第62話・発祥の地グランベスティア
ラビィのホープフラワー探しをこっそりと手伝った日のお昼過ぎ。俺達は次の街までの旅支度を済ませてからクラーフの街を後にした。
「くそっ……ラビィの奴、とんでもない事をしてくれやがって……」
クラーフの街を出てしばらくした頃、俺は両手で持った一枚の紙を見ながら今までに無い程の怒りで
俺がなぜこんなにも怒りをみなぎらせているのか。それは俺宛になっている300万グランの請求書のせいだ。そしてこの請求書が何に対する請求書なのかと言えば、ウチの姑息な駄天使が使った退魔アイテムのせいだ。
「アイツ……絶対に旅の途中で見捨ててやるからな……」
「まあまあ。ダーリンの気持ちも分かるけど、ここは気持ちを切り替えていかなきゃ」
「はあっ……ティアさんがそれを言いますか? まんまとラビィに乗せられちゃって……」
「あ、あはは。いやあ、私もつい魔が差したと言うか何と言うか、悪魔の誘惑にまんまと引っかかっちゃったのよね。その代わりと言っては何だけど、ダーリンが相手だから思いっきり請求額はオマケしてあげてるから」
ばつの悪そうな表情で苦笑いを浮かべつつも、ティアさんはどこか嬉しそうにもしている。その理由はこのアイテムの請求書に書かれている誓約のせいだ。
実はラビィの奴、ホープフラワーを一人で取りに行く為に退魔アイテムをティアさんから購入する際、とある条件をつけて退魔アイテムを貰っていた。
それは俺をラビィの代わりの支払い者にしてくれれば、週に最低二回のデートを約束するという勝手な誓約。お金を持ってないから普通に購入できないとはいえ、どこまでもやり方が姑息な奴だ。
しかもラビィの悪知恵はここで終わらず、『借金の取り立てを口実に、いつでも二人っきりになれるわよ?』――と、そんな悪魔的な事まで言ってティアさんをそそのかしていたのだ。アイツは本当にこんな時だけは頭が回るから質が悪い。
まあ本来ならそんな勝手な誓約は通らないし、無視をすればいいだけだろう。だけどラビィのずる賢さは大したもので、普段お世話になっているティアさんに対して俺が引け目を感じて簡単に断れないだろう事を見事に逆手に取っている。
しかも更に悪い事は重なるもので、俺自身が今回ラビィを手伝った件を内緒にしておこうとミントに言った手前、大っぴらに今回の事を責められないのが辛い。
結果的に俺は自身で決めた事が仇となり、その誓約を飲む事になってしまったわけだが、本来700万グランはするアイテムを300万グランにまでオマケしてくれているティアさんの温情には感謝をしたい。それに最低週二回のデートとやらも、唯の動向に気をつけていれば何とかなるだろう。色々と納得できない部分ばかりだけど、特に悪い条件を付けられたわけではないからまだマシだと思っておこう。
俺は再び大きな溜息を吐いた後で持っていた請求書を小さく折りたたんで道具袋へとしまい、気持ちを切り替えてからラグナ大陸への道を進んだ。
そしてラグナ大陸へと向かう道中、俺はリュシカにとある件について尋ねようとこっそり声をかけた。
「リュシカ、例の件はどうでした?」
「あの時に色々と調べてみましたけど、孤児院内にロマリアからの物はありませんでしたね」
「そうですか……もしかしたらと思ったんですが……」
俺は孤児院の手伝いをする際、リュシカに一つの頼み事をしていた。それは孤児院内にロマリア製の道具や援助物資が無いかを調べておいてほしいというものだ。
そんな事は自分でやればいいと思われるかもしれないが、俺がやるとただの怪しい家捜しになりそうだったので、色々と立ち回りが器用なリュシカに借金覚悟でお願いをしたわけだ。しかし不思議な事にこの件に関してリュシカはえらく協力的で、俺からお金を請求する様な事は無かった。
それにはきっと深い理由があるんだろうけど、それを聞いたところでリュシカがまともに答えてくれるとは思えないし、とりあえずは俺の借金が増えなかった事を素直に喜んでおくべきだろう。
ちなみに俺がリュシカにそんな事をお願いした理由だが、ロマリアとラッセルには何かしらの繋がりがあるのは間違い無い。そこで俺は漠然とではあるが、その二つが孤児院という場所にも繋がりがあるのではないかと考えたのだ。
なぜここで孤児院というピンポイントな所に焦点を当てかのかは、アマギリの話を聞いていたからに他ならない。
「ですがナナリーさんから、『以前怪しげな人達から物資の援助を申し込まれた』――という話は聞きました」
「怪しげな人達?」
「はい。ずいぶん前に真っ白なローブに身を包んだ人達が、沢山の食料を持ってあの孤児院を訪れた事があったんだそうです。そしてその時に様々な援助を申し出てきたそうなんですけど、その内容は『援助をする代わりに子供達に少し仕事を手伝ってほしい』――との事だったらしいんです。ナナリーさんとしては援助はとても嬉しかったらしいんですが、子供達に何をさせるのかを聞くとやたらに曖昧な受け答えになるから、結局心配になって断ったんだそうです」
「なるほど……確かに怪しいですね」
「実はその時に『援助の件を考えておいて下さい』と言われて、その白ローブの集団が援助物資が入った袋を一つ置いて行ったらしいんです。それで私、その時の袋にロマリアの印が無かったかを書いて見せたんです。そしたらナナリーさん、『確かにこのマークが刻印されてました』って言ってたんですよ」
「そうでしたか……色々と調べてもらってありがとうございます」
どうやら俺の読みはまったくの的外れってわけではなかった様だ。まだ色々と分からない点は多いけど、これからは行く先々にある孤児院に探りを入れてみるのがいいかもしれない。
こうしてロマリアやラッセルの事を調べる上での手掛かりらしきものを見つけ出した俺は、次の街でやる事を決めながら旅路を急いだ。
× × × ×
クラーフの街を出発し、野宿などをしてラグナ大陸を目指すこと二日後の夕暮れ前。俺達はラグナ大陸へと続く中継地点の街、グランベスティアへと辿り着いた。
ここグランベスティアは冒険者発祥の地と言われ、リリティアの街やクラーフの街、アストリア帝国などがあるこのプラート大陸の中で最大の街と言われている。そしてこのグランベスティアの中心には余裕で雲を突き抜けている高い搭があり、それは創世の時代に七人の女神が創造した物だと伝えられているらしい。
街の門番に聞いたところによれば、その搭は七人の女神達によって創造された時にはダンジョンとして多くの冒険者達が訪れていたらしいのだけど、今ではダンジョンとして機能してないらしく、ただの高い建築物と成り果てているらしい。しかもその搭の出入口は遥か昔に誰かによって塞がれ、今では中に立ち入る事すらできなくなっているとの事だ。
創世の時代に七人の女神が創造したタワー型ダンジョンなんて興味をそそられるけど、実際に挑む事ができたとして挑むつもりがあるかと言われれば俺はNOと言う。だってこれはゲームではなくてリアルだし、わざわざ危険と分かっている場所に興味で行く必要はないのだから。まあ、俺が唯やリュシカ、ティアさんやミントくらいに強いなら興味で挑むのも有りだとは思うけど。
雲を突き抜け遥か上に伸びるロマン溢れる塔を見ながら街中を歩いてそんな事を思いつつ、俺とラビィは背高ノッポな搭が遠目に見えるボロ宿に荷物を置き、翌日の朝まで粗末なベッドに横たわってしばしの休息についた。
そしてグランベスティアへと着いた翌朝。陽が昇り始めたのと同じくらいに目を覚ました俺は隣のベッドで眠るラビィを叩き起こし、さっそく本日の活動を開始した。まあ活動とは言っても、俺とラビィがやる事は旅の資金稼ぎだ。本当ならクラーフの街でしていた様にアルバイトにしたいところだけど、俺にはラビィから押し付けられた退魔アイテムの借金もあるから、今回ばかりはそうはいかない。
しかもこのグランベスティアから先の街まではここへ来る時よりも更に日数がかかるので、旅支度を整える為にもそれなりのお金が必要なのだ。だからここは少し無理をしてでも、クエストを受けて資金を稼いでおく必要がある。
俺は叩き起こしたラビィを連れて宿を後にし、このグランベスティアにあるギルドへと向かった。
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