8話【日常・2】
「こらーののーおきてー」
「ん…」
なんだ?朝か?
「ののってばー」
激しく体を揺さぶられる。
「ののー?」
甘ったるい甘えたような声で名前を呼ばれる、うっすら目をあけるとこちらを覗き込む顔があった。柔らかい甘い匂いがする、俺が好きな匂い。とろけるようなふわふわしていて甘ったるい声。名前が呼ばれるのが気持ちよくて、まだ抜けない眠気と共にもう一度眠りにつこうとする。すると、
「…おきんか、こら」
いきなりくすぐってきた。
「うわっ」
「おはようございます」
「いきなりくすぐるのだけはやめてくれよ、るい」
「起きないんだもの、仕方ないじゃない」
肩をすくめる少女、もう何度も見慣れた顔だ。太陽を知らないっていっても通じるほど真っ白な肌、長いまつげに縁取られた大きな目はやや目尻が下がっていてちょっと色っぽい。ふっくらした唇は赤くて、長い絹みたいで綺麗で肌とは対照的な真っ黒な髪、とても華奢な体、どこか大人っぽくて色っぽいのに少し子供っぽいところもあって、整っていすぎる彼女は実は作り物の人形じゃないのかと思う。声はすごく甘ったるくて耳の奥に絡みついてとれなさそうなのにすぐ消えてしまうように儚くて、空気に溶け込むような、柔らかくて甘くて、とても綺麗で俺が好きな声だ。
「のの?」
下から覗き込んできて上目遣いで見られる、瑠李の匂いが一層強くなる。なんの匂いかわからないけど俺が知ってる匂いではなくて、チョコレートみたいな甘ったるい感じなのにあのしつこい感じではなくてシャンプーとかそんな感じのありありの匂いでもなく、とにかく彼女の匂いは甘ったるい特別な匂いだと思う。というかまず、そもそもの話だが彼女はなにもかもすべてがとにかく甘い、名前を瑠李からチョコレートとかマシュマロとか甘い物の名前に変えるべきだと思うほど甘ったるい。
「のの」
「…」
「おきろ!」
「うわっ」
ソファーから落とされて頭を床に打った。
「頭打ったせいでバカになったらどうすんだよ!」
「もうばかじゃない」
「はあ!?」
「順位言ってみなさいよ」
「…すみませんでした。」
「よろしい。」
本当にこいつに口ではかなわない、なにかをいじろうとしても必ず自分の難点をつかれる、逆にやってやろうと思ってもこいつ自体にかなう要素が少なすぎる。まず勉強だって瑠李はかなりできる、かなりうちの高校は県でもトップ1になるぐらいで全国からみればかなりの難関校でもあるが瑠李はその中でも順位はほとんど毎回一桁なのだ、それプラス彼女は入学試験で一位の座をとっての入学。それに比べて俺は三桁の下から何番目ぐらいの順位、入学試験はぎりぎり補欠合格だったし。運動とかは俺も結構できるし、力もあいつよりあるけど分野によってはあいつの方がよっぽど上だ。さらに、この花宮家って古くからの名家らしく、昔は貴族の家柄だったんだとか、とくにあいつがすごいのが音楽で、家がもとから音楽をやってきた家系のせいか音楽のことに関してはなんでもできる、とくにできるのがピアノであいつはあんま言わないけど瑠璃子ちゃんとかが教えてくれたりとか、あとトロフィーとかがいっぱいあるところみたら今までの成績とかがわかって、今のところの最高がコンクールでの全国まですすみそこで銀賞だ。こんなにすごいやつが普通に俺の隣で笑ってるのってすごいことなんだろうなっておもう、だけどあいつ自身そんな自慢とかしないし自分の腕もみんなの前で見せないし俺自身この花宮家に何日も居候してるけど俺の前で練習はしなかった。だけどあいつはこっそり練習していた、俺らがテレビ見てるときとか寝たあととかこっそり抜け出してピアノとかの練習をしてた。そのときたまたま通りかかってそれを見てから俺は毎晩それを見るためにこっそり起きていることがよくある。
彼女のピアノはとっても綺麗だった。
「大丈夫?」
「え、あ、なにが?」
「頭、打ったでしょう?」
頬に手を添えられる。夏なのに手はとても冷たい。
「あー、大丈夫だろ」
「ごめんね」
「おう」
バカにするくせに最後でちょこっと謝ってくる彼女が可愛い、それでちょっと不機嫌になった風にするとすごく落ち込んで仲直りしようと必死に謝ってくるのがもうほんとに無茶苦茶可愛い。
「もう三人とも寝に行ったから私たちも寝に行こう?」
「あ、片付けは?」
「全部終わった、みんな寝てたから」
「あ、すまん」
クッションや毛布を整えだした瑠李を尻目に当たりを見回す、机に置いてあったお菓子や飲み物はすべてなくなっており綺麗になっていた。
「行くよ」
「ん?あ、おう」
ドアに向かって行く彼女の背中を追いかける、先回りしてドアをあけて先に通してやる。
「電気消しておいて」
「はいはい」
言われたとおりに電気を消し部屋から出る、先に進んだ彼女を走って追いかける
「先上がっててくれない?」
「なんで?」
「ん、まあ…ピアノ練習してくる」
「俺も行く」
「ええ」
「1人無理、ホラーみたあとは無理。」
「…仕方ないなぁ」
大きくため息をつくと回れ右をした
「じゃあ行こ」
「ん」
別の方向に行き奥へと進んでいく、かなり行ったところで立ち止まりドアを開けた。
部屋に入ると様々な楽器が置かれてあった、学校にあるようなピアノにドラム、アコースティックギターやエレキギターなどギター類が5つに、壁にある透明な板を張った中にサックスがソプラノにアルト、テナー、バリトンまで揃っていて金色の物と黒が混じったものと銀色のものやらと全部で10台あった、バイオリンも3つぐらい置いてて、楽譜かどうかわからないがかなり本が置かれている。
「すげぇ」
「ふふ」
本棚に駆け寄る彼女を遠目に眺める
「せっかく聞いてくれるなら知ってるようなのがいいかな」
「俺あんま知らないんだよね」
「うーんそっかぁ…どうしようかな」
本棚を眺めながら一つ一つに人差し指をはわせていっていた。
「んー、ショパンの『幻想即興曲』とかは?」
「なにそれ?」
「たぶん聞いたら知ってるよ」
彼女は楽譜をもってピアノに向かっていった、椅子に座って音の調子を見ているのか何度か適当に鍵盤を叩いていた
楽譜を広げて軽く見始めた。膝に置いていた手をピアノの上にもってきはじめた。
最初からとても早い指使いなのに、丁寧でぶれてないしぐちゃぐちゃにもなってない。ピアノに触れる瑠李はとても綺麗で、普段のあのだるそうな猫かぶり美少女はどこに行ったのか。
細い白い指が鍵盤を押すたびに音が出て、鍵盤と楽譜を交互に見るたびに首を動かすと少し揺れる長い黒髪、何とも言えないけれどとにかく綺麗で、いつの間にか俺はみとれていた。
「終わったー」
「るい」
「なあに?」
「…好き」
「…は?」
顔を真っ赤にして固まってしまった。
「俺、お前のピアノ好きだ」
「は…え…あ…へ?」
ほんの少しだけ沈黙が起きる。
「ご、誤解を生むかのような発言は控えてくださいませんか」
「好きです」
「告白みたいだからやめて、気持ち悪い」
吐き捨てるように言うとそっぽを向いてしまった、だけどほんのすこし見える顔を赤く染まっていて彼女なりの照れ隠しなんだろうと思った
「さて、寝るか」
「…うん」
楽譜やらを片づけだした瑠李を横目にドアに向かいドアを開ける、慌てて駆け寄ってきた彼女を先に通させてから自分も電気を消して部屋から出る。相変わらずおいていかれていたので少し小走りで追いつく。長い髪から少し覗く顔はほんのり赤かった。
部屋にたどり着くなり瑠李はベッドに飛び込み布団にくるまってしまった。まだホラー映画のせいでいろいろと少し怖いし、いじることにした。
「るい、一緒に寝よ」
「なんでよ」
「ホラー映画みたせい」
「…ださい。」
「るっせ」
すると少し間を開けてくれたため布団に潜り込んだ。向こうを向いてしまっているため瑠李の背中をいじってみる。
「やあっ」
背中を指でなぞった瞬間声をあげた
「ほんと弱いよなぁ」
「さ、さいってー」
「なんか喘ぎ声っぽい」
「だ、黙れ!」
瑠李は離れるために逃げてしまったので寄って抱きついてみる
「んっ」
「お腹弱いの?」
お腹に回っている手を服の中に忍ばせスッとなぞってみる。
「ひやあっ」
「なにお前もしやお腹が性感帯?」
「そんなわけないでしょ!変態!痴漢!」
「へえ…」
ちょっとムキになってお腹をいじりながら耳をかじった。
「やあっ…ちょっ…だめだって…あうっ」
「こんなになってるのに?」
「あっ…ののってばぁ…んっ…お願い、やめひゃあっ」
「まだ認めないの?」
くすぐるのと耳をなめるのをやめた
「ふ、普通です!ばか!」
「はあ…」
腰に回っている手をほどこうと必死に頑張っているみたいたが力が弱くびくともしない。
「離して」
「いや、無理。怖いから」
「どこが怖がってるのよ!?」
怖いのは一応本当である。平気だけど。
諦めたのか大人しくなってしまった瑠李がこのまま寝てしまいそうだったので呼んでみる
「るい」
「…」
「こっち向いて、るい」
「…」
「あからさますぎるだろ、おい」
「…」
「あーもう」
こうなったら
強制だ
「おいしょっ」
「えっ」
力ずくで仰向けにして自分は体を起こした。いわゆる今の状態はあれだ
床ドン。
「な、なななな、なに!?」
「なにって…お前が無視するから、床ドン。」
「意味が分からない!」
白い肌が真っ赤になっていた、一生懸命に胸を叩いてくるが、たいして力がないから全く痛くない。少し鬱陶しいので彼女の両腕を片手でつかんで頭の上で抑えこんだ。
このままじゃ押し倒してるみたいではないか。
「ちょっと静かに出来ねぇのかよ」
「静かにしてたわよ、ののが床ドンしてきたんじゃない!矛盾しとるわ!」
「ええ…」
このままじゃ埒があかないため疲れてきたこともあるし瑠李に覆い被さる形で倒れ込んだ
「わっ」
腕を腰に回して、瑠李の顔の横に自分の顔を埋める。ちょうど首筋が見えてさっきつけたキスの跡が残っていた。
「…なに」
「こっち向いてくれよ」
「今向いてる」
「今じゃねえよ…」
もうこのまま寝てやろうかと思ったが、全体重をかけると瑠李が壊れてしまいそうなのでとりあえず横に同じように仰向けの体せいで倒れ込む。
「…そっち向くんやなくて」
「ん?」
「るいが向こう向いてはる状態でなんやったら、ののが抱きついて寝てもいい。」
あっ一人称名前になった。しかもちょっと訛ってる。
可愛い。
「… 」
「なによ」
「よ、喜んで」
向こうに向いた瑠李に後ろから抱きつく。同じシャンプーを使ってるはずなのに自分とは違った匂いがする。
なんだかんだ最終的には俺のわがままを聞いてくれる優しい瑠李が本当に好きだ。
「るいってさ、どこ出身なの?」
「え?なんで?」
「なんかるいってたまにちょっと訛ってるんだよな、あとるかくんとるりこちゃんも」
「えっ嘘っ」
「で、どこ?大阪とかそこらへんだよな?」
「私は…京都です。」
「おおっ」
顔は見えないけれど耳が真っ赤になっているため顔もきっと赤いのだろう。
「だから、なんかこうーそのー落ち着いてる?のか 」
「落ち着いてるのかな?」
「うん、言われればThe京都って感じがある。あ、はんなりしてる、はんなり」
「意味がわかんない」
「すまんね」
瑠李の髪をいじりだす。しばらくすると寝息が聞こえてきた。髪を整えるように撫でてから首にある二カ所のをなぞって彼女のお腹の上に自分の手を戻して耳元で囁く。
「おやすみ、るい」
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