第13話 真相
フレアの正体。
それは、この世界を想像した神。自由神だとジークフリートは言った。
「そんな、フレアはどう見たって人間じゃないかよ」
改めてフレアの姿を見るが、その姿はどう見ても人間にしか見えなかった。
神だ。などと言われてもとても信じられる言葉ではない。
だが、ルオン達からそんな反論の言葉が出るのはあらかじめ向こうも予想していたようだ。
口元を歪めて続きを口にしていく。
「ああ、そうだ。今のこいつは人間の女だ。今は……、な。だが神なら何でもできるだろう? 人間の体になることぐらいたやすい事だ。そこまで言えば分かるだろ。そいつは神の座を降りて人間になったんだ」
驚きすぎると頭が真っ白になるって聞いたけど、本当だったようだ。
そんな事言われても、はいそうですかと納得できるわけがない。
そもそも、あり得るのだろうか。
「……そ、そんな事どうやって知ったんだよ」
もしあいつのいう事が本当だとして、フレアがうっかり喋ったとかなら理解できない事もないが、当人の様子を見るに違うようだった。そもそもルオンはまだフレアが神様だったなんて信じられないでいるのに。なぜ分かるのだろう。
狼狽していると、横にいるモカが静かな口調で語りかけてきた。
「ルオンちゃん、落ち着いて。ここは冷静にならなきゃいけない所だよ」
はっとする。
混乱していた思考が少しだけ落ち着いた気がした。
……そうだ、動揺していい場合じゃない。
そんな事じゃ、フレアを助けられなくなる。
「ルオン様、ここからは俺が。こういう時は適材適所ですよ」
安心駆けるような笑みとと共ナナキにそう言われては役目を譲らざるをえない。
そうだ、こういう事に関しては感情的になりやすいルオンよりも、ナナキの方が向いているだろう。
「ジークフリート、と言ったな、証拠はあるのか? 先ほどの話だけでは証明にはならない」
こちらの様子が落ち着いたのを見計らってか、ジークフリートは話を続ける。
「そうだろうな。だが事実だ。そんなの決まってる。なぜなら、それは今いる神から教えてもらった事なのだから。この元自由神を蹴落として、私欲の為に神になった元人間からな!」
「なっ」
ジークフリートから次いで告げられた言葉に、ルオン達は絶句するしかない。
その言葉の内容はあまりに予想を超えたものだったからだ。
……ちょ、ちょっと待てよ。いきなりとんでもない話をバンバン持ってくるなよ。
……人間が神に? そんな事あり得るのか? というか出来るのかよ?
いや、できたとしても普通しない。しようとすら思わないだろう。
なのに、それをした奴がいるってことなのか……?
「新しい神は我々の味方になってくれるそうだぞ。だから人間になったこの元神を売ったのだ。どうだ今代の巫女達よ。自分達の信じる神に裏切られた気……」
「違うにゃ! そんなの間違いだにゃ!」
しかし、調子よく喋り続けるジークフリートの言葉を遮る様に反論をこぼすものがいた。フレアだ。
水を差されて不機嫌そうになる男に構わずにフレアは叫び続ける。
「あの子は、そんなひどい子じゃなかったにゃ。ファティは優しい子だったのにゃ。ファティはたった一人で働き続ける神様が可哀想だって言ってくれたのにゃ! だからフレアが神様だった時、人間に興味があるって言ったら、その役目を代わってくれるって言ってたのにゃ! お前達なんかに協力するような子なんかじゃないにゃ!! お前は嘘つきにゃ!!」
「ふん、どうだか、人の心に絶対などありはしない」
「フレア……」
涙をこぼしながら否定するフレアと、冷たく吐き捨てるジークフリート。
事情を良く知らないあたし達では、本当の真相は分からない。
だが、どちらか一方を信じるとしたら友達の方に決まっていた。
「泣くなフレア。あたしはフレアの言う事信じるからさ」
「うん、モカもフレアちゃんのこと信じるよ。だって友達だもん。ね? ナナキもだよね」
「ええ、そうですね。使徒の言い分よりフレアさんの方が信用できます」
ルオン達の反応を見て、ジークフリートは眉をしかめて、眉間に皺を刻む。瞳を細めて、何事かを考えるそぶりを見せた後、右手をさっと上げた。部屋全体から駆動音がし始める。
「陳腐な友情論だな。だが、それを言えるのもここまでだ」
「な、何だこれっ」
ルオンは声を上ずらせた。
それもそのはず。
何と、部屋の床や天井がゆっくり動き出して、中央へと迫ってくるのだから。
このままでは比喩でも何でもなく、本当に針のむしろになってしまう。
「発案者のアマンダには礼だけは言っておこう。趣味が良いとはいえないが、敵にプレシャーをかけるには十分な見た目だ」
この部屋、あのおばさんが考えたのかよ。
何余計な事してくれてるんだよ。
ジークフリートはフレアを見つめて、言葉を発する。
「この女は人間だが、それは外身だけだ。中身は未だに神だった頃の強大な力を宿したままなのだ。放っておけば、その影響がどのように害をまき散らすか、分かったものではない」
……もしかして、殺すっていうのはそういう事なのか。フレアが危険だから、殺してしまおうって。
「理想論や友情論を言うのは良い、だが最悪の事態が起こった場合、お前達は責任を取れるのか?」
「そ、それは……」
ルオンは返す言葉が見つからない。
今までの事はともかく、ジークフリートの事が本当なら犠牲はでるが、今回の事は皆の為になる事なのだ。
それを否定するということは、他の者達がどうなってもいいという事になるのかもしれない。
そんな事でいいとは思っていない、けれど……。
「お前が言ってる事が本当だって証拠なんてないだろ」
とにかく判断材料が欲しくてモカの方を見つめる。
モカはジークフリートの方を観察しながら答えた。
「ルオンちゃん、少なくともあの人は嘘は言っていないつもりだよ」
「そんな」
……あたしは……、どうすればいい。
モカが言うからにはジークフリートの言葉にも信ぴょう性があるらしい。でも、だからってフレアを見捨てるなど……。
「でもそれは今の言葉だけ。他の事はおかしいよ」
悩むルオンが口を閉ざす中、首をふったモカは再度口を開く。
「それが本当なら、殺す気でフレアちゃんを追いかけてなきゃおかしいよ。でも、フレアちゃんは無事に生きてここにつれてこられた。それってどうしてかな。どんな理由があるのか、モカに教えてほしいな」
そうだ。
確かに、フレアが危険なら見つけたその場で殺してなければおかしい。
町中で目立つのが嫌だというのは分かるが、わざわざ使徒の建物まで連れてきて、フレアを監禁する理由はないはずだった。
「く、ははは。なるほど。確かにその通りだ。熱血で周囲が見えていないだけかと思ったが存外に知恵のまわる者もいるようだな」
「モカは普通だよ。それにナナキも気づいてたと思う。ルオンちゃんは……無理だけど」
……うっ。
事実だし言い返せない。
……モカ……時々残酷なくらい正直だよな、お前。
「それで、どんな理由があるの?」
「理由なら、この部屋だ。見て分かるだろう。この部屋は大掛かりな処刑道具となっている。頑丈で少しの事では壊れない。そして、天井の無数の棘には仕掛けがあってな、捨てられたエネルギーを集める仕組みになっている。ここまで言えば俺たちが何しようとしてるか分かるだろ。手に入れるんだよ。神の力を」
「結局自分たちの為にフレアを殺すのかよ!」
「ルオン様、落ち着いてください」
前に進み出ようとするあたしを、ナナキが止める。
でも我慢できそうになかった。
使徒なんて迷惑な奴らだと思ってた。
毎回毎回襲撃してくるし、時と場所と場合を考えないし。
ほんといい加減にしろよって思ってた。
けれどそんな奴らでも、この世界に生きてる者同士の仲間意識みたいなのがあるんだって、だからフレアの事を何とかしようとしていたんだって、一瞬でもそう思ってたのに。
「ルオン様……」
ナナキの手が肩に触れる。
「神の力さえ手に入れれば巫女などいちいち追いかけまわさずともよくなる。我々はこの世界で最高の力を手に入れるのだ」
「この……っ」
「いけません、抑えてくださいルオン様」
ジークフリートは、拳を構えてフレアに向き合う。
「その為にこの女を犠牲とさせてもらう」
「フレアっ」
「……っ!」
腹を殴りつけ気絶さえたフレアを床に放って、ジークフリートはこちらへ向かって来た。
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