7話【夏休み】

–夏休みまであと一週間–

「るいさん夏休みでっせ!恋の季節ですよぉおぉぉおおぉ!!」

「なの、気が早い。暑苦しい。何がお望みだ。」

「ののさんと進展あった?」

「…は?」

彼女今井菜乃は、純粋に可愛らしく恋バナが好きなのでこういった意味不明なことを聞いてるのではない。単純に、ボーイズラブやガールズラブといったものを聞いているのだ。

「だってさぁー前2人で遊んだんでしょ?というかしょっちゅうみたいだけどさぁ。いつもより増し増しでイチャイチャしてんじゃないのかぁい?」

「遊んでるのは否定しないがイチャイチャしてない!」

「そう奥ゆかしいのもいいねぇー。あーほんと2人をストーカーしたいなぁ、ふふふふふ」

こうなってくると全く話が通じなくなる、机から本を取り出して開くと後ろから誰かに抱きつかれた。

「るいぃーなんの話ししてるのぉー?」

「ん?あぁ、ここあか」

三島心愛みしまここあ、小学校は違ったが中学校になって同じクラスになるとよく話しかけられるようになった子だ、よく抱きつかれたりすることがおおく正直いうと暑苦しい。

「あ、ここあちゃん。るいとののさんのイチャイチャの話よ」

「ののって星岡望々?」

「イチャイチャしてません、ここあ誤解ね」

「ここあ、ののちゃんやだぁ。るいとられるもんー」

「いや待て、いつから私はここあのものになったんだ」

「るいーののちゃんよりここあとイチャイチャしよーよぉ?」

女子って怖い。私は誰のものでもないのだが。

心愛になぜか気に入られたらしく、よくこういうことをよく言われる。他の女子と話してたり抱きつかれたりしたら無茶苦茶拗ねてるし、特にそういったことが多い望々に彼女は完璧に敵意を向けている。ものすごく睨んでるし。

「るいー」

呼ばれた方向を向くと望々が立っていた。手招きする彼女の方へ行くため心愛に退くよう促す、なかなか離れてくれないため無理やり立ち自分から抱きしめてやった。かなり不満そうにいるが離してくれたため早足で逃げる。なぜか望々は少しふてくされた顔をしていて頬が少し膨れたような態度をしていた。

「まじで俺あの子怖いんだけど」

「睨まれるから?」

笑いながら彼女に尋ねる。膨らんだ頬をつついて空気を抜いてやりながら遊んでいると彼女が口を開いた

「お前、八月あいてる?」

「え、うーん…日によるかな」

「八月十五日に花火大会あるから一緒に行かないかってお誘いに来ました」

「あー多分あいて…」

「るーいっ」

するといきなり腕に絡みついてきた、心愛だった、ものすごい笑顔でこちらを見てくる彼女に一瞬恐怖感を抱きなにも自分は言えなかった

「ねえねえるいー言い忘れてたんだけど夏休みデートしよーよー」

「は?」

「八月十五日に花火大会あるのー!2人で行こう?また返事してねー」

すると走り去って逃げていった。無言で2人でそれを見つめながらお互い顔を見合わせる。

「聞かれてたな」

「うん」

「やっぱりやめとくわ、ごめんな」

後ろを向いて帰ろうとする彼女の後ろ姿をみる。自分はなぜか気づけば望々の制服の裾を掴んでいた。

「…なに?」

「あ、あの…私断るから!だから…花火大会行くなら…ののとがいい」

最後の方が声が小さかったが聞こえただろうか。彼女の顔をみると伝わったのかとても笑顔だった。

「そっか」

少し照れた笑い、恥ずかしがるようなだけどとっても嬉しそうなそんな笑顔だった。

「そんじゃ」

「うん」

席にもどり次の教科の準備をし出すと菜乃が来た

「ここあちゃん、めっちゃ舌打ちしてたよー」

「知ってる、めっちゃ睨んでたもんな」

「花火大会どうするの?ここあちゃんに怒られるんじゃないのかい?」

「普通に断るよ」

「それにしても驚いたねぇ、あのるいさんがののさんに『ののとがいい』とかツンデレですかぁ?」

「黙れ」

彼女は本当にこういうことで人をおちょくるのが好きらしい、趣味としてはまったくおすすめしない。

「にしてもここあちゃん、るい大好きだよねぇ。恋でもしてるのかな?」

「どっちでもいいよ、興味ないから。」

「まあ私としてはるいのの押しですよ?」

「その呼び方やめんかっ」

ふざけあっているといきなり視線を感じたので鏡を見る振りをして後ろをうつしてみる。すると心愛がめちゃくちゃ睨んでいるのが見えた。私は単純に気に入られているのかそれとも恋愛感情的なのか、さっぱりわからないし別にたいして気にもしてないため放っておいているが、もし彼女が私の日常を壊そうものなら

絶対に許しはしない。


ー夏休みまで 最終日ー

「ごめん、心愛花火大会一緒に行けない」

「…なんで?ここあおいて誰といくの?」

「…ののだよ」

「…やっぱりあいつか」

「なんか言った?」

「ううん!なんでもない!急に誘っちゃってごめんねー」

「え、ああうん」

すんなり話が終わったようなのでその場を立ち去る。彼女一人を残して。こんなにすんなり離すということはきっとなにかまたやらかすはずだ。だがあの子は帰宅部だし、夏休みということでめったにあう機会がないため手の出しようがないだろう。手を出してもすぐ対応できるばすだろうし。

「星岡望々…邪魔だなぁ。るいは…私の物でしょう?」


ー夏休みー

炎天下の中校舎は外よりは涼しいがやはり暑い。バリトンサックスと譜面達をもって移動し定位置につく。髪をくくりチューニングしながらメトロノームをつける。一年生は相変わらず外へ放り出されているため、朝来てから午前でおわるまで約五時間ずっと個人練だ。

「るい、花火のやつさーいつめんでいこー」

「ん?あありかか。いーよ」

野川梨華のがわりか、ユーフォニアム担当の子で、中学校からよく絡む仲だ。ちなみにいつめんとやらのメンバーは、私・星岡望々・潮田由香・楽坂杏奈・野川梨華の5人だ。昼休みのときはほぼかならず毎日5人でしゃべっていた。部活がやすみなら基本的にこの5人で遊んでいるしLINEのグループとかまであるぐらいだ。大勢は嫌いだしそもそも人と関わることがめんどくさがるような私だったが彼女達とは話が別で、この5人でいるときが一番楽で楽しい。

「るいーこのメロディー教えてー」「のの、自分で読みなよ…るいの迷惑だよ?」

「いーよ別に、大丈夫よ。どこ?」

楽譜を開き見せてくる望々、手を叩いてメロディーを教えながら梨華と会話を交わす。

「じゃあ帰ったら詳しくはLINEでー」

「りょーかい」

小走りで去っていく彼女を横目でみながら楽譜へと向き直る。ずっと考え込むような仕草で座り込んでいる望々と一緒にメロディーをとっていく。

相変わらずの日常である。


–夜–

風呂を出て自室のベッドに腰掛け壁にもたれて本を読みながら曲を聞いていた。両脇にリンレンそれぞれが寝そべっている。するとヘッドフォンからLINEの通知音が鳴った。

『8月にある花火大会みんなで行こー?』

梨華からの通知だった。本に栞を挟みながらLINEを見てると由佳と杏奈がそれぞれ同意のLINEを送っていた。

『るい』

別の方から通知が来た。それは望々からの個別で一言名前が送られて来た。

『なに?』

『花火大会2人で行く?』

『みんなで行けばよくない?』

『あそ』

少し不機嫌になったのかぶっきらぼうに返事を返され消えてしまった。

みんなの方のグループを開き返事を打ち込む。

『みんなでいいよ』

『りょかーるいは決定ね、うちらも大丈夫だから。ののどーするー?』

既読は四になっているため一応みてはいるのだろう。全く返事がないが。

『それでいい』

『はーいおけ。じゃあ会場はるいの家が近いから集合はるいの家でいい?』

『私はいいよ』

『じゃあそれにしよ。また近くなったらちゃんと決めよ』

由佳は結構きちんと予定を決めるタイプでこういう時はだいたい彼女が仕切っている。いつもしっかりしているのは梨華で、杏奈は結構自由な感じだ。

スマホの画面を切り替えて音楽に変え本に戻る。しばらく読んでいると通知が鳴った。

『るい今暇か?』

望々からの通知でスマホを開く

『まあ、暇かな』

『電話。暇。』

『いいよ』

すると電話がかかって来てそれに出る。

「どうかしたの?」

「いや、暇だったから。」

「あそう」

テレビ通話にしたのか彼女の顔がうつった。

本に栞を挟んでベッドの横に置いてある机に本を置く。ヘッドフォンをはずしスマホからコードを抜き机に置いた。スピーカーとスマホを接続する。

「みんなと行くの、嫌なの?」

「そうじゃない」

「なにが嫌だったの?」

すると望々は黙り込んだ。しばらく沈黙が起きる。

「あの子たちには言わないから言って?」

無言。スマホをみると彼女は寝転がっていてお風呂上がりなのかシーツが濡れていた。すると彼女が顔をそらして言った。

「俺、るいと2人でいくって約束したのにお前みんなから誘ったのを断らなかったから」

「…は?」

しばしの沈黙。彼女は顔を赤らめてそらしていた。

「…は?」

「に、二回もは?って言うな!」

彼女は勢いよく起き上がった。

「あー、私なりの解釈をするとののは私と2人で行こうって約束したのに私がみんなと一緒でいいって言ったから拗ねてるってことでいいの?」

「す、すねてない!」

「他はあってるの?」

「えっ、え、あ、…はい。」

また顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。

なんだこれは。

なんだこの可愛い生き物。

「…えっと、ごめん」

「…」

「のの、ごめん」

「…」

「ごめんなさい」

まったく返事がない。怒ってしまったのだろうか。ならば情に訴えかけてみよう

「のの…るいが悪かった…ごめんね?お願い、ゆるして?」

一人称を名前に変えちょっと拗ねて謝る。みんなこれで許してくれたし、なんでも言うことを聞いてくれた。

しばらくの沈黙のあと彼女が口を開いた

「…バカるい、別に怒ってない」

「そっか」

ちょっと照れて拗ねた彼女の顔に思わず笑みがこぼれる。

しばらくずっとたわいもない会話を交わしていた。すると扉が開いた

「お姉ちゃん、電子辞書かしてくれない?」

「ん?ああるりか、いいよ、勝手にとって」

2つ下の双子の片割れの妹の瑠璃子。今中学2年だが私より背が高く、結構しっかりしているため年齢より大人びて見える。真っ黒な黒髪と私と違い内巻きのボブといった髪型で一見顔立ちは全く似てはいないがパーツごとにはよく私と似ている

「あ、パパとママ今日も帰らないらしいから」

「また?もう5日もかえってないじゃない。」

「一週間後には出張で9月までいないけどね」

「はあ…わかった、ありがと。のの、ごめんね」

「ののちゃんと電話してるの?」

「そうですよーるりこちゃん久しぶりー」

よく望々は家にきているから二人は顔を知っているのだ。しかもうちの家も望々の家も出張で親がいないことが多いためお互いの親の同意のもとで彼女はよく花宮家に泊まることが多い。そのため彼女の私物が多々あるのだ、その上彼女専用のものなどまでが完備されてしまった。ほとんど家族の一員になりつつある彼女に瑠璃子ともう一人の弟妹と猫のリンレンたちはすっかり懐いてしまった。

「わあののちゃんだ!次いつ泊まりに来る?」

「あれ、前いわなかった?ののもしばらくずっと夏休み親さんいないからうちに泊まるのよ?」

「そそ、るりこちゃんよろしくな」

「やったぁ、るかに言ってくるー」

瑠架は瑠璃子の片割れの双子である。彼も背が高い、同じ黒髪と柔らかい猫毛の髪質で顔立ちは私とよく似ている。

「まじ!ののちゃんくんの?」

走って部屋に飛び込んできたのが二人いた。ひとりは弟の瑠架。もう一人は末っ子の妹で13下で3歳の今絶賛幼稚園の瑠海亜。走ってきた瑠架に一生懸命ついてくる瑠海亜が微笑ましくて内心笑いながら頷く。

四人姉弟で女ばかりのこの家に、男っぽい望々は瑠架にとっては兄のようなものなのだろう。きちんと女の子みたいな面もあるから瑠璃子にも好かれていたし、瑠海亜と遊んでくれていたりするから、三人ともよく彼女に懐いていた。

「ののちゃん、いつくるの?」

「別にいつでもいいかな」

「じゃあ明日からにしてよ、夏休みっしょ?」

「うーん、別に俺はいいけど…じゃあるい大丈夫?」

「別にうちはいいけど、ののさえいいなら別に私は構わないよ」

「じゃあ明日から泊まりに行くわ。」

「「よっしゃー」」

よくわかっていない瑠海亜に説明してやる

「ののちゃんが明日来るって」

「たー!」

みんな部屋を飛び出していった、きっと彼女達も父と母がいなくて寂しいのだろう、だけどそんなわがままが通じないと分かっているため全くわがままを言わないのだ。

「ありがとね、のの」

「なんで?」

「あの子達、パパとママがいないの実はすっごく寂しいのよ。瑠海亜もまだ小さくて甘えたい盛りで瑠架とか瑠璃子は反抗期に入り始めるような年なのに親がいないから。だから、ののみたいに甘えられる人が増えるのは嬉しいんだろうね。」

「そっか」

左右に寄り添うようにいる猫二匹をなでながら妹たちがいた方向を見つめる。

「お前は甘えたいとか思わねえの?」

「そんなわがまま言ってられる暇があったらあの子たちの願いをかなえてあげるわ」

笑いながら答える。しばらく黙り込んだ彼女が口を開いた。

「別に俺に甘えてもいいんだけど?」

「はあ?」

思わず吹いてしまった、彼女からそんなこと言われるとは。

「一応俺の方が誕生日はやいから年上だかんな?」

「数ヶ月しか変わらないじゃない」

「うっせ」

思わず笑ってしまう、彼女の一言がおかしくてずっと止まらずに笑い続けていた。

「…そんな笑うなよ」

「のの」

「なんだよ」

「ありがとう」

「…別に」

照れて向こうを向いてしまった彼女に思わずこみ上げる笑いをこらえる。ふとスマホの画面をみると時間は11時をさしていた。

「おお、私たち二時間話してるよ」

「うっわ、まじかよ」

「11時だしそろそろ寝落ち電話モードに切り替えていい?」

「はいはい、お前が寝たら電話切っときます。」

電気を消してベッドに潜り込み目覚ましのタイマーをかけておく。

「明日部活あったか?」

「ないよ」

「そんじゃ、服とか用意したらお前ん家九時ぐらいにそっちいくわ」

「りょーかい、うち朝ご飯それぐらいだから一緒にご飯食べる?」

「食う」

「ん」

ベッドに入るとだんだん眠気がしてきてため目を閉じた。ずっと意味がわからない話ばっかりして眠りが深くなってくるのを待った。だんだん意識が遠のいていく。

「るい?…寝たのか」

花宮瑠李の寝息をたてる音を聞き、星岡望々は一言

「おやすみ、るい」

そっと電話を切った。


ー花宮瑠李が恋をするまであと数日ー

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