色部又四郎
色部又四郎はその日豪商たちに資金を出してもらうために吉原にいた。
いわゆる接待である。吉原という場所はいわゆる売春街と思われる節があるが実際は「サロン」に近い。
又四郎が連日の接待に明け暮れていたのは訳がある。吉良家が呉服橋から本所松坂町に屋敷替えを命じられたためである。
その資金も上杉から出さねばならない。実に苦々しい出来事である。
当時呉服町は大名屋敷が多いが本所は寂しい場所である。
そのため上野介は茶器や美術品を求めている。その上さびしい場所だからいつ赤穂の家臣たちに狙われてもいいように警備も怠らないといけない。
おかげで金はどんどん減っていき15万石の家老も金策に走らねばいけなくなった。
しかも吉良家の当主は上杉綱紀の子であるため見捨てることもできない。
「申し訳ござらぬ。すこし用を足しに」といって又四郎は会場から抜け出した。
ここ三浦屋ではほかにも接待が行われているらしい。
国元では藩士たちが内職を行い禄も減らされているのにいくら接待とはいえ色町にいる自分が恥ずかしかった。
ひときわ大きな声が聞こえる部屋があった。
そこから「大石殿」という言葉が聞こえてきた。
「むぅ、大石?」又四郎の酔いはさめた。
その部屋に酒を運ぶ小女を呼びいささかの金子を与え部屋の様子を聞くと確かに元浅野家家老大石内蔵助らしい。
接待相手はどうやら幕府の人間らしい。
又四郎は直接大石内蔵助の顔を見たことは無いが吉良家の親類をたどっていくと浅野家の家老大石家に当たることを先日吉良家の家臣小林平八郎に伝えられた。
「仇同士が同じ店で接待とは皮肉なものだ。おそらく大石殿はお家復興のために下げたくもない頭を下げているのであろう。うまくいけば当家も安泰なのだが。。。。」
そして又四郎は再び部屋に戻っていく。
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