第21話 北高バンド

「いよいよきちまったなぁ!」


「緊張するな、、」純平がボソッと呟く


「おいおい、お前らそんな弱気になるタマじゃねぇだろ」


「とおるは場慣れしてっからだろお!」


「まぁな。しかも知り合いが1人もいない、いくらミスっても別に気にならないし」


「確かに!」


この3人がちぢこまっているのを見るのは初めてでおもしろい。


祭りの会場は駅前のロータリーだった。俺の時代だと会場が変わっているんだけど、ここだったんだなぁ。


既に祭り特有の賑やかさがある。カップル、若い連中、家族連れがわいわいやっている。俺たちはいつもの時間に教室に集合、最後のリハーサルをした後に会場の裏で待機している。ただ、会場で音合わせができないのはビックリした、どうやらその場で簡単に合わせてやるようだ。まぁ、田舎の祭りなんてそんなもんだろう


「あー! 早く終わってたこ焼き食いてぇ!」


「たなかうるさい!」


「失敗したら学校に行けねーよぉ!」


「でもうまくいけば明日からモテモテの毎日だぞ、集中!」


「お、おう!」


田中が黙ってギターを弾き始めた。やっぱり田中はちょろい!


明と純平は緊張しつつもそれを振り切るように楽器を触っている。バンドは俺たちだけではなく、あと3組ある。持ち時間は30分と、素人バンドにしてはまぁまぁの尺だ。


あれ? そういえば、、、


「バンド名って何なんだ?」明の方を向く


俺が来た時には既にバンドは結成されていて、祭りに出場するのも決まっていたから全く気にならなかったんだ。


「え? 北高バンド」


「・・・まんまじゃね?」


「まぁ、素人が祭りのためだけに結成したバンドだったからな。お前が来てここまでのレベルになるとは思ってなかったんだよ」


「なるほど、、」


しかも、俺たちの出番はくじ引きで最後になっていた。まぁ、過去の人たちを驚かせるのにはもってこいだな、久しぶりにテンション上がるぜぇ


そんなことを話していると


「1番目のみなさんお願いしまーす」


係りの人が話しかけてきて、最初のバンドが表に出て行き、5分後くらいに最初の演奏が始まった。会場のボルテージが一気に高まる。


田中が騒ぎ出すかと思ったらどんどん静かになっていく、あいつなりにスイッチが入ったのかもしれない。やる時はやる男だからあまり心配はしていないけど。


「じゃあ、今のうちに願掛けやるか!」


「とおる何するんだよ?」


「俺がライブやる前にいつもするんだけど、みんなで連れしょんだ!」


「ははは! いいぜ、行こう!」明が声を出して笑った。


みんなでトイレに行き、用を済ませた後、気づけばとうとう出番が来た。


「円陣組むぞ!」みんなで肩を組む


「行くぞー!!   おーい!!」


表に出ると既に出来上がってる観客のみんながこっちを見る。


「あきらくーん! がんばってー!」


「たなかー! ミスれー!!」


「じゅんぺい! しっかりやれよ!!」


同級生だろう、声援が聞こえる。やっぱり明は女子に人気なようだ、田中と純平は男どものちゃちゃが飛んでいる。


「うっせ!お前ら!」田中がセッティングしながら照れ笑いをしている


俺には”誰だこの人?”という視線が向けられている。そりゃそうだ、俺にはこの場での知り合いはたった5人、そのうちの3人はこっち側だ。まぁ、ケンカした奴らがここにいるんだったら顔は知られているんだろうけど。


「とおるくん!!」


ちょっと後ろの方に京子さんとお母さんが立って手を振っている。あの2人がいればいっか。


マイクチェックをした後、観客に向けて話し始める


「え~、みなさんこんばんわー。北高バンドでーす。みんな僕のことは知らないと思うんですけど、夏休みに親戚の家に遊びに行ったらなぜか出演することになった、まる、、、じゃない透っていいます、今夜限りの付き合いだと思いますが、楽しんでってください、よろしくお願いしまーす」


ちょっと拍手が起きるけど、そんなもんか。まぁ、それはいいんだけど


「4曲ビートルズやりまーす」


明の方を振り向き合図を出す。明がスティックでタイミングを取り始めた。

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