魔導人形が生まれた場所

次の目的地に向かう途中で

 リーフの人形が絡んだ事件にたどり着くのは思った以上に簡単だった。


 まずは魔導人形協会に行き、リーフの人形についての情報を得る。これについては何の問題もなくすんなりと情報を公開してもらうことができた。


 続いて仕事の斡旋を条件付で頼むと、いともあっさりとリーフの人形に絡んだ事件が出てきたのである。作為的なものを感じさえするあっけなさではあったのだが、情報を得られた喜びが強く、プリムは深く考えずにその仕事を引き受け、その日の午後にはフェオウルを発っていた。


 そんな経緯があり、二人はギューフェオーに向かって馬車を走らせている。


 目的地であるその町は魔導人形発祥の地とされる。『魔導人形理論』の著者が一生を通じて研究を行った場所であるため、そう呼ばれるのだ。今でもその歴史的な意味も含めて研究者の多い町として知られている。人形職人にとっての聖地のような場所であり、傀儡師誕生の地としても有名だ。そういった経緯から、この町の魔導人形協会支部は本部に次ぐ規模であった。


 旅はなかなか順調で、林の中を抜ける街道をひたすら走っていた。昼過ぎの陽の光も穏やかでとても旅行日和だ。


 プリムはあまりの心地よさのために馬車の中でうとうとしていた。彼女が馬車で眠っているのはよくあることで、リーフも特に気に留めることはなかった。


(慣れない旅はさすがに疲れるよな)


 作った人形を最寄りの協会に運んだり、定期査定のために首都に出掛けたりすることの多いリーフにとって、旅をすることが負担になることはない。馬を扱うことに慣れているのもそういった経験によるものだった。


(この調子で行けば、予定より早めにギューフェオーに入れるかな)


 そんなことを考えていたときだった。視界を白い物体がふさいだ。


「こらっ! 馬鹿人形!」


 前が見えなくなったリーフは馬車を急停止させる。幸い周囲に馬車や歩いている人はいなかったので大事に至ることはなかった。


「何?」


 寝ぼけていたプリムは目を丸くして驚いている。


「ディルがいきなり俺の顔に引っ付いて……」


「みぃっ!」


 ディルはリーフから離れると身体から伸びる糸を一生懸命に引っ張って何かを伝えようとしていた。


「反応している?」


 いつもとは違う様子に、プリムは寝ぼけた頭を切り替えてあたりを探る。


「こんな街道のど真ん中で……?」


 リーフもあたりを見回し気配を探る。街道に人の姿はなく、通りを囲む森もとても静かだ。


「探しに行って見るよ」


 ディルが何かに反応しているということは主人であるプリムにはよくわかっていた。視認できない以上、馬車から降りて様子を見に行くしかない。


「待て。お前はここにいろ。俺が探しに行く」


 立ち上がったプリムを制して、リーフが立ち上がる。


「でも、ディルがいないと詳しい場所はわからないんじゃ……」


「俺の魂だぞ。これだけ近くにいればなんとなくわかるさ」


 あまりにもきつい声音に、プリムは不安げな顔をする。


 それを見て、リーフは自分の苛立ちを彼女にぶつけてしまったことに気付く。胸騒ぎがしていたせいでつい語気が荒くなってしまったことを素直に詫びることにする。


「あ……いや、最近お前が疲れているみたいだからさ。俺にできることは自分でやりたいんだよ。フェオウルでは何の役にも立てなかったし」


「うん……わかった」


 何か言いたげに口を動かしていたが、笑顔を作ってリーフを送ることにする。


「すぐに戻るよ」


 リーフは馬車から降りると、森の中に入っていった。

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