第12話 迷いと強襲
それから3日間は特に何もなく練習に費やしていった。
俺は京子さんとの向き合い方を完全に見失っていた。京子さんはそれでも良いと言ってくれているのだが、中途半端な気持ちでキスをしてしまった自分が嫌だった。
「みんなは練習しといてくれ、俺はオリジナルの方を考えたい」
「ほーい」田中が軽く答える
時代も地域も違う学校の庭でボーっと空を眺める。オリジナルといっても何を曲にしたものか。
この奇跡の体験を歌にする? ありきたりなラブソングにする? 思いつかない、、
「わっかんねぇ!」
「なぁにボケっとしてんの!」
「京子さん、、」
「あれから元気ないね、、」
「もう、自分の気持ちが全然わかんないんだ。何をしてんのか、何がしたいのか、、」
「キスしたことは気にしなくていいって言ってるじゃない。」
「そうなんだけどさぁ。中途半端な気持ちでファーストキス奪われて、ムカつかない?」
「人生どうなるかわからないんだよ。明日死ぬかもしれないんだし、私は今好きな人とキスができた。とりあえずそれで満足。初めてなんて、取っておいて良い事なんてあまりないんだから!」
「強いというか、すごいね、京子さんは」
「まぁね! 戦争は終わったの。これからは女の時代よ!」
「そっか。この時代はまだ男尊女卑の考えが強いんだね」
「そうよ。まだまだ女性は輝ける場所が少ないの」
考え方が俺の18の世代と大分違うな、自分たちが国を変えていくんだという気持ちが伝わってくる。俺なんかより十分大人だよ、、そんな会話をしていると
「おう、京子じゃねぇか」
4人の男子生徒が近づいてきた。
「あら、カッちゃんじゃない」
「久しぶりだなぁ。」
「他の人たちは西高の人?」
「あぁ。そいつは?」
「私の親戚、今カッちゃんが抜けたボーカルをやってくれてるのよ」
「ふん、まだやってたのか。てっきり素人ががんばったけど無理でしたーってなると思ってたのによ」
「何よその言い方。この透くんがギターものすごく上手くて、みんな練習して良い感じになってるんだから!」
「へぇ。そいつはおもしろくねぇ」
不穏な空気をビシビシ感じる。そもそも連れが西高の時点で怪しさMAXだ。
「ところで、何しにここへ?」
「そうそう、京子、お前俺の女になれ」
「いきなり何言ってんのよ! 無理に決まってるでしょ!?」
「俺がお前らのバンドを抜けたのは明とモメたからなんだよ、お前でな!」
「どういうこと?」
「京子をもらうと言ったら明がキレてな。この顔の傷も明につけられた、痛かったぜぇ。たまたま西高にダチがいたからよぉ。お礼に潰してやろうってな、あはは!」
「この時代の奴らはホントそういうの好きだな、暇人かよ」
「あ? お前俺に口答えする気か?」
「する気ってか、してんだろ。頭悪い奴と話すと疲れるから嫌なんだよ。京子さんは残念ながら俺が先にいただいちゃったもんでね! ざまぁ!」
「おまえ!!ぶっ殺す!!」
ボスのパンチが俺の腹に突き刺さる
「ゴフっ!!」
俺は地面にへたり込んでしまった
「は!弱っちいな!」
腹を蹴られ、頭を踏まれる。痛みに意識を持ってかれて全く動けない、京子さんの叫び声が聞こえる
すると、俺への攻撃が止まった。胸ぐらを掴まれて無理やり立たされる
「そこのヘタレ野郎、よーく見とけ!!」
ボスが京子さんの上着をはぎ取った
「や、、めろ」俺の声など届くはずがなかった
そして、京子さんの唇を無理矢理奪ったのだ
「やめて!!」
京子さんが顔を力づくで離し、ビンタを当てるが効いてない
「いいねぇ! それでこそ京子だ! もっと俺を楽しませろ!」
男が京子さんに掴みかかる。俺は西高の3人組に袋叩きにされていた。京子さんに申し訳ないと思いつつ意識が遠くなりかけたその時
「おまえらああ!!!」
大きな叫び声が聞こえた。凛々しくて頼もしい声だ
「あき、、ら。」
俺への攻撃が止まり、拳が当たる鈍い音が聞こえた。状況を確認できない、耳にだけ意識を集中した
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます