8話【日常・1】

「「ただいまー」」

望々と2人で声を揃えて靴を脱ぐ。

夏休み約二週間目。望々が泊まりにきてもう数日。彼女の家には誰もいないため一時期だけお互いの親の了承を得てこの花宮家に泊まりにきている。

「ねえねー!」

帰ってくるとすぐさま瑠海亜が抱きついてきた。抱っこしてやりリビングに入ると瑠架と瑠璃子がいた。

「あ、おかえり」

「あら、るりこ今日部活は?」

「休みっていったじゃん」

「そろそろコンクールなのに大丈夫なの…」

ちなみに瑠璃子も中学生なので部活があり私と同じく吹奏楽に入っている。楽器は私同様サックスである。

「姉さん、俺腹減った」

「ごめんごめん、すぐ作るよ。荷物置いて着替えてくるね。」

望々と2人で階段をあがり私の部屋に入る。いつもの定位置にリュックを下ろしクローゼットを開ける。大きめのTシャツとズボンを取り出して着替える。髪をほどいて一旦とく。

「のの、私ご飯つくるから洗濯しといて」

「はいはい」

部屋を出て階段をおりる、リビングで宿題をする瑠璃子とテレビでゲームをしている瑠架がいた。

「お昼ご飯なに食べたい?」

「なんでもいいよー」

「俺オムライス食いたい」

「じゃあ瑠架の希望でオムライスにしよっか」

髪をポニーテールにくくり上げエプロンをつける、冷蔵庫から材料をとりだす、フライパンを取り出して油を入れ火をつける。材料を切っていると望々がリビングに入って来た。

「今日ご飯なに?」

「オムライスだってさー」

「ののお皿出してー、ほらるりこ、るか机片付けなさい。るみあは自分のおもちゃお片付けできるよねー?」

「「「「はーい」」」」

四人が声を揃えて返事をする。それぞれ動き出した四人を見て少し微笑み料理に戻った。机の上の教科書やらを持って部屋を出る妹たちを見送ると望々がこっちを来てお皿を取り出そうとしていた。

お皿を取るとそれを持ってこっちに来た。

「るいー」

するといきなり抱きついて来た。脇の間に手が回って来て肩に顔が乗って来た。

「…邪魔。」

「ひでぇ…」

肩に顔をうずめられて動きにくくなったが何変わらずと作業を続ける。火の音が聞こえる無言の時間、しばしの沈黙のあと彼女が口を開いた。

「エプロンで髪あげてるってさ」

「うん」

「なんかエロいよね」

「うん、死にたい?」

「うん、やめて?」

いきなり何を言い出すかと言えば相変わらずの変態発言。変なことしか言わない彼女に少し呆れつつ手を動かす。

飽きて来たのか髪を弄んでいた。けれど相変わらず片手は腰に回されたままだった。

(るい、また痩せたか…?)

「どうかした?」

「いや、なんでもない」

「そういや、るりこがなんかホラー映画借りて来てた気がする。」

「え、嘘だろ」

「どしたの?」

「いや、まあ…うん」

手をほどかれ机に向かって行った。スマホを取り出しいじりだした彼女をみたあと作業に戻った。

「なあ、るり」

「なに?」

「姉さんとののちゃんってカップルなの?」

「うーん、友達だと思うよ?」

ドアからこっそり覗く二人はしばらくみたあと自分の部屋へと戻った。


ー夜ー

「姉さんー借りてきたホラー映画見よー」

部屋にいると瑠架の呼び声がドアごしに聞こえた。

「ええ、私ホラー苦手なんだけどなぁ。ののどうする?」

「え、あ、いや…俺は…どちらでも。」

「姉さんもののちゃんも一緒にみよ?」

ドアをあけ入ってき、部屋着の裾を引っ張ってくる瑠架の頭を撫でてやる。

「仕方ないなぁ…じゃあ、あそこ行ってて。お菓子とジュース持っていってあげるから」

「いえーい」

勢いよく元気に部屋を飛び出して走り去っていくのを見て思わず笑ってしまった。

「じゃあ、のの行こ」

「おう…」

部屋を出て階段を下りリビングまでいくとキッチンに入る。望々と手分けして冷蔵庫を開けジュースを取り出す、隣にある倉庫からお菓子を出し、食器棚から人数分のコップを探す。

「よし、行こっか」

「さっきからわからないんだけど、行くってどこ?」

「いわゆる…シアタールーム?かな」

「お前ん家それまであんのかよ…どんだけ広いの…」

「そこまでじゃないよ」

リビングを出て奥にある部屋を目指して進んでいく、夏だというのにクーラーをかけなくてもそこまで暑くない廊下を歩いていく。

一つの部屋にたどり着きドアを開ける。板だった床は寝やすいよう畳になっていて、はいってすぐ右隣の壁は一面棚になっている。真正面にはスクリーンがありその手前にはコの字型の大きいソファーにその間にテーブルが置かれている。ソファーとスクリーンの間にはかなり大きいビーズクッションがある。

三人はそれぞれ自由にいて、瑠璃子はビーズクッションに座って足の間に瑠海亜をいれて一緒にスマホで動画を見ていた。瑠架はDVDプレイヤーの接続やらなにかをしていた。

「お菓子とジュース持ってきたよ」

「「「やったー」」」

二人同時に歓喜の声をあげ近寄ってきた。それぞれお菓子とジュースとコップをとり机に置いた。

「これみたらもう寝るんだからお菓子とジュースはほぼほぼにね」

「「「はーい」」」

「三人とも素直だよなぁ」

「すごくありがたいね」

瑠璃子は瑠海亜が好きなアニメの動画が再生されているスマホを渡すとこっちにきてジュースを開けコップにつぎだした。瑠架の方はまたプレイヤーの方にもどり設定をやりだした。望々は瑠璃子の近くによっていき隣でお菓子を開けだした。

「姉さん、セットできたからいつでもいけるよ」

「ありがとう、るか」

近寄って報告にきた瑠架の頭を撫でる、素直に嬉しそうにする姿はまだ子供なんだなと実感する。

自分と望々はソファーに座り、瑠璃子と瑠架はビーズクッションに寝っ転がった。瑠海亜はそんな二人を真似するように瑠架の上に乗った。すると瑠架がリモコンをさわりだした。

「なあるい」

「はい」

「これって…ホラー映画なんだろ…?」

「うん、そうだねぇ。どうかしたの?」

「えと、あの、その…」

「なに」

「…る、るみあちゃん!だ、大丈夫なの?」

「え、ああー」

まあ確かに瑠海亜はまだ幼稚園児だしホラー映画が怖がる年だが多分こんな時間というのもあるし始めはあまり怖い要素が少ないはずだからすぐさま寝てしまうだろう。というか三人ともすぐ寝るだろう。

「大丈夫大丈夫。」

「そ、そうか」

挙動不審な望々を放っておいて始まった映画を見だす。いわゆるこの映画はゾンビものでバイ○ハザードとかいうやつだ。

見だしてから数十分後、不意に望々の方をみてみるとクッションを持って体操座りで顔を埋めている状態になっていた。試しにちょっとつついてみるとすごく反応して顔を上げた、少し涙目になっている目を見て確信した。

星岡望々はこういうホラー系統がダメである。

「のの…」

笑いをこらえながら望々に話しかける。

「こういうホラーものだめなんでしょ?」

彼女はこちらを見たまま固まってしまった、しばらくすると突然顔を真っ赤にした。それをみて自分は笑いをこらえられず笑っていた。

「わ、悪いかよ!」

「あははっ、いや、そんなのじゃなくて、ははははっ」

「笑うな!何だよ!」

「案外可愛いとこあるんだね」

真っ赤だった顔がさらに赤くなりゆでタコみたいになっていた。

「は、ちょ、バ、バカ!」

するとそっぽを向いてしまって映画を見だした、されど数分後怖くなったのかこちらを向いてきた。

「やっぱ無理。」

「見ないようにする?寝とけば?」

「…じゃあ膝かして」

膝の上に抱え込んでいたクッションを彼女は放り投げ、開いた膝の上に頭を乗せてきた。

目を閉じて寝だした望々の顔を眺めながら頭を撫でる、彼女の髪が少しくすぐったかった。

「るいの膝さ」

「うん」

「むちゃくちゃ柔らかい」

「…それは脂肪だと喧嘩を売ってくださっているのかしら?買ってもよろしくてよ?」

「そういう意味じゃねえよ」

上を見上げるように望々は寝返りをうった、すると、顔に手がのびてきた。顔に手を添えられて親指で少し撫でられる。

「肌が柔らかいってこと」

「…はい」

「理解してないのかよ」

体を起こして顔を近づけてくる。

「キスマークがすぐつくぐらい柔らかいってこと」

「…は?」

「肌が柔らかいとつきやすいだろ?」

「いや、なんでいきなそれになるの」

「俺実践するぞ」

「…はい?」

「やっちゃえ」

腕を強く引っ張られ倒れ込み咄嗟に腕をついた、ちょうど彼女の顔に自分の首筋がきたかんじだ。

「そんじゃ、いただきます。」

するといきなり首筋に暖かいものが触れた、その瞬間ちょっと強く吸われるような感覚があった。

「ひゃっ」

「ふぅ…もういっこやってやろ」

「あうっ」

倒れそうになる私を抱え首に顔が埋まっていた。ほんの少しだけ出そうになる声を必死にこらえる。

「んんっ」

「ぷはっ、ついたついた」

「はぁ…」

「こんなにすぐつくんだな、というかお前敏感すぎな…可愛い」

最後の方がなんと言ったか聞き取れなかったがもう一度聞き返す気力がなかった。

あとをつけられているらしきところを手で触る。

ほんの少しまだ荒い息を整えてから思考をもどし整理しながら考えていく。この数分前の出来事とは、私は星岡望々に首にあとをつけられた。

つけられた、なにを?

いわゆるキスマークとやつだ。

どうしてこうなった?

あの変態ナルシ野郎に膝を貸したからだ。

首にあるのは?

望々がつけたキスマーク

・・・。

・・・。

は?

徐々に戻った思考から得た情報はろくでもなくさらに混乱するだけだった

「の、のの、ば、ばか!」

「えっ」

「ばか!ナルシスト!変態!最低!鈍感!あほ!ばか!」

「えっ」

「ばかのの!」

「えっ」

頭がいっぱいになり、とりあえず出た言葉がこれだった。

「なにしてんのよ!」

「え、キスマークつけた。」

「そんなドヤ顔でいわないで!ばか!」

「イケメンにつけられて嬉しいだろ」

「なにがイケメンよ!ばか!イケメンもどき!そもそも女でしょ!ばか!」

「えっひどい、なんか地味にばか多くない」

「もう、ほんとどうしてくれるの!ばか!」

「あ、ごちそうさまでした。」

「それ言えばいいんじゃないの!ばか!」

腕をずっと殴り続けながら馬鹿ばかり言っていた。ずっと笑いをこらえながら私に殴られ続ける望々をみてさらに力が入っていく。

「聞いてる!?」

「あー美味しかったです。すみません。」

「そんな感想いわなくていい!」

どんどん顔が真っ赤になっていくのがわかった。ほんの少し目に涙がたまり視界が滲んでいく。それでもあきらめずずっと望々を殴っていた。

(嫌だったのか?)

「嫌だったの?」

「え?」

ずっと笑っていたのにいきなり真顔での質問に驚いた。しばらく黙っていると望々がまた口を開いた。

「俺がつけたの嫌?」

上目遣いで少し拗ねたように聞いてくる、服の裾を引っ張りもたれかかってきた。

「嫌?」

「えっ、あ、え」

「これいや?」

首を手で這わせるように触ってくる

「嫌だったならごめん」

「い、嫌じゃない…」

「え?」

「ののなら嫌じゃない…」

漫画でよくあるキョトンという表現が無茶苦茶あってる顔だった。しばらくすると笑顔になって

「そっか」

はにかむように笑っていた。

「ねえ、このままノリで首よりもう少し下のとこもつけていい?」

「調子乗るな変態」

しばしの沈黙

『きゃー!!』

「「うわっ!」」

悲鳴の方をみると映画からだった。

「映画か…」

「マジ無理、もう無理、いや無理、なにこれ無理……るい帰ろ。」

「は?」

「それを強制的に終わらせろおぉぉぉ!!」

「ちょ、壊れる!切るな!」

電源を切ろうと機械に手をのばしていた彼女の手を叩く。行き場を失った望々は、よっぽど怖いのか私の胸の中に抱きつく形で顔を埋めていた。

「無理無理無理無理」

「弱すぎか!」

「イケメンにも弱みはあるんだよ…」

「…」

「そこでお前黙るなよ!?」

見上げるようにして話していた彼女はチラッと顔を映画に向けた瞬間すぐさま顔を戻し再度また顔を私の胸に埋めている状態になった。きつく回された腕を軽く叩き、もう片方の手で彼女の頭を撫でる。

「よーしよし、怖くない怖くない」

髪の毛をかき回すように両手で撫でる。くしゃくしゃになった髪を手櫛で直していってやる。

「…これいつ終わるんすか、るいさん」

「うーんあと三十分ぐらいじゃないですかね、ののさん」

「…無理。もう無理。だめだ、もう世界の終わりだ。」

「寝とけ。」

「はい。」

スクリーンと逆方向に向き倒れ込んできた、膝枕状態になり望々は目を閉じた。顔にかかっている髪をのけてやる、見えた頬をつねったりつついたりしていた。相変わらず肌は白く、まつげは長い。整った顔立ちはよくみると普段男っぽい彼女とは逆で愛らしい女の子らしい顔できちんと女の子なんだなと実感する。いくらいじっても起きないため耳をすますと寝息が聞こえてきた。近くにあった毛布をとり、かけてやる、一息ついたところでまた映画をみることにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る