第90話・突入!ロマリア城

 囚われの魔王ラッセルをロマリア城から助け出す為の行動を起こそうとしていた俺達は、ついにロマリア城がある城下街へと入ってからその行動を起こそうとしていた。


「それじゃあ、手はず通りにいきましょう。準備はいいですか?」

「私は大丈夫よ。ダーリン」

「私もOKだよ。お兄ちゃん」

「二人のサポートはお任せ下さい」

「分かりました。それでは今からラッセル救出作戦を始めます。それじゃあミント、よろしく頼む」

「了解なのですよぉ~」


 俺はこの作戦の為に用意した道具が入った袋をミントに手渡し、奇襲スキルをかけてミントの姿を消した。あとはミントが手渡した道具を使って第一陽動を始めたら作戦開始だ。


「それにしても、お城と城下街の距離がかなり離れているのは幸いでしたね。これなら一般人に迷惑がかかる事はないでしょうし」

「ええ。父は魔術の研究はそれなりの危険も伴うので、万が一の為にお城と城下街を離したんです」


 ロマリアはお城を中心とした円形都市だが、その中心にあるお城から民の暮らす街まではかなりの距離がある。

 さきほどミアさんが言っていた様に、民の事をしっかりと考えているあたり、ロマリア王が本来立派な人格の持ち主だったのは分かる。そしてその配慮が今回の作戦を実行するにあたって役に立つのだから、その点は本来のロマリア王に感謝をしたいところだ。

 そんな事を思いながら街の最奥でお城を見ていると、お城の門から沢山の兵士が出て来るのが見え始めた。どうやらミントが俺の手渡した道具を使って第一陽動を開始したらしい。


「始まったか。それじゃあ、俺達もそろそろ行きましょう」


 その声に全員が返事をしたあと、俺は素早くみんなに奇襲スキルを使った。そして俺達はロマリア城へと向かって走り始める。


「それそれぇ~、まだまだいくのですよぉ~」


 ロマリア城へ近付くと、軽快な爆竹の鳴り響く音と共に上空からミントの少し楽しそうな声が聞こえてきた。

 この世界の裁定者と伝えられている伝説のアデュリケータードラゴンに、こんな役割をしてもらって悪いと思っていたけど、本人は楽しそうにしているみたいだから、それはそれで良かったのかもしれない。


「それじゃあ、ティアさん、唯、ラビエールさん、あとは頼みます」

「任せておいて」


 ティアさんはそう言うと、俺がミントに渡していた物と同じ、衝撃炸裂型爆竹をロマリア城の門に居る兵士達の前へと投げ放った。


「うわっ!! な、なんだっ!?」


 突然自分達の近くで爆竹が炸裂すれば、そりゃあ誰でも驚くだろう。

 ティアさんの投げた爆竹に驚いた兵士は辺りをキョロキョロと見回すが、奇襲スキルによって姿を消している俺達の姿は兵士達には見えない。

 ちなみにだが、奇襲スキルを使った俺や、奇襲スキルがかかったみんなにはしっかりとその姿が見えている。


「おわっ!? ど、どこのどいつだ! 姿を現せ!」


 爆竹の音に焦る兵士達を前にティアさんや唯は何も答えずに爆竹を投げ、徐々に兵士達を城門から遠ざけて行く。

 そしてある程度の陽動が済んだかなと判断した頃、最初の役目を終えたミントが俺達の所へと戻って来た。


「ただいまですぅ」

「お帰り。で、門内はどうだった?」

「今のところ兵士の数は十数人と言ったところでしょうかねぇ」

「十数人か……まあ、全員を外に出すはずはないからな。よし、とりあえずこれから城内へ潜入するから、みんなくれぐれも気を付けて行動をしてくれ。では、ミアさん。ラッセルが捕らえられていそうな部屋へ案内をお願いします」

「分かりました。こちらへ」


 俺達は中の様子を窺ってからそっと城門を通り抜け、そのまま一気にお城の方へと向かい始めた。

 辺りには突然の騒ぎにざわついている兵士が居るが、奇襲スキルのおかげか誰も俺達に気付いてはいない。

 そしてなんとか悟られる事なくお城へと辿り着いたが、俺達は正面の出入口から中へと入らず、そのまま城の右側面へと向かった。


「こんな所に出入口があるんですね」

「はい。ここは昔、私が城内で遊んでいた時に偶然見つけたものです。少し幅が狭いですが、入れない事はないと思います」


 ミアさんの言う様にその開いた場所は狭かったが、そんな狭い場所をミアさんは難無く通り抜けて行った。

 そしてそのあとに続いてミントがそこを通り抜け、続いて俺がそこへと入った。


 ――ん? プロテクターのせいで結構ギリギリな感じか?


 ミントを除いた俺達突入組みは奇襲スキルの効果が打ち消された時の事を考え、予めロマリアの兵士とそっくりの装備を身に着けていたんだけど、それのせいで俺の身体は穴を通れずに引っかかってしまった。


「あの、ミアさん。ちょっと身体が引っかかってしまったみたいなので、上手い具合に引っ張ってくれませんか?」

「分かりました」


 ミアさんはその言葉を聞くと俺の左側面へと立ち、そのまま俺の上半身を両手で掴んで引っ張り始めた。


「うぐぐっ!」


 思っていたよりもしっかりと腰の部分が引っかかっているらしく、引っ張られる度にその部分が圧迫されて痛みが走る。


「ちょっと、何やってるのリョータ? 早く入ってよ」

「それができたらとっくに入ってるんだよっ。いいからお前も外から俺の身体を押してくれっ」

「リョータの身体を押せばいいわけ?」

「そうだよ」

「分かった。ちょっと待ってなさい」


 ラビィがそう言うと、俺の後ろから足音が離れて行く音がかすかに聞こえた。

 そしてそれを聞いた俺がとてつもなく嫌な予感に駆られていると、後ろから速い足音が俺に迫って来るのが聞こえてきた。


「お、お前まさか!? ちょっとま――」

「ええーいっ!」


 俺が言葉を最後まで言う間も無く、お尻に凄まじい衝撃が走った。

 その衝撃はお尻を通って上半身へと伝わり、俺の身体は無理やりにその穴を通り抜けた。


「いってえぇぇぇぇぇぇっっ」


 場所が場所だけに我慢して大声は出さなかったが、代わりに俺は噛み殺す様にしてそんな言葉を出した。

 日本に居る時にも異世界に来てからも、それなりに色々な痛みを感じる場面や出来事はあったが、まさか仲間から思いっきりお尻に蹴りを入れられる事態が訪れようとは思ってもいなかった。


「まったく。余計な体力を使っちゃったわね……」


 未だ痛みの引かないお尻を両手で押さえながら撫でていると、やれやれと言った感じでラビィが穴から中へと入って来た。

 一仕事終えた――みたいなラビィの表情にイラッとする気持ちが湧くが、今ここでその事について言い争っても仕方がない。今何よりも優先すべき事は、ラッセルの救出なのだから。


「さあ、さっさと行きましょうよ」


 特に悪びれる様子も見せずにそんな事を言うラビィに対し、沸々と殺意が湧く。


 ――くそっ……あとで覚えてろよ。


 そんな事を思いながらとりあえずこの場では怒りを抑え、俺は出入口を閉じてからミアさん達と共にラッセルが居るかもしれない部屋の捜索を始めた。


「――ここも違ったか……」


 無駄とも思えるくらいに高い天井をした城内。そんな城内で俺達はラッセルを捜していたんだけど、なかなかその場所が見つからないでいた。

 城内は外の騒ぎで兵士のほとんどが出払っているせいか、あまりその姿を見かけない。

 そんな城内には認識阻害の魔法やスキルを打ち消す結界が張られている様で、俺の奇襲スキルもここでは使っても意味が無い。もしも事前情報でミアさんからその話しを聞いていなかったら、俺達は既に城内で兵士に囲まれていた事だろう。

 しかし、このままラッセルを捜すのに時間をかけていては、結局のところ怪しまれてしまう。城内に居る兵士達が俺達の怪しい動きに気付く前に、なんとかラッセルの居場所を割り出して救出したいところだ。


「お前達! そんな所で何をしているっ!!」


 そんな事を思っていると、突然背後から鋭く大きな声が投げかけられた。俺達はその声を聞いて立ち止まり、背後へと振り返る。

 幸いにもミントは高い天井の一番上を飛んでいるから、簡単に兵士の視界に映る事は無いだろう。


「わ、我々は外の騒ぎが沈静化しない為、応援の者を呼んで来る様に言われたのです!」


 相手がどれくらいの階級にあるのかは分からないが、兵士らしくビシッとそう答える。


「何? あれだけの数を動員してまだ騒ぎが収まってないのか!? いったい外の連中は何をしてるんだ? 分かった。増員は俺も呼びに向かうから、お前は重要箇所の警備に回れ」

「はっ! それで、その場所とはどこでしょうか?」

「何だ? お前はそんな事も忘れたのか? この城内で一番の重要箇所と言えば、王が警備の命を下している中央地下階のあの部屋しかないだろうが」

「そうでした! 申し訳ありません!」

「分かったならいい。それじゃあ、お前は中央地下階へ向かえ。そっちの二名は手分けをして他の兵士を外に呼んで来い」


「はっ!」


 ミアさんはわざと低い声を出して敬礼をし、男性兵士の様に振舞った。

 そしてそれを見てぽかんとしていたラビィに小さく肘打ちをすると、ラビィは慌ててミアさんのしている様な敬礼をした。

 それを見た兵士はすぐさま踵を返し、別の場所へと向かい始める。


「どうやらラッセルは中央地下階に居るみたいですね」

「ええ。あそこには一つしか部屋がありませんから、急いで向かいましょう」

「はい。ラビィ、ミント、行くぞ」


 俺達はミアさんの案内で急ぎ中央地下階へと向かった。

 そしてしばらくしてから目的の中央地下階へ辿り着くと、そこには重厚で大きな黒の両開き扉があった。


「こんなのどうやって開けるんですか?」

「おそらくこの扉には魔術による鍵がかかっているはずなので、今からその魔術が何なのかを私の魔術で解析します」

「そんな事が出来るんですか?」

「ええ」


 そう言うとミアさんは扉に向かって右手を突き出し、両目を閉じて何やらぶつぶつと言葉を呟き始めた。


「…………ここの扉を開ける為の解除方は分かりました」


 時間にすればおそらく二十秒と経っていない。それにもかかわらず、ミアさんは解除方を見つけ出した。それがミアさんの魔術師としての優秀さを物語っている様に思える。


「それじゃあさっそく解除を」

「それが……解除方は分かったんですが、それを防ぐ為のプロテクトがかかっているんです」

「だったら、そのプロテクトが解けたら扉を開けられるんですね?」

「はい。でも、分かっている限りこの扉には約八つのプロテクトがかけられています。これを解除するのはかなりの時間が必要になりますよ?」

「それは多分大丈夫です。ラビィ、お前の出番だぞ」

「へっ!?」

「『へっ!?』じゃないっての。さっさとその扉に手を触れてくれ」

「まあ、それはいいんだけど、私ここを出たらパチパチが飲みたいなあ」

「……俺が穏やかでいる内に仕事をしておいた方が身の為だぞ? それに、このまま時間をかければパチパチを飲むどころか、捕まって拷問の水をたらふく飲まされる事になるかもしれんのだぞ? まあ、お前がそれでも構わないならいいんだけどな?」

「わ、分かったわよ。やればいいんでしょ、やれば!」


 そう言ってから渋々扉の前へとラビィは向かう。

 そしてラビィがその扉にピタッと手をつけると、バチッ! と大きな火花が散った。


「これでプロテクトが解かれたはずです。ミアさん、解除を試してみて下さい」

「は、はい」


 そう言うとミアさんは再び右手を前へと突き出し、俺には分からない言語の呪文を唱え始めた。

 するとその数秒後。大きな黒い扉はギギギギ――と重苦しい音を立てながら開いた。


「ほ、本当に開きましたね。あのプロテクトを一瞬で破るなんて……凄いです」


 ミアさんの言っているプロテクトとやらがどの程度凄いのかは全く分からないけど、ミアさんがそう言っているのだからとても凄い事なんだろう。


「まあ、私の手に掛かれば簡単な事よね」


 ラビィの鼻がどこまでも伸びていきそうなドヤ顔だが、これに関してはラビィの能力だから否定のしようもない。だが、そのドヤ顔を見るのはイラッとくる。


「さあ、早いところラッセルを助け出して引き上げましょう」


 俺達は薄暗い部屋の中へと入り、その中央部へと向かった。

 そして辿り着いた薄暗い部屋の中央。そこには魔法陣の描かれた高さ1メートルほどの大きな円台があり、その中央に一人の男が十字の形で寝かされて拘束されていた。


「魔王ラッセル……」


 その人は以前、ティアさんから見せてもらった念写映像のラッセルと全くの同一人物だった。もしもあえて違いを述べるとすれば、写真で見た時よりも更に身体や顔が細くなっている事だろうか。


「よしっ。とりあえず拘束を解いて助け出そう」


 俺はようやくラッセルを見つけ出した事への感慨に耽る間も無く、魔法陣が描かれた円台の上に縛り付けられたラッセルを助け出そうとした。


「いてっ!!」


 円台に縛り付けられたラッセルへと手を伸ばした瞬間、まるでそれを阻む様にして俺の手がバシッと何かに弾かれた。


「どうやらここにも結界を張っている様ですね」

「くそっ、びびらせやがって。ラビィ、頼む」

「はいはい。分かってますよ」


 さっきの事でようやく状況を飲み込んだのか、ラビィは嫌な顔をしつつもその手で結果を壊してくれた。

 そして結界の解かれた魔法陣から縛り付けられたラッセルを救い出して背中に背負い、俺達は急いでロマリア城から撤退を図ろうとした。


「さあ! 急いでここから出よう!」

「悪いが、そいつを渡すわけにはいかないな」


 ラッセルを背負って部屋を出ようとした瞬間、出入口のある方から重厚で威厳のある声が聞こえてきた。


「誰だっ!?」


 聞こえてきた声にそんな問い掛けをすると、コツコツと単調な靴音がこちらに向かって近付いて来るのが分かった。

 そしてその声の主の姿が分かる位置まで靴音が近付いて来ると、ミアさんはその姿を見て身体を震わせた。


「余はロマリア王、アリアス・ノア・ロマリアーヌである」


 ようやくラッセルを救い出せたと思ったのも束の間。

 俺達はよりにもよって、今回の元凶であると思われるラスボスと唐突に対峙する事になってしまった。

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