第11話 敵地だけどやっぱり殴り込む



 ???


「ぜぇ、ぜぇ……。ここか」


 フレアが攫われてから、数時間音。

 何とあたし達は、敵の建物の内部に侵入を果たしていた。


 フラトもたらされた情報を信じるならばこの建物のどこかにフレアがいるはずなのだが……。


 しかし、まさかあのおかしな女主人のいたとげとげ屋敷の地下がそうだったとは。

 意外なつながりに、驚きを隠せない。 


「はぁはぁ……ここにフレアが」


 話を聞くがいなや目的地へと急いできたので、息が荒い。

 だが伊達に訓練を積んだわけではない、そう簡単にバテるほどルオンはやわではないのだ。巫女としてはちょっとアレだが。


「とりあえず行ってみよう」

「うん、フレアちゃんを絶対助けようね」

「今更反対はしませんけど、無茶しないでくださいね。特にルオン様」

「何であたしだけ!?」


 ナナキの名指しに不満を込めて反論しつつも、先へと進んで行く。

 とりあえず敷地内に侵入してみるのだが、さっそくどこからともなく湧き出てくる使徒の雑魚達。


 そいつらをナナキが剣で切り、あたしが拳で殴り飛ばし、モカが耳で聞いて奇襲を教えてと、発生する戦闘を処理していく。雑魚と言っても、弱いなりに数が多いのがお約束だ。すぐに対応に大忙しになった。


「はっ!」

「うりゃあっ!」

っちゃえナナキー、ルオンちゃーん」


 ……そのやるはどのやるなんだ。応援してくれるのはいいけど、ルビを想像すると怖いんだよな。


 予想より敵の掃討を一段落させるのに時間がかかった。このままでは埒が明かないと、数檄が止んだ合間に顔を突き合わせて作戦タイムに入る。


 ……それにしても実戦力になる巫女って……、いやまあ考えるのは後か。


「どこにいるんだろうね、フレアちゃん」

「こういう時はずっと奥のそれらしい部屋って決まってんだよ。だから取りあえずまっすぐ進んだ方が良いんじゃないか。って、ん……どうしたんだナナキ」

「いえ、さらっと行動してますけど、改めて考えると凄い状況だなと」


 あれこれ頭を悩ませて作戦会議をしている最中ナナキが、頭痛をこらえるようなしぐさをしていたので尋ねるとそんな答えだった。


 あ、お前も同じ事考えてたんだな。


 追い掛け回されるはずの巫女ご一行が、逆に敵地に乗り込んでくるんだもんな。しかも巫女が護衛士と並んで戦ってる。確かに考えると凄い絵面だよな。


 ネギしょったカモが自ら大なべに飛び込んで行くような。そんな危険な絵面だ。


 ナナキはルオン達の方を見て口を開く。


 その表情はこれから何か真面目な事を言いますよ、という顔だ。

 ようするにものすごく頭使うような事を言い始める兆候だった。


 ……回避できないかな。無理か。大事な事だから言うんだもんな。


「俺たちは三人一緒で、一つのチームです。ですから、一度全員が納得した事に口を挟むつもりはありません。それが俺達のやり方だとあの時決めましたし。ですが、俺たちの想いがどうあれ、巫女が使徒の手に渡るという事は、『世界のよりよい未来への可能性』が損失することになります」


 そこまで言ったナナキは口を一度閉ざして、ルオン達へと問いかける。


「でも、それでも行きますよね?」


 いや、それは問いかけではなくただの確認だった。

 言ってる事は相変わらず難しくて真面目そうな言葉だったが、それは確実に前のナナキなら言わなかった言葉だ。


 ルオンも最初の頃から少しは成長できているはずだと思っているが、それは他のメンバーも同じなのだろう。

 旅先で色んなものを見て、色んな人と出会って触れ合って来たのだから変わらない方がおかしい。


「当たり前だろ」

「もちろんだよー」


 短い間しか触れ合ってないけど、フレアは大事な友達だ。

 見捨てるなんてできないし、そんなことしたくない。

 フレアを助けるためにここにきたというのに、何もせず帰るなんてありえない。


「分かりました。では、進みましょうか」

「おう」

「うん」


 あたし達は再び、建物内を移動していく。

 フラトの情報には内部のどこにフレアがいるかまでは分からなかったので、行先は勘に従うしかなかったが。





 まあ、そんな調子で途中で使徒の手下とかを切ったり殴ったりしながら、時間を賭けつつも戦力的には割と余裕に支部の建物の中を駆けぬけて行くのだが、そんな行く手に立ちはだかる影があった。


「なっ、またお前達なの!」


 そこにいたのは、棘屋敷で少年を拉致した人。危ない趣味を持つおばさんだった。


「あの時といいい、この時といい。どうして私の邪魔ばかりするのよぉっ」


 ……そりゃ、お前が悪い事するからだろ。むしろお前があたし達や一般市民の邪魔してるんだ。


「フレアを解放してもらうからな。おばさん」

「お、おばっ……! 黙らっしゃい小娘、、私の名前はアマンダよ。アマンダ・トストリー。若くてお肌ぴちぴちで将来が約束されてるからって、いいいいいーーっ、良い気にならないで頂戴!!」


 いや、別にそんな天狗になってるつもりはないのだが。


「モカは貴方なんかおばさんで十分だって思うけどな。だってフレアちゃんを攫った悪い人の仲間だし、べーっ」

「なななな、おのれ小娘ぇーっ!」


 ……確かに嫌な奴だけど、モカ、むやみに挑発するなよ。戦うのあたし達だぞ。


 だが、アマンダとかいう女性が一人だけならさして時間もかかるまい。

 前の時は執事を戦わせるだけで、自分は何もしてなかったのだから戦闘能力なんてそう持っていないはずなのだから。


 だが、そんな想像は粉砕される。文字通り粉々に。


 アマンダは取り出した扇を壁に殴りつけたのだ。


「見てなさい! はあ――っ」


 ビシッッッ!


 なんかしちゃいけない音がしたと思って視線を向ければ、そこに放射状のヒビが入っていた。


 ……あ、こいつアタシと同じ怪力どうるいだ。


「それと、相手をするのは一人じゃないわよぉ。セーバスぅ!」

「はい、奥様」


 そして、奥からもう一人やって来るのはあのナナキに驚嘆の声を出させた執事だ。


「待ってなさい。貴方達なんて、すぐにごみ屑にしてあげるわぁ」


 ちょっとこれはやっかいかもしれない。


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