20話【sugar and bitter・2】

「なにやってるんだ君は」

「すみません」

「はあ…本当にいい加減にしてくれたまえ」

「すみません」

ある日のこと。

「これだから底辺の出身は…」

ここあは悪くない。

ここあは悪い子じゃないもん。

「頭も底辺で性格も底辺、才能もない、救いようもないな」

ここあはいい子だもん。

「失礼します、一年の花宮瑠李です、高里先生」

「ああ?…おお!花宮じゃないか!」

「お話中申し訳ございませんでした、あとからまたお伺いしますね」

「いやいやいいんだ!なにかようかね?」

「ありがとうございます、あの、三島さんをそこまで叱らないでいただけませんか?」

「ほう、なんでだね?」

「確かに彼女の仕事なんですが、私の不手際でこうなってしまったんです、彼女は悪くないのでお叱りいただくのは私にしていただけませんか?」

顔をあげた。そこにいたのは

整った綺麗な顔立ち、長い真っ黒な黒髪に真逆な真っ白なきめ細かい肌。甘い声に甘い香り。一つ一つ綺麗な仕草。

なにもかもが完璧な少女がそこにいた。

「そうなのか、それは花宮悪かったな、もういいぞ」

「いえ、ご理解ありがとうございます。それでは失礼します」

花のように微笑む姿があまりにもまぶしかった。

「花宮を見習えよ三島。」

るいちゃん。

「るいちゃん…」

「大丈夫だよ、ここあちゃん。好きで庇っただけだから気にしないでね。あと、るいでいいよ」

「う、うん。ここあも呼び捨てでいいよ」

一瞬びっくりしたような顔をしてまた花みたいに微笑んだ。


「るいー?今日は一緒に帰ろお?」

きたか

「いいよ」

学校をでる。全く興味がないから気づかなかったけどよくみれば、バッグが全く同じだ。

「ふふっ気づいたぁ?」

ストラップを持つ。

「私のバッグ勝手に漁ってたりしてたのここあだったのね」

「ふふふっ」

とろっとろした声で笑う。苦い。

「私るいになりたいの」

「…」

「美人で頭も良くて、運動もできて、性格もよくて、器用で、カッコイい。だからるいみたいになりたいの」

「…」

「えへへ、このバック苦労したんだよぉー?あ、化粧品もお揃いにしたの!あと私茶髪だったから黒髪に染めたし、メイクだってるいに似せた。使ってる化粧品もるいと同じ。ポーチの中身だって同じ。」

「…」

「だけど、まだだめなの」

苦い

「髪はるいみたいに長くて真っ黒で綺麗じゃない。肌だってそんなに白くない。それにるいみたいに美人じゃない。下着とかお部屋とかどんなのかなんて全部わからない。家の事情もしらない。なんにもわからない。わからないことだらけ。」

苦い

「なのにののちゃんはそれを知ってる。」

苦いよ

「私のしらないるいを知ってる、それが、それが…許せないの」

真っ黒で

「ねえ?教えてよ」

ぐちゃぐちゃで

「私るいのこと全部知りたいの」

絡みついてきそうで

「愛してるから」

愛してる?

「私を選んでよ、るい」

うるさい

「誰にも言わないよぉ?大切にする」

苦い、うるさい

「ねえ、る―んっ」


「んうっ…ひゃふっ…んぐっ…ふっ…はあ………ふえ?」

気がつけば瑠李にキスされていた。

「…ここあ小さくて可愛い」

「えぇっ」

「そんなところが私は好きなのに」

「…っ!?えっ…えぇ?」

「そんなとこも可愛い」

服の中に手が入ってくる

「そんなわけない!私は、私は…所詮頭も底辺で、可愛くもなくて…」

下着のホックを外される。

「だから…だから私はるいになるの…!!」

「―それじゃあ私はここあを愛してあげられない」

目が合う。大好きな目。追いかけても追いかけても追いつけない目。優しくて包み込むような目。

「ここあはここあだからいいんだよ、そんなここあが私はいいの」

ああ、それは

私が

一番いってほしかった言葉。

認めてもらいたかった言葉。

「なんにもしなくていい、そのままで、頑張らなくていいの。馬鹿でいい。ダメなままでいいんだよ?」

優しい言葉が絡みついてくる。

心を蝕んできつくきつく絡みつく。

「そうすれば、私はここあを選んで愛してあげる。」

――甘い甘い暴力。

「ずっとずっと、ここあだけを見て、認めて、触って、愛してあげる。」

首筋にほんのりと痛みが走る。痕がつけられる。

「うぅ…るいぃ…」

「なあに?」

「大好き、幸せだよぉ」

「ふふ、そっかぁ」

柔らかい目、甘い声、暖かい肌。

全部全部大好き。

「ねえ、ここあ」

いきなり声が変わった

「な、なに?」

「二度と」

瑠李が髪をかき上げると首筋に真っ赤に染まった独占欲の痕キスマークが見えた。

「私の邪魔をしたら許さないから」

その笑みは

「や、やだ」

今までみた笑みが作り物だと

「る、い」

証明する微笑みだった。

「だめ、やだ…」

私のスマホを取って操作する

「ねえ、ここあ」

撮った写真を突き出す

「ねえ!だめ、」

削除のボタンを押す

「愛っていうのはね、苦くないの」

「いや…るい…!」

優しく蝕まれていた心は急に出てきた棘で壊された。

「あなたの偽りの愛で私の愛を穢さないで」

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