16話【友達と家族と好きな人】
「わあ!るいー!」
いきなり教室に入ったとたん抱きついてきたのは祐未だった。
「るいさああ!!元気かあああああ!?!?」
発狂しながら相変わらずうるさいのは菜乃。
「おさがわせしました。」
「車椅子?だいじょぶ?」
「しばらくは押してもらわないとダメかな、いやでも歩けるんだけどね。」
「無理しない方がいいって、しんどいときは遠慮なく車椅子つかいなよ?」
来るまでは望々になんとかしてもらいながら来た。家が今は一緒に住んでるので行きも帰りも一緒だ。
「のの、もう大丈夫だよ」
「…なんとか言って俺クラスこっち行けないかな」
「無理です、自分のクラス行きなさい。」
「なんかあればすぐ呼べよ」
「わかってるって」
教室の中に入れようとしてくれたらいきなり揺れた。
「わっ」
「ここあがやるー」
望々を押しのけて心愛が車椅子を操作しだす
「あ、るいーちょっと待ってねぇ」
「え?うん」
心愛がみんなのいる方向へ行ってしまった。
「お前邪魔なんだよ、るいになにつきまとってんの?」
「あ?」
「お待たせぇるいー」
一言なにかを話したらすぐ戻ってきた。
「ののとなに話したの?」
「えー?なんも話してないよぉ?」
…嘘か
「…そう」
望々が行こうとしたので慌てて呼び止める。
「のの!ごめん、ここあ、ののんとこ連れてって」
「…うん」
素直に連れてってくれたので望々の制服の裾を掴む。
「帰り、迎えに来てね?」
「…おう…まってろ」
「うん、まってる」
びっくりしたような顔をしたら笑って頭を撫でて帰って行った。
「る、るいさん行きましょかー!一時間目は移動教室でっせー!」
菜乃が車椅子を押して私の机まで連れて行ってくれた。
「ちっ…星岡望々…」
「るいーののちゃん迎えにきたよー」
祐未に呼ばれた方向を向くと望々がいた。
「部活行かなくて大丈夫なの?」
「るいならブランクあっても2ヶ月程度なら大丈夫でしょ、だってさ。冬のコンクールまでに間に合うならいいよって。俺はトランペット持って帰ってるし大丈夫だよ、心配すんな」
頭を撫でられる。柔らかいこの手で撫でられるのがすごく好きだ。
「るーいー!」
「きゃっ」
後ろからいきなりきたと思ったら心愛だった。
「な、なに?」
「帰るの大変でしょー?ここあ、パパが迎えに来てくれるからついでに乗せていってあげようかー?」
「え、でもののいるから…」
「ののちゃんはぁ、自転車あるでしょぉー?」
「いやでも…」
「なんなら朝も迎えにいってあげるよぉー」
こういうタイプの子は苦手だ。
むやみに傷つけたくないし、だからといってそんなにかまってほしくない。断りきれないからこういうときは素直に従うべきなんだろうけど…
正直、帰り道ぐらい望々といさせてほしい。学校関係で二人でいられるのは帰り道だけだから。
どうしようかなぁ。
「俺はるいの家に住んでんの、帰る場所一緒なの。あと帰り道買い物もしなきゃいけないから無理だ。諦めろ。」
考え込んでいたらいきなり望々が、お姫様抱っこで抱き上げた。
「エレベーターでおりるぞ」
といって逃げるかのようにエレベーターに駆け込んだ。
「…はあ?なにあの女。」
「こ、ここあちゃーん。お、おちつきなよー」
「は?あんたは関係ないでしょ」
「ご、ごめんなさい!」
「…どうにか離さないと…」
「の、ののエレベーターだしもういいよ…重いでしょ…?」
「は?軽いよ」
むしろこいつが使ってるバリサクより軽いんじゃないかってぐらい軽い。
「いやでも…おろして…」
「は?なんで」
「…は、恥ずかしいから…」
真っ赤にして顔を伏せた。うわ、可愛い
「ますますやだ」
「な、なんで!?」
そういってる間にエレベーターがつきそうになった。うちの高校は進学校だからエレベーターがあるけどたまたま乗ったのが古いやつだからなぜかすごく遅い。
エレベーターって古いっていう理由で遅いものなのか…?
暴れ出したので仕方なく下ろしてやると一発殴られた
「おふっ」
「ばか、変態、嫌い」
「へえー嫌いなんだー」
「大嫌い」
「へえー」
あ、いいこと思いついた
「そんな嫌い嫌い言うなら」
「んっ」
うわーひさしぶりだなぁ、かれこれ二ヶ月ぶりかなキス。どんなお菓子よりも甘いくて、ずっと。
離そうとしてくるので腰に腕を回して離れないようにした。
「んーん!」
「だーめ」
ピー
あ、やべ
「ぷはぁ」
「…なにやってんの?」
うわぁ、佐野乗ってきたぁ…
しかもタイミング最悪だろ…
「じゅ、じゅん!」
「はい、下に参りまぁーす」
エレベーターとりあえず閉めてやろう
「おいおいおい、俺もエレベーターに乗るの。なに閉めてんだよ」
あ、なんだキス見えてなかったっぽいな
「はあー?俺らのいちゃいちゃタイムに割り込んでくる気ー?きっもー」
「なにがいちゃいちゃだよ、るいこっちこい」
エレベーターに乗り込んできて瑠李を持って行かれた。うわぁ、ちゃっかり抱きしめちゃってるぅ
「やっ」
バランスを崩したらしく佐野の方にうまい感じに倒れ込んだ
「あ、すまん」
「もう、ばか。病み上がりなんだけどー」
「ごめんって」
何気に嬉しそうな佐野が腹立つ
「るーいはこっちー」
腰を持って引き寄せた。
「やっちょっののっ」
わあー顔真っ赤かーわいー
「なに?いつもなんだから」
「はなして!」
暴れだしたので離してやった。
チーン
「はい、ついんたんで俺らはおーりまーす」
「わっちょっと!」
「佐野くんはお一人様でお帰りくださーい」
「もう!のの!じゃあね、じゅん!」
エレベーターを出てドアを締めてやった。
「ああもう…!…なんでキスしてるんだよ…どうして、なんでだよ…俺を選んでくれよ、るい…」
「重くない?」
「重くない」
「重いんでしょ?」
「重くない」
望々の自転車に乗ってカゴに買ったものを乗せて押してもらう、かなりの重労働なのに平気だと言い張るから本当に申し訳ないなっておもう
「リハビリもかねておりる」
「もうちょっと甘えとけって」
「もう1ヶ月もたってる」
「…いいじゃん」
「おります」
ブレーキを握って無理やりおりた。
「わっ」
バランスを崩して倒れてしまったのを支えられる
「ほーら」
「バ、バランス崩しただけだもん」
「乗っとけって」
「やだ」
「はぁ…じゃあせめて俺に捕まってくれない」
「…うん」
正直辛かったので甘えて望々の腕に自分の腕を絡めた。
とてもゆっくり歩きだして私に合わせてくれる望々
「好きだなぁ…」
「ん?なんて?」
「なんでもないなんでもない」
「あ、ねえ俺の腕抱きしめる感じでやってくんない?」
「なんで?」
「いい感じに胸にあたるから」
「は?」
「るいって結構大きいから」
「変態」
腕を殴って離した
「あーこらこら危ないでしょ」
手を握ってきた
「…」
恋人つなぎだああぁあ!!!
望々は今体操服を着てるので、普通に男子に見える、だから繋いでても周りからは不審に思われないのだ
ある意味女子でよかったなと、こういう時とても考えることがある。
「あ、たんぽぽだ」
望々の手を離してたんぽぽのわたげの所へよる。一輪だけ丁寧に取る。
望々はこちらを眺めているだけで止められはしなかった。
「わたげってこの時期めずらしいな」
向こうへ向いた望々の所へ戻る。
やっぱり男の子より華奢な背中は女子なんだなって思うけど、のんびりと待っていてくれているその背中が好きだ。そしてなにがあっても助けてくれて、なんだかんだ優しい望々のそんな背中がどうしようもなく好きで好きで愛おしくてたまらない。
「お前って変なところ子供みたいだよな」
「だめ?」
「いや…」
少しの間の沈黙
「なに?」
「可愛いからいいんじゃない」
さらっと可愛いとかやめてほしい。照れる。
「ばか」
なんだかんだ話しているうちに家についてしまった。
望々が自転車をおきにいってる間に正門を開ける。
家の中にはいればリンレンが迎え入れてくれて、ゆっくりと靴を脱いでリビングにはいれば部活中の瑠璃子をのけた瑠架と瑠海亜がいた。
「るみあ迎えに行ってくれたのね、るかありがとう」
「じゃあお礼は唐揚げで」
「鶏肉あったかなぁ」
笑って流したら瑠海亜を抱き上げる
「ご飯なにがいい?」
「おむー!」
瑠海亜のおむとはオムライスのことである。
「うーん」
「今日料理はだーめ、こらるかくん、るいはまだ一応歩くのもやっとなんだから」
「ええー俺姉さんの唐揚げ食いたいんだよーののちゃん過保護すぎるってー」
「また倒れたら唐揚げが遠のくぞ?」
「…うい」
「よし、じゃあ今日はるりこちゃん遅いらしいから俺作る」
相変わらず瑠璃子から全部家事などを言われてるらしい、変なところで気がきくから急に家で家事がなくなるとやることがなくなる。
望々がご飯の用意をしだしたので瑠架を呼ぶ
「るか、ちょっとピアノのとこ連れて行ってくれない?」
「ん、いーよ」
立ち上がろうとするとうまく立ち上がれなくてなかなか立ち上がれなかった。
「あーもう無理しちゃだめだって」
だきあげられる、たいせいはいわゆるお姫様抱っこ。軽々と持ち上げられた
「るか、大きくなったねぇ」
まだ中1なのにもう170近くある瑠架はバスケをしてるから結構筋肉もあるし、軽々と私を持ち上げられるようになった。だけど童顔だから一応年相応のように見える
「姉さんがちっちゃくなったんじゃない?」
「そんなことありません」
「小さい頃約束したでしょ」
「なにを?」
「えー覚えてないのかよー」
「えぇ、ごめん」
そんな約束小さい頃にしただろうか
「姉さんが俺を庇って怪我したことあったでしょ、俺が病院から姉さんを無理やり外に出してそれでけがさせたとき」
「…ああ!でも、瑠架一年生ぐらいじゃない、小さかったんだから仕方ないわよ」
「いやまあそんときにさ、俺が姉さんよりでかくて、力があったらよかったのになって思ったんだよ」
「へえ、それは初耳」
改めて瑠架の顔を見る
猫毛の癖のついた黒髪、長いまつげに少し垂れた真っ黒な目、白い肌、結構美形の顔の整った弟だなと思う。
「なんだよ」
「いやーイケメンに育ったなぁって」
「でしょ、姉さん惚れないでね」
「あ、大丈夫です」
「ひど…でも姉さんのほうが美人だよ」
「やだわ、たらしにまでなってる」
「おい…」
どこでこんなことを覚えたのやら。
でも昔から親戚のおばさんたちに大人気だったっけ
「いやでもほんとに美人でしょ、俺姉さんみたいな人が周りにいたら即告るわ」
「え…シスコン…?」
「ははっ、じゃあ姉さんに一生結婚する人できなかったら俺がもらってあげるよ」
「るりこにしなさいよ」
「あいつはがさつじゃん、姉さんの方がいい」
「んーじゃあ、そうなったらもらわれてあげる」
「約束ね」
「はいはい」
抱えてる手から小指だけたてられたので自分の小指を絡めてやる
こんな微笑ましい弟をみられるのもあと少しなんだろうな
「はい、ついたよ」
「ありがとう」
ピアノの椅子におろされる
「聞いててもいい?」
「いいよ、なに聞きたい?」
「ショパンの別れの曲」
「いいよ」
ピアノの下にあぐらをかくように座ったのを確認してから弾き出す
長いようで短くて、そんなこんな時間がちょっとした幸せを噛みしめる時間でもある
ゆっくりと手を下ろす
「隣座っていい?」
「いいよ」
ゆっくりと近づいてきて隣に腰を下ろした
「ひさしぶりにさ、連弾やらない?」
「まだ弾けるの?」
「時々弾いてる」
瑠架はピアノを2歳ぐらいから習っていたのに六年生になる前のときに突然やめてしまったのだ。
「なにがひけるの?」
「姉さんと最後の発表会でやった連弾の曲覚えてる?」
「覚えてるわよ、スラヴ舞曲」
「それがいい」
瑠架が楽譜を取り出してピアノに置く。
合図を出して弾き始める
久しぶりなのにすごく弾きやすい、優しくて相手を気遣うようなピアノの弾き方は相変わらずなんだなって嬉しくなった。
「ねえ、姉さん」
「なあに?」
「好きだよ」
「ふふ、ありがとう」
不意に瑠架のほうをみるとこちらを見つめられていた
「なに?」
すると抱きついてきた。腰に腕を回されて頭を胸に押し付ける形で
「どうしたの、甘えたい盛り?」
笑いながら聞いてみる
「姉さんが倒れたとき、どうしようかと思った」
「…」
「もう三年ぐらいなんにもなかったのにいきなり倒れて、死んじゃうんじゃないかっておもった」
「…ごめんね」
「俺置いて行かないよね?」
「…うん」
「抱きしめ返して」
言うとおりにする。暖かいのは昔から相変わらずだった。
やっぱりまだ小さい子供なんだなって思った。倒れたときどれだけ迷惑をかけてしまったんだろう、どれだけ不安にさせてしまったんだろう
「ごめんね、るか」
「うん」
「明日唐揚げ作ってあげるから」
「うん」
抱きしめる力が強くなる。望々なら逃げられるぐらいいつも優しいからそういうところを比べると瑠架はやっぱり男の子なんだ。
「好き、姉さん」
「ありがとう」
しばらく同じ体制が続くと離してくれた。
「他の曲弾いて」
「隣にいたら腕当たって弾けないよ」
「…じゃあ俺の上に座ろ」
私を持ち上げて真ん中に瑠架が移動してその上に下ろされる。腕が腰に回される。
「これならいい?」
「まあいいけど…」
「ドビュッシーのアラベスク第一番曲」
「はいはい」
リクエスト通りに弾く。弾いてる間もずっと抱きついたままだった。
「るいーるかくんーご飯だよー」
しばらく弾いていると望々が迎えにきた。
「わ、るかくんどした」
「甘えたい盛り」
「そうです」
「面白いなぁ…ご飯できたから、おいで」
電気を消してくれたので自力で立ち上がる
「俺抱えて行こうか?」
「大丈夫、リハビリ兼ねて自力でいく」
瑠架に支えられて立ち上がって歩いて行く、だいぶ回復したのでもうあまり支障はない、ひとりで瑠架と望々を置いて部屋へ行った。
「ねえ、ののちゃん」
部屋の片付けをして瑠架くんと出た。
「なに?」
「姉さんのことどう思ってる?」
「え、どうって…」
すごくいきなりな質問をされて戸惑う、もしかして夜のあれ見られてるんだろうか…
「るいを泣かせたら俺ののちゃん許さないから」
「え?」
「ふふっ」
瑠李と全く同じ笑い方をする。
甘ったるい声で少し首を傾げて笑う、こういうところはやはり姉弟なのだ
「俺基本黙ってるけど、やるときはやるからね」
「俺がるいを泣かせると?」
「さあ?どうだろう?」
また瑠李と同じような聞き返し。
「俺ののちゃんにも姉さん渡さないから」
「にも?」
「潤とか、今までの姉さんの男とか」
また笑って俺を置いていってしまった
「愛してるよ、姉さん。絶対に」
――誰にも渡さないから
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