第2話

「んん……」

眠りから覚め、目を開くと、橙色のカーテンに、焦げ茶色の絨毯、蜂蜜色のベット。自室のいつも見ている景色が広がる。


「夢か……」

私は独り言を漏らした。


今日も変な夢を見た。最近はよく今日見たような夢を見る。

漆黒の世界で助けを求める少女の夢を。


あの夢を見た後は何だかもやもやとする。うまく言葉に言い表せないが、何かの闇が広がっていく。そんな気がするのだ。


私はスマホに手を伸ばし、今の時間を確認した。現在の時間を確認した私は小さく溜息を吐く。


もう10時か……。


今日は土曜日なので、高校は今日は休みだ。二度寝しようと思い、私は瞼を閉じた。

兄弟はいないし、父は海外出張、母は実家にようがあるとかで、昨日から実家に泊まっている。つまり私が二度寝しても小言を言う人はいない訳だ。


先週に高校に入学したばかりの私は様々な環境変化のせいで疲れているのだ。そう自分に言い訳する。


一応lineくらいは確認しといた方がいいかな……。


ふとそう思った私はスマホを手に取った。



一応メールやlineが届いていないかくらいは確認しておこうと思ったのだ。

メールやlineに長時間返信しないのは申し訳ない。



スマホのロックを解除した私に見覚えの無いアプリが目に入る。


そのアプリの名は『NAMELESS』。

入れた覚えも、聞いた覚えもないアプリだった。


こんなアプリ入れたっけ……?


少し疑問に思いながらも私はそのアプリに触れる。


何となくだが、今このアプリを開かなければならない気がした。

そしてこのアプリが私にとってとてと大きな意味を持つような、誰かが待っているような、うまく言葉に表せない不思議な感覚だ。


私はその感覚に身をゆだねるようにアプリを開いた。


その瞬間、スマホが白く光った。その光は瞬く間に、目を開けられないほどの眩しい光に変わり、私は目を閉じてしまう。


目を閉じた私に、次は何かに吸い込まれるような感覚が襲う。何かはわからないが、先程の白い光に吸い込まれている気がした。訳の分からない状況なのに不思議と恐怖心はない。


どれくらいの間目をぎゅっと閉じていたのかは分からない。体感時間的には長かったが、実際はそんなに長くないのかもしれない。



私が目を開いたのは、体が軽く地面に叩きつけられる感覚がした時だった。思わぬ衝撃に目を開いてしまったのだ。


目を開くと全く見覚えのない場所にいた。空は薄暗く、辺り一面深緑色の木々が生い茂っており、見るからに気味の悪い場所だった。しかも目の前には幽霊やお化けの類が出現しそうな洞窟がある。


なんて気味の悪い所なの……。


幽霊や物の怪の類は信じてはいないが、このような気味の悪い場所に来ると、恐怖心を感じずにはいられなかった。



落ち着け! 落ち着くのよ、私!


私は自分に言い聞かせる。よく困ったことがあった時は、焦ると余計駄目だと何かのテレビで言っていた気がする。こういう時は冷静になって考えた方がいいのだ。それに冷静になって考えれば恐怖心も幾分かましになる気がした。


何でこんな場所に……?


私はここに来るまでの事を振り返る。

確か、NAMELESSというアプリを開くと、白い光が出てきて、それで吸い込まれて……。

そう、それで気が付いたらここにいたんだ。


先程の事を鮮明に思い出す事が出来た。私は忘れっぽい方なので、思い出せた事に少し安堵した。


ここからどうしよう……。


私は辺りをキョロキョロと見回す。我ながらかなり挙動不審な仕草だと思う。これを駅などの人の多い所でしたら、間違いなく不審者認定されてしまうだろう。だが今はそんな事を気にしている場合ではない。



後ろや横は木々が生い茂っていて、とても人が歩ける道だとは思えない。唯一進めそうな道は目の前にある洞窟の入り口だけだったのだが、洞窟は気味悪そうな雰囲気を纏っているので、入るには少しの勇気がいる。


やっぱり洞窟に入るしかないのかな?


歩けそうな道は目の前の洞窟しかないし、洞窟に入らなければここにずっと留まることになる。それに、この洞窟に進むしかない。私の本能的な何かがそう告げていた。


私は意を決して、洞窟に足を踏み入れた。


洞窟の中は思っていたよりは気味悪くはなかった。薄暗いし、狭いが、人が一人歩くにはゆとりのあるくらいの広さはある。


「新規プレイヤーを確認しました」


私が洞窟をキョロキョロと見回していると、洞窟の天井の辺りから感情を感じない機会的な声が響く。



「白ヶ崎美月のプレイヤー登録が完了しました」



白ヶ崎美月、機会音が告げた名は私の名前だった。


何で、私の名前を?

それにプレイヤー登録って?


私の頭の中を様々な疑問がひしめく。


「まずあなたにはゲーム用端末を与えましょう」


機会音がそう告げた時、私の左腕に白い光が集結する。そして、それらの光は黒いリストバンド状の機械となった。その端末と呼ばれる機械の説明は難しいが、色は真っ黒で、形はリストバンドや血圧計に近いものを感じる。簡単に言えば黒いリストバンドに画面が付いているといったところだろうか。




「これよりチュートリアルを始めますが、その前にガチャを引いていただきます。ガチャの結果によって初期の職業が決まりますが、後から職業は追加、変更、破棄が可能ですので、身構えずお引きになってください。レア度は☆1から☆5まで存在します。☆の数が多いほど、レア度は高く、人気の職業となります。では端末の画面をご覧になってください」

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