10話【いらっしゃいませ、恋しき人・花火大会最終編】

ある少女はひとりぼっちでした。

裕福で何一つ不自由なく育ったけれど、言葉ばかりの家族で親はほとんど顔をあわせない、妹たちとは仲はよかったけれどやっぱり一番お姉さんだから頑張らなくちゃいけなくて。

甘えること愛されること愛すること、それをあまり知らずに育っていった少女は、いつしか「愛されたい、愛をしりたい」と思うようになりました。

だから、彼女はたくさんの人に求めました。

愛されるために笑顔を作って

愛されるために賢くなって

愛されるために可愛くして

愛されるために本当の自分を殺して

仮面を被った道化師嘘つきになりました。

ただ、誰かに愛されたいが故に彼女は本当の自分を忘れてしまいました。いや、

気づかずに自分自身が壊してしまったのかもしれません。

けれど彼女自身は相手から愛されていたとしても、彼女自身は愛せませんでした。

空っぽの壊れた心を治して満たしてくれる人はいない。

一人ぼっちのお姫様を見つけ出してくれるような王子様は。



後ろをついていく。ただただ後ろ姿を見つめて歩いて行く。たまに彼女が私の好きそうな屋台を見つけたら尋ねるくらいだ。

たまにちらちらとこちらを眺めてくる。そのたびに私は笑うことしかできない。

ゆっくり歩いてくれてはいるけど、やはり人が多いからすぐはぐれそうになってしまう。はぐれそうになるたびに望々の浴衣の袖をつかんだ。

「ま、待って」

「…ん」

こちらを振り返って立ち止まってくれた。追いついて袖を離した。

「またはぐれそうだな」

「うん」

「うーん」

少し考えこんでいた。するといきなり

「よし」

こちらを向いたら手をとってきた。

「…?」

いわゆるあれなのだ

恋人繋ぎ。

「いくか。」

(夏なのに手冷たいな)

「え。」

引っ張られて歩き出す。

顔が赤くなるのがよくわかった、けれどつい嬉しくて頬が少しゆるんでしまった。

ん?

望々に近づいたほど彼女特有の甘い香りが強くなってくる。もう慣れてきたはずなのに全然慣れない。

「あ」

「きゃっ」

急に立ち止まった望々に思いっきりぶつかった。

「な、なに!?」

「林檎飴」

指を指した方向には林檎飴の屋台があった。

「お前林檎飴好きでしょ?」

さっき潤と食べたが違うお店ではあった。それに好物だから別に二個目など余裕だ。

「るい、食べる?」

「食べる」

頷いた。手を引っ張られてつられて歩く。1つ頼もうと思ったら望々に遮られて先に彼女が頼んだ。林檎飴を1つ望々が受け取るとそのままこちらに差し出してきた。

「これ、おわび」

「え、やったーありがとー」

少し望々が微笑んだ。

スマホを取り出して林檎飴の写真を撮る。

「なんで写真とるの?」

「あとでタイムラインにあげるの」

林檎飴を片手にもう片方に望々の手、横に並んで飴を舐めていく。

「かぶりつけばいいのに」

「できないもん」

「貸してみ」

林檎飴をとられてさっきまで舐めていたところを食べていった。食べあとが綺麗にのこり林檎が出てきていた。

「食べれるじゃん」

「え、なんで」

食べたあとを観察しながら引っ張られていく。

「そんな真剣に見なくてもいいのに」

笑われてしまった。仕方ないではないか、出来ないのだから。

もう一度かじりつく、望々が食べたところからなら食べることができた。

ひゃべれた食べれた!」

「はい、すごいすごい」

どや顔で望々の方をむくと半分呆れ顔が混じりながら笑われた。

一生懸命食べていると横から手が伸びてきて飴をとられた。一口食べると返してくれる。余裕顔でちょいっと決め顔で食べるのが少し、いやかなりうざい。

「あ、ねえのの」

「ん?」

「写真とろー」

「いいよ」

スマホを取り出してカメラ機能を起動させる、スマホを斜め上に上げてボタンを押す。

「撮れた」

「あとで俺にもくれ」

「りょ」

スマホをしまってまた歩き出す。しばらく進むと射的の屋台があった。

「!!」

「どした」

「射的のあの景品の人形レンリンみたいで可愛い…!!!」

景品のところには黒と白の猫のぬいぐるみが2つあった。形は丸って感じで大きさは両手で抱えるくらい、目は2つとも青色でまさしく飼っている猫のレンリンにそっくりだ。

「でもあれってとれないんだよねー」

「…とってやるよ」

「え?」

手を引かれて射的の方へ行く。望々が屋台の人にお金を渡し玉と射的の銃を受け取るとセットし始めた。そして構えて狙いを定めて引き金を引いた。

パンッ

「よし、次は白」

パンッ

「はい、とれた」

「じょ、嬢ちゃん上手いな…」

2つとも一発で景品をとった。

「全部で合計五発だからあと三発あるけどなにが欲しい?」

…待て。

待てよ。

うそだろ、まじか。

「え、じゃあ、そのF○の最新作のやつ…」

パンッ

「次は?」

またもやとった、店の人の顔が青ざめた。

「え、あ、え…じゃあそのP○ Vi○eの本体…」

パンッ

これ自体は札で立ててあって、望々はそれを倒した。

ますます店の人の顔が青ざめる。

「最後、あと一個は?」

「え…の、ののがお金払ったんだからののが選ばないと…」

「別にいいから、ないの?」

「な、なんでもいい」

「じゃあるいの家スプ○トゥーンないしそれにするか」

パンッ

全部とった。五発五中。目当ての人形+ゲーム機やらゲームのカセットやら。青ざめきった店の人が呆然とこちらを見ていた。

「おじさん、景品もらえますか?」

「…あ、お、おう」

倒した景品を一つずつとり袋に入れ渡してくれた。

「やったね」

袋をもって笑ってこっちを見た、ちょこっと見える八重歯は相変わらずで、悪戯をした子供のような笑顔だった。

「あれ、どうやってとったの…?普通とれにくい仕掛けしてあるよね…?」

「ん?ああ、あれ案外コツわかればバンバン倒していけるんだよ。まあ昔から俺ああいうゲーム好きなんだよね」

絶句だ。なんとも言いようがない。私自身はあまり射的とかっていうゲームは苦手でクレーンゲームは得意なのにお祭りとかのものは苦手なのだ。

「動画撮っとけばよかった」

「はは、もっかいやりにいく?」

「店の人が可哀想だからいいよ」

景品を撮る。LINEを開きタイムラインの所へ行く。

「なうってあげるわ」

「どーぞ」

林檎飴やらの食べ物をそれぞれの写真と射的の景品の写真、2人で撮った自撮りの写真やら不意打ち写真やらを選択する。

『ののすけと夏祭りなう

 (射的の景品やばい、星岡がゲット)』

「でや」

「うーん、ちょっと修正していい?」

「ん?いいよ」

スマホをちょこっと操作しだした。

「もうこのまま投稿していい?」

「あ、いいよ」

投稿のところを押したため、見てみる。修正個所を探すと…あった。

『ののすけとデートなう

 (射的の景品やばい、星岡がゲット)』

「デートに変換するなよおい」

「いいじゃん、俺もあげるから写真よこせ」

「はいはい」

個人の方に写真を送ると望々はすぐに保存してタイムラインを書き出した。

『るいさんと夏祭りデート

 (射的の景品全て俺。)』

「よくね」

「私も付け足しさせてよ」

「ん」

画面をこちらに向けられたから打ち込んでいく

「完璧やっ」

『るいさんと夏祭りデート

 (射的の景品全て俺。神。キラァッ)』

「キラァッってなんだよおい!」

「ののすけのいつもやってるどや顔や。」

「そんな急に真顔になって言うなよ」

また手を繋がれて引っ張られていく。片手にスマホをいじりながらも絶対離さないようにきっちり手を握ってくれてて。

ピンポーン

LINEの通知がなったため開いてみてみるともう何件も来ていた。とりあえず、既読さえもつけていない未読のものを置いといてタイムラインのコメントだけ返していくことにした。

まず一人目が菜乃からで

『あっそれストーカーしたい。

 次会ったとき追求するから。』

…まあとあえず、『。』とだけ返しておく。

二人目は祐未からで

『るいが女子だー可愛いー!相変わらずのデートなんだね♡』

…女子だよ。デートってなんだデートって。

三人目からは杏奈からで

『夫婦(・-・)』

その下に由香からで

『杏奈と同じく、夫婦(・-・)』

またその下に梨華からで

『さらに同じく、夫婦(・-・)』

…なんでそんな協力しあってんだよ、絶対一緒に打っただろ。真顔の顔文字やめろよ。

他にもいじるようなLINEやらいろいろあったため適当に返信を返していく、途中返していると通知が鳴ったため更新してみる、するとそれは

『行ったんだ、ののちゃんと。』

心愛からだった。ほんの少しだけ闇が混じってる気がする、少し恐怖を覚えたため『行ったよ』とだけ返してすぐ鞄に押し込むようにしまった。

「どした?」

「いや、なんでもないよ?」

「ふーん」

少しいじけたように望々が言った。手をいつの間にか放してしまっていたのでもう一度手をとった。

「デートなんでしょ?行こ」

「ん」

びっくりした顔をしてからそっぽを向いてしまった

「あれぇー照れてるの?」

「照れてない」

頬をつつきながらにやけながら聞いてみる、頬を膨らませたのでつぶして空気を抜く

「なに笑ってんだよ」

「いや、面白いなぁって」

「あそ」

「ほら行こ、早くしないと花火始まっちゃう」


「誰とも連絡がつかない…!」

花火まで残り数十分、グループにLINEしてみてもでないから、個人の方に杏奈、由香、梨華にそれぞれ送っても返信どころか既読さえもつかない。

「どうしよう」

「とりあえずのんびり待っとこうぜ」

「呑気だなぁ」

適当に道を行ったり来たりとぐるぐるしながらのんびりしていく、途中見つけしだいスーパーボールすくいとか遊べる屋台でとにかく遊んでいた。

片手が景品とか食べ物とかでいっぱいになるころスマホをみれば相変わらずLINEは来てなかったけど、花火の時間がもうわずかだった。

「連絡つかないなぁ」

「じゃあもういいじゃん、二人で見よ」

手を引っ張られてついていく。けれどその方向は花火とは逆方向だった。

「のの、逆だよ」

「知ってる、こっちにもっといい場所あるから」

自信満々に宣言するので大人しく引っ張られることにした。人通りが多かった道を抜けてしまえばほんとに人はおらず、みんな花火の方向へ向かっているんだろうなと思った。

しばらくいくと湖の近くまできた。

「こんなところあったんだ」

「ここ静かだろ、明かりも少ないし人も少ないし」

橋がかかっている所があってそこまで引っ張っていかれた。

「るい」

「なあに?」

「いつもおつかれ」

橋の柵に腰掛けた望々がこちらを向いて唐突に言ってきた。

「どうしたのいきなり」

つい笑いながら聞いてしまった。

「いや、頑張ってんなぁって」

「どうして?」

聞きかえしてみると少し考えるような仕草をとった。

「まあ色々あるじゃんお前、家のこととかさ」

「別に苦労はしてないよ?」

笑顔で返す

「…辛いこととかない?」

「ないよ、毎日幸せ」

崩れない笑顔

「…泣きたくならないの?」

「幸せなのに泣く必要ないじゃない」

いつもの、私の、笑顔

「本当に?」

「ええ、私嘘なんかついたことないでしょ?」

彼女を見上げる。相変わらずの笑顔で。

「いや、嘘じゃん」

「え?」

「お前、本気で笑ってないだろ」

はっとした

「お前俺を見ないよな」

彼女の顔を見つめた。

「いつもお前はさ、俺の目見ないよな。」

そんなことない

「お前さ」

やめて

「ほんとはさ」

嫌よ、やめて

「なあ、るい」

言わないで、その先を

お願いだから

「お前笑えないんだろ?」

消えた。何年も使ってきた私の笑顔が、自分を守るための仮面が、とれてしまった。

「そんなことない」

「いーや嘘だ、お前」

一拍置いて望々は口を開いた

「笑ったあと辛そうな顔してんだよ」

嘘だ。

そんなことない。

「…いつからそれに気づいてたの」

完璧だったはず。

「だいぶ前から」

どうして。


気づいてた。だいぶ前から。

瑠李が俺の前でも家族の前でも作った笑顔だったことを。

作られた笑顔が消えた彼女はほんとうに人形のようで。目は空虚で、また俺を写していない。

けれどまだ瑠李は

その作られた困ったような笑みを口だけに浮かべてる。

その姿は相変わらず綺麗な瑠李だったけれど、狂気を感じる。

「なあ、るい」

なにも自信の瞳に写さない彼女に呼びかける

「せめてさ、俺にはぶちまけてくれよ」

相変わらず綺麗な困った笑顔を浮かべる彼女に呼びかける。

「辛いなら俺に言えよ」

1つも笑顔は歪まない。

「泣けよ、頼むから俺の前で泣いてよ」

彼女の目を見つめる。

「お前を拒絶したりしないから」

表情1つ変わらない彼女の腰に手を回して引き寄せる。

「俺はなにがあってもさ」

言わないと

「お前を」

きちんと言わないと

「るいを」

こいつはきっと

「1人にはしないから」

永遠に笑うことを忘れてしまう。

そして、傷ついたことにも気づきやしなくもなる。

「…その証拠は?」

しばらく黙ったあと瑠李が口を開いた。

証拠?

簡単じゃんか

「じゃあ神様に誓ってやるよ」

彼女の手をとった

「1人にしないって」

彼女の小指を自分の小指に絡ませる

「約束してやるよ」

しっかり瑠李をみて


「俺は、るいを1人にはしない」


いつの日だっただろうか、

母と父との昔の記憶

まだ瑠海亜も瑠架も瑠璃子さえも生まれていなかった頃の話

父は珈琲をのんでて

母は私と遊んでいる

「今日なんでママとパパいるの?」

小さい頃から一人でいて、両親2人がそろうことなんてほとんどなかった。

「今日はママもパパもお仕事がお休みだからるいと遊ぼうと思ったのよ」

母が優しく微笑んだ

「今日はるいと一緒にいるの?」

「ああ、そうだよ」

父が母と同じように優しく微笑んだ

「じゃあ、ずーっと一緒?」

目線をあわすように屈む2人の手を片方ずつとる

「そうよ、ずっと一緒」

「これからさきも」

「「るいを1人にしない」」

二人が指切りをしてきた。

そのあと優しくパパが私を抱き上げてくれて

そしてママは隣で私の頬をつついて

幼い私は笑ってて

私が笑えば、2人とも笑ってくれるのが私は大好きだったのだろう。

けれどやっぱり1人だった。その日以降、両親2人に同時に再開したのは瑠璃子が生まれたときだった。

いつの日からだろう、パパとママ自体もすれ違うようになった

夜うるさくておきてみれば、パパとママは怒ってて

また笑わせなきゃと思って、パパとママのところへ行って笑ってみた

けれど、その笑顔は

もう両親には通じなかった。

もうそこからは覚えてない

だんだん年を重ねるたびに笑顔が消えた

だんだん年を重ねるたびに泣けなくなった

だんだん年を重ねるたびに傷ついたことにさえ気づかなくなった。

だんだん年を重ねるたびに私は、

自分自身は忘れるようになった。

両親とは話さなくなった。

もしかしたら顔も忘れてしまったのかもしれない。

けれどきっとどこかで褒めてもらいたかったのだ

一生懸命に勉強した

ママが上手だったピアノとサックスをうまくなった

パパが好きだったドラムとギターをうまくなった

自慢になれるように常に可愛くいようとしたし、勉強だってやった。

だけど

やっぱりだめなものはだめ

だから私は

壊れてしまう前に心を笑顔の仮面の下に隠した、いや、

自分自身で知らずと壊してしまったのかもしれない。


「約束?」

「ああ、約束」

懐かしい、指切りなんて

「守ってくれるの?」

「ああ」

いつの日以来だろう、

「ほんとうに?」

泣いたのは。

いつの間にか溢れた涙は止まることを知らないようで。傷を必死に隠していたのに隠しきれず血が出てきたような感覚だ。

私の壊れてしまった心は優しくされることが苦手ならしい。

「ほんとだよ」

望々を見上げる

「俺は約束する」

私は

「絶対にお前を一人にはしない」

望々に救われてしまったらしい。

体を引き寄せられ抱きしめられる。優しく包み込むように抱いてくれる彼女は暖かくて、とても居心地がいい。

とてもひさしぶりに泣きじゃくった

小さい子供みたいに、声をあげて。

黙って背中をさすってくれている彼女がとても嬉しくて暖かくて

「なあ、るい」

「なあに?」

「お前は、きっと笑ってる顔が一番可愛いよ」

頭を撫でられ相変わらずの少し八重歯がみえる特徴的な笑い方をする。

私の大好きな笑顔だ。

パンッ

「あ、」

音がした方向を見上げたら

「花火、始まったんだ」

大きな花火がたくさん打ち上げられていた。

真っ暗立ったあたり一面は花火の光で明るくなって、湖には花火が写った。

「花火、綺麗だな」

花火をみあげる望々の横顔を見る。ほんのり花火の色に肌が染まっている。

同じように上を見上げたら、彼女の手が伸びてきて手をつないできた。

このとき私は、永遠に時間がとまってしまえばいいのにと思った。


ああ、そうか。

きっと私は


―望々が好きなんだ。


私はきっと

彼女に恋をした。


花火をみたあと梨華たちと合流して、なぜ私が泣いた跡があるのかと問いつめられたが、2人で適当に流した。そしてついでに言われたことが

「るい、なんか笑い方変わったね」

もしかしたら私は少しずつ笑い方を思い出したのかもしれない。

これから少しずつでも思い出していこうではないか、恋をしてしまった彼女に本当の笑顔をみせるために。

梨華たちは普通にそのまま会場から家に帰った。貸した浴衣はまた次のときに返すということになった。帰り道望々と2人で並んで帰った、普通にいつも通りのたわいもない会話を交わしていたけれど、繋いだ手だけは離さなかった。

このときの私はこんな些細なことでも、幸せと感じた。

きっとこれが恋なのだろう、そう思った

帰ったら妹たちは寝ていた。それぞれお風呂に入って寝る支度をしてベッドにはいる。

「ねえ、のの」

「ん?」

ベッドに入った望々がこちらを振り返って優しく聞き返した。

「今日…、一緒に寝てもいい?」

一瞬びっくりしたような顔したがすぐ笑って

「いいよ、おいで」

と、隣を開けてくれた。隣に入ったらこちらを向いていた望々に抱きついた。すると、彼女も抱きしめ返してくれた。すっかり中毒になってしまった彼女の匂いに安心感を覚える。相変わらず髪をいじるのが好きらしくて私の髪をといていた。眠くなってきたのか髪をいじるのをやめて望々は目を閉じて寝る体制になっていた。

「おやすみ、るい」

「おやすみなさい」

頭をひとなでしてくれたら私を抱き枕のようにしたまま眠ってしまった、きっと疲れたのだろう、ほんとにすぐに眠ってしまった。

彼女の胸に顔をうずめて眠る体制になる。

この幸せなまま今日は眠ってしまおう。恋した人の胸にだかれて幸せな夢を見よう。



愛を知らない少女の愛とは。

そして、甘い毒を持つ嘘で彩られた少女の仮面のの本当の姿とは。

それはどんなに歪んでいるのか、

それはどんなに美しいのか、

壊れた嘘つきのこの少女は、

ある一人ぼっちのこの少女は、

たった1人の王子様に、恋をしてしまいました。

けれど少女は、

お姫様にはなることはできない。

だって。



目を開いて望々の顔を見る、そして一言。

「いらっしゃいませ、恋しき人。」





この物語は壊れてしまった少女のたった三年間の恋物語である。

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