第12話 合流



「うらぁっ」バゴッ。「むきぃぃぃっ、小娘風情があっ」べゴッ。「頑張れー、ルオンちゃーん」ボゴメキョッ。


 巫女が敵地で敵の部下と直接戦闘。

 なんて、前代未聞過ぎる光景だ。我ながらそう思う。ありえないよな。

 でも、もちろん思うだけで手は止めない。


 ドガバキグシャ。


「わ、何だか文字にしたらすごく大変な音が聞こえてきたよ」


 ……大丈夫だ。おっかないのは音だけだから。


 ルオンはアマンダと名乗った女性に対し容赦なく拳を振るい続ける。敵も実に容赦なく攻撃してくるので、それは別にルオンが非情だとか血も涙もないとかそういうわけではなく、本当に手加減できないからだった。


 ……以外にやるよなこのおばさん。


 職につけなかったものの、あたしは正式な星衛士ライトの訓練を受けている。

 それなのに、そのあたしについてきているのだ。


 マジギレして火事場の馬鹿力でも出てるのかもしれないが、やかいだった。


 ちらりと横目で見るとナナキたちの方は執事セバスと良い闘いをしていた。


「く、中々やるようですな少年」

「貴方ほどの腕前の人が世の中にいるとは、世界は広いようです」


 一方は食器のナイフで、もう一方は真剣の武器で。あれでどういう理屈で勝負が成立するのか謎だが。二人は本当に一歩も引かない戦いをしている。日ごろウロチョロ動き回るルオンやモカ……二人の護衛をパーフェクトにこなしているナナキが苦戦するのだから、あのセバスとやらは本当にいい腕をしているのだろう。


「むきぃぃぃっ、いい加減チリになりなさいよぉ!」

「なってたまるか、あたし達はフレアを助けに来たんだからな!」

「私との勝負の間に他の小娘の事を考えてたなんて! ずぅぅいぶんと余裕じゃない、どうせ、すぐに後を追わせてあげるっていうのに、生意気だわぁ!!」


 切れるんじゃないかと心配になるくらい額に青筋を浮かべたアマンダは、ばっさばっさと扇を振り回しながら怪力攻撃を繰り出すのだが、その最中に聞き捨てならないセリフを吐いた気がする。


「後を追わすってどういうことだよ、まさかフレアを……」


 ……お前達はあいつの命を狙ってたって事なのか?

 ……一体どうしてなんだ。あいつは巫女でもないのに。


「そんなの知るわけないでしょ。ああもうっ、ひょいひょい避けるんじゃないわよっ。こっちは主人に離婚届けを突き付けられて崖っぷちなの! これ以上失態をかさねてココをクビになるわけにはいかないのよぉっ!!」


 しかし、アマンダはこっちの疑問に答えることなく無茶苦茶に扇をふりまわし始める。行動が読めなくなって、回避に専念するしかなくなった。


「くっ、このっ。そんなの迷惑な趣味持ってるアンタの自業自得だろっ!」


 とにかく、こんな事をしてる場合ではない。

 フレアの身が安全ではなくなったと分かったのだから、早く先へ進まなければならないというのに。

 だが、目の前のアマンダの攻撃が激しくて、なかなか反撃に出られない。


「ナナキっ」


 こうなったら、ナナキに何とか頑張ってもらって、こっちに応援に来てもらうしかない。そう思ったのだが……。


「その必要はないよ、ルオンちゃん。はい、おーわりっ」


 先程から妙に静かだと思ったらモカがアマンダの背後に回り込んでいたようだ。

 華奢な腕で、ルオンたちの先頭の影響でごっそりとけずれ落ちたらしい壁のコンクリを持ち上げ、不意打ちでアマンダを強襲した。


「ぎゃん!」


 頭蓋に割と容赦のない一撃を叩き込んで沈黙させたのだった。

 モカ、たまに怖い。


「こっちは三人で戦ってるんだよ。ルオンちゃんやナナキだけが頑張るわけじゃないんだから」


 可愛らしく頬を膨らませて怒っているが、行動がバイオレンス。

 結構さっきやった事怖かったからな。

 まあ、助かったのは事実だけど。

 普段は危なっかしいし、見てられないのにこういう状況の時は頼もしいんだからな、ほんと。


「サンキュ、モカ」

「どういたしましてっ」


 後は、ナナキだ。

 しかし、そちらは気をまわさずとも決着がついたようだ。


 アマンダが気絶したのを知ってか、セバスが手を上げて降参したようだった。


 ああ、やっぱり主人の無茶に突き合わされてただけだったんだな。


「貴重な手合わせ、感謝いたします」

「えっと、はぁ……こちらこそ?」


 自らの主人にするように頭を下げられて、珍しくナナキが困惑した表情を浮かべている。


「フレア様と言いますか、あなた方のご友人はこの先の廊下を真っすぐ行ったところにおられるでしょう。ご健闘を」


 そして、丁寧に居場所まで教えてもらった。

 もしかして渋々つきあってるだけで、意外と良い人なんだろうか。

 ほんと疑問なんだけど、何であんなおばさんに雇われてるんだか。





 そんなこんなで、彼らとの戦闘を終えたルオン達は、時々湧いてくる雑魚を蹴散らしつつ、奥へ奥へと向かっていく。

 

 セバスが言っていたのは嘘かもしれないと思っていたが、来てみると本当だった。

 建物の一番奥の部屋へ駆け込むと、そこにはフレアがいたのだ。

 ちょっと疲れてるように見えるけど、怪我とかはしていないようでほっとする。


「にゃ!? ルオン達にゃ!? なんでここにいるにゃ!?」

「ふん、ここまで追ってくるか。今代の巫女は中々勇ましい事だな」


 ただし、そこにいるのはフレアだけじゃない。使徒の人間もわんさと待ち構えていた。


 周囲には雑魚達が十数人くらい。


 そして、フレアの近くには一人の男が立っている。

 この世のよくないものでも混ぜ込んだような濁った紫色の髪をした男は、血のように赤く暗く淀んだ瞳をこちらに向けている。

 来ている服は、動きやすさ重視の恰好で、手には重そうなグローブがはめられ、首元や原、そして足首にも身を護る為の防具を身に付けていた。


 そして部屋の中は、物々しい内装で壁も床も丈夫そうな鉄でできていた。


 そして何故か、全方位の頭上の天井には、大きな棘のようなものがびっしりとくっついている。


 ……う、見るだけで痛くなりそうな光景だな。


「巫女のお前達が来たら大変な事になるのに、どうして来たのにゃ!」


 ……あー、やっぱりバレてたんだな。

 ……でもそんなの決まってるだろ。言わなきゃ分かんないか?


「友達を助けるのに、立場なんて関係ないし、理由なんて必要ないだろ!」


 そうだ、巫女だとか危険だとかそんなのどうだっていい。

 フレアを助けたいから、アタシ達はここまで来たんだ。


「そうだよ、フレアちゃん。フレアちゃんみたいな子が嫌な目に遭うなんておかしいよ。モカ達はフレアちゃんに笑っててほしくて助けに来たんだよ」


 モカもルオンと同じ気持ちだ、

 それは言葉を聞く前から分かっていた。


「にゃ……、やっぱりフレアの目に間違いはなかったのにゃ。ルオン達を巫女にして良かったのにゃ」


 ……? それってどういうことだ。


 そこまで話したところで、フレアの傍にいる男が口を開いた。


「どうやらお前達はこの女の正体を知らないで、ここまで来たようだな。私の話を聞けばお前たちは、我々の正しさを知る事になるだろう」


 何がおかしいのか、その男はこちいをあざ笑うかのような表情で見つめる。


 ……フレアの正体? どういう意味だよ。


「良いだろう、説明してやる。この俺、選定の使徒の十席が一人、ジークフリート・マッドテスターがな」


 幹部級だと判明したそのジークフリートと名乗った男は話し始める。

 こちらが話を遮る事はないだろうと余裕を滲ませながら。


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