発見

 田舎のワンマンカーだからか乗客はおばさんが二人居るだけだった。座席が広々使えて嬉しいが寝転ぶわけにはいかないので神妙に座って車窓から景色を眺めながら過ごす。長閑で心地好い。

 そのまましばらくは静かに過ごせたけれどもある駅で学生がどっと乗り込んできた。広かった車内がいっぺんに狭くなる。田舎だと言っても今の時代、都会の学生と車中の学生にこれといった差は見られない。みんな垢抜けていて髪型も身嗜みも普通。私が学生の頃は放ったらかしが普通だった眉毛の手入れもバッチリである。それぞれスマホをいじくったり仲間内で話したりしている。旅情を感じようと田舎臭い子を探してみたが無理であった。というか、これは私の田舎に対する一種の色眼鏡であるのではないかなどと考えたりする。

 物思いにふけながら学生たちと一緒に電車に揺られること数分、まだ帰路半ばであるが電車を降りた。実は帰路についたとはいえ簡単に帰ってしまうのも勿体ないので途中下車するつもりだったのだ。

 私が降りた駅では他の乗客は誰も降りなかった。無人駅でホームにも駅前にも人影は無い。駅前の広場の先に線路と並走する道路がみえる。その道路の向こう側にこちらを向いて旅館のような建物や雑貨屋のような建物が並んでいるけれども、どれも古ぼけた感じで営業している気配はない。日も暮れかけてきて少し薄暗いので物寂しい。道路からは路地が何本か向こうへ伸びている。落ち込んでいるように見えるので坂道を下っているようだ。時刻表では次の電車まで一時間ほどあるので散策するにはちょうど良い。

 広場を進んで道路に出る。車も人も通らない。風景の中で動いているのは私だけのようだ。ほぼ消えかけている横断歩道を渡って道路の向こう側へでる。右手の方が開けていそうなのでそちらへ進む。道路に面している4、5軒の店はすべてしもた屋らしい。その前をキョロキョロ眺めながら通って一番最初に出くわした路地を左へ曲がり坂道を下る。少しカーブしながら進んでいくとはじめて営業してそうな和菓子屋があった。

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