Interlude ~池崎馨の夢 Ⅷ~

 アイナ姫の流行り病は幸いにして軽く、数日間看病した後に僕は自国に戻った。


 さて、今日のアフタヌーンティーの時間には、改めてココと話をしよう。


 アイナ姫の看病をしながら僕はずっと考えていた。


 僕の本心──


 僕は、ココと話をするアフタヌーンティーの時間が今やとても楽しみになっている。


 セージと共に旅に出るのか、城に残るのか、それはココ自身が決めることだ。


 僕の本心を伝えることは、ココをさらに迷わせることになるかもしれない。


 それに、この先ココとどうしたいかなんてことはまだ考えられるわけじゃない。


 それでも──


 僕がココと過ごす時間を幸せに思っていることだけは、彼女に伝えておかなければならないように感じていた。


 コンコン。


 いつもの時間に自室の扉がノックされる。


「はい」


 僕の返事に応えて入ってきたのは、あのバーニーズマウンテンドッグの大柄な給仕長だった。


「ココは今日休みだったかな?」


「いえ。ココでしたら、昨日付けで給仕係を退職しましたよ」


「え……っ」


「急な話でカヲル王子に挨拶できなかったからと、手紙を預かっております」


 給仕長から手渡された白い封筒を開ける。

 嫌な速さで鼓動がドクドクと鳴っている。


“カヲル王子


 お留守の間に挨拶もせずおいとまするご無礼をお許しください。

 けれども、王子のお顔を拝見したら、きっと私の決心は揺らいでしまいます。


 王子はいつでも私たちの幸せを願ってくださいます。

 ですから、私にも王子の幸せを願わせてください。


 私は王子のティータイムのお話相手を務めることにとても幸せを感じておりました。

 けれども、そんな私のはしゃぐ姿が、私の幸せを願ってくださる王子のお心を曇らせていたのではないかと思うのです。


 王子はどうか今一度、ご自分の気持ちに向き合ってみてください。


 王子にとってはきっとアイナ姫と共に生きることが幸せなのだと思います。

 けれども、私が王子のお傍にいると、王子のお心を曇らせるだけでなく、私自身も王子の幸せを心から願えなくなってしまうのです。


 ですから、王子の前から姿を消す決心をいたしました。


 楽しい時間を、幸せなもふもふを、ありがとうございました。


 王子、いつまでもお幸せに……。


 ココ”


 最後まで読み終わらないうちに僕は立ち上がっていた。


 僕の幸せを願うって……?


 僕の幸せは……


 僕の幸せは──?



「今一度出立の準備を!

アイナ姫の元へ戻る!」



 僕は驚く家臣たちに構わず、馬の準備が整うとすぐに王宮を飛び出した。



 ────


 ──…


 ……

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