第7話・天使は欲望のままに利を欲する
悪い事の後には良い事がある。小さな頃にばっちゃんがよく言ってた言葉だ。
しかし現実は非情なもので、恥ずかしい死に方をした挙げ句に異世界への転生を選んだのはいいけど、サポーターとして選んだ天使は生活を良くしていこうとしているのに足を引っ張るし、戦闘でも思っていたより役に立たない。
しかも親切にしたちっこい幼女に懐かれたのはいいけど、冒険について行くと言って駄々をこねられ、終いには街中で泣き喚かれる始末。
日本で生活していた時も異世界に来てからも、悪い事の後には悪い事が重なっている。どうやらばっちゃんの言っていた法則は、異世界に来ても俺には当てはまらないらしい。
「とりあえず、お嬢ちゃんのお名前は?」
泣き喚く幼女を何とか泣き止ませた後、俺はラビィをおんぶしたまま幼女を連れて酒場へと向かった。とりあえずこの幼女とはちゃんと話をしておかなきゃいけないと思ったからだ。
「ウチの名前はラッティ」
「ラッティちゃんか。歳はいくつ?」
「えーっとね……七つ!」
両手を広げてから指を折りつつ数字を数え、七まで辿り着くと元気にそう答えた。こんなところはいかにも子供らしい。
「七つかー。なるほどなるほど」
「うん! にいやんのお名前は?」
「お兄ちゃんのお名前は
「リョーにいやんに、ラビねえやん!」
子供ってのは変な呼び方をしたりする。ここはそれに逆らわず、あえて流れに乗ってあげておくのがいいだろう。
「そうそう。それでね、ラッティちゃん」
「ラッティでいいよ。リョーにいやん」
「分かった。それじゃあラッティ、さっきもちょっと言ったけど、ラッティを外に連れて行く訳にはいかないんだ」
「どうして?」
「外はすっっっっごく危ないんだ。こわーいモンスターが沢山居るからね」
「怖いの?」
「そうだよ。ラッティも怖い目に遭いたくないでしょ?」
「うん……でも、リョーにいやんについて行く」
――困ったな……いったいどう言えばラッティは諦めてくれるんだろう。
「まったく、ちゃんとはっきり言ってやればいいじゃない。あのね、ちびっ子。私達は戦いをする冒険者なの。だから戦力にならないお子様は連れて行けないのよ」
言ってる事はストレートでもっともなんだけど、ラビィが言うとこれほど引っ掛かりを感じる言葉も無い。
「それなら大丈夫。ウチも冒険者だから」
「へっ!?」
その言葉に思わずマヌケな声が出た。
確かに装いこそ魔法使いっぽいけど、まさかこんな幼女が冒険者なんてありえるんだろうか。漫画やゲームやアニメならそういったキャラクターも居るだろうけど、ここは今の俺にとっての
「あのねえ、ちびっ子。嘘をつくならもっと上手につきなさい」
「嘘じゃないもん!」
「まあ待てよラビィ。ラッティ、もしラッティが冒険者なら冒険者カードを持ってるはずだけど、ちゃんと持ってる?」
「うん。持ってる」
そう言うとラッティは肩から掛けていた小さなハート型の鞄を開け、ゴソゴソと中身を漁り始める。
そして小さな鞄を覗き込む様にしてガサゴソとしばらく漁った後、中から一枚のカードを取り出してそれをラビィに手渡した。
「どれどれ……確かに冒険者カードみたいね」
テーブルを挟んだ向かい側に座るラビィから冒険者カードを受け取り、俺もその内容を見る。
冒険者カードはギルドの所有する秘術とやらにより、偽造などが一切出来ない仕様になっていると聞く。しかもカードの左端にはどういう技術かは分からないが、持ち主の顔が立体映像的に浮かび上がる様になっている。
そしてそこに浮かんでいるのは、間違い無くラッティの顔だ。これはもう、ラッティが冒険者だと言うのを疑う余地は無いだろう。
「ウチ、ちゃんと冒険者でしょ?」
「ま、まあ確かに冒険者みたいだけど、でもアンタみたいなお子ちゃまを連れて行くのはねえ~」
ちょっとした同様を見せるラビィをチラ見した後、俺は続けてラッティのステータス欄を見て行く。
――力20、体力80、魔力999、知力272、素早さ189、器用さ251、運69、レベル22だと!?
見間違いかと思い手で目を擦った後で再びステータス欄を見たが、その表記は見間違いではなかった。
しかも職業の表記はマジックウィザード。攻撃系魔法を操る職業の最上位に位置する職業だ。
「ともかく、お子様はお家に帰ってグーグーと寝てればいいのよ」
「ラ、ラビィ、これ見てみろよ」
「何よもう!」
「いいから見てみろって」
「もう、何だって言うのよ」
ステータス欄を指差しながらラビィにカードを渡すと、その表情が一瞬にして驚愕に染まり固まった。
きっと自尊心の強いラビィの事だから、自分より遥に優れたステータスを有しているラッティに対して激しく嫉妬の炎を燃やしているに違いない。これはもう、ラッティがちびっ子だからとか言う理由ではなく、自分のパーティーでの優位性を保つ為にラビィはラッティを受け入れないだろう。
そう思った瞬間にラビィは椅子からスッと立ち上がり、ラッティを目の前にしてその両肩へサッと両手を置いた。
「ラッティちゃん! 是非一緒に戦いましょう!」
「いいの? ラビねえやん」
「もちろんよ! 同じ冒険者同士、仲良くしましょう!」
「ちょっ!?」
ラビィの思わぬ言動に驚いた俺は、その手を掴んで酒場の隅へとラビィを連れて行った。
「いきなり何よっ!」
「お前、何考えてんだ!?」
「何って、あのちびっ子を仲間にしようとしてるのよ」
「あのなあ、確かにステータスは圧倒的だが、ラッティはまだ子供なんだぜ?」
「そんな事はどうでもいいのよ。アンタこそ状況をよく考えなさい」
「どういう意味だよ?」
「いい? あのちびっ子はアンタに懐いてる。つまり仲間に引き入れて懐柔すれば、報酬を山分けしなくても済むかもしれないって事じゃない。しかもあのステータスなら、どんな討伐クエストでもちょいちょいのちょいのはず。それにあのちびっ子が仲間になればもっと楽にお金も稼げるだろうし、あのちびっ子もアンタと一緒に居られて幸せ。どこにも悪いところは無いじゃない」
「お前なあ、そんなんでも一応天使だろ? 言動が悪魔的過ぎるぞ。それにミミズはお前が倒すんじゃなかったのか?」
「あのねえ、楽に
言ってる事は分からんでもないが、普通はそんな事を考えていたとしても口には出さないだろう。この駄天使はどこまで俗物なのか予想もつかない。
「リョーにいやん、ラビねえやん、どうかしたの?」
「あっ、なーんでもないよ~、ラッティちゃーん。さあっ! 私達の家に案内するから、一緒に行きましょうね~」
「うん! ウチ、一緒に行く」
「お、おい……」
俺の事などまったく無視してラッティを連れて行くラビィ。
このままでは、ラッティがラビィの欲望の毒牙で
そう思った俺は何とか明日の朝までにラビィとラッティを説得して丸く収めようと、二人の背中を追いかけて酒場を後にした。
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