目付
多門伝八郎は目付として「松の廊下事件」での内匠頭の尋問を行った人物である。
目付とは旗本御家人の監督を行う役目であるがその権力は非常に強く老中たちの政策も目付の許可がないと行われない。また老中時に将軍家でさえ反対意見を述べることが出来る。
その重責を自負している多門伝八郎にとって今回の事件は実に「後味の悪い」ものであった。
「たとえ勅使を迎える日に刃傷事件を起こしたとしても即日切腹家取り潰しはありえない決断である。しかも吉良には「手向かいしなかった」として加増を言い渡している。しかも浅野は庭先での切腹という大名に対する扱いとは思えない処断だ。」
「多門さま」と茶坊主の声に我に返った。ここは目付の控えの間である。
「いかがいたしましたか?なにかお悩み事でも」
「いや、役目柄のこと言え」と伝八郎は口を濁した。
「そういえば刃傷事件の目付でございましたな。多門さまは」
伝八郎は茶飲んだ。
「そういえば、このような噂がございまして。。」というと茶坊主は扇子を広げ口元を隠し伝八郎の耳元でなにがしかを伝えた。
「それは誠か?」
「さればあくまで噂でございますよ」
そう言って下がった。
「まさか老中どもの権力争いであったとは?何という事だ。これでは御政道にゆがみが生じる。いそがねば」
といって老中控えの間に急いだ。
彼は元禄16年10月から防火作業をつかさどり翌年6月にその功績で黄金を賜ったが8月になってその勤めがよろしくないとして小普請入りを命じられた。
つまりは赤穂事件から2年後無役になったという事になる。
なにものかわからぬ大きな力がうごいている。
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