15話【時間】
―夏休み残り一週間―
「ねえののーお肉かってきてー」
瑠李の部屋で漫画読みながらくつろいでいると下の階から瑠李の声が聞こえた。
漫画を元に戻して、財布と自転車の鍵を持って下におりる。
「何肉?」
「シチューにするから鶏肉、あと漫画新刊出てるやつがいくつかあるからそれを。お金はあとで払うわ」
「ん、おけ」
返事をしながら玄関に向かう
「いってらっしゃい、気をつけてね」
瑠李のそんな声が聞こえた。
誰かが外に行くときだけ必ず出てくるリンレンの頭を撫でる。
ドアを開けて外に出て、無駄に広い庭を通っていき門をあける。自転車に乗ってスーパーに向かった。
「はーいご飯できたよー」
リンレンと遊びながらリビングで待っていたら瑠李に呼ばれた。
席についていただきますと言ってから手をつける。
前々から思ってたけど瑠李のご飯ってむちゃくちゃおいしい。しかもリクエストしたものは基本的に作ってくれるのですごいなってほんとに思う。
瑠海亜ちゃんを食べさせるのも瑠李の仕事で、終わったら食器の片付け、そして風呂の用意に洗濯に掃除。そのあとに瑠海亜ちゃんを寝かせたりとしてやっと自分のこととなるのだ。やっぱり普段から両親がいないから家事から子育てまですべて1人でこなしてその上勉強にピアノ。休む暇などなくその上夜少しだけやってしまうので申し訳ない。
「ごちそうさま」
瑠李が一番先に食べ終わった。
「るい姉今日も少ないね」
「ちょっとピアノ練習したいから」
「それ毎日少ない理由にならないじゃない、お姉ちゃんちゃんと食べて」
「大丈夫よ」
そう言って食器を置いて逃げるように出て行ってしまった。
「大丈夫かな、お姉ちゃん」
「姉さんの薬ちゃんと減ってた?」
「減ってるんだけど、種類が増えてる」
「そっか…俺今日るみあ風呂入れるね」
「よろしく」
あえて話には入らない。入っちゃいけないと分かってるから。なんの話かはだいたい想像はつくけれど、よくわからないといえばやっぱりよくわからない。
しばらくごろごろとずっとしていて気づいた。
「ねえ、るりこちゃん。るい、長くない?」
「…確かに」
ちょっと考え込むような仕草をして慌てたように立ち上がった。
「ちょっと見てくる…!」
走って出て行った。
しばらくすると叫び声が聞こえた。
「お姉ちゃん!しっかりして!るか!ののちゃん!」
瑠架くんと走ってピアノのある部屋へ行く。
「るい!」
倒れて荒く息をする瑠李の姿があった。
瑠璃子ちゃんは泣いて瑠李をさすり続けるけど、瑠李はまったく目を開けない。
「るりこちゃん救急車呼んで!るかくんはるみあちゃんをきちんとみてて!」
「で、でも…!」
「でもじゃない!はやく!」
「…わかった!」
2人同時に飛び出した。瑠李を抱えて外に出る。リビングにあるソファーに寝かせる。きっと彼女は病気だ。今までの会話ではそこまで重くないと思ってたが今きちんとみればきっとこれはかなりやばい。
「救急車来た!」
勢いよくリビングのドアを開けて瑠璃子ちゃんが入ってくる。
「付き添いの方、年長者の方がお願いします。」
「俺行くね、また連絡するから。瑠架くんたちよろしくね。」
泣きじゃくる瑠璃子ちゃんの頭に手を乗せ、救急車に乗る。
閉じられて救急車が出る。医者らしき人が瑠李を見ていく。
「彼女は持病持ちでしょうか?」
「自分は知らないです…」
聞かれたけど、なにも答えられなかった。ただひたすら見ていることしかできなくて、それが情けなかった。
病院についてからはずっと外で待たされた。しばらくすれば医者の人が出てきた。
「一段落つきましたので、先にお話を」
部屋に通されて椅子に座るよう促されたので座る。
「えっとですね、彼女についてですが脳に腫瘍があります。」
「は?」
「悪性の腫瘍です」
「え…?」
「それにかなり進行しているんです。」
いきなりよくわからないことを突きつけられた。
「ですがまだ手術をすれば間に合います。」
なにを言っているんだろう
「ですが、少し遅すぎて後遺症が残る可能性が高いです。」
腫瘍?悪性?手術?後遺症?
「私も彼女とは何年かのお付き合いですので言えますが」
何年?
「ピアノが弾けなくなるでしょう」
ピアノ?
「下手したら歩けなくなります」
歩けない?
「それと、手術をして完璧に直る訳じゃないんです」
は?
「また再発の可能性は充分ありますし、余命が延びるだけです」
「余命?」
声がやっとでた
「やはり聞いていらっしゃいませんでしたよね…手術をしたとして成功しても、彼女はあと」
「三年ほどしか生きられないんですよ」
「うん、大丈夫だよ。るいは心配ない。今は薬で眠ってるけど、ただの疲労だって。」
『ありがとう、ののちゃん。』
「るいは俺が見るよ」
『うん、ありがとう』
電話を切って、椅子に倒れるように座る。
「なあ、るい。なんで言わなかったんだよ」
目の前で眠っている少女に呼びかける
「るりこちゃん達にも言ってないのかよ」
彼女の手をとる。
「俺、ひとりで抱え込むなってお前に言ったじゃん」
両手で包み込む。
「どんだけお前、俺に教えてくれないんだよ。」
頭を乗せる。
「頼れって言ったのに。」
なあ
「るい」
なんでだよ
「おい」
どういうことだよ
「余命三年ってなんだよ…」
―夏休み明けて一週間後―
「るい。学校もう始まったよ。」
相変わらず目を覚まさず眠り続ける瑠李。その寝顔はあまりにも綺麗だ。
「部活だってお前行ってないじゃん、先輩たち心配してるぞ。」
毎日部活には行かずに病院で生活している。家のことは瑠璃子ちゃんたちがどうにかしているはず。
そういや、髪をしばらく解いてやってないな。
「るりこちゃんたちも心配してる。」
布団を少しだけ下げてやる。
「お前いないと俺、帰り道一緒のやついないんだけど」
ベッドの柵に腕をのせて手に頭をのせる。
「起きてくれって」
瑠李の髪を一房取って弄ぶ。
「なあ、るい」
「…の…の?」
顔を見る。
「るい…!」
勢いよく立ち上がる
「医者呼ぼ…」
「の…の」
ナースコールをして瑠李の手を取る。
「なに?」
「私…どうなっ…たの?」
「倒れてたの」
「…お医者さんから…なんか…聞い…た?」
「ああ」
「の―」
「お前の余命も聞いたからな」
なにか言われる前に言い切った。
きっとまた誤魔化すだろうと思ったから。
「なんで言わないんだよ」
「…」
「なあ、るい…」
「どうかしましたかー?」
看護士さんが明るい声でやってくる
「あ、目覚めたんですね!今すぐ担当の医師をお呼びします」
すぐに来てはすぐさま消えた。忙しい人だな。
「また、全部聞くから」
「…うん」
看護士さんとお医者さんが入ってきたので、ジュースを買おうと思って外に出た。
―翌日―
「今日は外行こっか」
車椅子に瑠李を乗せて外にでる。
まともに食事もせず栄養が入ってる点滴しか打ってないためどんどん痩せていった。車椅子に乗せるときあまりにも軽かった。
「ジュース飲む?」
「うん」
自販機でオレンジジュースを買い開けてから瑠李に渡す。
「おいしい?」
頷き返される。
「そっか」
頭を撫でる。ちょこちょこと飲んでいるのでなかなか減らない。
「病気のこと、おしえて?」
昨日はみてもらったらすぐまた眠ってしまったので聞けなかったのだ。
「…」
「怒らないから。黙ってたことは」
頬杖をついてなるべく優しい口調で尋ねる。
「どこまで聞いた?」
「お前が脳に悪性のでっかい腫瘍をもってて、今すぐ手術をしないとやばいってのと、手術をしたら後遺症とかが残ってピアノが弾けなくたなるかもってのと、あと」
「…うん」
「余命が残り三年しかないこと」
「…そっか」
髪を耳にかけた。その姿はあまりにも弱々しかっかた。
「もとから…私は体が弱かったの」
「うん」
「小学校は入院したりとかでほとんど行ってない、中学校は行ったけど保健室に行くことが多かった。」
ゆっくりと弱々しい声で話し出す
「だけど、休んだりするなかでピアノとかは欠かさずやってた」
俯いた状態でジュースの缶を両手で持っている。
「中学校の三年生のとき倒れたの」
耳にかけてた髪が流れ落ちる。
「初めて脳腫瘍が見つかった。悪性だった。そして、今すぐ手術しないと危険だった。」
もう一回耳に髪をかけ直した。
「だけど後遺症があった。ピアノが弾けなくなるっていわれた。…弾けなくなるくらいなら、死んでもいいって思った。」
「うん」
「それに手術をして完璧に直るわけじゃなくて、寿命がちょっと延びるだけだっていわれた。」
「うん」
「それと、ののちょっと間違い。私余命が三年だけど、もしかしたらもっと早いかもしれない。」
「え?」
「今の私は、いつ死んでもおかしくない体なの。」
「私は、」
「今死んでもおかしくない」
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