俺も本当にそう思う。
ナナキがそう思える人物なんだから、良い人でないわけがないのだ。
「では、こうして首の皮もつながったことですので改めて言っておきます。これからもよろしくお願いします、ルオン様、モカ様」
……ああ、そう言えば雰囲気に流されてたけど、ナナキ的には結構な人生の岐路に立たされてたんだよな、さっき。
……危ねっ、超危ねっ。俺が下手なこと言ってたらどうするつもりだったんだよ。巫女付き辞めさせられるところだったんだぞ、こいつは! 涼しい顔してニコニコしやがって。
何となくムカついたので、言葉が思わずぶっきらぼうになってしまった。
「ああ、よろしくしてやるよ。絶対お前みたいなすげー奴、死んでも手放してやらないからな!」
「うん、よろしくねナナキ! 死んじゃうのは嫌だけど生きてる限りはずーっと一緒だよ。三人一緒!」
モカと共にそんな事を言って、さっさと先に歩いていくが。
「ルオン様、待ってください。そういえば、戦っていた時、髪飾りを持っていたように見えたのですが、あれはどこで……?」
聞かれて気づく。
そういえば、フラトのひそかな助力とか靴屋の事とか話していなかった。
「これか、やるよ。フラトにもらったんだ」
「ああ、なる程。あの時の、そういう意味で……」
「ん?」
「いえ、何でもありません」
「要らないから、てきとうに棄てちゃっていいかもな、何か使いすぎて、火ぃ吹いて壊れたし。要るか?」
何やらじっと見つめられたので、髪飾りを出して渡してやれば、一秒後にナナキの中で何かしらの結論が出されたらしい。
「分かりました巫女様からの贈り物、大事にさせていただきますね」
どうして、そうなった。
……贈ったんじゃねーよ。お前の頭の中では、どういう事になってんだよ。
……いや、でも傍から見たらそうなるのか……。だとしたらそれって、どうなるんだ。女が男にプレゼントって……男女的に何か意味があったりするのか、それともないのか?
他の奴から贈り物貰ったところで、今まではありがたい以外何とも思わなかったし、今でも思わないのだが、何故だかナナキにプレゼントされ返されるところを想像すると、手のひらで顔を覆い隠してしまいたくなる。
そんな風に、少し先を歩きつつ悶々と考えるこちらに向かって、ナナキが無自覚にも爆弾を落としてきた。
「代わりにルオン様に今度お似合いの髪飾りを贈らせてもらいますよ。大事にしてくださいね」
「な、何言ってんだよ。俺なんかに贈り物って……」
「何かおかしいですか」
「いや、えっと」
「じゃあ、首輪でよろしいでしょうか」
「首輪!?」
「ルオン様は少々、暴走されるクセがおありのようですから」
何でもかんでも丁寧に言えば許してもらえるとでも思っているのではなかろうか、この巫女付きは。
とか言っていたら、モカが横から悪乗りしてきた。
「あ、いいな、モカにもちょうだい」
「何言ってんだよ、モカ!」
「モカも、ルオンちゃんにお手とかしたい」
「そっち側の意味で!?」
何やら会話する内に、状況がかなり混沌としてきたのだが、こんなのでこの先大丈夫なのだろうか。
「い、嫌だからな! そんなの絶対ごめんだからな!」
「あ、待ってよルオンちゃん」
「ルオン様、待ってください!」
……正直先行きが激しく不安になったけど、まあ、大丈夫だろう。
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