00-04
志久間さんは詩を詠むように言った。
異能は異能を呼び寄せる。
本人にその自覚が無くても、あっても異能はどこからか現れる。
彼らはただそこに存在している。欲をいえばこの世の中に現れる機会を望んでいる。
だからこそ自分と同じか近いものを持っている何かに寄ってくる。
「私にもわかるように説明してください」
「ふむ。葉月ちゃんに分かりやすくね……。
君は異形に出会ってしまった。本来僕らはそうならないように予知した時点で結界を張る。君はそれを何故かすり抜けてしまった。そして、襲われたんだ。
一般の人は異形には気づかない。あれは少しずれたところに存在し、干渉してくるからね。だが君は気づいてしまった。そのことに異形も気づいたから君を取り込もうとしたんだね。僕の結界をすり抜けた挙句異形を視認するとは普通なら考えられないんだけど、やられたからには仕方ない」
「なにがですか?」
「君はこれ以降あれ、若しくはあれをけしかけたやつにおびえなければならないんだ」
「あれをけしかけてきたやつがいるんですか?」
「そう。異形は人間と分類できない何か、とざっくばらんにしか説明できないけど、大本は誰かが生み出したものだ。それを僕らは異能者と呼んでいる」
私が出会ったものが異形。異能者と呼ばれる人がそれを生み出したと志久間さんは言った。志久間さんが魔法使いで、異形を退治しているということはその異能者と呼ばれる人も魔法使いなのだろうか。
「志久間さんが分かってるってことは魔法使いなんですか?」
「そこはまだよくわかっていないんだ。僕たちは異形を予測して、対処する程度のことしか今できていないからね」
「私が身を守る方法は?」
「僕と清代でお守りと緊急時の連絡先を渡すくらいかな」
「………」
異形は人と少しずれた場所にいるらしい。そして意図的に人を襲う時は人と同じ場所に移動し危害を加えるそうだ。志久間さんたちは人を襲おうとしている気配を察知して、こちらの世界に来る前に結界を張って駆除をしようとしたらしい。その時に私が、そちらのずれた世界に入り込んだそうなのだ。
こちらの世界で異形とであったらならまだしも、ずれた世界のほうへ私が入ってしまったことで、また私がずれた世界へ入り込む可能性があること。その時にまた異形に出会った場合同じように襲われる可能性があるそうなのだ。
「まぁ、幽霊みたいに取りつかれたわけではないから、そんな重くならないで。第一普通の人が異形に出会うことなんてそうそうないんだから…ただ、君みたいにずれた世界に入り込める人間の場合はどうなるのかは、ちょっとわからないんだよね」
志久間さんの言い方の雑さにうなだれると、気を使った清代さんがコーヒーのお代わりはいらないかたずねてくれた。私はごちそうさまですとだけ伝えた。
「葉月ちゃん。ごめんね、何もできなくて…なるべくでいいから学校帰りにここに来てください。それならこちらも何かあった時に助ける事も出来ますし、教えることができますから」
「ちょっとだけ寄るくらいならできると思います…けど」
「ご家族ではなく……ユウキ君ですか?」
「はい」
ここで注釈をいれると、ユウキという同居人が家に住んでいる。経緯は面倒だから省くけれど、昔からの付き合いであることや、両親が忙しくて帰ってこないことが多いからとにかく私に干渉してくる。お母さんかってな位に。
そして私がMezでこうやって寄り道していることを快く思っていないようで、帰ってくるとごはんが遅くなるとかなんで俺が1時間も先に家についてるんだやら色々……最近になって特に厳しくなっているように思う。
「彼が信じてくれるかは分からないですね」
志久間さんはいたって真面目な顔で言った。ユウキはリアリストだ。今日みたいなことを話したら信じてくれるように思えない。…が、もしもの場合を残したいようでぼかした言い方をした。だから私はそれを否定する。
「ユウキは、魔法とかは信じないと思います。私だって、実際に見ないと信じられなかったもの」
「そうよね…ユウキ君だから信じてもらえると安心なのだけど、だからと言って魔法を彼の前で実演することは難しいのよ」
「そうですよね…」
「私たちの魔法は日常生活で使用しようとしてできるものではなくて、結界を張ってその上で使わないと危ないのよ。それこそ異形が現れたときとか」
志久間さんと清代さん、どちらも魔法を扱えるそうなのだが、異形が現れた時にしか使わないらしい。
区域を限定して、その中で行使することもどこかで許可が必要らしくて言うなら面倒らしい。ユウキにその魔法について説明しても、見せたとしても信用してもらえるか怪しい現状では私も交渉する気はない。
その後挨拶もそこそこに私は喫茶店をでて、速足で帰路についた。
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