第3話
私は様々な疑問を持ちながらも、機械音の指示に従い、端末の画面を覗き込む。するとガチャの画面が表示されていた。引くという文字も発見する。引くという所を押せば、ガチャを引くことが出来るのだろう。
私はガチャを見ながら溜息を吐いた。昔から私は運が悪い。ガチャ運、くじ運、じゃんけん運。運と称するものは全て悪いのだ。
今の状況はよく分からないが、どんな状況でも、ガチャでいいのを引くのに越したことはないことくらいは分かる。
「早く引いてください」
機械音が私を急かしてきたので、私は渋々ガチャを引いた。
結果にはこう表示された。
☆1『笑いの壺』
この表示を見た私はやっぱり☆1かと落胆する気持ちと、笑いの壺って職業なの? と疑問に思う気持ちが混ざり合い、複雑な気持ちになる。
「職業が決まったようですので、チュートリアルに入りたいと思います」
混乱気味の私を他所に、機械音は話を先に進めていく。
「今白ヶ崎美月様は始まりの洞窟にいらっしゃるのですが、この洞窟の奥まで進むと、黒い機械があります。その機械をClear machineと言うのですが、端末をclear machineに当てればクエストクリアとなります」
clear machineってすごい英語の発音いいな。
機械音の説明を聞いていた私は、そんなどうでもいい事に反応してしまっていた。
「始まりの洞窟には弱いボスモンスターが一体登場するだけですので、簡単に倒せると思いますが、このゲームの世界で死ぬとデスペナルティが発生するので、ご了承くださいませ」
デスペナルティ……?
元々無機質な機械音だが、さっきより数十倍も冷たく残酷に聞こえる。デスペナルティ、そう言われた瞬間に背中からぞわりととても嫌な感じがした。何となくだが分かる。これは冗談なのではないと。これはとても危険なゲームだと脳の危険信号が告げている。
「あの、デスペナルティって何ですか! ? この世界ってゲーム何ですよね? 私勝手にNAMELESSってアプリがインストールされてて。それで、それで………」
焦って疑問を言葉にして伝えようとするも、うまく文章にならず、何を言ってるのか分からなくなってしまう。
「デスペナルティとは、ゲームで死んだ時に起こるペナルティのことですよ。この世界がゲームと言うのも事実です。この世界はNAMELESSと言うゲームの世界なんですから。このゲームをインストールした覚えがないのも当たり前でしょう。このゲームは勝手にインストールされるものなんですから」
無機質で冷たい機械音は私のうまく文章にならなかった疑問全てに答えてくれた。
私は自分でもよく分からない恐怖感に、全身が凍りついたように動かない。
「攻撃方法は殴ったり、蹴ったり、端末の戦闘から職業ごとにスキルを使うことが出来ます。分からないことがあれば、端末のヘルプからご確認をお願いします。では武運を」
このゲームは一体何なの……?
昨日までの平凡な日常が崩れていく音がした。
私の頭は未だに全く整理出来ていなかったが、とりあえず洞窟を歩き始める。何となく足だけ動かしているという状態だった。
このゲームで死ねばデスペナルティがある……。そしてこのゲームは自分の意思には構わず、勝手にインストールされる……。
薄暗い洞窟の中を歩いている間、無機質な機械音が告げた言葉が私の頭の中をぐるぐると駆け巡っていた。
どこまで続いているのか分からない洞窟を私はひたすらに歩き続けていた。
暫く歩いていると足が疲れてくる。ここはゲームの中だが、疲労感などはあるらしい。
と考えて思う。とてもリアリティのあるゲームだなと。こういうのをバーチャルリアリティだと言うのだろうか。
私はした事はないが、コンピュータの作り出す仮想の空間を現実であるかのように知覚させる技術を使ったバーチャルリアリティゲームが世の中には存在するらしい。それと似たようなものなのかもしれない。ただバーチャルリアリティゲームにデスペナルティがあるという話は聞いたことがないし、あるとは思えない。
そもそもそう言った知識の乏しい私にはバーチャルリアリティゲームと言う単語の意味すら曖昧にしか分かっていないのだ。
結局の所このゲームが何なのかは全く分からないという結論に達する。考え事は苦手な方だ。難しい事は考えれば考えるほど頭がむず痒くなってくる。
「クエストボスが出現しました」
前触れがなく、頭上から聞こえた無機質な機械音に私は思わずぎくりとする。
クエストボス?
私は疑問を持ちながらも正面を見ると、クエストボスと思われるモンスターのような変な生き物がいた。
見るとそれがクエストボスだとすぐに納得がいった。
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