第15話 エリーシアの主張

「あ、エリー、お帰りなさい!」

「ただいま。随分ご機嫌ね、シェリル」

 部屋に戻るなりバサバサと乱暴に魔術師用のローブを脱ぎ捨てたエリーシアに、シェリルは嬉々として駆け寄った。


「今日は、ミレーヌ様と楽師団の音楽を聴いたの! そういうのも教養の一つだって。色々な綺麗な音が出ていて、とってもおもしろかったの! ミレーヌ様の膝に乗せられて、最初はすごく緊張しちゃったけど!」

 パタパタと尻尾を左右に揺らして床を叩きつつ、上機嫌に報告してきたシェリルに安堵しながら、エリーシアは笑って応じた。


「確かに王宮だったら、専属の楽師団位いそうよね。普通だったら本職の演奏なんて、祝い事とかお祭りとかで耳にする位だけど。それにミレーヌ様の膝が定位置だなんて贅沢。楽しめたみたいで良かったわね」

「うん! あ、それから、明日のお昼前に、側妃のレイナ様と引き合わせるって言われたの。子供達も一緒ですって。できるならエリーにも同席して欲しいって言われたけど……」

 そこで言葉を濁したシェリルとみて、エリーシアは快諾した。


「そういう話なら、私も一緒に行くわ。魔術師棟の方へは、明日は午後から行けば良い事になっているし。王妃様が、先に手を回してくれたのかもね」

「良かった。あ、それじゃあカレンさんとリリスさんに、明日の朝、エリーが着る服を準備するように、お願いしておかないと」

 早速控えの部屋に向かって歩き出そうとしたシェリルを、エリーシアは慌てて呼び止めた。


「ちょっと待って。私が着る服ってなんの事?」

「だって王妃様と側妃様が揃っている所に出向くなら、それなりの服を着ないといけないと思うけど」

「私はお姫様ではないし、王宮専属魔術師としてこの後宮に居住を許されているのよ? いわばこのローブが、私の仕事着かつ正装。当然、これを着ていくわ」

 そう言って、エリーシアが脱ぎ捨てたばかりのローブを指さしたことで、シェリルは困惑顔になった。


「えぇ? さすがに明日は、カレンさんに渋い顔をされそうだけど……」

「何と言われようと、却下」

(エリー、結構頑固だし。カレンさんと勝負したら、どっちが勝つかしら?)

 シェリルは密かにそう心配したものの、翌朝事情を説明したエリーシアにカレンからの小言は出ず、二人は安堵してミレーヌの私室へと向かった。

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