第3話 おばあちゃん
はぁ、はぁ、はぁ。
海水浴場を全力で走り抜けてきた。もう一度整理しよう。
今俺がいるのはどうやら昭和43年ということらしい。
あらあら、止まってる車も見事に古そうだこと。 はぁ、、
整理もくそもない。こんな単純な話、整理する必要が無い。単に認めたくないだけなんだ。
とりあえず、じいちゃんの家に戻ろう。あわよくば普通に帰れたり、、しないかな?
もともとこの辺は何もない所だ。自然は変わってないし、珍しいものは無いけど、近所の家がキレイになってるんだよなぁ。目的の家が目に入る。
「あー、良かった! じいちゃんの家が消失したりはしてない!」希望は繋がった。
祈りながら玄関に向かうと、見えてしまった。標識。
”山中”
俺の苗字は丸山。ということはもちろん、じいちゃんの苗字も丸山。いつも遊びに来るときの標識は丸山だった。
あれ?
でも、家はどこからどう見てもじいちゃんの家だよなぁ。じゃあ誰が住んでるんだ?
今の俺には頼れる人がいない。恐る恐る呼び鈴を鳴らす。
中から人が出てくる音がする。「はーい」と女性の声がした。
ガラガラガラ
「どちらさま?」
「え、あ、あの、えっとー・・・」
「どうしました?」
言葉が出てこない。そりゃそうだ、今のこの住人には何の用も無いんだから。いきなり「あなたの子孫です!」とか言っちゃったら不審者扱いされて終わってしまう、、
うん?
この出てきた女の子はもしかして・・・
「あの。きょ、京子さんっていらっしゃったりしますか?」
「京子は私ですが」
「まじで・・・」
「まじで? 私に何か?」
この目の前にいるかわいい女の子が、ばあちゃん?だよな、たぶん。
「俺は、えっとー、あなたの遠い親戚でして。1人でここまで旅をしてきたんですけど~、少しの間面倒を見てもらえないでしょうか?」
「私の、親戚?ですか?」
「はい、、ダメ、ですかね?」
「ちょっと待っててください。お母さーん」ばあちゃん、もとい京子さんが家の中に戻っていった。
少しすると、母親と思われる女性が一緒に出てきた。
「あんたが親戚なのかい? そんな知らせは聞いた事ないけど」
「はい、いきなり来ちゃいまして、、少しの間だけで良いんです!行く当てが見つかったら、出ていきますんで。」
「うーん・・・。わかった。少しの間だけだからね」京子さんのお母さん。つまりこの人が俺のひいおばあちゃんか。俺が産まれた時には亡くなっていたから、会うのは初めてだ。なんとか泊めてもらえることになった。
「お邪魔します」
間取りは一緒なのに、置いてある家具が違うと印象が変わるもんだなぁ。そんなことを思いながら居間に上がる。ひいおばあちゃんはそそくさと家事に戻っていった。京子さんに言われて荷物を置く。
「どうして私の名前を知っていたの?」
「えっと、出発する時に聞いてたから。京子という親戚がいるはずだって」
「どこから来たの?」
「と、遠い所からとしか言えない。面倒くさくてごめん、、」
「遠い所ねぇ。あまり見ない格好をしているし、そのバッグなんて見たことない。どこに売ってるの?東京?」
「これはそ、そうだね、珍しい服ばっかり売ってるところで買ってるから。」
あぁ、そんな根掘り葉掘り聞かれたらボロが出てしまう。どうしよう!
辺りを見渡すと、良い物が目に入る
「これ、ギターだよね?」
「そう、お父さんの」
「そういえば、お父さんは、仕事?」
「ううん。この間の戦争に行って、死んでしまったの。これは形見」
「そうなんだ・・・。ごめん」
「仕方がないの。時代が、悪かっただけなの、、」
こういう人たちの犠牲の上に、俺たちの生活が築かれているんだ。普段生きてて気にすることなんて無かった。ばあちゃんは自分の運命を受け入れていたんだ。ひょんなタイムスリップで戦争について考えさせられるとは思わなかった。
「京子さんが良ければ、弾いていい?」
「え、ギター弾けるの!?」
京子さんのテンションが上がる
「あぁ、そうだよ」
うーん、何を弾いたものか
昔の曲で有名っていったら、やっぱりビートルズかなぁ。世界に名を残す伝説のバンド、学校でも音楽、はたまた英語の授業で曲が流れることもある。歌詞の英語もシンプルでわかりやすく、コード進行も簡単で初心者向けだ。親父がベストアルバムをよく車で流していたからなんとなく頭に入っている。
ギターを抱えて京子さんの方を向いた
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