第14話 またもやの第三者
モカ・テンペストは何が最善かを、その瞬間から必死に考えていた。
ナナキは元から才能がある。
戦闘の才能があって、どんな危機でも大抵の事が出来るという強みがあった。
ルオンには天性の人当たりの良さがある。相手の事を細かく考えなくても、最適な答えを導き出せる強みが。
モカにも一応二人に引けを取らない強みがあるが、それは才能でもなんでもなく努力でつかみとったものだ。
すごい二人と一緒に旅ができる事を誇りに思っている。
こんな人たちと楽しい日々を送れる事が幸せだと。
だからこそ、二人につりあう自分でいたいのだ。
いつでも動じず、余裕を見せられるように。格好つけていたかった。
ジークフリートの対応はナナキが、他の雑魚たちの対応はルオンが引き受け、モカはフレアの方へと走り寄った。
「フレアちゃん! しっかりして、フレアちゃん」
気絶させられたフレアは、モカがいくら呼びかけても起きる気配がない。
「どうしよう」
部屋の中を見渡す。
ジークフリートという男は相当な手練れのようでナナキは相手に押されていた。
ルオンの方も、引き受けなければならない敵の数の多さに翻弄されているようだ。
「モカにできる事、何かないかな……」
そんな風に考えていると、フレアの持ち物であるポーチの辺りから声が聞こえきた。
開けてみる。
何故かなくしたはずの財布が出てきた。どこかで拾ったのかもしれない。
が、それに構っている場合ではない。
声の発生源は萎れかけのバラの花だった。
手に取って観察すると花びらの間に何か小さな粒みたいなのがくっついている。
『あー、聞こえるかー、もしもーし、巫女様ー』
その声はつい先ほどもフレアの居所を教えてくれた人物、フラトのものだった。
『フラトさん?」
『つってもこれそっちからの声は聞こえないからな。一歩通行な代物なんだよなぁ、まあそろそろピンチになってる頃合いだと思って適当に喋るから聞いてくれな」
時々ルオンやナナキの度肝をぬく発言をするモカだが、その言葉には素直に驚いた。
この人は一体どうやってタイミング図ってるのか、と思う。
バラの花から人の声がするというシュールな光景を前に、モカは聞き逃さないように耳をしっかりとすませる。
『忠告しとくけどな。たぶんそこにいるジークフリートの力はエアリ特士長並みだ。ナナキには倒せないだろうな。だから無理に戦って痛い思いをすんなよな』
「そういうわけにもいかないよ」
「まあ、そううわけにもいかない事情もあるだろうから、聞く耳もたないだろうけどな」
……これ、本当にこっちの言葉が聞こえてないのかな。
『だから、時間を稼げ。そしてフレアを説得しろ。巫女様ご一行のくせにとんでもない戦闘力してるけど、お前らの強みはそれじゃないんだわ。だから今回はそれさえできれば意外と問題解決だ。健闘祈ってるなー』
なにやらガサゴソと何かを漁る様な音がしたのち、ガチャッ固い物を動かしたような音が聞こえてきた。
それっきりバラの花からは何も声が聞こえてこなくなってしまう。
花をポーチに戻しながら、モカは困惑した。
「うーん、ちょっと一方的過ぎだよ。フラトさん」
ここにはないフラトの顔を思い浮かべて文句を言っていると、ナナキの方の勝敗が付いてしまったようだ。
「くっ……」
床に倒れたナナキを見向きもせず、ジークフリートは部屋から撤退していく。そして、まだ内部に仲間がいるというのに扉を閉めたのだった。
「あの人、仲間の人を道具としか見てないんだ……」
ルオンの方を見ると、苦戦しつつも全員を倒しきったところだった。
裏切られた現場を見てないのは幸いといっていいのか、そうでないのか。
「ルオンちゃん! ナナキ! こっちに来て。今フラトさんから連絡があったんだけど……」
あの裏切り者がまた何かしたようだ。
気絶したままのフレアの周りに集まったルオン達はモカから戦闘中にあった話を聞いていた。
「フラト、あいつは……」
ナナキが頭痛をこらえるような表情をする。
あたしもきっとそんな表情をしている気がする。自分では分からないが。
部屋の中は未だに危機的状況継続中だ。
壁や天井がせまりつつあって、このままなにもせずにいれば数分もせずに穴だらけだろう。
あと、あたし達が逃した雑魚達だが、敵とはいえさすがに可哀そうなので今は中央に移動させている。
「時間を稼げって、どうすりゃいいんだよ……」
そもそも、誰がこの状況を助けに来てくれるというのか、
あたし達が今日ここにいる事はフラトと敵しか知らないはずだし。
「う……」
「フレア? 大丈夫かっ」
頭を悩ませているとフレアが目を覚ましたようだ。
「にゃ……、ここは……、どうなったにゃ」
周囲を見回して状況を察したフレアは、顔色を変えて支えているあたしを押しのけようとする。
「はやくここから出るにゃ。犠牲になるのはフレアだけでいいにゃ」
「そんな事許すわけないだろっ、何の為にアタシ達がここまで来たと思ってるんだよ」
「でも……、このままじゃルオン達が」
「フレアちゃん、落ち着いて。そもそも私達ここに閉じ込められちゃってるの。さっきナナキが開けようとしたけど、無理だったみたい」
言い合いになりそうだった所を見て、モカが口を挟む。
そうだ、フレアを助けるにしてもまずこの部屋から出れないとどうしようもない。
「そんにゃ……。出られないのにゃ……? そもそもあいつらは思い違いをしてるのににゃ」
「思い違い?」
「ナナキ、ちょっとごめんにゃ」
気になる言葉にルオンは聞き返すがフレアは返答をせず、というかそもそも別のことを考え始めているようで、ナナキに近づいていって腰辺りをまさぐり始めた。
「ちょ……おま」
「あ、いいな」
……こんな時に何やってんだ、フレア!というかモカ、いいなって何だよ。
「あの、フレアさん。ルオン様達が凄い形相になってるので……そういう事は」
「あったにゃ! これにゃ! これがあれば少しは時間を稼ぐことができるにゃ!」
珍しく狼狽するナナキの様子に、お前まさかフレアみたいなのがタイプなのかと思ったのもつかの間、フレアが手にしたのは、ナナキのお守りの短剣だった。
「これで……」
フレアが剣を握りしめて目を閉じると、ルオン達を包み込むように、半透明のドームが出来上がる。
「え、は? うわ……っ」
想像だにしなかった現象に、間抜けな声を出してしまう。
不思議現象だ。
巫女になっといて今更だが、そういう驚きとこういうのとはまた違うんだよ。
「結界というものにゃ、詳しく言うのは……うにゃ、難しいから端的に言うにゃ。このドームがある限りルオン達は押しつぶされることなく安全なのにゃ」
「わぁ、すごいねフレアちゃん!」
「でも、時間を稼ぐことしかできないけどにゃ」
いや、それでもすごいだろ。
アタシ達じゃその時間を稼ぐことすらできなかったんだからな。
「それで、フレアちゃん。使徒さん達がさっき思い違いをしてるって言ってたけどどういう事?」
そういえばそんなようなこと言ってたな。
「今フレアがしてる事を考えれば分かるにゃ。フレアはできればルオン達を助けたかったのにゃ、でもそうする力は残されてないのにゃ」
「ですが、フレアさんの体の中には多くの力が眠っているはずではなかったのですか?」
肩を落とすフレアにナナキはそう尋ねる。
「そうにゃ、でも……それはあくまで神様が使える力であって人間には扱えるものじゃないのにゃ」
つまり、人間になったフレアじゃ、使う事が出来ない。宝の持ち腐れってことになるのか。
そうなると、フレアを犠牲にしてジークフリートが力を得たとしても……。
フレアはルオン達の考えを予想したように頷く。
「そうにゃ、フレアはまだ神様だった名残みたいなのがあるからこれくらいの事は出来るにゃ。だけど、あいつらにはこの程度の力も使いこなせないのにゃ。むしろ使い方を誤って大変な事になってしまうかもしれないにゃ」
それじゃあ、どっちにしろ大変な事になるのは変わりないのか。
フレアは俯けていた顔を上げて、こちらを見つめる。
「だから、ルオン。何とかしてここから出たらフレアは人がいない所にでもいって一人で野垂れ死ぬでもしとくにゃ。きっとそれが一番、良い事なのにゃ」
……何馬鹿な事言ってんだよ。
「そんなのいいわけあるかよ!」
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