第15話 いいわけあるか



 そうだ。いいわけない。


 ……フレアを犠牲にして全て解決、そんなんであたし達が納得できるわけないだろっ!


「でも、でもにゃ。フレアは生きてちゃいけない人間なのにゃ……生きてても、傷つけちゃうにゃ、友達が危険な目にあうにゃ」


 フレアは俯いて、泣きじゃくる。

 肩を言葉を震わせるその姿は小さな子供みたいに見えた。


 それはある意味ではそうなのかもしれない。

 つい最近神様から人間になったらしいフレアは、きっとまだまだ人間としてふるまうには経験が浅くて、少なくて幼過ぎるのだ。


「だったら、迷惑かけないように一人で死んじゃうしかないにゃ」

「フレアちゃん。駄目だよ、そんなの」

「フレアさん」

「だからにゃ……フレアは、う……ひっく」


 あたしはフレアの肩を掴む。

 そして顔を上げたフレアの目を合わせて、言ってやった。


「そんなこと気にすんな。あたし達が何とかする。フレアが死ななくてもいい様な方法を絶対に考えてみせる。だから、死ぬなんて言うなよ!」

「そんなの無理にゃ」

「無理じゃない、やってみなきゃ分かんないだろ」

「でも、方法が見つかるまでに何にも起きない保証何てないにゃ、ひょっとしたらフレアの力が暴走したりとか……」

「だったら、そうなる前に何とかする」

「でも……」


 ……ああ、もう。こんな問答意味ないだろ。最初から答えなんて分りきった事じゃないか。


 ……フレアが泣いてるのはなんでだよ。でも、なんて言い続けるのはどうしてだよ。


 ……そんなのちょっと考えればすぐ分かる事だろ。だったら、早く認めてあたし達を頼ってくれよ。待ってるんだからさ。


「フレアは本当は死にたくなんてないんだろ! こんなひどい話に納得なんて出来てないんだろ! だからそんななんじゃないか。あたし達を頼ってくれよ! 友達が困ってたら助けるのが友達、それでいいだろ、おかしくなんてない! だって、あたし達は誰が何と言おうと友達なんだから!!」


 フレアは最後に一度肩を揺らした後、あたしに抱き着いて泣き始めた。


「うぅ……っ、そうにゃ。フレアは死にたくなんてないにゃ。もっと生きたいにゃ。もっと色んな所に行って、いろんんな事してみたいにゃ。死ぬのは嫌にゃ、怖いにゃ。ひっく、ぐすっ……」


 あたしはその背中を優しくさすってやり、モカがその頭をゆっくりなでてやる。

 ナナキは……、軽くルオンの頭を叩いた。


 ……やる相手が違うぞ。


「よく言いましたね、ルオン様」

「馬鹿、こんなの当たり前だろ」

「そうでしょうか、俺にはできませんよ、きっと」

「そんな事ないだろ」


 ……最初の頃、飛空艇であんなに熱くなってたじゃないか。


 言おうと思えばモカやナナキだって言えたはずだ。それが今回はたまたまあたしだっただけ。きっとそれだけにすぎないのだ。


 さて、これがフラトの言ってた説得とやらになるかどうか分かんないけど、できることは全てやったはずだ。

 周囲の様子を見てみるがもうとっくに、安全な場所はこの結界の中だけになっている。


 これからどうやってこの場所から出ればいいのか。

 課題はまだ残っているのだ。


 どうしたもんかなと、思っていると。


 突如轟音がして、部屋の入口が吹き飛んだ。


「ああ、何だ。まだしぶとく生き残っていたようですね」

「わ、本当に生きてますね。よ、良かったぁ」


 そこにいたのは選定の使徒リバーサイドのキースとレクトルだ。


 結界があるにも関わらず年の為だろう。ナナキが、警戒しながらルオン達の前へ出る。


「お前ら、何でこんな所に……」


 そういや町の中で声を聞いたきり出てこなかったな、と今までの事を振り返る。

 てっきりフレアを取り戻しにきたルオン達を一番に邪魔しにくるとばかり思っていたのに。


「巫女は私の大事な実験体となるのですから、こんなところで破損してもらっては困るのですよ」


 目にしている光景に理解が追いつかずに呆然としていると、そんな失礼な言葉が返って来た。


 ……おい、こら。アタシは物じゃないからな。


 キースは鼻で笑った後、部屋の様子を顎で示した。


「いつまでぼーっとしてるんです。潰されたいのですか」


 ……っと、そうだった。


 事情はよく分かんないけど、いつまでもここにいるわけにもいかない。幸いあいつらは敵じゃないみたいだし。


 ……でも。


「そうだ、こいつらがいたんだった」


 気絶している使徒の人間達を見やる。

 天井は結界に触れているから、人の頭より少し高い位置にあるぐらいだ。

 十人ばかりいるこいつらを背負って、この部屋から出るには時間が足りないかもしれない。


「それなら心配ないよ。お姉ちゃん達」

「にゃー」「うにゃー」「みゃー」「うにゃにゃ」「ぎにゃー」「みゅー」「にゃうにゃう」「にゃーん」


 しかし、そんな懸念は部屋に走り込んできた猫達にかき消された。かなり多い。フレアの周囲をチョロチョロしてたような猫もいれば、見た事のないような猫もいる。

 これ、もしかしてコロセアムの町の猫なのか?


 部屋の入り口にはあの子供医者、エルンの姿もある。

 お前まで、何でここにいるんだ。


「フラトってお兄ちゃんに教えてもらったんだ。お姉ちゃん達がピンチだから助けてほしいって。ここに来るまではすごく強いお姉ちゃんに守ってもらったんだよ」


 時間を稼げって、そういう事か。

 というか強いお姉ちゃんって誰だ。

 他にアタシ達の事について知っていて助っ人になりそうな人間なんて思い浮かばないけど。


 考えるのは後だ。

 ルオンとナナキ、そしてレクトル(キースは色々何やかんや言ってて人を寄越すだけで動かなかった)と猫達でそれぞれ男たち担当して、準備する。

 この部屋からさっさと脱出しなければ。


「フレア」

「分かったにゃ、結界を解くにゃ」


 結界を消し去った後、せまりくる棘から逃げるようにルオン達は慌ててその部屋を後にした。


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