14話【残りの××】
「姉さん!宿題わからん!」
夏休み残り二週間ほど、学校の用意をしていたらいきなり瑠架が入ってきた。
「わあ、びっくりしたぁ…」
「るかくん終わってないの」
望々がツボってしまったのかめちゃくちゃ笑い出した。
「あんたねぇ…8月中にやるとはどういうことかしらぁ?前々から7月中には終わらせなさいって言ってたよね?」
腕を組んで顔を覗き込む。中1なのに私より背が高いので見上げる形だ。
「ごめんって…」
「仕方ないなぁ…どこ?あとどれだけ残ってるの?」
「英語のワークがあと五ページだけ」
「まあそこまで残ってないから許すわ」
「え、中学校なのに英語の範囲高校生とほぼ同じじゃね…?」
望々が突っ込んできた。
「え、普通じゃない?」
思わず聞き返す。
「あ、そっかこの花宮家って…」
「受験校だからだよ、姉さん」
「そうだよ、坊ちゃん嬢ちゃん校育ち…」
「で、どこ?」
「ここの問6」
「ほんとに文章題苦手ね」
いくつか教えていく。
「ありがとー宿題終わったわー」
「さっさと用意するのよ?けほっ」
咳が出た。風邪かな
「おー」
出て行った。嵐が去った。
「るい大丈夫?」
「なにが?」
「咳」
「あー大丈夫、薬飲んだら」
「薬?」
「え、あーううん、なんでもない。大丈夫よ」
「…そっか」
さて、そろそろご飯作らないとな
「晩御飯なに食べたい?」
「ハンバーグ」
「材料あったかなぁ」
ドアをあけて廊下に出た。
「教えてくれたらいいのに。」
「うん、こんなものかな」
今日の晩御飯は望々の希望のハンバーグと瑠架の希望のオムライスをセットにした。あんまり挽き肉がなかったし…
「うっ…」
急にめまいがした。
「風邪?」
いや違う。まあ大丈夫よね
「ご飯できたよー」
リビングでそれぞれくつろぐみんなに声をかける
それぞれ席につきだす
「はい、いただきます」
「「「「いただきまーす」」」」
黙々と食べ出すみんなの相変わらずの日常に微笑ましくなる。
「あ、るみあ。スプーン使いなさい」
「あい!」
「お返事よろし」
頭を撫でてやる、一生懸命食べる姿はまだ幼いなぁとほんとに思う。さすが末っ子。
「お姉ちゃんなんか量少ないね?」
「あーちょっと食欲なくてね」
「ふーん、ちゃんと薬飲んでよ?」
「飲んでる」
食べ終わったら食器を洗い出した。基本的にこの家は自分で食器を洗うようにしてるので、私の場合は瑠海亜と自分のと使った道具とかを洗う。
「るか、るり、今日塾でしょ。洗っとくから用意してきな。」
「いいよ、お姉ちゃん。体調悪いんでしょ。るりがやる」
「食欲がないだけよ、大丈夫だから。ほら、行っといで」
「…はーい」
二人が出て行った。
瑠璃子と瑠架を見送って一通り洗い物を済ませる。
「じゃあのの、お風呂入ってくるね。るみあ、行くよ」
「ん、行ってら」
瑠海亜を抱きかかえて連れて行く。
「はい、10数えて出よーねー」
「いーち、にー、しゃーん、しーい、ごー、ろーく、しーち、はーち、きゅー、じゅっ!」
「はーい、じゃあシャワー浴びてでよっか」
「よっかー!」
シャワーを頭からかけてやり、風呂場からでる。
「じゃあ自分で拭けるかなー?お姉ちゃんとどっちが早いか勝負だー」
「だ!」
「よーい、どん!」
ゲーム感覚にしたらやってくれるからいいなぁ…
「たったー!」
「体はー?」
「むー」
あえてゆっくりやっていると、瑠海亜が終わったようなので自分も終わらせる。
「わーるみあ早かったねぇ、じゃあ次は自分で着替えられるかなぁー?」
「できる!」
1人で着替えだした瑠海亜を横目に自分も着替えだす。
「あ、ののよばないと」
ドアを開けて叫ぶ
「ののーお風呂でたから入って」
「はーい」
望々の大きい返事が聞こえた。今から来るだろうから早く着替えなければ。
上のTシャツを手に取る
「あ、これ…のの…」
望々は寝るときはあえて大きめなTシャツを好むので望々にはちょっと大きいぐらいでも私にとってはワンピースみたいになる。
「るい、入っていいか?」
「え、あー間違えてパジャマとっちゃって…私今服ないの…」
「誰の?」
「のの…」
「別に俺の着ていいよ、ワンピースみたいになるし大丈夫でしょ?」
「…わ、わかった」
わああああ、望々のだああぁあぁあ!?!?
急いで望々のTシャツを着てドアを開ける。
「お、おまたせ」
夏だというのに長袖なので大きい分萌え袖になる。それプラス、ミニミニスカート状態のワンピースってかんじである。
「…」
「は、はいって!」
「…はい」
瑠海亜を連れて風呂場をでた。
「―っ、あーもう」
瑠海亜を寝かせてリビングに行く。
「…」
服を鼻の近くに持って行く
「匂いがする…」
ソファーに倒れ込んで顔を覆う。
「ののに包み込まれてるみたい」
甘くて柔らかい良い匂い。
このまま眠っちゃいそう。
「のの…」
「なに?」
「うわぁ!?」
上からのぞき込まれた。
「な、なに!?」
「いやこっちこそなに?なんだけど…名前呼ばれたから返事しただけ…」
「そっか…なんでもないよ」
「あそ」
望々が隣に座る。
「なんかテレビないの」
「怖い系のがあったよ、私それみたい」
「…やだ」
「じゃんけん。」
睨まれたので微笑み返すと顔を俯いてため息を吐いたあと顔を上げて手を出した。
「ふふ、さいしょーはグー」
「じゃんけんぽい」
望々がチョキで私がグー。
「はーいテレビは私のものでーす」
リモコンをとってチャンネルを変える。
『キャアアアアアアアアア』
「「わっ」」
変えた瞬間血だらけの女の人が目の前に現れて奇声をあげてたのでびびった。
「もう無理もう無理もう無理もう無理」
「よわ…」
「るい、こっちおいで…」
膝を開けられたのでそこに体育座りで座った。頭に望々の頭がおかれた。すると腰に手が回ってきたので、その上に自分の手をおく。
「おー背もたれちょーどいー」
「抱き枕みたい」
腰を掴まれて引き寄せられた。
「…」
「なあに?」
「なんか…お前また痩せた?軽くなったし、なんか腰がまた細くなってる」
「…気のせいだよ、ほら特集また変わったよー」
笑ってごまかした。
しばらくテレビを見ていたら眠たくなってきた。
「るい眠い?」
「んー?」
「布団いく?」
「んー」
返事がめんどくさいぐらい眠い
目を開けられない。望々がとても暖かくてどんどん眠りが深くなってくる。
包まれているのが心地よくて、望々の匂いがさらに眠気を誘ってくる。
「布団いくか」
望々の手が回ってきたと思ったら抱えられた。
あーこれお姫様抱っこ?
「「たっだいまー!」」
元気よく玄関のドアを開けて塾から帰ってきた瑠璃子と瑠架の声が聞こえる。
「しー」
「わぁ…るかるかるか…!!」
「…」
抱えられたまま少し揺れが強くなる、階段をあがってるのだろう。
上についたら器用にドアを開けて入ってゆっくりとベッドに下ろされる。
「あーあTシャツえっろいなぁ」
隣に望々が入ってくる。
「すっごい支配欲掻き立てられるんだけど」
布団を掛けられる。
「あーもう包まれてるって…」
頬にキスされる
「これから俺の着させようかな」
頭を撫でられる
「おやすみ、るい」
―夏休み最終日―
「ののいつ帰るんだっけ」
「うーん」
最終日、ちびっ子たちは全員どこかに行っていて家には2人だけ。
せっかくなので望々が好きなコーヒーとお菓子を食べることにした。
「あのね、うちの親海外にまた出張行くからまた数ヶ月いないの」
「え」
「もうしばらくいない?」
電話があって急に伝えられた。9月の最初に帰ってくると言ってたのに次に帰ってくるのはもっと先らしい。
「いていいの?」
「うん」
頷いて淹れたコーヒーを一口飲む。
「いてほしい、あの子たちのためにも」
「るりこちゃんたち、だけ?」
「…」
顔をのぞき込まれる
「るいもです…」
「よくできました」
やっぱこの人にはかなわない
満面の笑みでコーヒーを飲む望々
そんな静かな幸せなちょっとした時間。
誰も知らない望々を私が知っている時間。それの優越感。
ずっとこの幸せが続けばいいのに。
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