第15話 暗躍する影




 分かっていた事だが、今日は疲れた。

 巫女様達へ最優先に気をつかうあまり、普段はしないミスをいくつかしてしまった。


 体力的にはまだ余裕はあるものの、やはり始めての事で精神的に疲労してしまったのだろう。

 俺はまだまだだ、精進しなければならない。


 それはともかく、小さい頃から憧れていた巫女付きにとうとうなる事が出来た。

 この感動は、どんな文字でも言い表せないだろう。


 一時は巫女付きになれるかどうか以前に、星衛士ライツの仕事をクビにされるかもしれなかっただけに、今は安堵している。


 俺があの時した事を、巫女様は許してくれたのだろうか。


 本心は分からないが、けれど、こうして旅に同行させてもらえると言う事は、俺の気持ちは分かっていただけたのではないかと思う。


 明日は最初の町を出て、噂になっている街道とは別の道から行こうと思っているが、無事に進めるだろうか。


 大事な巫女様に何かあったらと思うと、不安で眠れなくなりそうだ。


 フラトも言っていた事だが、巫女様二人を護衛一人で守るなど、やはり無理があるのではないだろうか。


 いや、考えても仕方のない事だろ。

 とにかく、俺が任されたのだからしっかりしなくては。

 巫女様たちも俺に命を預けてくれているのだから。


 今日はもう眠ってしまおう。


 ……、何か考えや出来事を簡単にまとめる為の物があれば、旅の振り返りも楽になるだろうな。






 港方面 街道沿い


 深夜、森林の中。

 草木も眠る様な時刻の中、騒がしい場所があった。

 それは奥深くにある、ほんの少しだけ木々が開けた場所。

 そこには、大勢の男建が集まっていた。


「ぎゃはは、痛快だったな。昨日襲った馬車の奴ら、情けない泣きっ面で命乞いしてやんの」


 グリーンウルフ。

 名を耳に入れただけで旅人や行商人立が顔を真っ青にするだろう夜盗の集団の者達が、先日得た戦利品に気分をよくして森の中で騒いでいた。

 夜盗達は、奪った金品を品定めしたり、見せびらかしたりしながら、期限よさそうに奪い取った酒を飲み盛り上がっている。


「土下座したら許してやるっつったら本気にしてやんの。馬鹿だよなぁ。生かしてやるわけねえのに。なあお頭」

「あれは間抜けでしたよねぇ」


 その中、騒ぐ集団から少し離れていた床に座るお頭と呼ばれた体格の良い男は眉をしかめながら、反応を寄越した。


「あ? 話しかけんじゃねぇよ。テメェ等はテメェ等で勝手にやってろ。これからの事、考えにゃならんってぇのに」


 不機嫌そうな声音を隠しもせずに、ぶつぶつと呟き続ける大男。

 そこにたまたま近くにいた一人が納得したように声をかける。


「ああ、なるほど。どうします、ちょっと派手に今回は騒ぎすぎたでしょ? もう場所変えますかあ」

「煩い、放っとけ。それを決めるのはお前らじゃねえ、俺だ」


 大男が煩わしそうに答えれば、話しかけた男は対して気にもせず「違いねぇ」、と笑って他の者達の所へいって談笑し始める。


「最近は雑魚ばっかだ。歯ごたえがなさすぎる」


 浮かれる一団を視界に入れながら大男は、不満げに呻いた。

 その言葉を言った大男は、答えを期待していたわけではなかったのが、意外な所から返答があった。


 近くの木々が揺れたかと思うと、そこから二人の男がその場へ姿を表した。


「なら、とっておきの相手を紹介して差し上げようじゃありまsねんか。私に感謝しなさい」

「ちょっ、キース様! 何話しかけてるんですか。こういう時は構わずに通り抜けるんですよ!」


 大男が声のした方を見ると、赤いネクタイ以外全身金色尽くめの男キースと、苦労の多そうな若い男レクトルがいた。


 キースは、大男の姿を一瞥してつまらなさそうに述べる。


「ふぅん、何やら品のなさそうな連中がいると思ったら、頭の中身が大層可哀相な野盗共ではありませんか。もう少し良いのを期待していたんですけどね」


 聞いた大男の眉がピクリと動いた。


「ケンカを売っているのか」

「ちょ、キースさ……あっ」


 レクトルがハラハラとした態度でキースに何かを言いかけるが、その当人に肩を突かれて転倒してしまう。ちょうど良く土から出ていた木の根に引っかかるようにしたので、盛大にすっ転んで。


「まさか、貴方達みたいな野蛮な者共に恵んでやるようものは生憎持っていませんからね。しかし私は、猫の手ならぬ野蛮な手でも使えるものなら使う主義ですので。こうして興味のありそうな話を持ってきてやったのですよ」


 土まみれになったレクトルだが、そんな惨状を誰も気に留めることなく話が続けられていく。


 大男は興味を惹かれた様に、キースへ話の続きを促していく。


「その相手ってのは強いのか? 報酬はあるんだろうな」

「もちろん。いくら人以下のゴミクズでお払うべき謝礼はちゃんと払ってやりますから、無駄な心配はしなくて結構」


 大男が探る様な視線を向けるが、キースはまったく動じずに懐から小さな、けれどたっぷりと中身のつまっている包みを取りだした。


「通行予定ルートはこちらで割りだしておきました。まあ、貴方達の起こした騒ぎのおかげでもありますしね。それくらいはしますよ。ええ、こちらがその地図です。渡しておきますので、そこで待ち伏せなさい」


 ようやく身を起こしたレクトルに地図を出させて、受け渡しをさせる。

 おっかなびっくりといった様子の及び腰のレクトルから地図を受け取った大男は、にやりと口の端を引き上げた。


「これで巫女達を襲ってください。ただし巫女に手を出す事は許しません。そのかわり邪魔な護衛は好きにするといいでしょう、貴方の思うようにね」


 ずっしりとした重みのある包みと地図を受け取って、大男は飢えた肉食獣がする様な獰猛な笑みを浮かべた。


 そうして、その時点で二度目の脅威がルオン達の身に迫る事になった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る