4話【彼女の優しさ】
–六月–
「はーいみんなー合奏するよー」
みか先輩の呼び声が聞こえた、楽器と譜面台を持って音楽室へ向かう。
音楽室に入ると何人かいた。席につく。周りには話している人やお茶を飲む人、楽器を吹く人など様々だ。
「よっしゃ合奏するでー」
杏果先輩が前に立った
「ロングトーンするよー1、2、3、4」
メトロノームの音、楽器それぞれの音。一人一人個性がある音だけどうるさくない。汚くない音だ。
汚いものは嫌い。苦いものも、嫌いだしいらない。甘くて綺麗なものが好き。だけど甘いお菓子を食べても綺麗なものを見ても、満たされることはなかった。綺麗な服を着ても、美味しいものを食べても、バッグとか筆箱とか甘ったるいストラップつけても、漫画や小説を読んでも、映画とかアニメとかをみても、音楽を聞いても、カッコいい男の子と付き合ってみても、可愛い女の子と戯れてみても、たくさんお金を使っても、満たされるといったことはなかった。
「…い!るい!」
「あ、のの…な、なに?」
「なにじゃねえよ、休み時間」
「あ、うん」
まただ、考え事をするとすぐ止まらなく。悪い癖だ。
「るい大丈夫か?」
「なにが?」
するといきなり額に手がきた、ほんのり冷たくて少し大きめな手。顔を上から覗き込まれるとののから匂ってくる甘い匂いが強くなる。柔らかい優しい匂い。
「やっぱり熱あんじゃん、顔赤いし息も若干荒いし」
「そんなことない、大丈夫」
「大丈夫じゃない、先輩に早退届けだしてくる、送ってやるから帰るぞ」
「ののまで帰ることないでしょ」
「お前1人で帰ったら俺が心配で無理。」
というと先輩のところへ行き話し始めた
「よし、るい帰るぞ。先生は先輩達がなんとかするってさ。そんじゃ杏果先輩、これ連れて帰ります」
「よろしくー命かけてもるいちゃん守ってねー」
「はは、了解しました」
手を差し伸べられてそれを掴むと立ち上がらさせてくれて抱きとめてくれた。顔が埋まるとさらに強くなる匂い。荷物を持たれ手を引かれて音楽室を出た。
「ねえすみちゃん」
「はい」
「あの2人カップルよね」
「同意します」
「大丈夫か?なんかふらふらしてっけど」
「うん、大丈夫。ごめんね」
自転車のかごには自分の荷物が乗せられ、望々の腕に捕まっている状態だ。確かに今支えがないとどこかで倒れていたかもしれない。
「わ、こらバカ!」
「ふぇっ」
いきなり腰を片手で抱え込まれ引き寄せられた。一層強くなる彼女の匂い、さらにふわふわしてくる。
「信号赤だ、気をつけろ。本気で死ぬからやめて、杏果先輩に殺されるから。」
「あ、ありがとう、ごめん。」
「ほんと危なっかしいな…ちょっと目離したら消えてそう」
「勝手に人を消さないで、そんな危なっかしくない」
「ほんとかよ」
信号が変わり渡っていく。歩くと揺れる彼女の髪、自転車が揺れるたびに音がなるストラップ。まだ青い空は日差しが弱く、ほんのり吹く風が心地いい。
「それにしてもほんとに鞄甘ったるいな。」
「フェイクスイーツっていうの、可愛いでしょ?」
「ほんと女子だな、俺にはわからん」
「ののって女子じゃなかったっけ…」
「なんかいったか」
「なんも」
入り組んだ道に入りひたすら進んでいく、そこを抜け裏道に入れば木のアーチができていた、葉の間からさす光が綺麗だ。
裏道を抜けすぐ曲がると一軒家がある。
「ついた、ありがとう」
荷物をカゴから取ろうとすると
「いいよ、中まで持っててやるから。」
「え、いいって」
「こういうときぐらい甘えろ」
門の鍵を開ける、開けるとすぐ見える芝生の庭で横には車庫がある。草の生えていない一本道を歩いた先には家がある。玄関のドアを開けると黒猫と白猫が座っていた。
「ただいま。レン、リン。」
「相変わらず綺麗だよなレンリンは、賢いし」
レンは真っ黒な毛並みでリンの方は対照的な真っ白な毛並み、けれど二匹とも珍しいおなじ青い瞳を持つ猫である。靴を脱ぐと二匹が左右の足にすり寄ってきた、腰を下ろして二匹を撫でてやると喉を鳴らし始めた。
階段を登り角を曲がって1番奥の部屋のドアを開ける。
「やっぱりるいの家すげぇわ」
「そう?荷物ありがとう」
「体調大丈夫か?」
「多分大丈夫、ごめんね。」
「いいよ、んなわけで帰るわ」
階段を降りて靴を履きドアを開ける。庭を通りすぎると自転車が置かれてあり、鍵を開ける。ののはヘルメットをかぶり始めた。
「おい、るい」
「なあに?」
するといきなり腕を引かれた。
「あっ」
「あんま男の前でふわふわしとくなよ、あと引っ張られたりして変な声出さないこと」
するといきなり耳に息を吹きかけられ、すぐに自転車のストッパーが上げ方向を変えた
「ひゃぅっ」
「耳弱いのかよ、じゃあな。」
「バカ」
頭をなでられる。その感覚がとても気持ちよかった。自転車を漕いで帰る姿を見送り、まだ息を吹きかけられた感覚が残る耳を抑え1つ呟く
「優しいのか変態なのかはっきりしてよ。ばか。」
腹がたつのにどこかくすぐったい気持ちはどこか幸せだったのかもしれない。
この気持ちがなんなのかはまだ花宮瑠李は理解するよしもない。
けれど、
一つわかったのは
とても甘かった。
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