第5話・強さと才能は別問題
ジャンボミミズの討伐クエストを受けたその日。何とか命辛々でジャンボミミズ三匹の討伐に成功した俺とラビィは、三匹分の報酬3千グランをギルドで受け取りそのまま久々のご馳走にありついていた。
それにしても、しっかりと味の付いた料理の何と美味な事だろう。久しぶりのまともな食事に思わず涙腺が緩む。
とりあえずジャンボミミズ三匹を湖に沈めて討伐した事により、俺もラビィもレベルが3に上昇。
そして俺は僅かながらも獲得していたスキルポイントをどのアサシンスキルを習得する為に費やそうかとワクワクしていたんだけど、獲得したスキルポイントをいきなりアサシンスキルに割り振る事はできなかった。
なぜかと言えば、アサシンは見習い盗賊と盗賊の上にあたる職業なのだが、そのアサシンスキルを獲得するにはいくつか見習い盗賊と盗賊のスキルを習得していないと駄目だったからだ。
――まあ、基本の習得を無視して応用を獲得するのは無理だもんな……。
ゲームだろうと現実だろうとそれは基本なのに、俺はすっかりそんな事を忘れていた。
とりあえず、今回のレベルアップで獲得できたスキルポイントは5ポイント。それを見習い盗賊と盗賊が覚えられるスキルに割り振らないといけない。
「とりあえず、戦闘時に素早さが常時上昇するパッシブスキルに2ポイント、スティールに1ポイント、それと奇襲に2ポイントかな。よしっ! とりあえずこんなところか。ラビィはもうスキルポイントは振り分けたのか?」
「当たり前よ。まあ、エンジェルメイカーのスキルを習得出来るようにするまで振り分けをするのが面倒だったけどね」
「へえー。ちなみに獲得してたスキルポイントってどれくらいだったんだ?」
「えーっと、確か200ポイントくらいだったかな」
「に、200ポイント!?」
獲得したスキルポイント差は195。これも持ち合わせた資質と才能の差だとでも言うのだろうか。
「ところでリョータは何ポイントだったの? 30ポイントくらい?」
「……5ポイントだよ」
「えっ?」
「5ポイントだよ!」
「えーっ!? 30ポイントでもかなり盛ってあげたのに、たったの5ポイントー!? プークスクスッ!」
「ぐっ……」
コイツはホントに隙あらば毒を吐くし、生意気で可愛くない。本当は天使じゃなくて悪魔なんじゃないだろうか。
「……そうだラビィ、エンジェルメイカーってどんなスキルがあるのか見せてくれよ」
「プププッ、まあいいわよ。このへんでリョータにも私との格の違いを見せつけておく必要があるだろうからね。はい、どうぞ」
嬉々としながら冒険者カードを手渡してくるラビィ。
そのドヤ顔が見ていて非常に腹立たしいが、コイツと言い合いをしても無駄に体力気力を消費するだけ。ここは神か仏にでもなった気持ちでスルーを決め込むのが吉だろう。
と言うわけで大人しく差し出された冒険者カードを受け取り、その内容を見ていく。
――ほー、流石は超最上級職のエンジェルメイカー。どれもこれも強そうなスキルばっかりだな。
スキルの説明欄を見ていちいちすげーなーと思っていたその時、ふとラビィのステータス表示が目に入った。
――あれっ? コイツ思ってたよりステータスが低いな。
いきなりエンジェルメイカーになれたくらいだから、そのステータスもさぞかし凄いんだろうと思っていたけど、実際はまったく凄い事はなかった。
――力9、体力28、魔力53、知力8、素早さ25、器用さ19、運が1?
魔力値以外は俺よりもかなり低い。それも七つの能力値の内三つが一桁台という恐ろしい低さだ。まあ、レベルもまだ3だから不思議では無いかもしれないけど、エンジェルメイカーという職業を考えるとやっぱり低い気はする。
それに運なんて有っても無くても同じじゃないだろうかってくらいにヤバイ。ステータスの上昇具合は職と関連が無いのだろうか。
そんなステータスに加えて更に気になったのが最大MPの低さだ。まだレベル3とは言え魔法を中心としたスキルが多い職なのに、その総量は10と激烈に低い。
さっき見た限りではMP消費のかなり大きいスキルが多かった。確か一番消費の多い魔法でMP120消費だったと思う。それなのにMPの総量が10だ。
これでは基本職の見習い魔法使いで覚える魔法を一発撃てば魔法の使用が不可能になる。これでは燃費が悪い上に戦力としての期待も薄い。
「どう? 私の強さに恐れ入った?」
「あ、ああ。恐れ入ったよ」
――あまりの酷さにな。
「何よ、今日は随分と素直じゃない。ようやく私の偉大さが分かったって事かしら?」
「そ、そうだな。とりあえずありがとよ」
本当ならちゃんと言ってやるべきなんだろうけど、ここまで嬉々としている奴に真実を告げるのはちょっと
「ところでラビィ。ジャンボミミズの討伐クエストなんだが、次からは一匹ずつ相手にしような」
「どうして? レベルも上がったんだし纏めてでいいじゃない」
「あのなあ、いくらレベルが上がったって言っても、俺達はまだレベル3なんだぞ? あんなデカ物相手に無茶出来る程強くはないんだ」
「そんな事無いわよ! 分かったわ。私がいかに強いかをこのへんでちゃんと証明してあげる。ついておいで!」
「お、おいラビィ! 待てって!」
俺の制止を完全に無視し、残りの食べ物を口に詰め込んでから酒場を飛び出して行くラビィ。あの負けん気の強さだけは褒めてやってもいいところだが、ついさっき酷い目に遭ったばかりなのに、その行動はあまりにも軽率だ。
しかも更に状況の悪い事に、ラビィはMPが回復していない。つまり今は一発の魔法すら放つ事が出来ないという事。加えてあのステータスの低さでは、まともに戦って勝てるとは思えない。
普通ならそんな事くらい簡単に気付きそうなもんだが、ラビィは一切そんな事に気付いている様子はなかった。やっぱりあのステータスが示していた通りの馬鹿なんだろうか。
何にしても、このままではラビィは間違い無く殺されてしまうだろう。色々とムカツクところはある奴だけど、見捨てるのはやはり寝覚めが悪い。
やれやれと思いつつ重い腰を上げ、支払いを済ませてから急いでラビィを追いかけた。
× × × ×
「うううっ……ううっ……」
「いい加減に泣き止めよ。これじゃあ俺が泣かせたみたいに見えるだろうが」
酒場を出てからかなり時間が経ち、夕陽が赤く世界を照らし始めた頃、俺は泣きじゃくるラビィをおんぶして街へと戻って来た。なぜこんな事になっているのかを簡単に説明するとすれば、ラビィがあまりにもアホだったからとしか言いようがない。
何せあれだけ苦戦したジャンボミミズを前に臆するどころか突撃をして杖の打撃攻撃を繰り返し、見事にミミズの
どうも本人は杖の打撃だけでも十分に倒せると思っていたらしいのだけど、いくら武器持ちとは言え、あのステータスで殴りかかってもジャンボミミズには通用しないだろう。かと言って魔法を使おうにもMPが無い。
そんな決め手の無いラビィは逃げ回る内に体力を失って追いつかれ捕まり、終いにはミミズにとぐろを巻かれていた。
これだけ聞くと俺が傍観していただけの酷い奴と思われそうだから言っておくが、一応ラビィが『手を出すな』と言ったから出さなかっただけだ。まあ、流石のラビィもミミズにとぐろを巻かれ始めた時点で『助けてリョータさーん!』と、泣きながら助けを求めてきたけど。
それにしても、あの態度の変わり様はある意味で凄かった。手の平返しという言葉があるけど、本当に見事な手の平返しだったと思う。
そんなこんながあった後、俺は習得した奇襲スキルでジャンボミミズに短剣でダメージを与えてラビィを助け出したが、それからヘイトを自分へと向けさせるのにはかなり苦労をした。杖で殴りかかっただけにしては随分ヘイトを集めてたんだなと、ある意味で感心したくらいだ。
まあ、俺の攻撃も結局は致命傷を与える事は出来なかったから、最後は例の湖まで誘い出して最初の奴等と同じ様に湖底へと沈んでもらったわけだが。
「なあラビィ、これで分かっただろ? 俺達には圧倒的に火力が不足してるんだよ。ちょっと厳しいとは思うけど、仲間を募集してみないか?」
「えぐっ、そんなの絶対に嫌よ! 大天使の私がたかがミミズ相手にここまでの辱めを受けたのよ? 絶対に私の手でブッ殺すんだから!」
「あのなあ、気持ちは分からんでもないが、現実問題お前にもあのミミズを倒す術が無いだろ?」
「ううっ……そ、それはそうかもしれないけど……でもっ!」
「それが分かるなら俺が言ってる事も分かるだろ?」
「うー……何よ何よっ! リョータなんて私があんなネチョネチョした奴に追われて捕まってボロボロにされる間、ずっとニヤニヤしながら腕を組んで見てたくせに! 私の純潔を奪おうとしてたくせにー! うわーん!」
「お前な! 激しく勘違いされそうな事を大声で口走ってんじゃねえよ! ここで放り出すぞっ!」
「今度は自分の思い通りにならないからって私を捨てるつもりなんだー! うわーん!」
「ちょ、おまっ!? いい加減にしとけよ!?」
ラビィの誤解を招く発言に、周囲に居る人達の視線が集まってくる。恐ろしいくらいに冷たい視線が。
「何あれ? 人買い?」
「ボロボロにされるのを笑って見てたとか、純潔を奪おうとしたとか言ってたわよね?」
「うわっ、最低……人間のクズね」
ヒソヒソと話している人達の声が、まるで耳元で囁かれているかの様に聞こえてくる。悪口って本当によく聞こえるもんなんだな。
「ち、違う! 俺はそんな事してねえ!」
そりゃあ、小生意気な駄天使が追い詰められるのを見て、少しはざまーみろと思っていたのは事実だ。少しくらいはニヤついていたかもしれない。だけどここまでの非難を浴びるような事ではないはずだ。
「リョータの鬼畜――――! 人でなし――――っ!」
「お前、本当にいい加減にしろよなっ!」
ラビィが何か言葉を発する度に、周囲の人達の視線がどんどん冷え込んでいく。
――どうして助けてやったのにこんな目に遭わなきゃいかんのだ……。
あまりの理不尽と不幸を呪いながら、俺はこの厄介者を背負って冷たい視線の集まる中を駆け抜けて行った。
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