第17話 勇者、世界を正す
ソフィアの慟哭を聞き、アスタロトとシトリーがその場に駆け付けた
そして、惨状を目の当たりにすると、すぐさまシトリーが外に出、アスタロトはソフィアに駆け寄った
焦点の合わない目でバエルの首を抱え、項垂れているソフィアにアスタロトは優しく語り掛けた
「ソフィア。魔王様は覚悟を決めて、このことをお決めになられた。お前に責はない」
「・・・・・・あるさ」
「何?」
ソフィアはゆっくりと立ち上がり、未だ玉座に座り続けるバエルの遺体を見つめる
「こんなことになるまで、彼らの所業を放置し続けてしまった勇者である私の責だ。これは、私がケジメを付けるべきことだ」
「何を考えている」
「・・・・・・すまない。少しばかり席を外す。外に出ることは無い。安心してくれ」
そう告げると、ソフィアはバエルの首を抱えたまま、何処かへ消えてしまった
アスタロトはソフィアの後を追うことはせず、ただ飛び散った鮮血とバエルの遺体を見据えて、呟いた
「・・・・・・犠牲は無駄にはしない。そう、決めましたからね」
ソフィアが城内を歩く中、誰とも遭遇しなかったのはシトリーが人払いをしてくれていたお陰であろう
夢遊病患者の如く、無意識にソフィアが歩を進め、辿り着いたのはバエルがよく仕事をしていた執務室であった
扉を開けると、中には誰も居らず、静寂が広がっていた。ソフィアはゆっくりと中へ入り、バエルがいつも座っていた椅子に座る
「・・・・・・お前はこんな風に見ていたのだな」
ソフィアは大事そうに抱えるバエルの首を見ながら、呟く
いつもと変わらない筈なのに何処か新鮮な光景にソフィアが辺りを見回していると、ある物が目に入った
ソフィアがエレメンタリアに出るときにバエルが作った呪いの武具だ。少し前の出来事の筈なのに、遠い昔のようにも感じられる
その隣には、ソフィアが元々着ていたアウリクルカムの鎧が置いてある。バエルが奇麗に保管しておいてくれていたお陰で不調なところは見られない
バエルの首を刎ねたエクスカリバーもここに保管されていたのを覚えている
「お前は、いつかこうなるのを分かっていたのか・・・・・・」
四神の加護を受けた最強の聖剣。その一太刀をまともに浴びれば、神の力を引き継いだ存在である魔王といえども、無事では済まない。事実、バエルの首はいとも容易く刎ねられた
今はバエルの自室に放り捨ててあるが、いずれはあの聖剣も神へと返還しなければならないだろう。バエルの首と共に献上すべきなのか
聖剣などは今となってはどうでもいいが、バエルの首は渡したくない。そんな考えを浮かべていると、ソフィアの脳裏にある考えが過ぎった
「待てよ。もしかすれば・・・・・・」
ソフィアは立ち上がる。彼女の目に生気が宿り始めていく
「可能性は高い。試してみる価値はあるぞ」
執務室から出ると、シトリーと鉢合わせした。恐らく、ソフィアの様子を窺っていたのだろう
「あ、あぁー・・・・・・。ソフィアちゃん、あのね」
「シトリー。こんな時にすまないが、準備をお願いしてもいいか」
「え? えぇ。いいけど、何をするつもりなのぉ?」
シトリーの問いにソフィアは言葉に悩んだのか、天井を見つめ、苦笑して返した
「復讐」
§
魔界の端、『クラック』がある場所にソフィアは立っていた
アウリクルカムの鎧を着、腰に聖剣エクスカリバーを携え、腕にはバエルの首を抱えた彼女は『クラック』を見つめる
すでに『クラック』は人間二人を横並びにして余裕で入れるほどに開いてしまっている。だが、その先に広がるツェセの草原には見張りをする兵士がいない
恐らくはリーコたちが根回しをしてくれたのだろう。心中で彼女たちに感謝の意を述べたソフィアは魔界とエレメンタリアの境界線を、跨いだ
シャイターン城、バエルの自室ではシトリーが落ち着きなく辺りを歩いている
「ソフィアちゃん本当に大丈夫かしらぁ」
「お前が心配しても、どうにもならんさ」
アスタロトが声を掛ける。すでに遺体は運ばれており、血や汚れたカーペットも全て回収されてしまっている
「でもぉ」
「運が良ければ奴は帰ってくる。悪ければ、裁きとやらにかけられるかもな」
「ダメじゃないですかぁ!」
「それが彼女の望んだことだ。私たちに出来ることは待つしかない」
「・・・・・・なんだか、ソフィアちゃんを利用してるみたいで悲しいわ」
「実際しているだろう。それが奴の遺志なのだから」
アスタロトは呟き、遠くを見つめる
と、入り口の扉が開くと中に入ってきたのはアモンであった。アスタロトは渋い顔をする彼に声を掛ける
「首尾はどうだ」
「一応は。未だに納得されてねえみたいですがね」
「仕方が無いだろう。我々は一か八かの賭けに出た。それに賭けなければ、魔界は終わっているのだから」
「そうですがねぇ」
アモンとアスタロトが話し合う傍らではシトリーが深く息を吐いた
「ソフィアちゃん、帰ってきたらどうするつもりなのかしら」
エレメンタリアに着いたソフィアは意を決し、青空の広がる天へとバエルの首を掲げて、大声を上げた
「神よ! 勇者ソフィア=イオシテシスは魔王バエル=ゼブブを討ち取りました! 啓示通り、魔王の首を献上したく参上致しました!」
瞬間、ソフィアの頭上に白く輝く光が舞い降り、ソフィアの全身を包み込んだ。天から地上にかけて柱が立ったように見える光に包まれ、ソフィアは『浮如羽』を受けたように宙へと飛んでいった
この経験は、ソフィアは過去に何度かしている。謎の浮遊感に少しばかりの気持ち悪さを覚えながら、ソフィアは雲の上を突き抜けた
そして、光が消えたところでソフィアの身体は重力に従い、着地する。着地をしたのは、白く輝く神殿のような場所だ
天の上に雲に隠れて存在する神殿。この神殿こそ、四神が集う場所である
階段を上り、大きく開けた場所に辿り着くと、そこにはすでに四神が集まっていた
一枚の大きな布を合羽のように纏った彼らは遠巻きにソフィアを見下ろす形で宙に浮いている
ソフィアが即座に片膝をつき、頭を垂れるとその中の一人、慈愛に満ちた表情の女性がソフィアに声を掛ける
「よくぞ魔王を討ち取りましたね、勇者」
「お褒め頂き、恐悦至極に御座います。グラディア様」
「魔王に捕まり、どうなることかと思っていたが無事、終えたな」
その隣にいる白鬚を蓄えた老人が続けて口を開く
「コグニット様、その節は御不安を与えてしまい、申し訳ありませんでした」
「よもや勇者が魔王に拘束されるとは何事かと思ったがな。己が力に甘えたか」
「サブスタン。すでに終えたことです。多少の落ち度は目を瞑りましょう」
面長の男性の言葉に、彼の隣にいる少年が悟った風に諭す
「ヴィータ様、寛大な処置に感謝いたします。ですが、サブスタン様の仰られる通り私にも油断があったようです。今後も精進してまいります」
「ふむ。して、奴の首がそれか」
コグニットはソフィアが大事そうに抱えるバエルの首に視線を落とす
ソフィアは即座に首を差し出そうとしたが、少しばかり躊躇する。その様子にサブスタンが訝しげに見つめる
「どうした」
「いえ、その・・・・・・。一つだけ我儘を言わさせてほしいのですが、魔王を討伐した褒美として願いを叶えていただきたいのです」
「驕るな勇者。お前は課せられた使命を果たしたに過ぎぬ。そこに賞賛はあれど褒美などはありはしないぞ」
「待て、サブスタン。勇者が生まれ、初めて魔王を討ち果たしたのだ。相応の望みは叶えてもよいだろう」
コグニットの言葉にサブスタンは不承不承ながら頷く
「では、勇者。願いを言いなさい。我らで出来ることならば叶えて差し上げましょう」
グラディアの問いにソフィアは愁いを帯びた眼で呟いた
「あなた様方の御尊顔を間近で拝見させていただきたいのです。今まで、私は幾度かこの地に参じましたが、いつも神々は遠巻きに見ておられてばかり。私が崇拝する方々のお顔を私の目に焼き付けておきたいのです」
ソフィアの願いにヴィータは感嘆の声を出す
「殊勝な願いですね」
「やはり勇者は清廉たる身ということですな。この願い、是非とも叶えて差し上げようではないか。なあ、各々方」
コグニットの言葉にサブスタン、グラディアも頷く
そして、四神がそれぞれソフィアと同じ地に降り立った。ソフィアは顔を上げ、彼らの顔を順番に見ていく
「どうですか、勇者。神の顔を間近で見た感想は」
「・・・・・・ええ。とても、人間に近いお顔をされていますね」
「我ら神は全ての元になっている。人間もその内に入るということだ」
「そう、なのですね。本当に人間に近い、ですが―――――」
ソフィアは話の途中でバエルの首を地に置き、立ち上がる
「お前たちの顔と言葉には、何の心も籠っていない」
そう告げた瞬間、コグニットの右脇腹から左肩にかけて、大きな一閃がつけられた
コグニットが倒れ行く間に、続けてヴィータ、サブスタンにも一閃が放たれる
何が起きたのか理解できていないグラディアは一閃を放った張本人であるソフィアを見る。彼女の手には、聖剣エクスカリバーが握られている
「何を・・・・・・何をするのですか、勇者!」
「神の力を得たバエルを殺すために造られたエクスカリバー。四神の加護を得たこの剣ならば逆に神殺しの剣にもなると思ったが・・・・・・正解だったな」
「私の問いに答えなさい!」
狼狽えるグラディアに対し、ソフィアは彼女の右肩にエクスカリバーを突き刺し、地面に押し倒し、彼女の腹を左足で押さえつける
グラディアは右肩から発生する熱さと痛みを初めて体感し、声を荒げる
「あ、ああああ!」
「分かるか? それが、痛みだ」
ソフィアの目はグラディアを捉え、離さない。グラディアは声を上擦らせながら、ソフィアへ問いかける
「勇者! 何をしているのか分かっているのですか! 神を殺そうなどと、そうすれば誰がこの世界を―――――」
「貴様らなどに管理される世界など、もういらない! これからは人間と魔物が己の考えで未来を切り開いていくのだ!」
ソフィアはそう叫びながら強引にグラディアの右肩からエクスカリバーを抜き取り、彼女の首へ刃を向ける
それを見たグラディアは声を荒げて、ソフィアを諭す
「止めなさい! 人間が一つになるなど、考えられません! 魔界も魔王亡き今、衰退するのみです! それを導く立場の者が神を殺すなどと、あなたは狂っている!」
「成程。その怯え様、神といえども首を切れば死ぬようだな」
グラディアの言葉など意に介さず、ソフィアは淡々とエクスカリバーを振りかぶる
「待ちなさい、勇者! ゆう―――――」
叫ぶグラディアの言葉は途中で途切れ、彼女の首と胴体は奇麗に離れた
転がるグラディアの首を後目にソフィアは自分が斬った四神の遺体を確認し、念入りに何度もエクスカリバーで突き刺す
そして、エクスカリバーを鞘に収め、バエルの首を再び抱きかかえるとソフィアはその場を後にする
「私は、もう勇者ではないさ」
§
リーコは、空を駆けていた
各国へ改めて魔界の脅威は去ったこととソフィアの存在が消えたことを伝え、リーコたちは再びツェセに集合していた
そして、運命の七日目、リーコが何気なく空を見ていると突如として光の柱が草原の方から見えたのだ。リーコはすぐにそれが神によるものだと判断し、ビッツたちに報告した
空を飛べるリーコが先遣として草原へ向かった訳だ。すでに光の柱は消えているが方角は分かっている
「・・・・・・あれは!?」
リーコは上空から何かが落ちてくるのが目に入った。目を凝らして見れば、落ちてきているのはソフィアであった
理解したリーコは速度を上げ、彼女の下へと超特急で向かう
そして、ソフィアの真下についたリーコは空気の壁がぶつかる中、大声を上げた
「ソフィ!!」
「リーコ!?」
リーコは箒から手を離し、不安定になりながらもソフィアを細い両腕で抱きかかえた
「何でここに!?」
「話はあとで聞くから・・・・・・今は取りあえず・・・・・・!」
抱えると言っても、ソフィアよりも小柄なリーコでソフィアを支え切れる筈もなく、降下していっている
このままでは二人とも落下して地面に激突してしまうだろう
「リーコ、このまま落ちて行って!」
「・・・・・・分かった!」
リーコはソフィアを信じ、彼女を抱えたまま落下していく
徐々に地面との距離が近づいていく中、ソフィアは両手を広げ、地面へと向ける
「大いなる風よ、一つとなりて吹き荒ぶ嵐とならん! 風魔法『荒如嵐』!」
竜巻を起こす風魔法『荒如嵐』を地面に向けて放つと、暴風が発生し、ソフィアとリーコはその余波に巻き込まれた
落下の速度もそれにより、軽減され、リーコはすぐに体勢を立て直して、そのまま草原に滑るように着地した
「何とかなったな」
「本当だよ。私が来なかったら、あれをいきなりやるつもりだったの?」
「まあな」
「全く・・・・・・」
呆れるリーコは改めてソフィアを見ると、彼女の腕の中にバエルの頭があるのを見て、目を見張る
「ソフィ、それって」
「・・・・・・ああ。私には、コイツを守ることが、出来なかった」
悲しそうな表情で、バエルの兜を撫でるソフィアを見てリーコも悲しい表情を浮かべる
「だが、お陰で神の奴らを討つことが出来た」
「え!? ソフィ、神様殺しちゃったの?」
「ああ。これからは神に操られることなどなく、それぞれが歩む時代になるんだ」
「そうなるといいけど・・・・・・。サーリャが聞いたら卒倒しそうだよ」
ソフィアとリーコが『クラック』に近づいていくと、魔界側の入り口に立っていたのはシトリーであった
彼女はソフィアの姿を見ると嬉々とした表情を浮かべる
「ソフィアちゃん! 良かったわぁ!」
「ああ、心配を掛けたな」
「そうよぉ、みんな心配してたんだから。気が気じゃなかったわよ」
「すまない」
「あなたが死んじゃったら魔王様に合わせる顔が無いわよぉ」
「・・・・・・ああ、そうだな」
ソフィアは脇に抱えていたバエルの兜を見つめる。と、シトリーはそれを見て、何か言いたげな顔をする
「あー、そのことなんだけどね。ごめんね、私たち、嘘吐いてたのよ」
「・・・・・・何?」
「そういうことだ」
シトリーの背後から黒く大きな渦が発生した。そこから現れた者の姿を、ソフィアが見紛う筈もなかった
蠅のような複眼に人間と甲虫の中間の肉体。神によって失われた右腕。そして、ソフィアと同じ銀の瞳
その姿を見て、ソフィアは思わず声が上擦ってしまった
「バエル!?」
「すまない、またお前に罪を背負わせてしまったようだ」
「え、あれ? な、何で?」
リーコはソフィアが手に持つバエルの兜とバエルを見比べる
「最初は私自身、自らの首を差し出すつもりでいたのだ。だがな、こやつらがいきなり私を昏倒させたのだ」
バエルはシトリーの方を見やるとシトリーは申し訳なさそうに頭を下げる
「申し訳ありません。ですが、我らの命に代えても守る忠誠を尽した以上、貴方様を殺させる訳にはまいりませんでしたので」
「よもや私自身が作り上げた部下に裏切られるとは思っておらなかったからな。油断していた。流石の私も十九の精鋭を一斉に抑える手立てはもっておらん」
バエルが高笑いをしているが、ソフィアとリーコは未だに納得がいっていない
「じゃ、じゃあ、あのバエルは一体・・・・・・」
「・・・・・・あれはナベリウスだ」
「えっ」
バエルは高笑いから一転、低く冷静な声で言い放った
「全体会議が始まる前から、奴は私と入れ替わりで首を差し出すつもりだったようだ」
「私たちもナベリウス自身からその話を聞いた時は本当に驚いたのよ。でも、同時に納得もしたわ。だって、自分の主を守るために自分の命を差し出せるって、私たちにとっては当たり前だもの」
「・・・・・・初めにお前たちを作る際に私への忠義を尽すように作ったのは失敗だったかもしれないな」
バエルは深く息を吐き、再び説明を続ける
「奴の変身魔法が死後にも影響がないかどうかは奴自身の賭けでもあったそうだが、成功だったようだ。私が倒れている間に変身した奴は鎧兜を着て、お前に会いに行ったということだ」
「そうか・・・・・・。だから、奴は最期にあんなことを」
ソフィアは自身が持つバエル、否、ナベリウスの首を見つめる
ソフィアがバエルの居室で変身したナベリウスを斬ろうとした間際、ナベリウスは言っていた
「・・・・・・案ずるな。いずれ会える。魔王バエル=ゼブブは、死なないさ」
あの言葉は、こういうことだったのだ。ナベリウスが犠牲になることで、魔王バエル=ゼブブは死なずに済んだと
「奴はお前が怒りと悲しみで神に一矢報いることも計算に入れていたようだ」
「エクスカリバーにそこまでの力があるとは私も思っていなかったがな」
「計算高い奴のことだ。神の加護を得た剣ならばあるいはと勘付いていたのかもな」
「ごめんね、ソフィアちゃん。私たち、本当にあなたには謝ることしか出来ないわ。もしかすると、あなたは死んじゃってたかもしれない」
「いいんだ。私の想いは変わらない。バエルが本当に死んでいたなら、私はこれからも自暴自棄になっていたかもしれない。お前が生きていたことに感謝するよ」
「ナベリウスの犠牲でな」
「ああ」
バエルは生きていた。だが、ナベリウスを失ったことにソフィアは悲しみを覚えていた
エレメンタリアでの出来事を逐一自分に教えてくれ、サポートしてくれたナベリウス。彼には感謝してもしきれない程であった
その礼を述べる前に、彼は去ってしまった。己が忠義を示すために、彼は命を懸けて、神を騙し通したのだ
「・・・・・・馬鹿な奴だ」
「ああ、そうだ。大馬鹿者だ。私に黙って、あんなことをしでかすとはな。・・・・・・本当に、大馬鹿者め」
皆が重苦しい雰囲気になっていると、ソフィアの背後から声が聞こえてきた
振り返れば、そこにはビッツたちが馬に乗って近づいてきているのが目に入った
「皆!」
「無事だったか!」
ビッツは馬を止めると同時に降り、そのままソフィアに駆け寄る
その後ろではサーリャを後ろに乗せたアレクスが彼女の手を取って、丁寧に降ろしている
「光の柱が現れた時、俺はてっきりエレメンタリアも裁きになっちまうのかと冷や冷やしたぜ!」
「ご無事で何よりです。ソフィア殿」
皆が集合し、ソフィアもほっと息を吐く
「すまなかったな。色々と話したいことがあるんだけど、いいかな」
「それはいけませんね。あの光の柱を見て、王が直接見極めたいと軍を引き連れて此方へ向かっているのです」
「何だと」
サーリャの言葉にソフィアは眉を顰める。ソフィアが生きていることを折角リーコたちが伏せてくれたというのに、ここでバレてしまっては意味がない
バエルも顎に手を置きながら、口を開く
「私も姿を見られると色々とまずいな」
「では、一旦ツェセの方々と事後処理をしてから改めて―――――」
サーリャがそう話していた時であった。遠く彼方の上空から光の柱が降り立ったのだ
しかも、先ほどよりも更に激しく大きな光にソフィアたちは光の柱が落ちた衝撃波に襲われる
「な、なんだ!?」
「あそこからこんなに衝撃が来るの!?」
「神の裁きが始まったのか!?」
「そんな筈はない! 神は私が全員―――――」
衝撃が治まり始め、皆が柱の降りた先に視線をやった瞬間、己が目を疑った
「何だ・・・・・・! あれは・・・・・・!」
光の柱から現れたのは、この世のものとは思えない黒く巨大な謎の塊であった
例えるならば、子供が作った泥人形のいくつかを強引に一つにした。そんな歪な姿をした人の形をした“何か”であった。無数の巨大な腕が縦横無尽に動き、顔らしき物体が身体の至るところに蠢いている
ソフィアたちが恐々としていると、突如として空気全体に声が響き渡り始めた
「赦さぬ・・・・・・! 赦さぬぞ、ソフィア=イオシテシス・・・・・・!」
男とも女とも、子供とも老人とも思える混ざりあった声が響き、ソフィアは直感した
「あれは、神、なのか!?」
「か、神ィ!?」
「嘘でしょ!? だって、神様はソフィアが殺したって・・・・・・」
「成程な」
リーコたちが混乱する中、バエルが口を開く
「奴らめ、最後の力を振り絞って己の身体を融合させ、増幅させたのだ。あんな異形の姿になるまでという執念の目的はお前のようだな。ソフィア」
「・・・・・・みたいだな」
ソフィアが話していると、再び神の声が響き渡る
「要らぬ! 最早、人間も魔物も要らぬ! 全てを消し潰し、再び新たな世界を作り直す!」
その言葉にソフィアはゾッとした
神の怒りに触れたのだ。奴らは本気でエレメンタリアと魔界を消し去るつもりだ
己の安易な行動が、世界の崩壊を招いてしまったのだ
私の責任だ。私のせいで、世界が滅ぶ
ソフィアが自責の念に駆られていると、ソフィアの背中を押す者がいた
振り返ると、バエルがソフィアを銀の瞳で見つめていた。彼は残った左腕で、彼女を支えていた
「何を呆けている。お前は、世界の平和を守る者だろう?」
「バエル・・・・・・」
独特の不敵な笑みを浮かべるバエルの表情を見て、ソフィアは意を決した
その表情に迷いは、後悔は、無い
「ああ、そうだ。私はこの世界を守る勇者だ! 自らが引き起こした不始末は自分で決着をつけねばなるまい!」
「そうだ、それでいい! それでこそ私が愛するソフィア=イオシテシスだ!」
バエルはゆっくりと足を広げ、『クラック』の境界線を跨いだ
そして、バエルはソフィアと肩を並べ、エレメンタリアの大地に降り立った
「この戦いが、お前が行う最後の平和への加担だ! 微力ながら我が力を貸そう!」
「バエル!」
「私も、だよ」
喜ぶソフィアの隣に、リーコも並び立つ
「ソフィがやることなら、私が力を貸さないでどうするのさ」
「リーコ」
「ぃよっし!」
突然、自身の顔を両手で叩き気合いを入れたのはビッツ
「話の流れは未だに分からねえが、取りあえずアイツをぶっ飛ばすんだな!」
「ビッツ」
ふう、と深く息を吐きながらも凛とした表情を構えたのはサーリャ
「あれが神とは到底思えません。ですが、私は信じますよ、ソフィアさんを」
「サーリャ」
珍しく大笑いをし、剣を抜き放ち、神へと切っ先を向けるのはアレクス
「不謹慎だが、これは痛快だな。魔王と勇者が並び立つ戦か。その末席に、是非とも私も加えさせていただきたい!」
「アレクス」
皆が自分と共に戦ってくれることにソフィアは思わず目頭が熱くなった
かつての、仲間たちとこうして肩を並べて戦うのは何時ぶりか
その光景にバエルは高笑いをし、魔界側に立つシトリーへ振り向いた
「シトリー! お前はアスタロトに至急伝達しろ! 出せる限りの手を尽せ! 魔界と人間界を救うのだ!」
「了解しました!」
バエルは大仰に左腕を天に掲げ、声を上げる
「今ここに! 勇者と魔王の共同戦線が成った! 討伐すべきは世界の創造主!」
「私たちの未来は、私たちで切り開く!」
ソフィアは聖剣エクスカリバーを彼の左腕と共に大きく掲げる。その先に立つ巨大な神の姿を二組の銀の瞳が捉えた
「「行くぞっ!!」」
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