第12話 勇者、決意する
唐突な告白にソフィアは混乱していた
エレメンタリアを脅かす魔界の王たるバエル=ゼブブが神に造られた者?
訳が分からない。理解が追いつかない
仮にそうだとしても、何故、神は魔界を作り上げた。何故、神は魔王という存在を生み出した
ソフィアの苦悩する表情に答えるようにバエルは口を開く
「私が産まれたのは、人間が生み出される少し前だ。人間を作り出す前に、試作品として私を作り上げたのだ」
「馬鹿な、有り得ない」
「戯言と聞き流しても構わん。事実なのは変わらないがな。元々、私の姿や心は人間と変わらなかった。違うところは神の力を十二分に引き継いだところだ。恵みも、命も、知恵も、物質も私にはある程度作り上げることが出来た」
バエルの語りをソフィアは静かに聞くしかなかった。否定しても致し方ないことだ
それに、彼の話す内容には何故か、非常に惹かれた
頑なにソフィアを人間と区別する彼の根源が、見えてきそうな気がしたからだ
「一度私を作った神だが、神にとって私の力は不都合だった。もし、人間を自分たちと同じくらいの力をつけてしまえば、数が多すぎて制御が利かなくなる。だから、人間は神の姿かたちだけを模しただけの存在として作り上げた。知恵はある程度つけ、その後の観察対象として世界に放ったのだ」
「それで、お前はどうしたのだ」
「捨てられた」
「何?」
「正確には、落とされたと言った方がいいか。人間を作り上げてから幾何か時が経った後、あることが起きた。人間同士の争いだ」
バエルは手記を再びめくり、過去を遡っていく
「どのような生物でも同族で争うことは確認できていた。だが、人間は違った。本来、生物の争いには生存していくために必要なこととして意味があった。縄張り、異性の奪い合い、あるいは捕食。それが人間には見つからなかった。生きるために必要のない争いが起き始めたのだ」
「それは・・・・・・・」
「今回のスートが良い例だ。サイは己の利益のために争いを作り上げた。別段、その利益を失うことで彼が死ぬわけではない。生存本能とは違うところで争いが起こったのだ。人間には、本能とは異なる感情というものが生まれてきていたのだ」
「ならば、神に心はないと?」
「そうだ。神に感情などありはしない。あるのは絶対的な力と使命だ。自分たちが世界を監視するという。神は大いに悩んだ。よもや人間がこのようなことをするとは予想していなかった。その時、コグニットがあることに気づいた。人間は、共通の敵が見つかれば一時的にとはいえ力を合わせることがあると」
「・・・・・・おい、それは」
「神は話しあい、そして決めたのだ。人類の協調のため、共通の敵を作り上げることを。その役目を受けたのが、私だったということだ」
「そんな、ことが」
「私は見た目も人間から遠ざけられ、今の姿になった。そして、人間界とは異なる何もない真っ暗な空間に放り出され、新たな脅威として人間界を襲うように命じられたのだ。人間の共通の敵たる存在になるまで、私は一人でもう一つの世界を造ったのだ」
「それが、魔界だというのか」
彼女の言葉にバエルは手記からソフィアへ視線を移す
「そうだ。全ての神の力を持っていた私は出来る限り、世界を造った。世界の土台、天候、生物は人類の敵となるべく彼らの嫌悪するイメージのものを作り上げていった。その過程で落とされる前に観察していた人間界の文明も参考にして取り入れた。それが機織技術や建築技術などに応用されている。食事は狩りを中心としていたから学業や農業は後回しになってしまったがな
そして、私は魔族を始めとした部下たちを作り上げ、世界の王となった。魔王、バエル=ゼブブと名を自身につけて」
バエルの話を聞いたソフィアは未だに頭の中の整理がついていなかった
魔王が神によって作られた存在ならば、私という存在はどうなる
勇者という存在は。今までの勇者たちは何のためにいたことになる
人類のために、神の使命の下に、魔王を倒し、真の平和を勝ち取るために
だが、この戦いそのものが神によって仕組まれたものならば、真の平和とは一体なんだ?
「魔界を造り終え、殆どの力を失った私は魔界を人間界と繋げた。神の監視は人間界のみに通じるものだったからな。私が人間界へ侵攻を開始した時点で、神は気づいたのだ。私が作り上げた魔物たちの方が人間より遥かに凌駕していたことに」
「だからこそ、人間たちは協力し、新たな力を得てきた」
「それも、神の恵みによるものだと知らずにな」
「なん・・・・・・」
「魔法だ。神は人間に対して少しずつハンデを与えたのだ。魔法がその始まりだ。だが、それでも魔物程度に苦戦している人間に業を煮やした神は人間界に送り出したのだ。神の力を授けた勇者という存在を」
バエルは手記を再びめくっていく
「お前は変だと感じなかったのか? 神の力を授かった筈の勇者がいとも容易く魔物相手に次々と死んでいったことを。お前はサイクロプスの踏みつけにも耐えられるというのに」
「それは」
「神は様子を見ていたのだ。勇者の力を強くし過ぎてしまうと、私以上の存在が生まれてしまうからな。だから、神は勇者の力を少しずつ増していったのだ。死ねば、また啓示として新たな者を勇者とし、力を与えていく。実験台のようにな。その結果、誕生したのが私と同等の力を持つ勇者、お前だ。ソフィア」
「神は、人間を導く筈・・・・・・!」
「奴らにとって人間なぞ、ただの道具よ。自分たちが気に入らなければ、手を加えて都合の良い方へと加工する。導きとは建前に過ぎん。神がいる限り、人間に本当の未来などありはしないのだ」
「私は、まだ、信じられない」
ソフィアの消え入りそうな言葉にバエルは手記を閉じ、それを本棚へと戻す
「それはお前自身が決めることだ。ソフィア、サイを討つことに私は反対せん。だが、それでエレメンタリアに平和が戻るとは私には考えられんのだ」
「それでも、私は」
「・・・・・・行くときは私に声を掛けろ。それまで此処は好きに使え」
バエルはその場を後にしようとする
その背にソフィアは疑問を投げかけた
「お前は、まだ神の指示に従って、人類を滅ぼそうとしているのか?」
「・・・・・・お前には、そう見えるか」
そう告げ、バエルは部屋を去っていった
残されたソフィアは身体をベッドに預け、放心状態になった
一気に話を聞かされ、精神が擦り減ったような気がする
スート国の話をする筈だったのに、何故、バエルは今更こんな話をしてきたのだ
私に、人を殺させたくないのか?
何故、奴は私に優しくする。分からない
虚ろになったソフィアの視界にバエルの本棚が目に入る。ソフィアは体を起こし、本棚へと歩み寄り、その中にあるバエルの手記の一冊を手にする
読みにくいが、読めない文字ではない。今まで散々魔界の文字は見てきたから
ソフィアはベッドに座り、バエルの書き記してきた歴史を紐解いていくのであった
§
それから少し時が経ち、自室の玉座に座っていたバエルは寝室の扉が開いた音がしたのを耳にして、閉じていた瞼を上げた
ゆっくりと此方へ入ってきたソフィアにバエルは優しげな声を掛ける
「決意は、変わらぬか?」
「ああ。サイを殺す」
「分かった。ならば、計画を立てるとしようか。ナベリウスとも連絡をせねば」
バエルは玉座から立ち上がり、ソフィアの元へ向かう。彼女の表情は先ほどよりかは明るくなったが、未だ緊張が見え隠れしていた
ソフィアは並び立つ自分よりも二倍ほどの大きさを持つバエルの身体をつま先から顔まで見上げた。その様子にバエルは首を傾げる
「どうした」
「お前が神に造られし者ならば、その本質は神に選ばれた者と同等なのかと思ってな」
「ふむ、そうだな。最初に私とお前が戦った時から感じていた。同じ力を持つ者特有の感覚をな」
「そうか」
そう言うと、ソフィアは僅かに微笑んだ
「何だ」
「いや、人間の父母から生まれ神から力を授かった私と神の手により生み出されたお前。この関係を何と呼べばいいのかとな」
「宿敵ではないか?」
「それは、勇者と魔王という関係だろう。もし、その運命がなければ、私たちはどういう間柄なんだ?」
ソフィアの問いにバエルは顎に手を置き、口を開く
「そうだな・・・・・・。神の手によって作り出されたところを同じと考えると兄妹、か?」
「兄妹」
「ああ」
数刻、沈黙が流れ、互いに耐え切れなくなり吹き出してしまった
「ははは! これは傑作だな」
「お前と兄妹なぞ、ごめんだな」
「それはこっちの台詞だ」
ソフィアはバエルと肩を並べて歩きながら、考えていた
何故だろう。私の悩みがこの男といるだけで不思議と和らいでいく
少し前まで命を奪おうとしていた相手だというのに
この男の態度に絆されてしまったのだろうか
分からない。けれども、悪くはない
§
城内を散歩していたシトリーはシャイターン城の四階から移動できる城壁の上にアスタロトがいるのを見つけ、彼女の下へ飛んでいった
「アスタロト様、どうなされたのですか?」
「シトリーか」
何処か影がある雰囲気を漂わせるアスタロトにシトリーは心配になる
いつもの自信ありげな勢いが見えない。何処か優れないのだろうか
シトリーが声を掛けるも、アスタロトは小さく溜め息を吐いて、顔を俯く
「私は、長年魔王様にお仕えしてきた」
「ええ、まあ。私たちは魔王様によって生み出されましたから」
「だというのに、私は魔王様の心の内を何一つ理解することが出来ていなかったようだ」
「親の心子知らずってところですかね」
「全くそのようだ」
自嘲するアスタロトにシトリーはいよいよ彼女のことを心配する
ここまで落ち込んでいるのは初めてだ
「何があったんです?」
「さっきな、私は魔王様に定例の報告をしようとお部屋まで向かったんだ」
「はあ」
「その時、私は魔王様と勇者が話し合っているのを聞いてしまったんだ」
「へえ」
「一体何を話しているのか気になってしまってな、無礼を承知で中を覗いたんだ」
「それでぇ」
「見てしまったのだ。魔王様の笑顔を・・・・・・」
「笑顔」
きょとんした表情をするシトリーは自身の記憶を思い返す
普段から兜を被って顔を見せないバエルだが、笑っている記憶は幾度かある
しかし、確かに彼の笑顔を見たことは今までなかった
アスタロトは、また息を吐くと城壁に身体を預ける
「私が生まれてこの方、一度も見たことのない笑顔を、勇者は引き出したのだ」
「最初に出会った頃から何か感じるところがあると仰ってましたからねぇ」
「どうやら、魔王様の傍に居るべきは私ではなかったようだな」
何処か吹っ切れた様子のアスタロトは空を見上げ、自嘲する
「勇者の邪魔をするのは、もう止めだ。魔王様の笑顔が見られるというのなら、勇者を消すのは、あの御方の幸せを奪うのと同義だ」
「そうなりますねぇ」
「これからは、あの二人の支援に回るとするよ。お前もこれからはそうするようにしろよ」
シトリーの肩を叩き、アスタロトはその場を去る。その背中はどこか哀愁が漂っていた
その背を見送ったシトリーは心中で彼女に告げた
魔族の中で、勇者に反対していたのは貴女だけでしたよ。と
§
ツェセ国。スートの魔の手が引き、人々に平穏が訪れた国では皆がいつもの日常を取り戻しつつあった
そんな中、サーリャが教会で一人佇んでいると、教会の扉が開かれる。入ってきたのは、アレクスであった
共に旅してきた際に着ていた鎧ではなく、普段着の彼を見たサーリャは笑顔で彼を迎える
「お待ちしておりました、遠路はるばるご苦労様です」
「サーリャ殿。お久しぶりです」
アレクスは辺りを見回し、彼女に尋ねる
「ビッツとリーコ殿は?」
「申し訳ありません、ビッツさんは今、行商人の方と共に居られるようで手紙が何時届くか。リーコさんも森の奥で修業をされているようですので届くかどうか」
「そうですか。まあ、我々だけでもいいでしょう」
アレクスは教会の長椅子に腰かけた。広い教会に二人きりとなったサーリャとアレクスは静かに会話を始める
「手紙にあった内容、本当なのですか?」
「あくまで私の見解ですが。けれども、黒い剣士の実態を目の当たりにしては、勇者様であると判断せざるを得ません」
「ふむ」
アレクスは顎に手を置きながら、サーリャの言葉に応える
「もし仮に勇者殿ならば、何故このようなことをしているのでしょうか」
「分かりません。ですが、スートの横暴を阻止しているのは事実です。エレメンタリアの平和のためにあの御方は動かれているのかと」
「姿を露わにしないのは、皆に動揺を広がらせないため?」
「はい」
「では、あの人は一人で動かれているとお思いで?」
「それは、違いますね」
「でしょうね。ツェセからアステまで幅広く黒い剣士は目撃情報があります。たとえ勇者殿でも一人では無理があります」
「あの、アレクスさん。何か?」
淡々と問いかけてくるアレクスにサーリャは首を傾げる
アレクスは小さく息を吐くと、彼女に続けて語り掛けた
「勇者殿は、本当にエレメンタリアに必要なのでしょうか」
§
スート国。王宮の屋根の上に一羽の鳩がとまっていた。すぐ傍に水晶を置いてある不可思議な鳩は目を細め、王宮内部の様子を細かく窺っていた
鳩の名はナベリウス。バエルの直属の部下の一人である魔族。今は変身魔法で鳩に変身し、ソフィアとバエルの計画のためにスートの内情を観察しているのであった
「観察とは名ばかりの偵察。王との契約ギリギリの範囲ですな。まあ、実行は勇者殿が行うから魔王様が手を汚す訳ではないから大丈夫か」
ナベリウスが独り言を言っていると、隣に数羽の鳩がとまってきた
「何してるの?」
「変な奴」
仲間と思われたのか鳩は無邪気にナベリウスに話しかけてきた
通常の変身魔法は見た目が変わるだけでその動物の声が聞こえる訳ではない。しかし、ナベリウスの変身は見た目だけでなく、同じ生物との会話が可能になるのだ
偵察の邪魔をされ、ナベリウスは鬱陶しそうに翼を羽ばたかせる
「あっち行け。邪魔だ」
「ねえねえ、何してるの」
「教えて教えて」
「王宮を見てるんだよ」
「何で何で?」
「教えて教えて」
何度もしつこく聞いてくる鳩にナベリウスは更に苛立つ
ふと、視線を王宮に戻せば警備に回っている兵士が此方を見ている。鳩の鳴き声がうるさくて、此方に気づいたのか
流石にナベリウスの正体は看破されないが、怪しまれるのは間違いないだろう
「ねえねえ教えて」
「ああ、もう! 王様を殺すためだよ!」
「へー」
「君が?」
「勇者がだよ! ったく、これで満足か?」
「うん」
「ありがと」
ナベリウスはこれ以上、邪魔されないため、正直に鳩たちに内情を伝えると鳩たちはすんなりと納得し、遠くへ飛び去って行った
「全く、迷惑な畜生どもめ」
調子を崩されたナベリウスは気を取り直して、王宮の偵察を続けるのであった
§
サーリャはアレクスの言葉をすぐに理解することが出来なかった
その言葉の意味を五秒ほど咀嚼し、サーリャはようやく動揺しながらも口を開くことが出来た
「な、何を仰られて」
「勇者殿は命を賭して、魔王と戦った。どのような決着となったかは分かりませんが、その行為は畏敬の念で讃えられるべきです」
「は、はい! そうです、その通りです! だからこそ、こうして生きておられるという可能性が見えてきた今、勇者様を取り返すべく―――――」
「何故、そうまでして勇者殿を勇者という地位に置こうとするのです」
「・・・・・・え?」
熱弁するサーリャにアレクスは冷静に返す
「彼女のお陰でエレメンタリアにはひと時の平和が戻り、皆が魔物の脅威に怯えることなく暮らすことが出来ています。ですが、今、スートが他国へ侵攻を開始した。平和に生きていくことが出来ないのが人間という生物の性なのでしょう」
「だ、だから私は勇者様に戻っていただいて、その御姿とお言葉で再びエレメンタリアの平和に尽力していただければと」
「何故、我々で解決できないのですか」
「それは、スート王は各国の忠告も意に介さず、他国へ侵攻を続けています。王の言葉以上に力がある発言とすれば、勇者様以外におられません」
「また彼女を戦場に駆り出すのですか」
「そうは言っておりません! ただ、会議の場であの御方にスート王へ停戦の進言を―――――」
「あの人は道具じゃないんだ!」
アレクスの言葉と鋭い目つきにサーリャは言葉を詰まらせる
常に冷静沈着で物事を客観的に捉えていたアレクスが、怒っていた。椅子から立ち上がっていたアレクスは息を大きく吐いて、再び座る
「世界のどこかで何か起きる度にあの人を駆り出すつもりですか? 勇者の言葉にひれ伏せと、神の加護を得た御子に従えと。それこそ魔王の行ってきた支配と服従に何ら変わりはありませんよ」
アレクスの語りをサーリャは静かに聞くしかなかった。彼に対してどう答えればよいか、解らずにいたのだ
「あの人は、もう十分に戦いました。その上で、もしスートに敵対している黒い剣士が彼女だとするならば、止めるべきだ。もうあの人はそんなことをしなくていい筈です。そんなことは、我々や国の兵士たちが解決すべき問題なのです」
「・・・・・・そう、ですね。その通りです。返す言葉もありません」
「世界は完全なる平和になることはありませんでしたが、それでも彼女の使命は終わったのです。あとは他の者に任せて、彼女は彼女の人生を謳歌すべきなのです。まだ、十九の女の子なのですから」
「勇者様は平和な世界を切に願っておられていました。恐らく、スートの侵攻を見て見ぬ振りは出来なかったのでしょう」
「それでも、ソフィア殿には休んでいてもらいたい。これ以上、世界のためにその身を削らなくてよいのだと、忠告すべきだ」
「ですが、伝えたくとも、あの人が何処にいるのか」
「特定はできなくとも、予測は出来ます」
アレクスは立ち上がり、懐から何かを取り出すとサーリャへ広げて見せた
それは、エレメンタリアの世界地図だった。地図にはある部分に印が付けられている
「黒い剣士の目撃情報を集めて、纏めました。現在分かるだけでも二十四回、あの人はスートの侵攻を食い止めている」
「話には聞いていましたが、すごいですね。先回りしているみたいに正確に」
「それこそ協力者のお陰でしょう。恐らくは複数人でスートの動向を探り、魔法か何かでソフィア殿を移動させているのかと」
「予測というのは、スートの侵攻ルートに我々も先回りするということですか?」
「最初はそう考えていました。ですが、これほど回数を重ねれば、自ずと正解がソフィア殿の中に浮かんでくると思うのです」
サーリャは、アレクスの言わんとしようとする事を理解した
幾度も侵攻を阻んでも、スートは手を休める様子がない。これではいずれどこかで綻びが生じ、スートの侵攻を許す場所が出てきてしまう
ならば、どうするか。元凶をどうにかするしかないのだ
「スート国」
「恐らく。これほどまでに移動が可能ならば、スート国内にも移動ができる筈です。どう解決するかは分かりませんが、ソフィア殿はスート国王に直談判すると予測できます」
「では、今からでも向かいましょう」
「そうしたいのは山々なのですが、厳戒態勢にあろうスートの現状を知っていて足を出してくれる方は中々・・・・・・」
「それでしたら私が教会の人に掛け合って・・・・・・」
「足ならあるぜ!」
教会の入り口から耳を劈くような大きな声が聞こえ、サーリャとアレクスは肩を震わせて振り向いた
聞き覚えのある声にサーリャとアレクスは現れた者の名を叫んだ
「ビッツ!」
「で、何でスートに行くんだ!?」
§
ナベリウスが偵察を続けては報告し、魔界ではソフィアとバエルは準備を着々と続けていた
ナベリウスの報告の下、スートの王宮内の構造、時間帯による兵士の数、これからのサイの動向などを知り、念入りに計画を立てていく
その後も数日の時が流れ、そして、サイ暗殺の実行を移す時が来た。ソフィアは呪いの武具を装着し、バエルは鎧兜を纏い、出立の準備を整える
二人は大広間に出揃い、魔族信仰の集団からの門が開くのを待つ。傍にはアスタロトとシトリーが控えている
「すぐに戻ると思うが、念のため私が不在の際の対応を頼むぞ」
「お任せを」
「今日は魔王様も一緒に行かれるんですねぇ」
「ああ。スートからすぐに此方へ帰れるようにしないと後始末が大変だ」
「ナベリウスの報告が確かならば、この時間帯にサイは幹部連と会議をしている筈だ」
ソフィアは手元に握られた手書きの図面を見る。会議室は情報漏洩を防ぐためか唯一の出入り口以外は窓も取り付けられていない
王宮の最も奥にあるため、奇襲になど通常ならば考えられないことだが、バエルの『移如影』をもってすれば一網打尽に出来る絶好の場所となる
「事を終えたら、すぐに迎えに行く」
「分かっているさ」
ソフィアが答えていると、二人の前に巨大な渦が現れた。エレメンタリアへの門だ
ソフィアは兜を被り、先に渦の中へと進みゆく。そんなソフィアの背に向けて、シトリーは声を掛ける
「ソフィアちゃん。こう言うのもなんだけど、他の言葉が見つからないから、言わせてもらうね。・・・・・・頑張って」
「・・・・・・ああ」
「魔王様、御武運を」
「うむ」
そして、人間界を平和にするべく勇者と魔王は国王殺害への計画へと旅立った
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