5話【恋】

「なあ、るい」

「なあに?」

ある六月終わりかけの日。雨がすくなくなったがあいにく今日は雨だった。いつもと変わらない帰り道、最近はよく、いや毎日一緒に帰るようになった。望々は自転車を持ち私の傘にはいって相合傘の状態だ。

「いや…えっとその」

「早く」

「あの…中杉くんに告られまして…」

「ん…?????」

「中杉くんに告られまして…」

「はぁあぁぁぁぁあぁぁ!?!?」

「えっ」

中杉翔平なかすぎしょうへい。同じ吹奏楽部員で打楽器を担当している一年だ。一応同じ小学校ではあり私は1つ彼との間には事情がある。

「ののと中杉くんって、会ってから確か二ヶ月…」

「うん」

「え、早すぎでしょ」

「しかもるいに前告ってなかったか?確か…四月の終わり…」

「その前に小学校で3回ほど告られてるわよ」

「は?」

そう、私は何度か彼に告られている。中杉くんは女子に優しくされるのが弱いらしく優しくされるとその人にすぐ告るらしい。けれどどちらかというと地味なタイプであるし、別の告られたらしい女子から聞いただけだがストーカー気質なんだとか、まあ別に今私の害にはなってもいないから興味はない。

「で?断ったんでしょう?」

「いや、断ろうとしたら…逃げられた」

「は…??」

言う言葉がない。逃げるってなんだ逃げるって、乙女か。

かなり望々は男子とよく絡むから吹部の時でも男子とよく話しているのは見たが中杉くんとはあまり見ることはなかった。まず、ああいった男の子っぽい所が多かったりするから流石にあの中杉くんでも惚れることはないだろうと思っていた。

さて、どうしたものか

「ののはいやだ?」

「いや、俺は別に。まあ俺顔いいからさぁ」

「キモ」

「えっ」

こんなナルシストで変態でばかで鈍感なこいつをなんで好きになったんだか。まあでも

邪魔だったら排除してしまおう。

「1つ注意しとくけど振った後大変だから頑張ってね」

「なんで?」

「説明より実感した方が早い、あと絶対証拠が残っちゃうような振り方はだめ、メールとか手紙とか。直接きっぱり断ること。」

「は、はい」


–数日後–

「ああ、眠た…」

教室の1番端っこの後ろであくびをしながら寝ようとすると

「るいーののちゃんきてるよー」

「ん?ああ、ゆみありがとね」

そう言って微笑み頭に手を置くと抱きついてきたため手を回してやり背中を叩く。満足したのか、腕を解いたため望々の所へ行く。だるそうな立ち姿はいつものことで、暑いのか首筋はほんのり汗が浮かんでいる。

「相変わらず王子様かよ、俺と他の子の時の対応違いすぎるだろ…」

「チャラ男のたらしにやる必要ある?というかやってほしいの?」

好きでこんなのを覚えたのではない。なにかとこれがあれば便利なのだ。必要だから覚えただけのこと。

「で、どうかした?」

「中杉の、断って来たぞ」

「ああ、それならもう知ってるからいいわ」

「なんで知ってんだよ振ったの前の時間の休み時間なんだけど…」

「いやでもそのうちわかるわ」

まあ単純に自分の場合は人を使っただけだけども。中杉くんの性格上遅くても明日には広まっているだろう。一応私ももとは被害者だ、次の手口ぐらいすぐわかる。もし邪魔になるようなら

徹底的に排除しなければ。

「お前さ」

「ん?」

「結構顔可愛いしさ、俺の前ではすっげえあざといぐらい可愛いのになんで他の女の子にはあんななの?」

「へっ…?」

さらりと可愛いとかいうのやめてほしい、というかあざといという部分が聞き逃せないんだが。

「肌も結構白いし」

顔に手を添えてくる

「顔ちっちゃくて目大っきいし、まつ毛長いし。」

髪を手ですいてくる

「髪も真っ黒でさらさらで綺麗に長いのに」

腰を抱き寄せてくる

「それに手足も長いし、ほっそいし」

身長は私の方が高いのに、断然強い力。けれど顔をよく見れば長いまつ毛、白い肌、結構整っていて女子らしい顔立ちをしている。相変わらずの甘ったるい香り。

「俺の前だったら気づいてないのかもしんないけどあざと可愛いとこいっぱいあるからな?」

すると手を離して頬を引っ張られた

「顔真っ赤、可愛い」

そう言って笑うと逃げていった。

なんだこれは

このままじゃラブコメではないか。

席に戻ると前の席から話しかけられた

「ねえののちゃんとるいって付き合ってるの?」

「はい?」

クラスのいわゆるお笑い系タイプの子で今井菜乃いまいなの、席替えをして近くなりなんだかんだ趣味があうためクラスでよく絡んでいる仲だ。

「なんでそうなってんだよ、まずあいつ女だかんな?」

「噂になってるの、そういうのがあるからるいに告白を諦めた女子と男子多いんだから」

「なんであいつとので諦められるんだ」

ため息をつき机に突っ伏す。

「で?実質どーなのですか?」

「は?」

「ののちゃんのこと、好きなの?かなりラブラブしてるカップルにしか見えないけど、一部の男子と女子からは2人のカップリングが熱狂的な支持を得てますけど」

「は…???」

「だってどう見てもカップルじゃん、美少女なのに王子様のようなイケメンでギャップ受けしてたるいさんと、それを女の子にしちゃうたらしのののちゃん。腐女子としては美味しいです。ふふふふふ」

「いやお前確かBLだけだったよな…」

「細かいとこは置いとくのです。個人的にはもっとラブラブしてくだされば目の保養なんですがねぇ。そのうちもっとあれやこれと進展しないかな、ふふふふふ」

最後は聞かなかったことにしよう。正直なとこ女の子に興味はないしそもそもの話、好きという感情がわからない。それに、中途半端な気持ちであの子を、望々を傷つけたくない。確かにあの人は優しいし、カッコいいし可愛い、だんだん気を許して本性でいるのは真実だ。だけど、好きという気持ちだけはいまだに全くわからない。

「ののちゃん、ほっとくととられちゃうぞ?」

「いやべつにいいけど」

「へえー?」

「はーい席につけーチャイムなるぞー」

先生がきたため菜乃は前を向いた、1つ彼女の言葉に引っかかった自分がいた。

私は望々をどう思っているんだ?


–数日後–

「ねえ聞いた?中杉くんって星岡さん好きらしいよー」

「でももう振ったんでしょ?」

「あ、なんか中杉くんが言ってたけど星岡さん好きなの人いるらしいよ!」

「それってやっぱりあの花宮瑠李ちゃんなのかな?」

「でも女の子同士じゃない?」

「そうだけど、ものすごいカップルじゃん、ああいう感じのカップル憧れるなぁ」

「というか中杉くん星岡さんにきっぱり断られたって言ってたよ」

「手紙も渡したらしいけど読まずにその場で捨てられたんでしょ?好きな人に一途なのはいいけどちょっと酷いよねー読んであげるくらいしたらいいのにさぁ」

「それに最初から断るはずなのになかなか返事返さなかったんでしょ?ちょっとねー」

ほかの女の子たちからの声が聞こえてきた、やはり数日後には噂になっていたが自分が被害者のような言いふらし方は相変わらずらしい、私は本人からも聞いたし調べもしてるから本当のことを知ってはいるが今回はかなりひどい。望々はきちんと断りはしたが、手紙は渡しもしていないし、返事もしようとしたのに向こうが言おうとするたび逃げるからなかなか返せなかったのだ、というか

私がなぜ出てきた!?

「いったやないすか、お二人さんでお噂なってまっせって」

「なの…」

変な口調で現れたなのを睨む

「怖い怖い、可愛いお顔が台無しよ」

「まさかここまでとは思わなかった」

「というわけで、ののさんがお呼びですよ」

廊下を見ると望々が待っていた、そっちへ行く。

「中杉のすっごく噂になってるんだけど」

「そりゃああの人が言いふらしてるしねぇ」

「俺手紙なんてもらってもないんだけど、しかも返事とかすぐ返そうとしたし、それに好きな人がいるとかも全く言ってない!」

「はいはいどーどー」

怒っているのか口調が強くなる彼女をなだめるため胸を軽く叩く。倒れこんできたため受け止めてやり、頭を撫でてやる。さて、どうしたものか。本来ならこのままほっとけばそのうち消える噂だが、仕方がない

今回は、邪魔だ。

「のの、任せて」

「え?」

「私が全て、なんとかしてあげる」

微笑んだ。他の子に向ける偽りの笑みではなく、まるで赤子をあやすような、愛おしむような、大好きな人に向けるような、そんな笑みだった。その笑みは星岡望々しかしらない。


–翌日–

「中杉くん実質手紙なんて渡してないんだってねー」

「しかも告白の返事とかもあれ自分から逃げてただけだってさ」

「うわ、最低ーっていうことは前の噂のやつって振られた逆恨み的なので言いふらしたってこと?」

「それしかないっしょ」

「好きな人の件は?」

「あれも嘘じゃない?」

「うっわまじありえない」

「うーんでも」

『あの2人はお似合い』

「だよねー」

「中杉くんがるいちゃんに勝てるわけないよねー、ほんとあいつ最低じゃん。広めてやろーっと」

女子たちの会話に耳を傾け満足気に微笑んだ。最後の方の会話は置いておこう。

昨日まではそこらへんで中杉くんが流した噂が多かったが、今日はほぼ全体がさっきみたいな噂で持ちきりだ。

「満足そうにわらうねぇ、どーかしたのかね?」

相変わらずお気楽そうな口調で現れた菜乃に微笑んで答える。

「んーなんでもないよ?」

「へぇ。あ、ののさんきてまっせ」

「ありがと」

今日はいつもより機嫌が良さそうな望々のもとへ向かう。

「るいどうやったの?」

「なにが?」

「朝来たら中杉くんのやつ本当の方で持ちきりなんだけど」

中杉くんは広めるのに数日かかりしかも広まったのはごく一部。けれど私はそこまで馬鹿ではない。ほぼ全体に広まりしかもたった1日。もう少しおもしろくしても良かったのだがたいして中杉くん自体が知られておらず思ったより広めることに苦労してしまった。

「んーないしょ」

「まあいっか。るいありがと」

すると後ろを向かされ抱きついて来たため回された腕を手で握る。顔を見なくてもわかる、かなり幸せそうに笑う彼女の顔が私には嬉しかった。

「なあなあるい、社会の教科書かしてくんね?俺忘れたんだよね」

「ん?ああじゅん!ちょっと待ってて。ののごめん、ちょっとのいて」

佐野潤さのじゅん、近くに住んでいて3歳ぐらいからの幼なじみ。小学校の間はずっと同じクラスでなんだかんだ男子の中で1番絡んでいた人でもある。

「おい、星岡。お前、中学校からるいに引っ付き回ってるけどるいのなんなの?」

「は?お前に関係ないだろ。」

「…るい傷つけたら絶対許さないからな」

「あ?いきなりなんだよ、ふざけんな、俺がなにしたっていうんだよ。というかだったらそういうお前も傷つけんなよ」

「当たり前だろ」

「なんの話してるの?はい、じゅん教科書」

「あ、ありがと」

「るーいっ」

また後ろから抱きついて来た彼女を見上げ頭を撫でる。なぜか今日はとても機嫌がいいらしい。なかなか離れないため手を持つといわゆる恋人繋ぎをして来た。

「チッ」

「ふっ」

「どうしたの?2人して」

星岡望々は彼の気持ちに気付いたらしいが花宮瑠李は佐野潤の気持ちに一切気づくよしもない。

「あ、チャイムなる。じゃねー」

今日も相変わらず私の日常は平和である。

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