9話【花火大会・2】

「とりあえず食べ物別れて買いに行く?あとで集合したらいいし」

梨華のそんな気まぐれな提案だった

「おけー」

「いいよ」

由香と杏奈が賛成の声をあげる

「別に私も構わないけど…」

チラッと望々の方を伺う。すると彼女も

「別に俺もいいよ」

よかった、少し機嫌が直ってきてるらしい。というかお祭りをみたら望々は少しテンションがあがってきていた。

「じゃあ、適当に別れよっか」

「俺るいと行く」

「えっ」

腕を掴まれ引っ張られた。

「わ、ちょっ!り、りか!とりあえずこっち行くわ!LINEして!」

「ありゃま、はいよー」

強く引っ張られていった

「ののってちょっと独占欲強い夫さんだね」

「あんな、それをいうな」

「るいもあんな夫をもって大変やな」


少し行くと腕を離された。人混みを物怖じせず早足で行く望々を追いかけることに必死だった。

「のの、待って!」

呼びかけると望々はこちらを向いて立ち止まった

「どこいってるの?」

「あー、決めてなかった」

「おい」

「なんか食べたいものあるか?」

「えー私は…」

周りを見回すとポテトフライの屋台があった

「あ、ポテト食べたい」

「お、俺も食いたいわ。半分こするか?」

「うん」

屋台にいき大中小と大きさがあったので中を買うことにした。

「あいよ!嬢ちゃん可愛いからちょいっとおまけしといたぜ」

「わあ!ありがとうー」

望々が待つ方へかけていく

「おまけしてもろたー」

「おお、なに色仕掛けでもしたの?」

「してません、ばか」

少し腹立ったのでちょっと叩いた

「あ!チョコバナナ食べたい!」

「はいはい、走るなって」

(なんか異様にるいがテンション高い…子供みたいだな)

「チョコバナナ1つください」

「はーい200円ねー」

お金を払ってチョコバナナを貰う

早速チョコバナナを一口だけ頬張る

「んーやっぱチョコバナナってお祭りの醍醐味やわー」

「俺にも一口頂戴」

「ん、いいよ。はい」

バナナを手渡しで渡したつもりだったが、腕を掴まれそのまま望々の口元へ持って行かれた

いわゆるあれだ

食べさせてる…。

「あま」

「…」

「次いくぞ」

「はい…。」

また歩き出した。望々が先で私が後ろからついて行くような形。ほんのすこしゆっくり歩いてくれている望々、後ろだから風が少し吹くとほんの少しだけ彼女の匂いがする。

しばらく進んでいた。すると

「わっ」

「ちっ」

「す、すいません」

かなり大きい男の人にぶつかった。思わず倒れてしった。だけどそんなことよりも、男のことが怖くてたまらない。

「気をつけろ、ガキが」

立ち去って行った方を呆然とみたあと立ち上がり望々の方を見ると姿がなかった。

「え、のの?」

当たりを探しても見つからない。そうだ、これは完璧にはぐれた。

とりあえず人通りが少ない方へ出ることにした。

屋台がたくさんあった通りを抜けてしまえばほとんど人はおらずベンチもがら空きだった。

一応スマホで連絡をとろうとしてみたが肝心なときにこそ電池は少なく、あとのことを考えたら止めておくことにした。

少し歩いて当たりを捜索してみる、けれどやはり望々はおらずもう諦めてしまおうかと思った。大嫌いな男に当たりさらに怒鳴られ、望々とはぐれ、1人孤独と、これ異常ない恐怖やらに泣きそうになった。すると

「るい?」

声がした方を振り返る。するとそこには探し求めていた望々ではなく潤だった。

切羽詰まっていたせいか潤のほうをかけて胸に飛び込んでしまった。

「ううっじゅん」

嗚咽を漏らしながら泣きついていると頭に手がのびてきた

「あーあ、よしよし」

「うぅっあうっ」

頭を撫でられながら背中をさすられていた

しばらくその状態が続き落ち着いて嗚咽がおさまったころ潤が聞いてきた

「なにがあったんだよ」

「る、るいがひっく、お、男の人にぶつかっちゃってそれで怒鳴られて、そのあとののとはぐれちゃって…」

「うわ、男は辛かったな。よしよし。」

また少し涙ぐんだ自分を慰めるように背中をさすってきた。一応潤も私が年上の男の人があまり好きじゃないということをわかっている。

「で、はぐれたって…お前スマホ持ってるだろ?」

「電池あんまないやもん」

「お前なぁ…」

あきれたように呟いた。ほんのすこしあたりを見回したあとこちらに向き直った。

「とりあえず林檎飴買ってやるから泣き止め」

「!!」

(めっちゃ反応してるし、昔からこいつ林檎飴好きだよなぁ)

林檎飴と聞いては黙っていられない。半分あきれたように潤が笑ってから手を引かれて屋台の通りに入った。

林檎飴の屋台の前で潤が1つ注文していた。繋がれた手を少し振りながら待った。

「お兄ちゃん、隣の嬢ちゃんは彼女かい?」

「ふえっ、ち、ちが」

「あはは、はい、そうです」

「そーかいそーかい。ならこれ彼女可愛いから苺飴おまけしてやるよ」

「おお、あざっす」

林檎飴を潤から受け取り潤は苺飴を取った。苺飴にかじりつきながら私の手を引いてまた人通りが少ない裏の方へと連れていかれた

「…か」

「あ?」

「じゅんのあほ!!」

「えっ」

一発潤のお腹に拳をいれておく、殴られても笑っている潤に腹が立った。

「いいじゃん別に。俺の彼女さんっていうこととるいが可愛いからってことでこの苺飴おまけしてくれたんだよ?」

「ば、ばか!」

ずっとばかばかとばかりいっていた。すると

「うるせ」

いきなり苺飴を口に突っ込まれた

「おいしい?」

「…おいひい」

睨み付けながら潤の苺飴を食べていた。一口食べたら口を離して飲み込んだ。

相変わらず潤にはかなわないなぁと思う。小さいころから一緒で、しっかりしてていつも優しくて実は心配性で昔から背も大きかったし年が同じだけどお兄ちゃんみたいな存在だった。

「これからお前どうするの」

「うーん、どうしよか」

「あ、そうだこれやるよ」

渡されたのは充電をためておいていつでもどこでもスマホやいろいろ電子機器を充電できるものだった。

「わあ、ありがと」

「とりあえずある程度充電たまったら一旦星岡にLINEしろ」

「うん」

早速貸してもらいスマホをつないだ。それを確認しバッグにいれた。

「充電の間どうしよう」

「うーん」

少し潤は考え込む体制になった。するとこちらをみて

「俺とまわる?」

「え?」

少し驚いた。小さい頃はよく一緒に行っていたのにだんだん大きくなると一緒に行かなくなってしまったから、てっきり嫌われてしまったのかと思っていた。

「なんで驚くんだよ」

「え、だって」

いやいやいやいや

「るいと一緒にお祭りまわるの嫌になったんじゃないん?」

「…は?」

「やって、昔は一緒に行ってたのに最近全然行ってくれんやん」

「え、いや、それはーそのー…」

そっぽを向いて頭をかいていた、すると

「だって、お前と行ってほかのやつに見られたら恥ずいじゃん…」

「…え」

「え」

「あほやん」

「は、はあ!?」

こっちを向いて叫ばれた。結構うるさかったので耳に手を当てる

「ガキね」

「う、うるっせぇよ」

真っ赤になってそっぽを向いてしまった。

「今は一緒に回ってええんや」

思わず笑ってしまった

「別にどうでもいいだろ、ほらさっさとしないとおいてくよ」

「待ってー」

置いていかれてしまった、ほんの少しだげ歩を緩めて歩いてくれてることに思わず頬を緩めてしまう。ひさしぶりに潤と並んで歩いた。


「やっべぇ」

いつの間にか瑠李とはぐれてしまった。当たりを探してもあの子の姿はない。

「こんなにいっぱい人がいるのにあいつ1人で大丈夫なのか…いや大丈夫じゃないよな」

どこかで俺を待っているのではないか、もしかしたら泣いてしまっているのではないだろうか。瑠李のことだ、あんがい涙もろいあの子は不安で不安で自分を探しているのではないだろうか。あの甘ったるい声で『のの』と呼んで探しているのではないだろうか。

「LINEしても出ないってことはあいつ充電ないんだろうなぁ…」

全く既読のつかないLINEをもう一度見やる、いつもならだいたいすぐに出てくれるのに、今回は全く返事がない

「とにかく探すしかないよなぁ」

通ってきた道を戻ってみる、人、人、人のこんなところでたった一人をすぐ見つけだすことなんてできるのか。

念のために瑠李の好きそうな甘いものが売ってある屋台を中心的に見て行った。だけどやはり彼女の姿はなく、ただただ苦戦するばかりだ

「あいつ、泣いてないといいんだけど。誰かるい見つけてそばにいてやってくれてないかな。」

ふと、あの瑠李にホの字だった、佐野潤の顔を思い出したが腹立ったためやめた。

「佐野が隣にいないといいな」

あのいつもふわっふわしている彼女のことだ、きっと佐野の気持ちに一つも気づきやしてないんだろうけどあんがい勘がいいし、賢いからもしかしたら気づいたりしてるのかなって思う。

「…」

まあ多分気づいてないだろ。

ほんの少しだけ笑ってしまった。

もう少し来た道を詮索することにした

「るいー」

人通りが少ない所へ一応出て名前を呼んでみる。けれどやっぱり返事とかはなくて、相変わらずLINEの返事もない。あたりを見回しても遠くの方をみてもあの少女はいない。

「やっぱりだれでもいいから隣にいてやるといいな」

1人呟いて屋台がたくさん並ぶ人通りが多い道へと戻った。通ってきた道を通りながら瑠李の姿を探す。

もしかしたら彼女は、甘いものが好きだからそういう屋台にあんがいけろっとした顔で並んだりしているのではないかとおもう。

しばらく進むと綿飴の屋台のところで見覚えがある背中を見つけた。

「…佐野?」

よく見るとそれは佐野で、隣に見えないが誰かがいるらしい。彼の方に向かって話を聞いてみようとした。ちょうどいい感じに佐野だけ列からずれて連れを待っている感じだった。

「佐野!」

「ん、あ!星岡!」

「るい見てないか!?」

「ああ?るいならそこで綿飴買ってるよ、お前が置いてったせいで、るい泣いてたからな」

「置いてってな…」

「置いていってんの!るいは泣いてたの、お前のせいで!」

「…ちっ」

確かに瑠李を置いていってしまったのは事実だ。それで泣いたと言うならもう自分は彼にとっては悪者だ。

「お前、るい泣かすならるいと関わんな」

「なに潤イライラしてんの?そんなんやったら早くとしとってしまうで?」

後ろから甘ったるい声の訛りが聞こえた。

いそいで振り返ればそれはやっとみつけた彼女の姿だった。

「!…だ」

「る…」

「ののだ!」

するといきなり抱きついてきた、ほんの少し彼女は泣いていた。しばらく放す気配が無さそうなので頭に手を乗せて撫でていた。

「ごめんな、るい」

腕に込める力が少し強くなった、目の前にむちゃくちゃ睨んでくるやつがいるけど、まあ気にしないでおこう。

「るい、行こっか」

「うん」

目を擦りながら手を握られ頷いた。

「それでは佐野さん、さようなら」

「ちっ」

「あ、待って」

手を離し佐野の方へ駆け寄っていってしまった。もしかして俺と回るのはいやになってしまったのだろうか。

バックから何か取り出し佐野の方に渡していた、なにか話すと佐野が瑠李の頭を撫でた。

「じゃあね!じゅん!」

瑠李が手を振ってこっちへきた

「いこー」

相変わらずのふにゃっとした笑顔で言う、佐野と俺がそれぞれ少しだけ腹立ったことも彼女は全く気づいていないのだろう。

「はぐれて心配したんだからなぁ?俺怒ってますけどー」

「え、ごめん」

満面の笑顔から下を俯いて落ち込んでしまった。なにこれ可愛い。

「嘘だって、怒ってねえよ。置いてってごめんな」

頭に手を置いて二回叩いた。すると嬉しそうに顔を上げまた彼女はふにゃっと笑った。

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