1話【入学】

–四月–

春だ。暖かくなったものだ。新学期入学式当日の朝、桜並木の下を歩く。桜の雨が降る道を歩いていく

「おーい、るいー!」

「ん、おはよ」

「おはよじゃない、遅い。」

「はいはい、ごめんごめん」

「もう」

幼馴染みの平川千夏ひらかわちなつ。小学校時代からずっと毎日毎日一緒に登校している仲だ。

「るい、あんた今日入学式だよ…初日から遅刻したらどうすんのよ」

「いいよ、どうせ寝るし」

「寝るな馬鹿、寝たら殴るよ」

たわいもない会話。平々凡々な日常の一部。こんな小さなことだがこの平凡なこれがある意味幸せだ。

「るいー!ちなつー!おっはよぉおおぉお!!!」

「あーはいはいおはよ、朝っぱらからご苦労さん。ついでにもう一回寝てこい。」

「さくお願いだから普通に来てよ」

「慣れたでしょー」

もう1人の幼馴染みの古井朔ふるいさく。三人の中で一番テンションが高い。無駄に高い。

三人で歩く道。いつもより遠い道を歩いていく。変わりもしない朝、ゆういつ変わったとしたら制服と学校へ行く道ぐらいだ。

「よっしゃついたぜ!」

「うわ、人多すぎでしょこわ。」

「はいはいクラス見に行くよ」

クラス発表の一覧の前にはたくさんの人だかり。喜んでる人やら、ショックそうな人やら、まあ自分には関係ないが。

「えとー古井古井…あったー1-7だってー」

「私は…1-6。るいは?」

「あー花宮瑠李はっと…1-3だって」

「見事にばらばらですのう」

「毎年な」

「クラスごとに集まってるから別れるか」

「んじゃ行こっかまたね」

1-3の女子だろう。見知った顔やら初めて見る顔と様々だった

「おお、るいさんやないですかぁー」

「ほんとだー」

「おんなじだ!やったねー」

ほぼ全員平和主義者。かなりありがたい。まあ興味はないが。

みんなで教室へ行く、小学校と中学校のときとは違い高校は校舎が出来立てでとても綺麗だ。クラスへ着くと何人か人がいた。席表を見る、席は一番後ろだ。

席へ着く。持ち歩いている本を取り出して開こうとする。

「ねえねえ名前は?」

見上げると前の席の女子が話しかけて来た。長い髪は茶色く肌は白い。タレ目のやわらかそうな子だ。

花宮瑠李はなみやるい、るいでいいよ」

ここで持ち前のスマイルつき。愛想笑いに見えずけれど楽な笑顔。あくまで感じよく。嫌われない程度のお飾りだ。

「るいねーおけおけー私浜川祐未はまかわゆみ!ゆみでいいよ」

「りょーかい、ゆみね、よろしく」

「よろしくー」

軽めの明るい口調。やわらかく微笑む。何年間もこれで通して来た。嫌われないように、けれどほどほどに距離を置いておく。私の中の私のルールだ。私が幸せでいるための、私の幸せを奪われないための。


『新入生が入場します。大きな拍手でお迎えください。』

入学式序盤。早速眠い。でも起きておく。1人1人返事をするのが終わったら少し寝よう。

長い。とてつもなく。今年は200越えしているらしくかなり人数がいる。やっとさっき三組に入ったところだ。

『16番 花宮瑠李』

「はい」

おわった。寝よう。おやすみなさい、私。寝ようとした瞬間隣に突かれた。

「るい、寝ないで」

「え、嘘でしょ、無理。寝かせてくださいなお様」

一つ出席番号が前の原西奈緒はらにしなお。小学校一年からずっと同じクラスで必ず一つ前の出席番号の子だ。ストレートの長い黒髪をポニーテールでまとめた女子だ。

「入学式くらい起きてて。ちなつちゃんに言うよ」

「大変申し訳ございませんでした。それだけはご勘弁を。殴られる」

「相変わらずちなつちゃんにはかなわないのね」

「下手したら死ぬからな」

と、まあこんな感じに進んで行く何気ないこの日常。変わるはずもない平和な日々。

このお話は

たった一人の女の子が1つの愛を見つけた童話に出てくるお姫様みたいな

たった三年間のおとぎ話。

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