第3話「初デートは珈琲より苦い味」
日曜日になった。
あれからどうするか悩んだが、結局、高橋さんの買い物に付き合うことにした。
そうした理由は二つある。
一つは、彼女が純粋に野球の実用書について、僕の意見を欲しがっていたこと。
メールからのやり取りや直接話した感じ、彼女にはそれ以外の理由で僕を誘っているように思えなかった。
そして、もう一つは、これが彼女の誘いに乗った最大の理由でもあったのだが、お隣さんの名倉家からホームパーティーのお誘いがあったことだ。
高杉家と名倉家の関係は、僕や浩介が生まれる前から良好なものとして築かれていた。
そして、僕と浩介が共に同じ年に生まれたことによって、その関係はより深いものとなった。
だから、どちらかの家でホームパーティーを行うことも珍しくない。
けれど、野球をやめてから、僕は何かと理由を付けて一度もホームパーティーに参加していない。
あまり浩介や向こうの両親と会いたくない。うちの両親と浩介、向こうの両親が集まれば、自然と野球の話になるからだ。
だから、今回の高橋さんからのお誘いは願ったり叶ったりだった。
これで、ホームパーティーへの参加を断れる正当な理由が出来たのだから。
まあ、どちらにしても野球関連の話にはなるのは避けられないのだが、高橋さんの方が僕の過去を知らないだけ、幾分か気が楽というものだ。
その日は、午前十時に駅前で待ち合わせの約束なっていた。
僕が約束の時間の十分前に待ち合わせ場所付近に着くと、既に私服姿の彼女がその場所で待っていた。
彼女はキョロキョロと誰かを探すように辺りを見渡している。
あまりいい趣味ではないなと自覚しつつも、僕は物陰から彼女の様子を見ていることにした。
思えば、彼女の私服姿を見るのは初めてことのだ。
彼女は、首元から胸元にかけてフリルの付いた水玉模様のノースリーブブラウスと膝丈ほどの白のスカートで身を包んでいる。
大人しめだけれど、どこか色っぽさも感じさせつつ、可愛らしさもある。
彼女らしい装いだなと思えた。
そうこう観察していると、茶髪に染めた若い男が彼女に話し掛けてきた。
見るからに軽薄そうなその男が彼女の知り合いではないことは明らかだった。
話し掛けられた彼女も困った顔をしている。誰からどう見てもあれはナンパだ。
男はしつこい。彼女が手も首も左右に振って断っているのに、諦めない。
流石にこのままでは彼女が可哀想になったので、そろそろ出ていこうかと思い始めた時だった。
「あれ……?」
男は慌てた様子で彼女から離れて行ってしまった。
何があったのか、遠目からでは分からない。
けれども、これで僕も正々堂々と彼女の前に出ていける。
時刻も約束の時間ぴったりだ。
男がどこかに行ってしまった後は、彼女は不安そうにキョロキョロと辺りを見渡していた。
だから、出ていこうとしていた僕はすぐに彼女に見つかってしまった。
僕を見つけた彼女はパァっと表情を明るくする。
「やあ、おはよう。お待たせ」
僕は白々しく挨拶をする。
けれど、彼女は先程あったことなど、微塵も感じさせず笑顔のまま返してくれた。
「おはよう! ううん、大丈夫だよ。時間ぴったり!」
「あ……う、うん」
僕達の関係を知らない人間から見れば、恋人のように思える会話なんだろうなと思い、少し複雑な心境になってしまう。
「それじゃあ、行こっか!」
僕の心境をよそに、彼女は笑顔でそう言うと、僕の前を迷いなく歩きだした。
僕はそんな彼女を追いかけ、横に並んで一緒に歩いた。
書店への道すがら、僕は疑問に思うことを彼女に尋ねていた。
「しかし、野球の事も分からないのに、よくマネージャーなんて引き受けたね? そんなにしつこく勧誘されたの?」
そう尋ねると、彼女は目を丸くした後、あはは、と笑った。
「違うよ、高杉君。確かに入学当初は、先輩から勧誘もされたけど、しつこいってほどじゃなかったよ」
「そうなの? じゃあ、どうして……?」
彼女に再びそう尋ねると、今度は真面目な表情でじっと僕を見据えてきた。
「あ、あの……」
僕はその視線に耐え切れず、声を掛ける。
すると、彼女は少し微笑んだ後、前に向き直り、どこか遠くを見るような目をして語りだした。
「私ね、本当は野球が好きだったの。中学の頃、友達に野球の試合観戦に誘われて連れてってもらったことあってね。そこで見た時に好きになっちゃったんだ。試合中に、チームメイト同士で掛け合う声とか、バットから響く快音とか、ピッチャーが投げた球がキャッチャーのグローブに収まる瞬間に聞こえる音とか、スタンドからの声援のとか、全部の音がね、すっごく気持ちよかったの」
「……それで、好きになったの?」
「うん!」
そう頷く彼女の目は輝いていた。
その目は、彼女が語ったことに嘘がないことを証明している。
「だけど、私がその瞬間野球を好きになったのは、その時の試合で登板していたピッチャーのお陰なんだ」
「ピッチャー、の……?」
「うん。そのピッチャーはね、すっごく速い球を投げるの。誰にも打たせるものかっていうくらいの気迫が観戦している私にも伝わるくらい凄かった。その証拠に、彼は何人も三振に打ち取ってた。彼の後ろを守る選手も、ベンチに座る両チームの選手も、そして、その試合を観戦する観衆も、誰もが彼に注目し、感嘆していたの。もちろん、私も。彼のマウンドに立つ姿は今でも忘れられない」
彼女はその時のピッチャーの事を思い出しているのか、話しながら時折目を瞑って話している。
その時、瞼に焼き付けたその彼の姿でも見ているようだ。
目を瞑って歩くなんて、僕には危なかしく思えてならなかったけど、思い出に浸る彼女の横顔は活き活きしていて、注意する気にもならなかった。
「凄い……ピッチャーだったんだね?」
「うん、凄かった」
彼女は頷き、そう断言した。
彼女の話を聞いて、なんとなくどんな選手だったのか、想像してみた。
野球を知らない彼女の心をそこまで射止めてしまうピッチャー。
その彼はきっと誰からも認められるようなプロ野球選手であるに違いない。
そんなプロ選手なら、僕も名前くらいなら知っているかもしれない。
そう思った僕は、彼女に尋ねてみた。
「ねえ、その選手って、なんて名前?」
そう尋ねると、彼女は目を見開いて驚いた様子を見せた後、頬を赤らめながら、苦笑いを浮かべた。
「ええっと……恥ずかしい話なんだけど……わ、分からないの」
「……は?」
彼女の言った事に僕は思わず間の抜けた反応を返してしまった。
その反応を受け、彼女はさらに顔を赤くして、怒ったように言い放った。
「だ、だから、その選手の名前、知らないの!」
「は、はあ!? 凄い選手だったんでしょ? だったら、名前くらい……」
「す、凄かったよ。凄かったけど……それが初めての野球観戦だったし、名前までは気が回らなかったの!」
彼女はそう言って顔を赤らめたまま、そっぽを向いてしまった。
その後、そのピッチャーがなんて選手だったのか気になった僕は、どこのチームだったのかとか、特定できる情報を彼女から引き出そうしたが、彼女は「知らない」の一点張りだった。
どうも、そのピッチャーが投げる姿だけに目を奪われていたらしく、その時はそれ以外の事は目に入ってなかったらしい。
それでも、そこまで引き込まれた選手なら、後日でも自分で調べそうなものだがと、僕は疑問に思ったが、これ以上追及しても話が前に進みそうになかったので、話を本筋に戻すことにした。
「それで? 野球を好きになったから、君は野球部のマネージャーになった、と」
「うん。本当は私自身が野球をしてみたかったんだけど、うちの野球部は女子選手を認めてないから。それで、マネージャーになったの」
「でもさ、君がマネージャーになったのって夏休み前だよね? そんなに好きなら、入学してすぐマネージャーになればよかったのに」
「うん、そうすれば良かったんだけどね……」
そう頷く彼女の表情はどこか暗かった。
「私ね、入学した当初は自分に自信がなかったの……」
「え……」
それは思いもよらない告白だった。
自分に自信がないだなんて、入学式の壇上であんなに堂々とした挨拶をした彼女からは想像できない言葉だ。
「意外?」
「う、うん。だって、君は入学式であんなに堂々としてたから……」
「あんなの、書いてあることを読めばいいだけだもの。練習さえすれば、誰にだってできるよ」
「そ、そうかな?」
「そうだよ。やろうと思えば、高杉君にもできることだよ、きっと」
そうは言うけれど、まずもって、僕ではあの場に立つことすら叶わない。
だから、誰でもってわけではない。
けれど、彼女の言いたのはそういうことではないのだろう。
たぶん、あの役目ならきっと誰でもこなせる、そう言いたいのだと思う。
だから、そんな役目を担ったところで、彼女の自信には繋がらなかった。そういうことなのだろう。
「だから、私には自信がなかった。野球の事も何も知らない私に、野球部のマネージャーなんて務まるわけない。そう思ってたの。そうこう迷っている間に、あっという間に三ヶ月経ってた。その間も先輩から誘いは受けてたけど、やっぱり踏み切れなくって。でもね、夏休み前に名倉君から誘われたの」
「こ、浩介から?」
突然出てきた浩介の名前に僕は思わず過剰に反応して、口を挟んでしまった。
「うん。名倉君にね、『高橋さんがいると士気が上がるから、甲子園を目指す上で君が必要だ!』なんてことを言われて、口説かれちゃったの。あの時は流石の私もドキドキしちゃった。だって、名倉君、すっごく真剣な顔して言うんだもん。一瞬、告白されたのかと勘違いしちゃった」
「こ、浩介の奴……」
アイツは昔から素面でとんでもなく恥ずかしいことを恥ずかし気もなく、さらっと言ってしまう。
そういう奴だった事を思い出した。
ああ、でも、そうすると、この間彼女が浩介の投球を夢中になって見ていたのは、もしかすると……。
「で、でもね、そのお陰で決心がついたの。その言葉があったから、野球部のマネージャーをやろうって思えたの」
「……そっか」
それが、高橋由香という人物が野球という球技に魅入られてから、野球部のマネージャーとなるまでの経緯だった。
この時の僕は彼女の話を本気で信じて、疑うことすらしなかった。
○
書店に入った僕達は野球に関する実用書とマネージャーとして役立ちそうな書籍を探すことにした。
と言っても、僕の方で適当な書籍を見繕って彼女に薦めただけだが。
「ちゃんとしたの見つかって、良かったぁ! ありがとうね、高杉君!」
「どういたしまして。それを読んで、分からない事があるなら、僕に聞くなり、部員に聞くなりするといいよ。ま、小学生でも分かるように図解にしてあるから、困りはしないはずだから、大丈夫だと思うけど」
裏を返せば、それだけ基本的なことしか書いていないということではあるのだが、野球の知識がほとんどない彼女には丁度いいだろう。
けれども、彼女は本当に嬉しそうにもう一度お礼を言った。
「うん、本当にありがとうね!」
「べ、別に、そこまでお礼を言われるようなことはしてないよ」
「うふふ、そんな謙遜しなくていいのに。私の買い物に付き合ってもらったんだもの、お礼は当たり前だよ。あ、でも、高杉君は何を買ったの?」
彼女は僕の持つレジ袋を見ながら尋ねてきた。
「あ、ああ、これは漫画だよ」
「漫画? あ、もしかして、野球漫画、とか?」
「まさか。今時、野球漫画なんて流行らないよ。これは僕の好きなギャク漫画」
「へえ……野球漫画って流行ってないんだ。でも、昔はそういう漫画も人気があったって聞いてたけど……?」
「昔は、ね。僕らの親の世代とかだと、高校野球を題材にした三角関係ものとか人気を博してたらしいね。今じゃ、それも昔の話さ」
何を隠そう、そういった漫画の主人公から僕の名前も取ってつけられたのだから、いい迷惑だ。
と言っても、もう随分の昔の漫画だから、今時の世代では知っている人も少ないのだが。
「ふぅん、そうなんだ」
彼女は少し残念そうに呟く。
「なに? もしかして、読んでみたいとか?」
「う、ううん、そういうわけじゃないよ」
「そう……ま、読んでも役には立たないよ。野球っていうより、恋愛がメインの話ばっかりだから」
「く、詳しいんだね?」
「ああ、それは――」
言いかけて、やめた。
僕は何を言おうとしてるんだ?
そういう野球漫画を読んで育った親の影響を受けて、自分も野球漫画を好きになって、それがきっかけで子供の頃から野球をやっていた、なんて事を馬鹿正直に話せば、絶対に赤っ恥だ。
「どうしたの?」
「い、いや。うん、ただ漫画が好きなだけだよ」
「そう、なんだ?」
「うん。そうなんだよ」
彼女は僕の説明に納得したのか、疑うそぶりも見せず、それ以上の追及もなかった。
僕はそれにほっと胸をなでおろした。
けれど、その安心も一時のものであることを、その直後に僕は知ることになる。
「ねえねえ、そろそろお昼だし、何処かに入らない?」
「え……」
買い物に付き合うだけのという約束だったのだが、なし崩し的にお昼を一緒に食べることに彼女の中ではなってしまったらしい。
「ダメかな?」
彼女は上目遣いで尋ねてくる。
その表情は少し卑怯だと思いつつ、とは言え、お昼時であることは事実であり、それを断る理由もなかった。
「う、ううん、大丈夫だよ。そうだね、どこか入ろうか」
「うん! それじゃあ、私のお薦めの喫茶店でいいかな?」
「い、いいけど……」
「よし! それじゃあ、ついてきて!」
彼女は弾けるような笑顔でそういうと、僕の前を歩きだした。
○
「あそこだよ!」
歩いて数分、彼女はその場所を指さす。
彼女が指さす所には、アンティーク基調の古めかしい喫茶店があった。
『喫茶カープ』という看板が立っている。
その喫茶店を見て、僕は愕然としてしまった。
「え……あ、あそこ……?」
「うん、そうだよ! 落ち着いた感じでいい処でしょ? この喫茶店はね、よく野球部のみんなと来てるんだ。マスターが野球好きでね、私もよく来るの」
「へ、へえ……そ、そうなんだ……」
僕は生返事を返すことしかできない。
僕にとっては、ここの店主の事など聞く必要も、教えてもらう必要もない。
よりにもよって、この場所なんて……。
「じゃ、入っちゃお?」
「あ、ちょ、ちょっと!」
カランと鐘が鳴る。
彼女は僕が止めようと声を掛ける前に既に喫茶店のドアを開けていた。
「ん? どうかした?」
彼女は敷居を跨ぎ、店内に入った後で、振り向いた。
「い、いや……」
もう時既に遅し。ここは諦めて入るしかない。
店内に入ると、外装と同様、アンティーク基調で纏められていた。
相も変わらず、店内にはお客はいない。
カウンターの中には、新聞を顔の前に広げて椅子に座っているがたいの良さそうな人物がいる。
間違いなく店主なのだが、客が入ってきたのに挨拶もない。こちらも相変わらずのようだ。
「こんにちは、マスター」
彼女は慣れた様子でマスターに挨拶をする。
すると、店主は顔の前で構えていた新聞を下し、口髭と顎鬚を蓄えた厳つい顔を露わにした。
そして、店主は彼女を睨むように見た後、その顔を綻ばせた。
その間に僕は慌てて顔を伏せる。
「よお、由香ちゃんじゃないか! 珍しいじゃねぇか、日曜に来てくれるなんて」
「近くまで買い物に来たんで、そのついでにお昼でもって思って。今、大丈夫、ですか?」
「ああ、もちろん。由香ちゃんなら、いつでも大歓迎だ!」
いかつい顔に似合わず、優しげに、かつ親しげに彼女と話す店主。
彼女が先程この喫茶店にはよく来ると言っていたが、店主との仲も良好らしい。……最悪だ。
「おんや? 今日は男の連れが一緒かい?」
「ええ、そうなんです」
顔を伏せ、彼女の後ろに隠れるようにしていたのだが、当然のように気づかれてしまった。
「むむ……」
店主は訝しげに唸っている。流石に気づかれてしまったか。
「……もしかして、由香ちゃんのコレかい?」
上目遣いで見ると、店主は小指を立てていた。
「もうやだ、マスターったら! そんなんじゃないですよ! それに、今時、その小指を立てるなんて古臭いですよぉ」
「ははは! ちげぇねぇや!」
店主は豪快に笑い飛ばし、それと一緒になって彼女も笑っている。
僕は笑ってなどいられない。
「好きなテーブルに座りな。あ、注文は叫んでくれれば聞こえるからよ。わざわざ呼ぶ必要ないからな。あ、後、水はそっちのウォーターサーバーから自分で汲んでくれや。いいかい、そっちのお友達君?」
「あ、は、はい」
店主に悟られないように短い返事だけをする。
相変わらず――いや、前よりもすごく適当で大雑把な接客になっている。
客が一人もいないのは、きっとこの接客態度のせいなのだろうと、この時ばかりは思わずにいられない。
「そ、それじゃあ、奥のテーブルでいいかな?」
「うん、いいよ」
僕が店主から一番見えずらい店の一番奥のテーブルを指さして言うと、彼女は訝ることなく了承してくれた。
「ここのハンバーグ、美味しんだよ? 私には量が多すぎてちょっと辛いんだけど」
席につくと、さっそく彼女はメニューを取り出し、そう教えてくれた。
どうやら、味だけは落ちていないらしい。
彼女がハンバーグを進めてきたので、僕はハンバーグセットとコーヒーに決めた。
彼女はパスタと紅茶を頼んだ。
もちろん、注文は彼女にしてもらった。
このまま店主に気づかれることなく、喫茶店を後にする。
そのための難関としては、後は、料理を運んでくるタイミングと会計のタイミングだけだ。
そこさえ乗り切れば、バレずにここを抜け出せる。
どうせ、ここの店主のことだ。
料理が出来たら、自分達で取りに来いと言うに違いない。
後は会計だけど、それも彼女にお金を渡して支払ってもらえれば問題ないはずだ。
うん。店主には悪いけれど、僕だと気づかれることなく、喫茶店を後にできそうだ。
けれど、十数分後、その考えが甘かったことを僕は思い知る。
注文した料理が出来上がるまで、僕と彼女は、雑談をする。
雑談と言っても、ほとんど彼女が野球部の事、特に浩介の事を中心に一方的に喋っていただけだが。
彼女のする浩介の話は、どれも浩介が野球部でどれだけ凄い存在かを言い表すものばかりだった。
彼女はそれを嬉しそうな表情で話す。
その表情に、浩介が少しだけ羨ましく思えた。
そんな事をぼんやりと考えつつ、彼女の話を聞いていた時だった。
「へい、ハンバーグセットとパスタ、お待ちぃ!」
店主が僕らのいるテーブルに、ハンバーグとライス、そして、パスタを持って現れた。
僕はまたも慌てて顔を伏せる羽目になってしまった。
なんで、今日に限って店主自らが料理を運んでくるんだ……。
店主は迷うことなく、彼女にパスタを、僕の前にハンバーグとライスを置く。
ハンバーグが乗った大皿には、その大半がハンバーグで収まっているが、脇にキャベツの千切りが添えられている。
僕は顔を伏せたまま、テーブル脇に置いてある、山吹色の液体が入った瓶を手に取る。
「あー、にいちゃん、それはドレッシングとは違う――、って、おい!」
「え……」
店主が突然声を張り上げたので、僕は瓶から矢吹色の液体を垂らすのを止めてしまった。
まだ、ハンバーグのほんの少しにしか、液体は掛かっていない。
「おい、にいちゃん。うちは初めてじゃないのかい? よく、それがハンバーグ用のソースだって分かったな?」
「え……あ!?」
言われて自分が犯した失態に気が付いた。
この喫茶店のハンバーグのソースは、自家製な上、特殊で、その色からして、一見の客がソースだと思わず、ドレッシングと勘違いしてサラダやキャベツの千切りなどに掛けてしまう。
だから、それを忠告するために、初めての客には店主自らが使用法を教えることが昔からの定番だった。
そうか。だから、態々、店主自ら料理をもってきたのか……これは、まずった。
「ホントだ……凄いね、高杉君。それがソースだって良く分かったね? 私も初めての時は、ドレッシングと勘違いしたのに……」
「あ、いや、これは……」
顔を上げると、彼女も訝しげにこちらを見ている。
しかも、ご丁寧にも僕の名前まで口にしてくれた。
「あん? 高杉だぁあ? むむむ……」
「う……」
店主が高杉と聞いて、こちらを睨むように凝視してきたので、慌てて顔を店主から逸らした。
けれども、どうやらそれは無意味な抵抗だったようだ。
「お、おおお!? お前……! た、達也じゃねぇかあ!?」
店主は仰天したように僕の名前を叫んだ。
どうも、僕の努力は報われないように世の中ができているようだ。
「や、やあ、マスター……、ひ、久しぶり……」
僕は顔を引き攣らせて笑顔を作りながら、久方ぶりの再会の挨拶をマスターにする。
「おう、久しいな……じゃねぇよ! お、お前、一年以上も顔も出さねぇで、何してやがった! いやいや、そもそも、なんでお前が由香ちゃんと一緒にいるんだ!? つーか、てめぇ、来たなら挨拶ぐらいしろってんだ! なんだよ、背も髪も伸びてるから全然気づかなかったじゃえねぇか!」
マスターは興奮した様子で矢継ぎ早に捲し立ててくる。
その表情は、最初は再会を喜び合う笑顔から、般若の面のような恐ろしい形相になった後、面食らって驚いたような表情に、かと思いきや、やっぱり般若に。
けれども、最後には何故か笑顔で、がはは、と豪快に笑い飛ばしている。
表情豊かにも程があるよ、マスター。
そんなマスターに、やっぱり僕は苦笑いを浮かべるしかない。
「え、ええっと……もしかしてだけど、二人はお知り合い、なの……?」
そんな僕達のやり取りを目にした彼女は、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして、僕とマスターを交互に見ながら尋ねてきた。
それに対して、余計なことにマスターが応じてしまった。
「おう、そうなんだよ。て、なんだ、由香ちゃん、知らなかったのか?」
「え、ええ。高杉君、そんな事は一言も言ってくれなかったから……」
「なんだ、それ? おい、達也! これはどういうこった?」
マスターが僕をジロリと睨んでくる。
お願いだから、そのいかつい顔で睨まないで欲しい。
「あー、いや、これは、その……」
「あん? 聞えねぇよ! 相変わらず、ハッキリしねぇ奴だな、お前は! あー、もういいや! そういや、お前は昔から口下手だったもんな。どうせ、言いそびれてたとか、そんな理由だろ」
どう返すべきか考えあぐねていると、マスターは業を煮やして、勝手な解釈をしてしまった。
「けどよ、由香ちゃん? コイツと君が知り合いってことは、浩介も知ってんだろ? 聞いてなかったのか? オレ達の関係についてとか」
「う、うん。高杉君と名倉君が幼馴染なのは知ってたけど……名倉君からもそれだけしか聞いてなかったから……」
「なんだ、そうだったのか……。ったく、達也も浩介も、昔っからお前らはどうしてお互いの事を話したがらないんだよ!」
またもマスターがジロリと睨んでくる。
そんな風に非難されても困る。
そもそも、家がお隣で幼馴染ではあったけれど、僕と浩介の関係は、友人関係というより、ライバルという関係性の方が強かった。
だから、お互いの事を他人にべらべらと語って聞かせることはしなかった。
それは口下手だからというわけではなく、気づいた時には自然とそうなっていたんだ。
どうも、ライバル関係でなくなった現在でも、その癖は抜け切っていないようだ。
現に、あの気さくな浩介ですら、僕については他人にあれこれと語っていない。
「ねえ、マスター。高杉君と名倉君って昔からよくここに来てたの?」
彼女に質問されるとマスターは僕を睨むのをやめて、笑顔を彼女に向ける。
「おう、そうだぜ。初めてうちに来たのが、確かこいつ等が中一の夏の頃だったから……おう、もう三年も前のことだな。確かその時は、うちの前で仲良く口喧嘩なんかしてたもんだから、うざくてよ。それで店の中に連れ込んで説教してやったら、それ以来、こいつ等二人して何かにつけて部活帰りにうちに来て、だべっていくようになっちまったってわけだ」
「ちょ、マスター!」
「あ?」
話してほしくない事をマスターがべらべらと語りだしたので、慌てて止めに入ったが、逆に黙れと言わんばかりにマスターに睨まれてしまう。
けれど、僕が何をしようがもう遅かった。
彼女はマスターが喋った一言を聞き逃さなかった。
「部活帰りって……そ、それじゃあ、高杉君も……野球部……だった?」
彼女は驚いた様子でそう呟いていた。
ついに気づかれてしまった。野球部のマネージャーである彼女にはあまり知られたくなかった事実だったのに……。
「野球部も何も、こいつ等はガキの頃から野球少年さ。あれ? 由香ちゃん、もしかして、それも知らなかったのか?」
僕が彼女の疑問に答えないままでいると、逆にマスターが彼女に尋ね返した。
「う、うん……野球のことに詳しいってだけで……名倉君もそんな事一言も言ってなかったし……」
「おいおい……お前ら、どういう関係になったんだよ……」
彼女の返答を聞いたマスターは僕を見ながら呆れたように言い放つ。
ここで言う『お前ら』とは、きっと僕と彼女のことではなく、僕と浩介のことなのだろう。
その返事としては、こう答えるしかない。
「どうもこうもないよ。僕と浩介は昔から単なる幼馴染。それ以上でも、それ以下でもないよ」
「ったく、お互いの事を意識しまくってた奴がよく言うぜ。そういう心にも思ってないこと言うなっての」
マスターはあっさりと僕の言い分を切って捨てた。
別に心に思ってないことではない。事実、今ではそういう関係だ。
けれど、マスターは僕の反論を待たずして、彼女に向けて話し出した。
「いいか、由香ちゃん。こいつ等はな、ライバルだったんだよ。中学の頃なんて、こいつが野球部のエースピッチャーで、浩介はそれ次ぐピッチャーだった。こいつ等は何かにつけて競い合ってたんだ。野球だけに限らず、日常に転がってるくだらねぇことまでな。だからよ、こいつ等の仲はオレから言わせれば、切っても切れない腐れ縁って感じだ」
マスターは彼女に語って聞かせるようにまたもべらべらと余計な事を話してしまった。
浩介とは切っても切れない腐れ縁、そんなの男同士では願い下げだ。
例えそうだったとしても、それは一年以上前までの話だ。
今の僕と浩介とでは、それは当てはまらない。
けれど、マスターの話を聞いた彼女が気にしたのは別の事だった。
「エース……高杉君がエースピッチャーだったんですか!?」
彼女は意外だと言わんばかりの驚いた表情をしている。
マスターの話や彼女の反応に、もはや僕は居た堪れない気分になってしまっていた。
けれど、彼女のその反応に気をよくしたマスターは、僕の気持ちをよそに話を続ける。
「おうよ! エースっつーか、コイツな、県内、いや、全国でも有数の剛腕ピッチャーだったんだぜ? 今じゃあ、その鳴りを潜めているが、昔は半端なかったんだ」
ああ……ついにその話を彼女にしてしまったか……。
鳴りを潜めてるとか、半端なかったとか、そんな風に言ってしまえば、野球好きな彼女が興味を持たないわけがない。
そして、興味を持たれれば持たれるほど、色々な意味で僕の立場は危うくなってしまう。
なんとかしなければ……。
「む、昔の話だよ、高橋さん。それに、剛腕なんて言っても、それは中学生レベルでの話だから、高校だと大したことないし、通じないよ」
「馬鹿言え。オレから見ても、当時のお前の実力はとっくに高校生レベルだったぞ。間違いなく、甲子園でも一二を争える投手だった。そう断言できる!」
マスターが胸を張って吾の事のように言い切ってしまった。
マスター、お願いだから、これ以上、僕を困らせないでくれ……。
「す、すごい」
「……え」
その呟きを耳にして、彼女の方を見ると、彼女は目を輝かせてこちらを見ていた。
「凄いよ、高杉君! 甲子園で通じるレベルだなんて! 凄いよ!」
彼女はそう言って立ち上がり、こちらに身を乗り出してくる。
完全にマスターの話を真に受けてしまったようだ。
本人が否定しているというのに、どうして髭面でやる気のないマスターの話を信じてしまうというのか。甚だ疑問だ。
けれど、というか、やっぱり、この話におかしな点があることに、流石の彼女も気づかないわけはなかった。
彼女の僕を見る羨望の目は一転、不思議そうな目に変わり、先程の興奮が嘘のように椅子に座り直した。そして、当然の如く、その疑問を口にするのだった。
「ねえ、じゃあ、どうして、高杉君は野球部に入らなかったの?」
その疑問がこの話題の行き着く終着点。
この話題になった時点で、避けては通れない道だ。
だからこそ、僕はこの話題には触れて欲しくなかった。
「あー、由香ちゃん、それはだな……」
「ちょっと、マスター! いいかげんにしてよ!」
その先は言わせない。流石にマスターと言えど、これ以上は勝手が過ぎる。
本人が語りたくないことを他人が気軽話していいはずなどない。
デリカシーがなさ過ぎだ。
けれど、非難とも取れるその僕の発言にマスターは訝しげに眉を顰めるだけだ。
「なんだぁ? いいかげんにしろとはどの口が言いやがるんだ、こら! いつからテメェはオレにそんな口が利けるほど偉くなったんだ、ああん!」
「マ、マスターこそ、お喋りが過ぎるよ! いつからここの店主はそんなに客に媚びるようになったのさ!」
「テ、テメェ……!」
「な、なにさ……!」
売り言葉に買い言葉。僕とマスターの間に険悪な空気が流れる。
マスターは僕を睨んできている。僕も負けじと睨み返した。
けれど、元から厳つい顔な上に目を吊り上げて怒っているものだから、さらに厳つい顔になっていて、とてもじゃないけど、睨み続けられるものじゃない。
「ちょ、ちょっと、二人共、落ち着いてよ!」
一触即発――もとい、僕の心が折れそうになった時、彼女が僕達の間に割って入ってきた。
その表情はいつもの優しげなものとは違い、どこかピリッとしている。
「マスター、親切心で教えてくれるのはありがたいんですけど、私、できれば、この話は高杉君から直接聞きたいの。だから、ね。お願い、マスター、少し二人だけにしてくれませんか?」
「ゆ、由香ちゃん……」
彼女のお願いにマスターの怒りは尻すぼみしていく。
マスターのその様子を見た彼女は安心したように表情を緩ませたが、すぐに引き締め、こちらを見た。
その目はこちらを睨んでいるように思えた。
「高杉君も! いくらマスターがお喋りだからって、目上の人にそんな口を利いちゃだめだよ! 嫌なことを嫌ってハッキリ言うことは大切だと思うけど、言い方ってものがあると思うよ?」
「う……」
彼女の言い分に何も言い返せなかった。
彼女の言っていることは正しいし、悪いのは僕だ。
けれど、この時の僕が言い返せなかったのは、もっと別の理由だ。
それは、純粋に怒った彼女が怖かったからだ。
これはどう見ても、高校生の女子に同級生の男子と髭面のおっさんが叱られているという何とも奇妙な画だ。
「……わ、悪かったよ、マスター。言い過ぎた」
「ちっ、分かりゃあいいんだ、分かりゃあ。今回は由香ちゃんに免じて許してやるよ」
「…………」
こっちに非があることを認めて、素直に謝ったっていうのにこの人は……。
素直じゃないというより、子供っぽくすら思える。
そんな僕達のやり取りを見ていた彼女はクスクスと笑っていた。
「ま、まあ、なんだ……料理を運んできておいて、長話過ぎたのは悪かったと思ってるよ。もう、余計な事は言わねぇから、冷める前にさっさと食っちまえ。飲み物は食べ終わった頃に適当に運んできてやるからよ」
「うん、ありがとう、マスター」
照れくさそうに話すマスターに彼女がにこやかにお礼を言うと、マスターは少し顔を赤くして、カウンターへ戻っていった。
反応がまるで小学生だ。
そんなマスターの反応を見て、彼女はマスターにバレないようにクスクスと笑っていた。
僕もそれつられて笑ってしまった。
けれど、笑っていられるのもそこまでだった。
その後、僕も彼女もテーブルに上に載っている料理を黙々と食した。
僕が野球部に入らなかった理由を彼女は訊かないとは決して言っていない。
今も彼女は疑問に思い、僕の口から訊きたいはずだ。
それは料理を食べ終え、マスターが珈琲と紅茶を持って来た後だった。彼女の方から口火を切った。
「野球のこと詳しいのは、やっぱり経験者、だったからなんだね。どうして黙ってたの?」
意外にも、彼女がしてきた質問はこちらが意図していたものとは違っていた。
「べ、別に話す必要はないって思ったから……」
「ふーん、そっか。でも、折角、友達になれたんだから、一言ぐらい言ってくれても良かったのになぁ」
彼女はジト目でこちらを見て、遠回しに非難してくる。
僕はその彼女の視線から目を逸らした。
悪いとは思っているけど、別に謝る必要はないと思った。
それに、僕が経験者であるかどうかに関わらず、今日、彼女の買い物に付き合うという目的は果たされたのだから、彼女自身が困ることなど何一つない。
だから、お礼を言われることはあっても、文句を言われる筋合いはないはずだ。
「はあ……ま、いっか。じゃあ、代わりに一つだけ私の質問に答えてくれないかな?」
「な、なに?」
来たと思った。遂にあの質問をされるのだと覚悟した。
「高杉君から見て、今の野球部はどう見える?」
「……は?」
一瞬、何を質問されたのか分からなかった。
「だから、青蘭高校野球部の実力についてだよ。高杉君から見て、現状のうちの野球部は甲子園に行けると思う?」
「ちょ、ちょっと、待って! どうして、そんな質問をするわけ?」
てっきり野球部に入らなかった訳を訊いてくるものばかりと思っていた僕は、彼女の質問の意図が掴めなかった。
「どうしてって言われても……私ね、野球の知識はそんなにないけど、名倉君が凄いピッチャーだってことくらいは見ていれば分かるの。それに他の人たちだって必死に毎日練習してる。だけど、名倉君はまだまだダメだって」
「浩介が?」
「うん。自分もまだまだだけど、甲子園に行くには、もっと野球部全体のレベルアップが必要だって言うの。だから、キャプテンや顧問の先生――監督にね、練習時間を増やすように進言したらしいんだけど、監督はそんな必要はないんじゃないかって……練習メニューについて、名倉君と監督の間で意見が分かれちゃって……」
「へ、へえ……浩介が……」
実力が足りないなら、練習時間を増やすしかない。
実に浩介らしい野球バカで脳筋的な考えだ。
一年のくせにキャプテンや監督と揉めてる辺りも浩介らしい。
そう言えば、中学の時も僕や監督と練習メニューで揉めてたことがあったっけ。
「高橋さんは、どう思ってるの?」
「わ、私? 私は……私もそこまでする必要はないかなって思ってる。今のままでも十分みんな頑張ってるし、それに名倉君は今のままでも凄いよ。一年生なのに、もう野球部の誰よりも凄いんだよ。見ているだけだけど、私にだってそれくらいは分かるもん。だから、そこまでして追い込まなくてもいいかなって……」
なるほど……やはり、そういう考えでいるのか。
ならば、それは彼女に限ったことではないのだろう。
この間、練習を見学した時に部員に覇気がなかったのも頷ける。
「正直言って、浩介の言う通り、今の野球部じゃ、甲子園には行けないと思う」
「え!?」
彼女は驚きの声を上げた。
きっと、浩介の実力を知っている僕がそう言うことが意外だったのかもしれない。
けれど、それこそが間違った考えだ。
「いいかい? どんなに凄いピッチャーやバッターが一人いたとしても、野球は勝てるもんじゃないんだ。確かに、浩介は高校野球の中じゃ、トップレベルだと思うけど、それでも絶対に打たれないなんてことはない。というか、絶対に打たれないピッチャーなんてこの世にはいない。だからこそ、ピッチャーの後ろを守る守備陣もしっかりしてないとダメなんだ。あと、攻撃に関してもそうだよ。ホームランなんてものはそんなにポンポン飛び出すわけじゃない。野球ってのは、ヒットやバントを重ねて、打線を繋げ、塁を進ませて点を取るもんなんだから。だから、個人個人のレベルとチームとしてのレベルが高くないと絶対に甲子園なんて行けないよ」
「そ、そうなんだ……だから、名倉君は練習時間を増やそうと……」
「いや、僕が言っているのは、そういうことじゃないよ」
「え……?」
「僕が言っているのは、今の野球部が浩介一人に頼りすぎてるってことだよ。さっき言ったから分かると思うけど、野球は一人でするもんじゃない。グラウンドに立つ9人とベンチで指示出す監督と控え選手、全員でやるもんなんだ。たった一人に頼っているようなチームじゃダメなんだよ。つまり、君たちは練習時間を増やす以前に意識の問題があるってこと」
それが部員全員とは言わないが、少なくとも多くの部員がそうなのだろう。
まあ、三年生が引退した直後の新体制なのだから致し方ない部分もあるが、だからこそ、新キャプテンがそれに気づいて引っ張って行かないといけない。
一年生の浩介には、まだ部員の意識改革なんてことは立場上難しいのだから。
浩介自身もそれが分かっているから、練習時間増やすなんて脳筋的な発想になってしまったのかもしれない。
「だからさ、まず君達がしないと行けないことは――」
そこまで言いかけて、僕は慌てて口を噤んだ。
見れば、彼女は神妙な面持ちでこちらを見ている。
既に笑顔は消えていた。
しまった。言い過ぎたかもしれない。部外者である僕が野球部の方針についてとやかく言うのは筋違いだ。彼女が気を悪くするのも当然だ。
「そっか……そうだったんだ!」
「……へ?」
彼女は突然声を張り上げ、僕の考えとは全く正反対に納得した表情を浮かべていた。
「私、分かったよ! そうだよね、皆が同じ目標に向かって頑張らないと意味がないよね。目標とその目標を達成するために何が必要かチームで共有することが大切だったんだね。私、今度キャプテンや監督にそういう場を作ってもらえるように掛け合ってみるよ!」
「あ、ああ……うん、そうだね。それがいいじゃないかな。こ、浩介の助けにもなると思うし……」
彼女の勢いに、僕は驚くと同時に感心してしまった。
こちらが最終的に言いたいことを彼女は、僕が言う前に理解した上、自ら浩介とチームの間の架け橋になろうとしている。
その思慮深さと行動力には、正直驚かされる。
「ありがとう、高杉君! 君のお陰で、私、やっとマネージャーとしての第一歩が踏み出せそうだよ!」
「……ッ!」
彼女は嬉しそうに、眩しいくらいの笑顔で、お礼を言ってくれた。
その笑顔があんまりにも輝いて見えたから、僕は直視することができず、視線を珈琲カップにずらした。
その時、僕は自分がしたことへの愚かさに気がついてしまった。
「それにしても、野球部でもないのに、この間練習風景を見ただけで、こんなことまで分かっちゃうなんて、やっぱり経験者は違うね。凄いよ!」
「そ、そんなこと、ないよ……」
「ううん、凄いよ! だって、私、感激しちゃったもの! 凄いよ!」
「……」
彼女はうれしそうに声を弾ませて、何度も凄いと言う。
けれど、それは僕にとって呪いにも似た言葉で、僕の気持ちを苛ませていく。
彼女の中で、僕への期待が大きくなっていっているのが、彼女が僕に何を期待しているのか、手に取るように分かってしまったから。
そして、そんな僕の気持ちに気づくはずもない彼女は、決定的な言葉を口にした。
「でも、そこまで真剣にこの間の練習を見てたなんて、君も本当に野球が好きなんだね?」
「――」
思わず視線を上げ、訊いてきた彼女の顔を凝視してしまった。
「野球が好きか?」、それは彼女と初めて一緒に登校した時にも問いかけられた質問だった。
あの時、僕はそれにすぐに答えることができなかった。
けれど、今回はその答えは用意してきていた。だから……。
「……違うよ、高橋さん。僕は野球が好きなんかじゃないよ」
「……え?」
僕の言葉に、一瞬、彼女は表情を凍り付かせた。
けれど、すぐに取り繕うように笑顔になった。
「ま、またまたー、そんなこと言っちゃってー。別に照れなくてもいいんだよ?」
彼女は茶化す様に笑いながらそう言って、僕の言葉を信じようしなかった。
そんな彼女に僕は首を左右に振って、ハッキリと口にした。
「違う。僕は野球が嫌いだ。だから、君とは違うよ」
敢えて、彼女の目を見ながら言った。
野球が好きだと言う彼女には、それが本心であることをちゃんと伝える必要があるから。
彼女は僕の言葉を聞いて、困ったように目を泳がした。
そして、今度は彼女が悲しそうにカップへと視線を下げた。
「……それは嘘だよ」
「嘘?」
「うん、嘘だよ。君は野球が好きなはずだよ」
「な、なにを言って……僕自身が嫌いだって言ってるんだよ?」
「そうだけど……それは君の本心じゃないよ」
彼女は頑なに僕の言葉を信じようとしない。
それだけ、彼女の僕への期待は大きなものになっていたのかもしれない。
だからこそ、僕はそれを裏切ることしかできない。
期待は、苦しいだけだから。
「何を根拠に、そう思うの?」
「根拠は……ないよ。けど、君は野球の知識もいっぱい持ってる。去年まで野球もやってた。私に野球について教えてくれるって約束もしてくれた。だから……」
「僕に野球の知識が無駄多いのは、親が野球好きだったせい。確かに去年まで野球をやってたけど、実際、今はもうやってない。君に野球の事を教えることになったは、君が無理やり僕にそうさせたからだよ」
「そ、そんな……」
僕の突き放すような言葉に彼女は瞳を潤ませ、言葉を詰まらせる。
けれど、彼女はそれでも認めようとしなかった。
「でも……違うよ! 君は、野球が好きなはずだよ! もう一度野球をしたいって思っているはず――」
「ふざけるなよ……! 君に僕の何が分かるって言うんだ! 僕のこと何も知りもしないくせに、知ったような口を利くなよ!
僕は野球なんて二度とやらない! 野球なんて大嫌いだ……!」
認めようとしない彼女に、つい感情的になりすぎて、気づけば、僕は立ち上がって怒鳴っていた。
そんな僕に彼女は驚いたのか、茫然として表情を失ってしまっていた。
「ぁ……」
彼女のその顔を見て、僕は自分のしたことの重大さ思い知った。
辺りを見渡せば、僕ら以外には客はいなかったが、マスターがギョッとした顔でこちらを見ている。
「ごめん、今日はもう帰るよ」
僕は居た堪れなくなって、彼女の顔も見ずにそう告げて、小走りにマスターのいるカウンターの方へと向かう。
「あ、待って、高杉君!」
背後から彼女が呼び止める声が聞えてきたけれど、それを無視して、カウンターにお札二枚を置く。
もちろん、マスターの顔を見ないようして。
「ごめん、マスター。お釣りは、また今度取りに来るから」
そうは言ったものも、たぶん二度とこの店に来ることもないかなと漠然と思った。
僕はそのまま店を出ていこうと、出入り口に向かう。
「お、おい、達也!」
マスターの呼ぶ声が聞えてきたけれど、それも無視して、僕は店を出た。
○
勢いのまま喫茶店を飛び出した僕は、わき目を振らず走った。
「くそ……僕は一体何してんだ……」
後悔はあった。彼女にあんな事を言うつもりなんてなかった。
なんであんな事を言ってしまったのかも分からない。
けれど、彼女の言葉を聞いていると、どうしても我慢できず、感情的になってしまった。
彼女に悪いところなんてなくて、何もかも僕が悪いって分かっているけれど、それでも、喫茶店に戻る気になれなかった。
だから、走った。
自分がどこに向かおうとしているのかも分からないまま、ただがむしゃらに走った。
その勢いのまま見知らぬ路地に入った途端、左肩に何かがぶつかった。
「いってーなっ! どこ見てやがる!」
すぐに左側から荒げるような声が聞えてきた。
振り向くと、そこには茶髪で、耳にピアスをしている如何にも柄の悪い男が肩を押さえて立っていた。
その隣にも似たような格好の男がいる。二人ともこちらを怖い顔で睨んでいる。
一目でまずい人間と関わったと分かった。
「ご、ごめ――」
慌てて謝ろうとしたけれど、それが意味のないことだとすぐに分かった。
僕はぶつかった男に胸ぐらを掴まれる。
「てめぇ、いてーだろうが! なめてんのか、ああ!」
「い、いや、だから……」
男はこちらの言うことに聞く耳を持とうとしない。
まずい、このままじゃあ……。
「口ごたえしてんじゃ――」
男は拳を振り上げる。殴られるのは確定。
そう思って僕は目を瞑った。
「――ん? お前、どっかで……」
「え……?」
殴られると思っていたのに、いつまでもその衝撃も痛みもなく、聞えてきた声に僕は恐る恐る目を開ける。
男は依然として、胸ぐらを掴んでいたが、僕の顔をしげしげと見ていた。
「お前……もしかして、北中の高杉……か?」
「え……なんで知って……」
この状況下で思いもしない単語を耳にして驚いた。
北中と言うのは、今年の三月まで僕が通っていた中学校の事だ。
けど、どうしてこの男は、その事だけじゃなくて、僕の名前まで知っているのか……。
「やっぱり、そうか。あの高杉か!」
「なに? こいつ知ってんの、お前?」
「ああ、まあな。中学ん時に、野球でちょっとな」
「なに、同じチームだったとか?」
「いんや、残念ながら敵チーム」
「なんだそれ? まさか、お前、コイツに負けたの?」
「うっせーな! 笑ってんじゃねぇよ!」
「うっは、やっぱそうか。ウケる」
「お前ね……」
男達は好き勝手話し始めた。
会話の内容を聞く限り、僕はコイツと以前会ったことがあって、しかもこの男がいた中学のチームと試合までしたことがあるらしい。
けれど、僕にはコイツの顔になんて覚えがない。
男はニンマリと嫌な笑みを零して、こちらに視線を戻した。
「なあ、森中の遠藤って覚えてっか?」
「森中の遠藤……?」
男が口にした中学名には憶えがあった。
その中学とは中学時代に何度か試合をしたことがあったけど、遠藤という名前にも憶えがない。
と言うか、選手の名前までは憶えていない。
印象に残る選手ならともかく、森中自体さほど強いチームではなかった。
「チッ……やっぱ憶えてねぇわな」
「くっは! コイツ、忘れられてやんの。なっさけねー!」
隣の男が冷やかす様に笑っている。
どうやら遠藤っていうのは、僕の目の前に立って、胸ぐらを掴んできている男のようだ。
「テメェは黙ってろ! 大体な、コイツに野球で勝てる奴なんて県内にいやしなかったんだよ!」
「え? なに、コイツ、凄かったの?」
「全国でも指折りのピッチャーだったんだよ」
「マジで!?」
「おうよ。な? そうだったよな? 高杉よ」
遠藤はヘラヘラと笑いながら問いかけてくる。
それは悪意のある笑みだった。
決して、僕の事を凄いピッチャーだとか、敬っているとかそんな風に思っていない表情だ。
その顔を見ていたくなくて、僕は顔を背けて何も答えなかった。
「なんだよ、何か言えよ? それとも何か? 元有名人さんはオレらなんか相手したくねぇってか? ったく、いつまで過去の栄光にしがみついてんだって話だぜ!」
「……ッ!」
遠藤の言葉に、思わず彼を睨んでしまった。
「なんだよ、その目は? 怖い顔してどうしたよ?」
睨んでいるのに男は笑っている。
けど、その目は決して笑ってなどいない。
コイツはきっと知っている。
僕が野球をやめてしまったことを。
それを知っててわざとこんな事を言っているんだ。
安い挑発だなんてことは分かっていたけれど、さっきの今で僕は冷静さを失っていた。
他人の気持ちなんて考えもしないこの男の言葉に、僕は我慢が出来なくなってしまった。
「……ふざけんなよ」
「あ? あんだと?」
「ふざけんなって言ってんだ! お前らみたいな奴に僕の気持ちが分かってたまるかよ!」
やめておけばいいのに、僕は感情を爆発させてしまった。
こういう輩達にとって、それは上手くないと分かっていたはずなのに。
男達は激高した僕の様子に顔を見合わせ、そして、ケラケラと笑い出した。
「なに、コイツ? 突然どうしちゃったわけ? 頭、おかしくなったのか?」
「ああ、全くだよな。きっと、あれだ。痛いところ突かれて我慢できなくなったとかじゃね?」
「なにそれ? どゆこと?」
「ああ? あー、そりゃあ、あれだ。コイツは――」
「ちょっとあなた達! そこで何やってるの!?」
遠藤の隣にいた男の質問に遠藤が答えようした時、路地の外から女性の声が聞えてきた。
その声に僕も男達も一斉に振り向く。
そこにいたのは、彼女だった。
「た、高橋さん!?」
「た、高杉君!?」
彼女は僕の顔を見て、驚いた顔をした。
どうして彼女がこんな所にいるのか?
まさか、僕を追いかけて……。
「おいおい、なんだよ? あの可愛い娘は……まさか、お前の彼女か?」
「ち、ちが……そんなんじゃない! あの娘は知らない娘だ!」
高橋さんをこんな奴らと関わらせたくなくて慌てて否定した。
けれど、遠藤はにへらとまた嫌な笑みを見せた。
「なるほどなるほど。そういうことか――よ!」
「あぐっ!」
遠藤は胸ぐらを掴んでいた手で僕を突き飛ばした。
僕はそのまま地面に尻もちをつく。
「高杉君!」
彼女が僕に駆け寄ってくる。
「大丈夫? 高杉君」
心配げな表情で尋ねてくる彼女に、僕はただ頷いた。
すると、彼女は何を思ったのか、キッと僕を突き飛ばした遠藤を睨んだ。
その様子を見ていた遠藤はさらに悪意の満ちた笑みを零した。
やばい、このままじゃ……。
「高杉よぉ、野球がダメになったからって、今度は女遊びか? 大方、昔は有名な中学生ピッチャーだったとか言って誑かしたんだろ? でなきゃ、怪我して野球できなくなった奴にこんな可愛い娘が見向きしてくれるはずないもんな?」
「え……怪我……?」
遠藤の言葉を聞いた彼女は、怪訝そうな声を漏らす。
「あ、彼女、やっぱ知らなかったんだ? だったら、教えてやるよ」
「や、やめろ!」
その先を言わせまいと、僕は叫んだけど、遠藤の口が止まることなった。
「コイツはよ、中三の夏に、右肩怪我して、もう二度とボールを投げれなくなったんだよ。全国有数の剛腕天才ピッチャーから一転、満足にボールも投げれなくなった残念な奴になっちゃったってわけ」
「くっ……」
遠藤から語られた事実に、僕は何も言えなかった。
嘘なら否定ができる。けど、それは事実だ。
だから、何も言い返せない。
「分かった? だから、そいつは君みたいな可愛い娘が一緒にいても何の得にもならないってわけ。君はね、そいつに騙されてたってわけよ」
「……」
彼女は何も答えない。 俯いて黙ったままだ。
「分かったら、そこをどいて、そいつをこっちに渡してくんない? まだ、そいつとは話したいことがあるのよ、オレら」
そう言われても、彼女はピクリとも動こうとしなかった。
まるで、遠藤の言葉が耳に入っていないようだ。
その彼女の様子に僕は何か嫌な予感がした。
「あー、それともなに? 君がオレらの相手でもしてくるのかな? それだったら、こっちとしても喜んで相手なるよ? 君がいるなら高杉なんてどうでもいいって言うか――」
吐き気がするような言葉を吐きながら、遠藤は彼女に近寄り、彼女の肩に触れようとする。
その時だった。
遠藤の左頬を吹き抜けるように、もの凄い勢いで何かが通り過ぎた。
「え……」
遠藤は何が起きたのか分かっていないのか、呆けた顔をして固まっている。
でも、何が起こったかなんて、すぐに分かった。
だって、彼女の腕が遠藤の顔の真横にあったんだから。
遠藤の頬は赤く滲みだしている。
「相手にしてもいいけど……私、こう見えても、空手六段だから、怪我だけで済むと思わないでね?」
彼女の後ろにいた僕には、その時、彼女がどんな表情をしていたのか分からない。
声の調子だっていつもと変わらないように思えた。
けれど、その時の彼女の体からは目に見えない黒いオーラみたいなものが見えたような……気がした。
「ひ……!」
そんな彼女を目の前にした遠藤は悲鳴を上げて、その場に座り込んでしまった。
恐怖のあまり腰を抜かしたのだろう。
遠藤は足だけズリズリと動かし、彼女から後退っていく。
「おい、何してんだ! 早く立てって! あの女、ぜってーヤバイって! 逃げんぞ!」
遠藤の連れであるもう一人の男が、遠藤の首根っこを掴んで彼を立ちあがらせる。
立ち上がった遠藤は、もう彼女を見ようとせず、代わりに僕を見て、恐怖で顔を歪ませながらも、僕を蔑むように笑った。
「は――ははっ! まったく、元北中のエース様が女の子に守られるなんて、情けねー事だぜ!」
そんなどうしようもなく事実であることを捨て台詞にして、彼らは僕達の前から走り去った。
彼らが去ると、彼女は僕の方に振り向いた。
その表情は、いつもの優しげな彼女そのままだった。
「大丈夫だった? 怪我はない?」
彼女は座り込んでいる僕に手を差し伸べる。
「うん……大丈夫だよ……」
差し伸べられた手を、僕は取らずに立ち上がって、お尻を払った。
「あ、あの……高杉君……さっきの事、なんだけど……」
「……事実だよ」
「え……」
「全部、本当の事さ。僕は怪我で肩を壊して、二度とピッチャーとして再起はできない。だから……」
「だから、嫌いなの? 野球が……」
彼女は悲しげな表情で尋ねてくる。
そこにはそうであって欲しくないという思いが滲み出ていた。
けれど、どんな顔を見せられても、僕の答えは変わらない。
「そうだよ。喫茶店で言ったのは、僕の本心だ。僕は野球が大嫌いだ」
今度こそ、ハッキリと告げる。
怒りや勢いに任せた言葉ではなく、ただ静かにその言葉を口にした。
だと言うのに、彼女は……。
「それは……嘘だよ」
「な……」
彼女は僕の言葉をまた否定した。
今度こそ伝わるようにいったはずなのに、彼女はそれでも認めようとしなかった。
「なんで……なんで、君はそう思うんだよ! 僕が嫌いだって言ってるんだ! それでもういいじゃないか!」
「……じゃあ、訊くけど、どうして君は野球が嫌いだって言う時、悲しそうな顔をするの?」
「え……」
その指摘に、僕の頭の中は真っ白になってしまった。
悲しそうな顔、そんな顔をしているつもりなんてさらさらなかった。
でも、彼女にはそういう風に見えてしまっていた。
だとしたら……今迄も……?
だったら……僕は……。
そう考えた時、何かが自分の中で壊れそうになって、耐えられなくなった。
僕はこれ以上自分の顔を彼女に見せまいと、後ろを向いた。
「……さっきは助けてくれて、ありがとう。でも、もう僕には関わらない方がいいよ」
「待って、高杉君!」
僕は彼女の言葉も聞かず、駆けだしていた。
どうして僕がこんな惨めな思いばかりしなければならないのだろう?
彼女と出会ってから、彼女に付き纏われ始めてから、嫌な思いをしてばっかりだ。
彼女と出会わなければ、僕は苦しまずに済んだはずだ。
「……くそったれが!」
違う。
そうじゃない。
彼女のせいなんかじゃないことぐらい分かっている。
悪いのは、全部僕だ。
弱い自分が悪い。
そんな事は分かっているけど……だけど、今の僕にはどうしようもなかった。
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