第6話 昭和43年の夜

「もう暗くなってきたし、今日はこの辺で終わろう。」


じいちゃん、もとい明の一言で練習がお開きになる。俺は最初ということで見学していた。


「じゃあ帰ろうか、透くん」


「どういうことだ?」明が聞いてくる


「他に頼れる人がいないから、少しの間だけ京子さんの家にお世話になるんだよ」


「なに!?」田中と佐藤が声を揃えて叫んだ。心なしか明が動揺しているように見える


「透、ちょっとこっちに来い」明に呼ばれる


「どうした?」


「お前、京子と寝るのか?」


「いやいや、さすがに一緒には寝ないだろう。今日会ったばかりだぞ」


「会ったばかりじゃないと一緒に寝るのか!?」


「なんでそうなるんだよ。別の部屋で寝るよ」


「京子に手を出したら許さんからな!」


「お前、もしかして京子さんのこと好きなんだろ?」


「ち、違う!ただ昔からの付き合いだし、高校生がひとつ屋根の下で寝るなんて!」


「お前は先生か!」


「ぐぅ!」


じいちゃんをからかうのおもしろいな!


「京子さんは強い女の子だ、俺はあの子には敵わないよ。それに・・・」


「それに、何だ?」


「いや、何でもない! 俺はもう行くぞ、ちゃんと練習しとけよ!」


明と京子さんがくっついてもわらないと俺が困るんだ。俺が割り込んでしまうことで、未来に悪影響が出てしまうかもしれない。いわゆるタイムパラドックスだ。


もし2人が離れてしまったら、俺はこの世に存在しない人間になってしまう。そうなったら俺はどうなるんだろう? 消えてしまうのだろうか、、


「またな!」3人と別れて、京子さんと家に帰る


「あっという間に馴染んじゃったね」


「音楽にはそういう力がある。京子さんとだって、親父さんのギターがあったからすんなり仲良くなれたわけだし。」


「音楽もそうだけど、透くんとは相性が良い気がする!私だって初めて会う人とそう簡単に仲良くなれないわ」


「まぁ、なんとなくわかる気がするけど」


そりゃあ、あんたの血が流れてるからな。京子さんを見ながらそんなことを考える


「なに? 顔に何か付いてる?」


「い、いや。ちょっと考え事してて、、」


「本当にぃ? 私に見惚れてたんじゃないの?」京子さんがちょっといじわるな笑顔を浮かべる


「そうかもね~!」


「あー!またごまかしたー!」


こんなに女の子と仲良く話したのは生まれて初めてだ。その相手が未来のばあちゃんになるとは、、こんな経験したことあるなんて、地球上で俺しかいないだろうな!


京子さんの家で晩御飯を食べさせてもらった。お米、魚、汁物、卵焼き、古き良き食卓だった。


丸いテーブルを3人で囲みながら食事をする。ちゃぶ台っていうんだっけ? 初めてなんだけど、なぜか懐かしい気分になった。本物の白黒テレビが現役で動いているのを見れるなんて、今となっては貴重な経験だ。


「良いんですか? タダで食べさせてもらって。お金も少しならありますけど」


「子どもがお金の心配するんじゃないよ。たまたま旦那が残してくれた遺産がけっこうあってね。贅沢をしなければ当分生きていくことはできる。ほとんど弾かれることのなかったギターで演奏してくれただろう。そのお礼さ。」


「そんな、大したことしてないですよ。ありがとうございます。」


「疲れただろ、お風呂でも入りな。」


「は、はい!」


へぇ、この時代にはもう浴槽あったんだ。でも機械が外から見えるな、お風呂ひとつとっても時代を感じる。お湯が一日の疲れを洗い流してくれる。


あ!!


「だ、誰か! 京子さーん!」お風呂のドア越しに叫ぶ


「どうしたのー?」


「ご、ごめん!着替えを持ってきてないんだ!何か着るものないかな!?」


「そうなの!? ちょっと待ってて!」


外でドタドタと歩き回る音がする


「お父さんのお古だけど、一式用意したからこれを着てちょうだい!」


「ありがとう!」


着替えて居間に戻る。


「いろいろと迷惑をかけてごめんね」


「いいのよ。こういうの久しぶりだし。ふとん用意したから、あそこで寝てね」


「ありがとう」


この服も、この寝床も、ひいじいちゃんのものだろう。ふとんの中に入り、怒涛の一日を振り返る。


今でも現実感が湧かない。昭和43年にタイムスリップして?同い年のじいちゃんとばあちゃんに会って?昭和43年で1日を終えようとしてるんだぜ?


疲れた、とりあえず寝よう。無理やり目を閉じた

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